416:毀棄都市攻略戦!
監視任務に就いていた熊派を蹴散らして斬り込むと、毀棄都市が一つの魔物として蘇ったような圧迫感が広がり中心部から濃い媚毒の霧が流れて来るのですが……これくらいの影響であれば想定の範囲内ですね。
(PT会話や【意思疎通】が出来なくなるのが厄介ですが)
濃くなった媚毒のせいで身体が火照るような感じもするのですが、頭の上の牡丹が「大丈夫」と言うように微かに揺れていて……私は軽く息を吐き出し、霧の中に霞むミューカストレントを睨みつけるように見据えて叫びました。
「このまま突撃します!」
そして【魔水晶】とニュルさんを展開しつつ『魔嘯剣』を盾にしながら斬り込むと無数のゴースト達が蠢いていたのですが、微かに平衡感覚を崩したような気持ちの悪さが警鐘を鳴らします。
(何か違和感が…っと、これは!)
そして正面から湧き上がって来るゴースト達に近づいたところで『魔嘯剣』の吸収効果によって幻覚が揺らぎ、どこからともなくクスクスという笑い声が聞こえて来たような気がするのですが……どうやら突撃を開始した辺りから何かしらの幻覚をかけられていたようですね。
(インフェアリーの幻覚…ですか)
私は咄嗟に魔力糸を伸ばして実体を確認しながら潜んでいるゴースト達に『魔嘯剣』を振るうのですが……正直この程度であれば今の私達にとっては大した脅威にはなりません。
「キャー!?ちょっとぉ…糸がネバネバして!」
というのも押し寄せて来る蜘蛛達が矢鱈目ったらと糸を吹きかけて回っており……魔力を直接認識している蜘蛛達には幻覚の利きが悪く、潜んでいたインフェアリーが次々と捕獲されて無力化されていきました。
(幻覚が無ければインフェアリーの無力化はさほど難しい事ではありませんね)
ノワールが霧に紛れて近づいて来ていたインフェアリーを糸でグルグル巻きにしてくれましたし、物質的な強さという意味ではインフェアリーは蜘蛛達の敵ではありません。
そしてインフェアリーの幻覚が途切れると毀棄都市から溢れ出して来たゴースト達の姿がハッキリと見えるようになったのですが……ドレインタッチと透過による奇襲にさえ気を付ければこちらも大した脅威ではありませんね。
蜘蛛達が魔力を含んだ糸を吹きかけるだけで朧気なゴースト達を拘束する事が出来ますし、魔力の糸が作れない個体もヨーコさん謹製のバフ薬……一時的に魔力的な効果を付与をするポーションを使用する事によってゴースト達に通じる特別な糸を作り出す事が出来ました。
(魔力付与剤の残量が心もとない事が懸念点ではありますが…)
第二エリアだと魔力攻撃が出来ないと対処できない敵もいますからね、そういうのを相手取るために作っておいたお薬のようで……問題点はあくまで魔力を付与するだけで根本的な攻撃力UPにはあまり寄与しない事と、熊派に押さえられた『エルフェリア』付近の素材を使うので『セントラルキャンプ』や『イースト港』を中心に活動していたヨーコさん達ではなかなか材料を手に入れる事ができなかった事ですね。
それでも『エルフェリア』周辺で活動しているプレイヤーが0という訳ではありませんし、『エルフェリア』から逃げ出して来た人から買い取ったアイテムが残っていたという少数生産品を持ち込んでいたようで……何事もなく中央部まで攻め込む事が出来たらアイテム頼みでミューカストレントを討伐する事も出来たのかもしれませんが、毀棄都市の外周に到着する前に本格的な迎撃を受けたとなるとまふかさん達の作戦が完了するまで耐え忍んで相手の弱体化を狙った方が良いのかもしれません。
だからと言ってあからさまな時間稼ぎだと見破られるとキリアちゃんに選択肢を与えてしまう事になりかねませんし、万が一の可能性ではあるのですが、まふかさん達の作戦が失敗した場合はこのままレナギリー達と毀棄都市に引きこもる必要があるので攻撃を強行する必要がありました。
「OoooOOOOOXxxxxTT!!!」
「くっ…っと、散開してください!!」
その為強攻を続けると、進路を塞ぐように地面を突き破って飛び出して来た全長10メートルから20メートルの巨大な根っこが5本……いえ、6本でしょうか?霧の向こうに禍々しい気配が蠢いているので本数はもう少し増えそうなのですが、腐ってボロボロと表面が崩れ落ちながらも出鱈目に振り回された植物の根っこが近くに居た蜘蛛達を千切っては投げ千切っては投げてと暴れ始めます。
そうして響くミューカストレントの雄叫びによって空気がビリビリと揺れると力が抜けていくようにへたり込んでしまいそうになるのですが……吸収効果のあるデバフを撒き散らす事は織り込み済みですからね、私達は伸びて来た巨大な根っこの効果範囲に入らないようにバラけて突撃を再開しました。
目指すのは毀棄都市を囲っている崩れかけの街壁で、前回来た時よりも崩れているのは根っこが生えてきた時に崩してしまったのかそれともミューカストレントが巨大化した時に壊れたのか……とにかく崩れかかっている街壁目掛けて300匹近い巨大な蜘蛛達がバラバラと殺到していきます。
「OOOOOOoooooxoxxxttt!!!」
そんな私達に対してミューカストレントの根っこが振り回されるのですが、この攻撃の明確な弱点は生えて来た場所から大きく動く場合は地面を引き裂きながら移動しなければいけない事で……つまり移動速度が致命的に遅い事ですね。
「このまま乗り越えます!!」
『隠者の塔』に抜ける地下通路前で戦った時にはこびりついたジェリーローパーを利用しながら相手の栄養を吸い取るという攻撃をしてきたのですが、本陣に攻め込まれている状況ではそんな悠長な攻撃をしている余裕がないのか直接的な攻撃を多用しており……明確な殺意をぶつけるように巨大な根っこを振り回しているのはそれなりの脅威ではあるのですが、特定の場所を防衛したり根っこと戦おうと思ったりしなければ実はそこまで脅威と言う訳ではありません。
(攻撃が大雑把なのは大規模レイド戦を想定しているのかもしれませんが)
たぶんゲーム的な仕様だと思うのですが、ある程度のプレイヤーを篩い分ける役割がこの正門付近の根っこにはあるようで、押し寄せて来るプレイヤーを相手にする為に薙ぎ払いを多用しているのでしょう。
つまり攻撃の対象としては2本の足で地面を走って来る人間を想定しており……普通のプレイヤー相手であれば防ぐ事も回避する事も困難な攻撃なのかもしれませんが、現在押し寄せてきているのは人間よりも立体的に動ける蜘蛛達であり、翼を使って空中に逃げる事も出来る私という存在です。
(ニュルさん!)
触手だけをこちら側に出していたニュルさんに手を伸ばし、すぐさま私の考えを読み取り絡みついて来た触手の力とスカート翼の羽ばたきによって上空に飛び上がって横殴りの攻撃を回避すると、地上に残っていたニュルさんを【招集】してからそままスカート翼を羽ばたかせました。
そして前方に滑空しながら眼下の状況を確認するのですが……ミューカストレントの撒き散らしている霧によって色々なものが遮られているので状況の把握が難しいのですが、蜘蛛達はデバフの範囲に入らないようにピョンピョンと跳びはねながら回避をしているようですし、ノワールもその身体の小ささを上手く利用してやり過ごしているようですね。
(それでも油断はできませんが)
中には根っこのデバフを受けて動きが鈍くなったところを叩き潰されている蜘蛛達がいますし、単純に回避しそびれた蜘蛛達が吹き飛ばされていくのですが、それでも比較的軽微な被害で壁の近くまで移動する事ができて……。
『来るぞ!』
(はい!)
毀棄都市の壁に到達する前に溢れ出して来たゴースト達の圧倒的な物量と追加の根っこに押し潰されそうになるのですが、倒すのではなく拘束する、撃退するのではなく突破する事に主眼を置いて駆け抜けた後には蜘蛛の糸が散乱しており、雁字搦めにされたゴースト達やインフェアリー……そしてミューカストレントが指示を出しているのだと思いますが、その辺りを巡回している筈の狂化ゴーストも糸に絡めとられてモゾモゾと転がっていました。
「OOoooOOO…!!!」
そんな風に無限湧きをしてくるゴースト達を無視して突破するという作戦は上手くいっていたのですが、先頭集団が街壁を登りきった辺りで内側から爆発したかのように無数の根っこが伸びて来て……辺りに充満している見通しの悪い霧と飛び散る街壁の破片、崩れかけていた壁の残骸に足をかけていた私がバランスを崩している間に頭上から巨大質量で押し潰すように根っこを叩きつけられ……そうになったところで、いきなりその根っこがパキパキと音を立てて石化していき、目の前で破裂しました。
「ダイジョウブ、カ?」
そしてやって来たのは先頭集団に追いついて来た中衛で……レナギリーが率いる本隊の到着ですね。
「ありがとうございます…ですが…」
いくらレナギリーが圧倒的な力を持っているといっても熊派との激戦が続いているせいで傷ついていて……。
「ハハトハ、ソウイウモノダ……ソレヨリ、イイノカ?」
どこかぎこちなく、それでいて人間臭く笑ったレナギリーは多少回復させた左の第二脚を撫でながら周囲に浮いている10個の紫水晶を示すのですが、今は感傷に浸っている場合ではありませんね。
「いえ、根っこの方はこのままお願いします…出来るだけ早く正門を押さえて一息入れましょう」
霧のせいでレナギリーの扱う魔眼の射程が著しく低下していますし、石化させた根っこを吹き飛ばしたといっても次から次に新しい根っこが伸びて来てキリがないのですが、ここで立ち止まっている訳にはいきません。
そんな会話をしている内に防御用に浮かべていた【魔水晶】が微かに震えたのですが……どうやらレナギリーの魔力がミューカストレントの妨害効果を打ち消しているようで、【意思疎通】やPT会話が回復して魔力感知が働いたのですが……どうやら正門側の様子を見に行った蜘蛛達が苦戦しているようですね。
「ソウ、ダナ…アチラハ、ヨソウドオリダ」
そしてレナギリーも正門の方に視線を向けるのですが、念のため正門の様子を見に行ってもらった蜘蛛達が狂化ゴーストの大群に押し返されているようで……やはり正門側には罠が張られていたのかもしれません。
「ええ、急いで壁を乗り越えて挟撃に持ち込みましょう」
ヨーコさんが毀棄都市に入るためにも正門は押さえないといけませんし、緒戦の内に狂化ゴーストを挟撃・殲滅出来たら毀棄都市側の戦力を大きく削る事ができますからね、このまま壁を乗り越え正門方面の後ろをつく事にしましょう。
「ッ…!?」
そう思って【魔翼】とスカート翼の羽ばたきで壁を乗り越えようとしたのですが、頂上に到着するかどうかと言うタイミングで肌を焼くようなチリチリとした魔力に防御姿勢を取り……数瞬【魔水晶】が乱打されるような大爆発に拮抗してくれたのですが、圧倒的な火力の前に【魔水晶】が砕かれ襲ってきた熱波が皮膚を焼きます。
「なっ!?今の攻撃を防ぎますか…ええもう、だからレナギリーは…で、では残りの……って、天使ちゃん!?」
それでも何とか耐えきる事が出来たのはレナギリーが私の周りに力場を作って防いでくれたからで、焼け焦げながらも咄嗟に火砲の来た方向を確認すると蠢く根っこや大量の蟲やゴースト達に守られるようにハイオークのカイトさんが……熊派の司令塔が私達に向けて小さな杖を構えていました。
※誤字報告ありがとうございます(3/27)訂正しました。




