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419:陣地構築と防衛戦の始まり

 哀れな亡霊達の呻き声と分厚い霧が充満している『毀棄都市ペルギィ』……そんな場所の正門付近で陣地築城に勤しむ私達は黙々と迎撃準備を進めていたのですが、『クリスタラヴァリー(『音晶石』の鉱床)』から飛び立ったビークリストゥの索敵範囲が思っていたよりも広かった事もあり、まふかさん達はある程度距離を取った場所で待機せざるを得なくて……。


その辺り(道中)はスコルさんが上手くやってくれるとは思いますが)

 ビークリストゥが居座っていた影響で通常モンスターが逃げ出している状況ですし、先導しているスコルさんの索敵能力があればモンハウ(魔物溜まり)に突っ込み時間を浪費するという事も無いと思います。


 後は私達がビークリストゥを相手にしながら時間稼ぎが出来るかどうかという事に作戦の成否がかかっているのですが……あまりにも見え見えな誘導(付かず離れずの誘導)だとレイブンさんが警戒して引き返してしまう可能性がありますし、そんな事にならない為にも『クリスタラヴァリー』以外の場所で堂々と迎え撃つ必要がありました。


『後はこの陣地がどこまでビークリストゥの攻撃に耐えられるか…だな』


(ええ…そうですね)

 淫さんの言葉に私も頷くのですが……それなりの陣地が作れたと思いますし、これだけ準備をしておけば会敵後に速攻でやられるという事も無いと思います。まあそれでも作り始めた当初はゴースト達やミューカストレントの根っこに破られていたのですが、建築が進むと糸に絡めとられるゴースト達が出始めて……根っこの攻撃すらも張り巡らされた糸に絡めとられるようになってからはミューカストレントからの攻撃も一時的に止んでおり、一気に陣地の構築が進むようになりました。


 順調すぎて防衛陣地に罠を仕込む事も出来ましたし、正門付近だけだと生き残りの900匹をまとめて収納する事が出来なかったという事もあり、近くの民家も含めた広範囲の防衛拠点を造る事が出来て……。


(むしろ時間経過による空腹の方が問題になるくらいですね)

 ゴースト達の精気を吸い取る事が出来る事に気が付いてからは何とか空腹度を維持する事が出来ていたのですが……この方法には一つだけ致命的な問題がありました。


(あまり美味しくないのですよね)

 まふかさんやグレースさんとは比べ物にならないレベルですし、まるでパサパサしている味の無い乾物を食べ続けているような辛さがあるのですが……文句を言っている場合でもないですからね、味については我慢する事にしましょう。


 まあ私が精気を吸わなくてもニュルさんが触手を伸ばしてゴースト達を吸収してくれていて……食虫植物ならぬ食霊植物みたいに吸収し続けてくれているのが空腹度維持に大きく貢献してくれているのかもしれません。


 そんな事を考えながら築き上げた陣地の様子を見て回っていると、屋根の上に登っているナタリアさんが蜘蛛達と一緒に防衛戦を繰り広げていているのが見えたのですが……。


「う~ん、相手がゴースト達だと手応えがないのが…よっと……ありがとー、いやーこうやって守ってもらいながらだと楽だね~」

 最初はおっかなびっくり蜘蛛達と共闘していたナタリアさんなのですが、インフェアリーを駆逐してからは防衛拠点の上(民家の屋根の上)に登って糸に絡まり身動きが取れなくなったゴースト達を次々と射抜いており……陣地に立てこもる弓兵はそこに居るだけでも頼りになる存在ですね。


 少なからず私達が一息入れる間の戦線を支えてくれるだけでもかなり楽になりますし、そんなナタリアさんを眺めながらヨーコさんも上機嫌でニコニコと笑っていて……。


「って、ユリエルちゃん?その…別にサボっていた訳じゃないのよー…ちょっとナタリーの様子を見に…?」

 そうしてナタリアさんを眺め続けていたヨーコさんは慌てながらそんな事を言うのですが、ある程度陣地構築が済んでからは戦況も落ち着いていますし、ビークリストゥが来る前に休憩を挟むのは悪い事ではないと思います。


「文句を言いに来た訳では…私も休憩中ですし、むしろ頑張り過ぎているナタリアさんが心配なくらいで」

 これからボス戦がある事を考えると定期的な休憩も大事になってくると思うのですが、ナタリアさんとしては正門制圧までに大した活躍が出来なかった事を気にしているようで……その分防衛戦を頑張ってくれているようですね。


「そうなのよー…落ち着いて来たから一度休憩しなさいって言っているのに…」

 「困ったわー」という顔をしながらも「そういう頑張り屋さんなところも大好き!」なんて言いたげなヨーコさんには触れないようにして……因みに魔法攻撃が出来るという事で直接的な防衛をしていた私達とは違い、ヨーコさんは持ち込んだアイテムを蜘蛛達に配って兵站面での活躍をしていました。


「って、ナタリーだけが心配って訳じゃないのよ?その…そうだ、ユリエルちゃんも休憩中なのよね?蜘蛛達に配っていたのが余っているんだけどー…1本どうかしら~?」

 そうしてデレデレと締まりのない表情を誤魔化すようにヨーコさんが手渡して来たのは赤色と青色と黄色が混ざり合わないまま流動しているというあからさまに怪しげな薬品(ポーション)で……。


「ありがとうございます……これは?」

 手に持って調べてみると『ミックスポーション』という定番のポーションを混ぜ合わせたような効果のあるアイテムのようで、飲めば『HP回復ポーション』と『MP回復ポーション』と『スタミナ回復ポーション』の効果を得る事が出来るそうですね。


「本当ならハイポーションを用意しておきたかったんだけど…そっちは作った傍から売れちゃってて…」

 言いながら眉尻を下げるヨーコさんなのですが、なんでもハイポーションは飛ぶように売れてしまって……倉庫に残っていたのがこの『ミックスポーション』なのだそうです。


「ありがとうございます、丁度MPが減っていたので…ッぐ!?…こ、これは…?」

 地味にミューカストレントのドレインを食らい続けていた(都市内吸収効果)私は早速『ミックスポーション』を飲んでみる事にしたのですが、ドロリとした甘さと口の中でパチパチと弾ける感覚に目を白黒させながら咄嗟に口の中の物を吐き出しかけてしまい……流石に貰った物を噴き出すのも悪いと思って何とか頑張って飲み込む事にしました。


「ご、ごめんなさい…味の事を言ってなかったわね~…そこだけはどうしようもなくて…で、でも効果の方はちゃんとしているのよー?」

 手を合わせながら謝罪をするヨーコさんが言うには回復させたい部位以外の効果が無駄になる事や通常のポーションよりも割高な事、後はとんでもなく不味い事が影響して売れ残っていたそうですね。


「そ、そうですね…確かに市販品を飲むより効果があるような気がしますが」

 味についてはノーコメントとさせてもらいますが、ヨーコさん印のポーションは回復量が多いのか体がポカポカしてきて……因みに傷口に直接かけた場合は『HP回復ポーション』の効果が強く出てしまい、残り2つの効果がいまいちなのだそうです。そういう失敗もあり、最終的には服薬する事で満遍なく効果が出るように調整した結果……効果を優先しすぎたせいで味については二の次三の次といった感じになってしまったとの事でした。


「良いのよ~?正直に不味いって言ってくれても…」

 現時点で一番回復量が高いハイポーションは手持ちに無く、蜘蛛達が必要としている魔法付与剤もごく少数、そして本人の直接的な戦闘能力は生産職という事もあって第二エリアでは色々と厳しくて……。


「ヨーコさんのポーションのおかげで敵の第一波を凌げましたし…こうして陣地を築けたのもヨーコさんが居てくれたおかげだと」

 ヨーコさんは自分が足手まといになっていないかと気にしているようなのですが、持ち込んでくれていた秘薬……『フォーラントの秘薬』というのですが、これは『エルフェリア』で魔力付与に使われる『ブェッフェ染め』を元にヨーコさん独自に作ったお薬で……そんなアイテムを惜しげもなく使ってくれたおかげでゴースト達にも通じる魔法の糸を作る事が出来ましたし、糸の吐きすぎで疲れ果ててしまった蜘蛛達に『ミックスポーション』を配ってくれたおかげでごく短時間で強固な蜘蛛の巣を張る事が出来ましたし、敵の猛攻を防ぎ切る事が出来たのはヨーコさんの功績と言っても過言ではないと思います。


「そう言ってくれるとありがたいのだけど…」

 頬に手を当てながら笑うヨーコさんは少しだけ照れたように頬を染めていて……とにかくそんな感じで敵地でありながらものんびりとした時間が流れていたのですが、屋根の上に登って警戒を続けていたナタリアさんの叫び声に緊張が走ります。


「ヨーコ!ユリエルちゃん!来たみたいよ!!」

 そんな警告に顔を上げると霧の中にミューカストレント以外の魔力が混じって来たような感じがして……いつの間にか近くに寄って来ていたレナギリーも空を見上げていました。


「キタ…ヨウダ」


「はい…ヨーコさんは巣の中に!ナタリアさんは適度に牽制をお願いします!」


「OK~巨大な蜂型の魔物…よね?飛んでいる奴なら撃ち落としてあげるんだから!」


「わ、わかったわ…出来るだけ援護するから…ナタ……2人とも頑張って!」

 私は【魔翼】を使って屋根の上に上り、散開していた牡丹達に戻って来るように指示を出しながら『魔嘯剣』を構えて【魔水晶】を作り出しておきます。


「ぷっ!」

 そして合流して来た牡丹から『ベローズソード』を受け取り中距離攻撃に備えていると、蠢く巨大な樹木と広がっている深い霧の向こう側からチカチカと黄色く輝く何かが近づいて来て……。


『来るぞ!』


(ええ!)

 淫さんに言われるまでもなく空気がピシピシと音を立てて罅割れていくような感覚と共に膨大な魔力の塊が叩きつけられるのですが、この不安になるような嫌な感じはビークリストゥが明確に私の事を捉えている証拠のようですね。


「ナタリー!!」


「大丈夫!!ヨーコは安全な所に隠れていて!」

 そんな圧倒的な力をぶつけられてヨーコさんがナタリアさんに声をかけるのですが、力強く返事を返したナタリアさんと心配そうに見上げるヨーコさんの視線が絡み合い……どんな時でも甘い世界に入ってしまう2人の事は良いとして、私達も覚悟を決めておきましょう。


(後はどのように攻め込んで来るか…ですね)

 搦め手で来るのかミューカストレントと協力しての力押しに出るのか……少し前からミューカストレントが攻撃を控えて力を溜めているので後者(ゴリ押し)の確立が高そうですが、どういう手段に出るのかはいまいち不透明なのが対処に困るところですね。


「OOOoooOOOxx!!」

 そんな事を考えているとミューカストレントのおどろおどろしい雄叫びが辺りに響き渡り……ゴースト達がザワザワと揺らいだかと思うと霧の中にキラキラとした結晶が混ざり始め、不気味な霧を突き破るように酷く膨れた腹部を持つ巨大な蜂が羽音を立てながら飛来し……。


「盛大な歓迎式典を用意してくれたようだけどよー…ははっ、天使の姉御もちゃんといるし…今度こそこそヒイヒイ言わせてやるから覚悟しやがれぇぇええッ!!」

 どうやらビークリストゥの背中に乗ったレイブンさんは何も考えていない真っ向勝負をお望みのようで、血塗られた剣を構えながら恨み節を喚き散らした後に毀棄都市の防衛戦が開始されました。

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