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41:再戦(ロックゴーレム後半)

 プレイヤー達の度重なる攻撃により膝をついたロックゴーレムは、両手を組み合わせると、ゆっくりと腕を振り上げ始めました。攻撃パターンが変わった事を告げるストンプ攻撃ですね。出来ればこうなる前に総攻撃に移りたかったのですが、今更言っても仕方がないですね。こうなったら撃たれる前に討ちましょう。


 私は駆け出しながら周囲を確認すると、スコルさんが負傷者を引きずって回復役の人のもとに連れて行っているのが見えました。スコルさんは火力がありませんからね、全体のフォローに動いているのでしょう。ただ2人いる回復役のうち、胸の大きな方にばかり連れて行っているのはちょっとどうかと思います。桜花ちゃんと十兵衛さんは武器を掲げて駆け出しており、レミカさんは武器が武器(ナイフ)ですからね、そのまま支援勢を率いて遠距離攻撃に徹するようです。どこかで見た事のある猫目の男性(ストーカー男)など一部の人は障害物を盾にするなど退避に動いているようなのですが、大半の人は総攻撃に移っているようですね。プレイヤー側はこれまでの攻撃で3割ほど削られていたのですが、皆意気軒昂です。弓の掃射が終わると各個に何か叫びながら駆け出していました。


「おおおぉぉおっっ!!!」

 バラバラと攻撃に移るプレイヤー達の中から、真っ先に抜けだしたのはアヴェンタさんでした。視線はロックゴーレムの左腕に向けられていますね。昨日は頭部(弱点)に一撃入れても倒しきれませんでしたし、先にストンプ攻撃を妨害しておこうという考えのようです。次に続くのはシグルドさんです。彼はアヴェンタさんが左腕を狙っている事を察知すると、右腕を狙う事にしたようで、進路を微調整していました。


「【ドライブ】!【パワーダンク】!!!」

 追いかけてくる人達(シグルドさん)に気がついたのでしょう、アヴェンタさんがスキルを使い、更に加速をかけます。踏み込む勢いが増し、地響きを立てて地面がへこみ、砂煙が上がります。その勢いのまま膝をつくロックゴレームの体に足をかけ、跳び上がりました。凄いですね、しゃがみ込んでいるとはいえロックゴーレムの高さは優に3メートル近くあります。そんなロックゴーレムより体一つ分高い所まで跳び上がると、勢いそのまま、大剣で左腕を切りつけました。


 ロックゴーレムはその名の通り岩の体をしているのですが、スキルの効果か、ガギギギッ!!と不快な音を立てながら左腕が大きく削られます。組んでいた手が離れ、ロックゴーレムは大きくバランスを崩しました。ストンプ攻撃も中断されたようで、見守っていたプレイヤー達から歓声が上がります。


「OOoo……」

 呻くロックゴーレム。続くシグルドさんはそんな一撃を入れるアヴェンタさんの姿を目で追っていたようなのですが、落下してくるアヴェンタさんがニヤリと笑うと……気配が変わりました。闘気、でしょうか?後を追う私からはシグルドさんの背中しか見えないのですが、何か怖いですね。それにしても、何でしょうこれは?男同士の負けられない戦いという奴なのでしょうか?よくわかりませんね。


 ロックゴーレムは両腕を万歳したような状態で大きくバランスを崩しており、もう一度左腕を攻撃すれば切断する事も出来そうですが、シグルドさんは当初の予定通り右腕を攻撃するようですね。彼もロックゴーレムの体を駆け上がると……右腕を、()()()()()()

 何を言っているのかわからないと思いますが、ロックゴーレムの右腕がまるで豆腐か何かを斬るように切断されてしまいました。勿論、つなぎ目や攻撃を受けて脆くなった所を狙ったのでしょうが、どうやって切断したのか皆目見当がつかず、まるで酷いペテンにあったような気持ちになります。

 これには流石のアヴェンタさんも驚いた様子で、口を大きく開けてシグルドさんを見返していました。


 一瞬静まり返った採掘場内に、ズズズーンと、斬り落ちた右腕と、バランスを崩したロックゴレームが尻もちをつく音が響き渡ります。


 舞い上がる砂ぼこりと衝撃に、プレイヤー達の足が止まりました。たたらを踏む人達をすり抜けて、私は尻もちをついたロックゴーレムに駆け寄ります。左腕は……もう攻撃する必要があるのかわかりませんね。片腕をなくしてストンプ攻撃の威力も落ちたでしょうし、弱点である頭部がかなり低い位置に来てくれているので、普通にそこ(弱点)を攻撃する事にしましょう。左腕を追撃するために斜めから近づいていた角度はそのままに、【腰翼】を使ってラストスパートをかけます。

 ロッドを左手に持ち換えて、【腰翼】を使いステップイン、【ルドラの火】を発動させました。込めるMPは“全部”です。


「って!!」

 私はロックゴーレムの左側を駆け上がり、体を捻り、【腰翼】で遠心力を付けた1回転捻りからの叩き落としをその頭部(弱点)へ叩き込みます。


 確かな感触と、ロックゴーレムの短い叫び、それから青白い爆発。


 チリチリとした熱気と爆風に煽られて、私は弾かれたように、ロックゴーレムの斜め後方に吹き飛ばされました。一緒に舞い散る火の粉が奇麗ですね。そんな場違いな感想を抱きながら、私は浮遊感に身を任せます。

 ちょっと力加減を間違えましたね。吹き飛ばされるとは想定外です。受け身を取らないといけないのですが、MPを全て込めてしまったので、ちょっと怠くて動けなさそうです。まあ高さ的によほど変な着地をしなければ死ぬ事は無いでしょう。

 実際に浮遊していた時間は何秒もないのでしょうが、走馬灯のように加速された思考の中、人混みの中から黒い大型犬が抜けてくるのが見えました。


「嬢ちゃん!」

 スコルさんですね。彼は吹き飛ばされた私を空中でキャッチすると、そのまま体をクッションにするように受け止めてくれました。ぼぐにゃっという何とも言えない柔らかさと、ゴリッと私の肘がスコルさんの骨を抉った感触と、スコルさんの「ぐえぇ」という呻き声。スコルさんはちょっと色々とダメージを負ったようなのですが、勢いそのまま、私を安全圏まで咥えて離脱してくれました。何故か人のいない方向に引きずられて行かれたのですが、何故でしょう?


「…すみ、ません、ありがとうございます」

 何とか衝撃から立ち直ると、何はさておきスコルさんにお礼を言っておきます。あちこち擦りむいたようなのですが、あの衝撃と体勢から落下した事を考えると軽傷です。


「いや、いいのよ、でもちょっと予想していたより痛かったかな!」

 本気で痛いのか、何時もより幾分高い声のスコルさんが涙目で弱音を吐きました。


「まあでもおっさん、可愛い子ちゃんが傷つくのが見ていられない質だから。それに役得もあるしね」

 とは、私のお尻の下でクッションになりながらウィンクしているスコルさん談ですね。そう言われると離れたくなるのですが、立ち上がろうとするとスコルさんの尻尾がヒラヒラと胸の前で揺らされました。何でしょうとその尻尾を目で追うと……。


「ひぁっ!?」

 変な声が出てしまいました。それで私がやっと気づいた事に気がついたのでしょう、スコルさんがいつもの笑顔(胡散臭い笑顔)を浮かべます。


「いやーおっさんはいいんだけど、ちょっと若い子達には刺激が強すぎないかな?ま、おっさんは眼福だけ…ぐぇぇっ」

 服、燃え尽きていますね。いえ、全部ではないのですが、【ルドラの火】に焙られた左腕側は燃えてしまい、その下のブラも何とか引っかかっているという状態です。まともな部分は右腕側だけと、それ以外の場所はボロボロですね。見られて減る物ではないのですが、そうは言っても、顔に血液が集まってきているのがわかります。私はスコルさんを()()()()()殴っておきながら、頬に手を当てて、いえそんな事より服です、服。


「はははやく言ってください!」

 混乱している事を自覚しながら、私は慌ててナップサックから買っておいたポンチョを取り出し被ります。ああ、ナップサックの左側の肩ひもも焼き切れていますね、右側は大丈夫だったので何とかぶら下がっていたのですが、これは修理をしないといけなさそうです。


「…おっさんも言った方が良いかなーとは思ったんだけどね……って、ボインちゃん用意周到ーおっさんもうちょっと見ていたかったんだけどなーって待って待って、殴らないで、本気で痛いから。これ以上は死んじゃうから!」


「それならからかわないでください!」

 助けてくれた事や、他のプレイヤーから見えない場所まで引きずってくれた事、尻尾で隠してくれた事には感謝しますが、それとこれとは話が別のような気がします。尻尾を動かさないでくれるとくすぐったくなくて助かりますし、鼻の下を伸ばしたその顔がただただ不快です。


「いやーわかってても言っちゃうのよね、これが。好きな子には意地悪しちゃうっていうやつー?」

 とぼけるように笑うスコルさんを見ていると殴る気もうせてきたというか、冷静になるとさっきの状況がかなり恥ずかしくなってきますね。頬に手を当てて、あーもう、息も少し温い気がしますね。顔がものすごく熱いです。


「だいじょぶボインちゃん?まーでも、皆こっちよりあっちのほうが重要みたいだから見られてはいないんじゃない?知らないけど」

 スコルさんが示す「あっち」と言うのはロックゴーレムの方ですね。そうでした、戦闘中でした。慌てて胸元を隠しながら立ち上がろうとしたのですが、MP枯渇の影響(脱力感)が出ていますね。羞恥心(ボロボロの格好)もあって、今更戦闘に参加するというのも躊躇われます。

 それでも戦況だけでも確認しようと見てみると……皆でロックゴーレムをフルボッコ(タコ殴り)にしているところでした。


 完全に転倒してしまったロックゴーレムを2度と起き上がらせるかという勢いでプレイヤー達は攻撃しており、何故かアヴェンタさんとシグルドさんが少し離れた所で鍔迫り合いをしていますね。まあそちらの2人はどうでもいいのですが、そうこうしているうちに魔法職の方の第2撃が入り、ロックゴーレムは完全に動かなくなりました。それに合わせて、勝利を祝うようにワールドアナウンスが流れました。


『フィルフェ鉱山に出現していたエリアボス、ロックゴーレムが退治されました。これが初めての討伐のため、ワールド全体にアナウンスが流れています。初回討伐者にはSP3ポイントが進呈され、『ロックゴーレムの討伐者』の称号が授与されます。ロックゴーレムは弱体化されたのち再出現いたしますので、未討伐の方は是非チャレンジしてください。ロックゴーレムの情報については最寄りのブレイカーズギルドにてご確認ください』

 あ、レベルアップもしましたね。これでレベル8です。この辺りからすでにレベルが上がりづらくなってきているのですが、まあVRMMOならこんなものでしょう。そしてボスレベルになるとドロップや【解体】とは関係なく功績順にアイテムが配られるようですね、キラキラした光があちこちに飛びました。順位はわかりませんが、私のもとにも『魔光石(まこうせき)(中)』という漬物石くらいの大きさのあるアイテムが送られてきました。

※エリアボス(固定ボス)は初回でSP3ポイントもらえます。弱体化後は1ポイント貰えます。この辺りの調整はまだ甘いので、変更される可能性はあります。


※アヴェンタさんはスキルを取っていませんでしたが、昨日の敗戦が悔しかったので色々と取得しました。なので再戦時からスキルを使っています。以下ちょっとしたスキル説明です。


【ドライブ】戦闘スキル:移動力(中)アップ、筋力(小)アップする短時間の自己バフ。使用後はスタミナを大きく消耗するデバフ付き。瞬間的な火力UPにどうぞ。

【パワーダンク】戦闘スキル:スマッシュ系のスキルで、相手より高さがあればあるほど威力が増す攻撃スキルです。

 両方便利そうなスキルですが、【ドライブ】は脚力が上がるだけでこけないように走るのには運動神経がいりますし【パワーダンク】に至っては高さを得る手段については何も補正されていないというそんなスキルです。


※次回、ロックゴーレム戦の裏側ともいえる運営サイドのお話です。オマケみたいなものですので、2話更新出来たらしようと思います。


※誤字報告ありがとうございます(3/22)訂正しました。

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[良い点] ここまで見て… アホだけど好きな設定だ [気になる点] これゲーム的にクソゲーやろ これ飯関係と服の耐久関係が… リアル=ゲームとして面白いと限らないとい奴ですね [一言] だけど好き …
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