413:合流と説明
『毀棄都市ペルギィ』が目と鼻の先にある森の中、捻じれて肥大化しているミューカストレントが靄の中で蠢いているのが見えるような場所に布陣していたレナギリー達と合流する事が出来たのですが……1メートルから2メートル近くの蜘蛛達が何百匹と犇めきあっているというのはビジュアル的にもなかなか厳しいものがありますね。
(蜘蛛の巣が張り巡らされていないので移動はしやすいのですが)
私は興味深げに様子を窺ってきている蜘蛛達に黙礼を返しながら辺りの様子を窺うのですが……レナギリー達は巣を張って待ち構えるという防御寄りの戦い方を得意としていますからね、巣を造らないまま戦いに挑むのは色々と不都合があるような気がしました。
(引き返さないという決意の表れ…でしょうか?)
これから毀棄都市に突撃するとなると拠点があっても無くても変わりがないですし、わざわざ築いても無駄になるという判断なのかもしれません。
(それが通じる相手であれば良いのですが)
レナギリー達はこの作戦にすべてを賭けているのですが、私達が相手にしようとしているのは町と一体化したようなレベルまで成長している植物系の大型モンスターですし、わかりやすい弱点でもあれば楽なのですがと白い靄の向こうで蠢いているミューカストレントの方を眺めていると……見回りをしている蜘蛛達が近づいて来ました。
そしてカサカサと右前足を振っているのですが……どうやら私達をレナリギーの下に案内したいようですね。
「お願いしてもいいですか?」
イベントを進めている影響なのか蜘蛛達とは友好的な関係を築けているようですし、フォレストスパイダーに案内されるまま進んで行くと……途中で糸で出来た繭が集められている場所がある事に気が付きました。
(あれは…熊派の斥候達、でしょうか?)
もしかしたら不運な一般プレイヤーという可能性があるのですが、どうやらこの辺りを通過しようとした人達が繭にされているようで……事前連絡なくナタリアさんやヨーコさんを連れて来ていたら2人もその繭の中に入れられていたのかもしれませんね。
そんな事を考えていると、幾多の蜘蛛達に傅かれている半人半蜘蛛の白いアラクネの下に案内されて……相手もやって来たのが私だという事を認めるとその表情を緩めました。
「キタ…カ……ジュンビハデキテイル、ガ…ドウスル、スグニシカケル?」
そして片言ながら攻め入るかと問われたのですが……ここで私が頷けば攻略イベントが始まってしまうのだと思います。
「攻略を開始する前に仲間達の事とその動きについての説明をしておきたいのですが…よろしいですか?」
なのでそんな前置きを入れてから仲間達と合流したい事、別の場所で『精霊の幼樹』を植える為に動いている人達がいる事を説明しておきました。
「なので協力してくれている人達を攻撃しないようにして欲しいのですが…」
毀棄都市を攻略し終えたら『精霊の幼樹』の下に移動する予定ですからね、合流する時にまふかさん達との戦闘が勃発したら目も当てられませんし、何とか攻撃をしないようにお願いをしたいところなのですが……レナギリーには難しい顔をされてしまいます。
「コチラニ、ゴウリュウハ…デキル……ガ、ベツノバショニイルニンゲンハ、ワカラナイ」
との事で、ソロイベントという訳でも無いので協力者を引き入れる許可は出たのですが、レナギリー達は人間の容姿をあまり詳しく判別できないようで……というのもレナギリー達はその人の魔力パターンや魂を見て個体を識別しているようで、身体的な特徴を伝えられても良くわからないのだそうです。
つまり私が直接その人を連れて来て「この人は攻撃しないでください」と言う事は出来るのですが、まふかさん達の容姿を伝えて「この人達は攻撃しないでください」と言うのは難しいという事ですね。
「わかりました、別動隊に関しては改めて紹介しようと思います」
私がレナギリーから゛ムスメ”扱いされているのもこの魔力的な繋がりが関係しているようで……まあ逆の立場で言い換えると、私達が蜘蛛の特徴を説明されても個虫を特定するのが難しいという事と一緒の事なのかもしれません。
(まふかさんのような特徴的な人は大丈夫のような気がしますが…熊派にも獣人の人が居ますし、蜘蛛的にはわかりづらいのかもしれませんね)
それに人外種の数では熊派の方が圧倒的に多いですし、狼耳に尻尾を持つ人間と言うだけなら別の誰かと誤認してしまう可能性があり……だからと言って「『クリスタラヴァリー』に居る人には攻撃をしないように」という指示を出してもらうのもトラブルの元ですし……。
(この件に関してはナタリアさんとヨーコさんが合流できるようになっただけでも良しとしておきましょう)
まふかさん達と合流する時は改めて私が説明をすればいいだけですしという事にしておいて、後はレナギリーに聞こうと思っていた事を訊ねてみる事にしましょう。
「知っている範囲でよろしいのですが、熊派……魔王アスモダイオスの実働部隊となっている人達の動向を何か掴んでいませんか?」
熊派が怪しい動きをしているのならこちらもその動きに合わせて動かないといけないのですが、問いかけられたレナギリーは近くの蜘蛛に耳打ちをしていたかと思うと身振り手振りで何かを伝えられていて……。
「フム……ナンニンカハ、ツカマエタヨウダ、ガ……ムコウデモ、ナニカヤッテイルヨウダ」
との事で、先程見かけた繭にくるまれている人達はやっぱり熊派の斥候だったようで、その目的は不明。十中八九レナギリー陣営の偵察だと思いますが……後は毀棄都市から何かを運び出している人間がいるようで、これはミューカスカタピラーを運び出して特攻兵器に仕立て上げている人達がいるのかもしれません。
(熊派も戦力を整えているのだと思いますが…集めた後にどう動くかが問題ですね)
レナギリー達の口ぶりと熊派の総人員的に複数の個所を同時に攻める戦力は無く、順当に考えるのなら『リヴェルフォート』の攻略ですし、消極的な策に出るのなら『エルフェリア』防衛に投入されるのでしょう。
勿論レナギリー達を殲滅する為に毀棄都市に乱入して来るという可能性も無きにしも非ずで……そうなった場合はミューカストレントの相手をしながらビークリストゥや熊派の主力を相手取るという悲惨な戦いになるのですが、この辺りはキリアちゃんの匙加減一つなので動きを読む事が出来ません。
(来てくれたら来てくれたら嬉しいのですが)
危険ではあるのですが、それだけキリアちゃんとの距離を詰められますからね、他の人達も動きやすくなって……。
『ほどほどにしておけよ、我らは時間を稼げばいいんだ…危なくなったらこいつらを見捨ててでも逃げ出す事を考えておけ』
(…わかっています)
淫さんが私の事を心配してくれているのですが、ピンチな時程燃えてしまうのがゲーマー魂というものなのかもしれませんね。
(別に心配している訳では…お前が動けなくなったら我が困るだけだ)
(そういう事にしておきますが…って、照れた時に…んっ、ドレスを動かそうとするのは止めてください!)
『精霊の幼樹』を植える事が出来たら私達の勝利と言っても差し支えないですし、その辺りは臨機応変に動く事にしましょう。そう結論付けた辺りで、レナギリーが何かを思い出したというような顔をしました。
「ソウイエバ…ヘンナスライムガ…イタ」
と、魔王軍かどうかはわからないのですが、私達が来る前に人の形をしたスライムがやって来たそうで……もちろん速攻で追い払われてその子は這う這うの体で逃げ帰って行ったのですが、この辺りでは見かけない種類だったそうです。
「ファントムジェリー…ですか?大きさはわかりますか?」
大きければファントムジェリーの本体ですし、小さければ幼女スラムの方でしょう。
「コレクライ…ダッタ、ラシイ」
私の質問に対してレナギリーが「コレクライ」と前脚を広げて1メートル程度の大きさだったという事を示すのですが……その大きさだと幼女スライムの方ですね。
(どういう事なのでしょう?)
ユニークモンスターを討伐した場合はワールドアナウンスが入りますからね、まだアナウンスが入らないという事はカナエさん達とファントムジェリー達がまだ戦っているという事で……勿論通常モンスターが進化した個体という事でアナウンスが入らない可能性もあるのですが、その場合でも口の軽い人が討伐の報告をネットに上げる筈で……調べてみてもそのような情報はありませんでした。
(こちら側に来ているというところが不気味ですが…ノワールとも何か会話をしていたようですし、レナギリー達が近くに居る事を知って何かよからぬ事を企んでいる…という事でしょうか?)
やって来たスライムは1匹だけだったという事ですし、何かしらの偵察行動だったのかもしれませんが……カナエさんに聞いてみるにしてもタイミングを窺う必要がありますし、もう少しだけ待ってみる事にしましょう。
(それにしても…)
川を挟んでいるとはいえ毀棄都市のすぐ近くでの出来事ですし、ややこしい事にならなければ良いのですが……。
「わかりました、スライムに関してはこちらも気を付けておきます……とりあえず近くに来ている仲間を連れて来ようと思うのですが、もう少しだけ待っていてもらっても良いですか?」
ファントムジェリーの考えはよくわかりませんし、とりあえずナタリアさんやヨーコさんを連れて来る事にして……正直PT会話で2人に声をかければ良いだけなのですが、あれからずっとイチャコラしていた場合は物凄く恥ずかしい事になりますからね、まふかさん達の偵察の結果を待つ必要もあるのでこちらから迎えに行く事にしました。
(流石にそろそろ終わっていると思うのですが…)
万が一、万が一にも『搾精のリリム』の力が抜けきっていなければ大変な事になってしまうとドキドキしてしまうのですが、そんな私に対して淫さんが溜め息を吐きます。
『そんなに心配だったら、向こうに居る奴に聞いてみたらどうだ?』
(そうなのですが…今は急いで戻らないといけないという訳でもありませんので)
そしてニュルさんに連絡を入れたらどうだと言ってくるのですが、ただでさえ欲求不満な時に2人のイチャイチャしているところを生中継でもされてしまったら……その、本当に色々とアレですからね、流石にこれ以上の生殺しは嫌なのでのんびりと時間を潰す事にしましょう。
なんて会話をしながら2人が隠れている茂みまで引き返して来たのですが、心配していた喘ぎ声とかは聞こえてこなくて……ガッカリしてしまいます。
(って、私はいったい何を考えているのでしょう!?)
あわよくば3人でイチャイチャしようと考えていた事に愕然としてしまい、牡丹と淫さんが何とも言えない顔をしていたのですが……とにかく熱くなってしまった頬を一旦冷やしてから、何食わぬ顔でナタリアさんやヨーコさんと合流しておく事にしました。
※渡河出来るスライムとウロウロしている主人公。
※誤字報告ありがとうございます(3/27)訂正しました。




