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422:混戦模様

 レイブンさんを取り込み異形に近づいたビークリストゥを取り巻く空気がパキパキと結晶化していき、近くに居るだけで皮膚がひりつき肺の中がイガイガするような違和感を覚えて息が詰まるのですが……私は気力を振り絞るように剣を強く握ると、呼吸を整えました。


(竦んでいる場合ではありません…ね)

 叩きつけられるような魔力の波動を無理やり飲み込むように2本目の『MP回復ポーション』を飲み干し辺りを見回すと、レナギリー達が物量を生かして攻撃を継続してくれていたのですが……敵の攻撃を防いでくれていた陣地(蜘蛛の巣)がボロボロで、このまま無秩序な乱戦が続くと磨り潰されるのが目に見えています。


 それがわかっているのですが、手当たり次第に棘ミサイルを乱射し蹂躙を続けるビークリストゥに対して有効な対策が無くて……。


『吸うぞ!』


「はひっ!?」

 そんな絶望的な状態だというのに、淫さんが私からHPとMPを吸い取り強制的にスカート翼を復活(【修復】)させ……意図的に気持ちよくなってしまう部位を外して吸収してくれたのですが、爆発の影響でヒリヒリしてしまっている敏感肌に吸い付かれて弄られるとビックリしてしまいます。


『真面目にやれ!棘が来ているぞ!!』


「そんな事を…言われましても!」

 いきなり胸の周りや腰回りを吸われたら誰でも驚いてしまうと思うのですが……確かに喧嘩をしている場合ではないですからね、飛んでくる数十発の棘ミサイルから距離を取ろうとおもいっきり後方に向けて羽ばたきました。


(速度が速くなっていますし…貫通力も!?)

 即座に蜘蛛達が糸を吹きかけてインターセプ(迎撃)トしてくれるのですが、その弾幕を抜けて来た5発の棘ミサイル……咄嗟に固めた鞭状の【淫気】で迎撃すると接触した場所からキラキラと結晶が舞い……どうやら物質ではない(魔力)を固める場合はそれ相応の時間がかかってしまうようなのですが、私の魔力とビークリストゥの魔力では単純な出力差で押し込まれてしまいます。


「ッ…!?」

 このままだと突き破られると『魔嘯剣』で地面を斬りつけ追加で小石や砂をぶつけるのですが、棘ミサイルは容赦なく舞い上がった砂煙を結晶化させながら私の体を貫こうと迫ってきて……最後の手段として【魔水晶】をぶつける事にしました。


(このままだとMPが…)

 ただでさえ【輪唱】のデメリット(一時的な最大MP低下)で最大MPが5割程度まで下がっていますし、ポーションで回復させたといってもMPの残量は最大値の3割程度しかありません。


 そんな状態で【魔水晶】が壊されてしまうと作る時に消費したM P(全体の1割)が無くなってしまい……まあぶつけるだけなら一つにまとめておく必要が無いので3つに分けて……いえ、スキルレベルが9に上がっていたので最大4つに分ける事ができるのですが、それでも1つ破壊される度に2.5パーセントずつMPが消し飛んでいく計算になります。


(防げる本数は最大で12発…MPが枯渇すると意識が飛んでしまいますし、現実的な限界が10発程度と考えると…斉射(数十発)されたら防ぎようがないですね)

 しかもMPが回復するまでは攻撃手段が無くなってしまうというおまけ付きで……このまま迎撃し続けるのは不可能ですね。


 とにかく5発中4発は【魔水晶】で迎撃したのですが、最後の一発が私達の弾幕を抜けて来て……最悪『魔嘯剣』が無力化される(結晶化する)事を覚悟しながらガードを固めるのですが、最後の一発は本当にギリギリのところでナタリアさんの矢によって射抜かれ砕け散りました。


「ユリエルちゃん、攻撃するのは良いけど!!」

 ナタリアさんが生き残りの蜘蛛達を盾にしながら『サルースの弓』を放っているのですが、ナタリアさんの腕でも数発迎撃するので精一杯で……ビークリストゥの本体を狙った矢は棘ミサイルを振り回すだけで簡単に弾かれてしまいます。


「弾かれ…ッ!?」

 通常の攻撃(魔力の矢)では火力が足りないと唇を噛むナタリアさんなのですが、すぐに使える場所に常備している『ペネストレイト(侵徹徹甲榴弾)』は6本(両脇に3本ずつ)で、1つ使い切っているので残りは5本……矢として放つ場合はナイフとシャフトを繋ぐ作業があるので準備時間が必要です。


「OOOOooooOOOxx!!」

 そんな切り札の使いどころをナタリアさんが悩んでいる内に、ミューカストレントが残った糸をブチブチと剥ぎ取りながら最大の脅威と判断したビークリストゥに向けて攻撃(根っこ)を集中しているのですが……ヘイトを買うだけなので止めて欲しいですね!


(倒せないとしても…ここから離せれば良いのですが!)

 ビークリストゥの中にレイブンさんの意思が残っている影響なのか、蜘蛛達を倒しながらゆっくりと私の方へ近づいて来ようとしていて……その特性を利用すればここ(毀棄都市)から引き離す事が出来るのかもしれません。


 ただこのままミューカストレントの攻撃が続くと苛立ったビークリストゥが方向転換する可能性があり……とにかく陣形がバラバラのままだとまともな反撃が出来ませんからね、ビークリストゥーを囲むために散開していた蜘蛛達には一度戻って来てもらう事にしましょう。


「蜘蛛達はこちらに!このままミューカストレントを使って挟みます!」

 北側から(毀棄都市最奥)ミューカストレントが攻撃し、南側(正門側)から私達が攻撃するという布陣に変更するように進言するのですが……これなら毀棄都市から離れる事(誘導する事)が出来ますし、ミューカストレントに向かうようなら追撃をかける事もできます。


「ワカ…ッタ!」

 やられていく蜘蛛達を見ながら同じような事を考えていたのでしょう、レナギリーが手を翳すとミューカストレント側に居た蜘蛛達が正門側に移動して来てくれて……そうしてビークリストゥに攻撃が集中すれば集中するだけミューカストレントが自由に動き回り、残っている蜘蛛の巣を引き千切りながら迫ってきていました。


「ギッ、ガーァアア!!」

 そんなミューカストレントの攻撃を叩き潰しているビークリストゥも好き勝手に暴れ回っており、全方位に有線誘導式の棘ミサイルを発射しながら結晶化させた物体を持ち上げ巨大なハンマーのように振り回しているのですが……叩き潰した蜘蛛達を次々と棘ミサイルで突き刺し捕食していきました。そして1匹、また1匹と食べられる度に与えたダメージが回復し、力をつけたビークリストゥの体が結晶に覆われていきます。


 とはいえ私達もただただ手をこまねいている訳でもなくて、断続的に攻撃を繰り返していますし、ミューカストレントの相手をしなくてもよくなったレナギリーが複数の魔眼を叩きこんでくれているのですが……レナギリーの魔眼は状態異常の付与に特化していますからね、結晶で覆われ遮られてしまうと著しく効果が低下してしまい、肝心要の状態異常が入りません(結晶は麻痺らない)


(こうなったらまふかさん達のイベントに希望を託すべきなのかもしれませんが…)

 ミューカストレントが生存している状態では毀棄都市を覆う霧の影響で遠距離通話が出来ず、ネットの情報を確認している余裕もないので向こうの状況がわからなくて……『精霊樹の枝』を植えられたのかすらわからない状況です。


(時間稼ぎといっても…このまま何もしないというのも不味いですね!)

 流石にミューカストレントの攻撃が鬱陶しいと思ったのか、ビークリストゥが後ろを振り向き後退し始めて……このままミューカストレントの方に行ってしまうと大変な事になって(捕食されて)しまいますし、それだけは何としても阻止しなければなりません。


「ナタリー!」

 そんな事を考えていると、たぷんたぷんと爆乳を揺らしながら走って来たヨーコさんがナタリアさんに向かって何か……たぶん予備の『ペネストレイト』とシャフトを繋げた物だと思いますが、安全圏(後方)にいたヨーコさんが矢の準備をしてから投げ渡したようですね。


「ヨーコ…な、危な…!?っ…ユリエルちゃん合わせて!」


「…はい!」

 その投擲の軌道はヨーコさんの運動神経から考えるとなかなか絶妙で……屋根の上に乗っているナタリアさんがキャッチできる範囲に飛びました。まあヨーコさんの戦い方はアイテム(爆弾)の投擲がメインですからね、何かしらのスキル(【投擲】)が乗っているのかもしれませんが……とにかくナタリアさんが自分の持っている『ペネストレイト』を片手で(2本だけ)掴んでヨーコさんに投げ返し(次弾装填を頼んで)、それを拾ったヨーコさんが生き残りの蜘蛛達の中に避難していきます。


(【ルドラの火】は…使えませんね)

 MPの残量的に厳しいものがありますし、下手をすればMP切れでダウンしてしまいます。なので援護に徹しようと投げナイフに【エナジーパワー】を付与(エンチャントダガ-)し、少しでも攻撃力を上げた後に使い切るつもりで暴れるビークリストゥ目掛けて投げつけました。


 そのナイフは即座に振り回している結晶の(ハンマー)によって叩き潰され弾かれてしまうのですが、その開いた空間をナタリアさんの『ペネストレイト』が飛び……。


(それでも貫通は…しませんか)

 ビークリストゥが纏っている結晶の中ほどまで貫通した『ペネストレイト』が少しだけダメージを与えるのですが、そこで力尽きたように鏃自体が結晶化していき、砕かれてしまいます。


「ギ、ガガ…」

 直撃するのならともかく単発の命中では装甲(結晶)を抜く事ができないようで……何とかこっちを向いてくれたビークリストゥなのですが、折角与えたダメージも蜘蛛達を捕食する事によってHPを回復させてしまい、削った結晶が修復されていきました。


「簡単に切り札が止められると嫌になっちゃうんだけど…」

 その後も何度か攻撃を続けるナタリアさんがダメージを与えていくのですが、掠り傷程度の威力では捕食の回復量を上回る事が出来なくて……蜘蛛達を下げると飛んでくる棘ミサイルの対処が出来なくて(迎撃が間に合わなくて)、攻撃に参加して貰ったら貰ったらで捕食(回復)されて、じわりじわりとこちらのリソースが削られていきます。


 とにかく捕食に使っている(突き刺し口元に運ぶ)棘ミサイルだけでも何とかしないと回復されてしまいますし、まともに攻撃を当てる事が出来ないのですが……。


(何か都合の良い物といっても…っと、あれは?)

 良い案が無いかと辺りを見回していると、何とかなりそうな物がビークリストゥの近くに転がり落ちているのに気が付きました。


「ナタリアさん、援護お願いします!」

 ビークリストゥの傍に落ちているので回収は難しいのですが、上手くいけば棘ミサイルを防ぐ事が出来ますし、回復の阻止が出来る筈です。


「ちょっ…ユリエルちゃん!?え?まさか…アレを使うの?って、使えるの!?」

 ナタリアさんは私の狙いに気づいて驚きの声をあげるのですが、こうなったら一か八かですからね、色々と分の悪い賭けに出る事にしましょう。

※誤字報告ありがとうございます(3/28)訂正しました。

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