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405:修理依頼と準備

「流石に一般的な核融合炉や相転移エンジンなんていう物をブレイクヒーローズの中で再現する事は出来ないからね、骨董的な固体燃料ジェットから試そうと思ったんだけど…これがまた素材強度の問題でなかなか再現できなくてね」

 招き入れてくれたフィッチさんが皆と一緒に協力して作り上げたという金属の塊の前で熱弁を振るっていたのですが、どうやらこの細長いボトルのような形の金属からパイプが突き出ている物が船のエンジンになるのだそうです。


「しかも魔石から瞬間的なエネルギーを取り出すのは容易だけど長期的なエネルギーを取り出すのは難しいという実験結果も出ているからね、それならいっその事連続した爆発エネルギーを利用するパルスジェットエンジンを作ってみてはどうかと考えた訳なのだよ」

 言いながら試作一号機から現在の六号機の実物を見せながら改良点を説明してくれるのですが、どうやらフィッチさん達は魔力の噴射で動く魔導船を見て「これだ!」と古典的なエンジンを積んだ船を作る事を思いつき……。


「構造が単純なぶん簡単に再現できるし、素材の強度も構造材を厚く…そうすると重量がかさむんだけど…別に航空機とかに載せる訳じゃないからね、しかも魔石からエネルギーを取り出す場合は水没していても問題ないからウォータージェットに適しているという事もわかったんだ」

 そして気が付けば作業をしていた人達も手を止めて集まっていたのですが、なかなか興味深い思考錯誤を続ける毎日なのだそうです。


「凄い物を実現しようとしているんですね」

 その途轍もないプロジェクトと熱意に対して純粋な称賛を口にするとフィッチさん達はどこか照れたように笑うのですが、その話を一緒にニコニコと聞いていたスコルさんがヘラリと舌を出しながら混ぜっ返しました。


「あんまり褒めない方が良いわよー…ここに居る連中はただの技術馬鹿みたいなもんだから」


「失敬な、夢とロマンを追いかけている真理の探究者と言って欲しいな!」

 そんなスコルさんの軽口に対してドヤ顔で決めポーズを取っているフィッチさんなのですが……。


「まあまあそれより、ユリちーはそういう話をしに来たんじゃないでしょ?」

 何だかんだと言いながらも船好きが高じて金銭的な融資までしていますからね、たぶんスコルさんもフィッチさんの話に興味があったのだと思いますし、訪ねて来たのに自慢話の一つも聞かないまま用事を済ますというのもフィッチさん達に悪いと思っていたのかもしれませんが、一通り話し終わったところで私達の用件を切り出すように促してきて……私は刃が欠けかけている『魔嘯剣』や『ベローズソード』をフィッチさん達に見せました。


「お話は大変興味深かったのでまた後程…カナエさんから話は聞いていると思いますが、武器を修理して欲しくて…魔法剣の修理に使う魔石も持ってきましたし、工賃としてお金も支払いますので」

 私がそう言うと、たぶん鍛冶を担当している人なのでしょう、ひげ面のドワーフだと思われる人が「どれ、ちょっと」と剣を受け取り……たぶん船の話を聞いてくれた人へのリップサービスも含まれているのだと思いますが、魔石を見てからニカリと白い歯を見せるように笑いました。


「これなら問題ない、すぐに使うんだろ?手早く治してやるから少し待ってな」


「では…お願いします」

 これで修理に半日とか1日かかるならどちらか一つだけでも修理してもらうつもりでしたが、すぐに終わると言うのならこの際二つとも修理してもらいましょう。


 そう思って剣を渡すと鍛冶師のドワーフさんは「よっこいしょ」と作業場に移って早速修理を開始し、それに合わせて今までフィッチさんの話を補うように口を挟んで来ていた船大工の人達もザワザワと動き出し……小人化した時に洋服を作ってくれた人が何か話しかけたそうにしていたのですが、今まで雄弁に語っていたフィッチさんだけが何故か青い顔をしていました。


「あ、ああ…それはもちろん…え、えーっと……そのー…マイ・ドーターからはあまり話しすぎるとなときつく言われていたんだが……その、僕が客人の前で長々と話しをしていたという事は黙っておいてくれないかな?」

 止められていた割にはおもいっきり楽しそうに熱弁を振るっていたような気がしますが……それより゛マイ・ドーター(私の娘)”……ですか?


「それは構いませんが……その、カナエさんとは親しい間柄のようですが…どのような関係なんですか?」

 聞かない方が良いのかもしれないと思ったのですが、フィッチさんのテンションの上がり下がりを見ていると聞かないのも変かと思って聞いてみる事にしました。


「ああ、カナエは僕の娘で……って、何?皆もそんなに驚く事?僕くらいの年齢なら結婚していてもおかしくないだろ?」

 余りにもあっけなく物凄い事を言われて驚いてしまいましたし、周囲に居た船大工の人達も「お前結婚していたのか!?」みたいな顔をしていたのですが……騒がれた方のフィッチさんは恥ずかしそうに頭をかきました。


「いやー…はは、えっと、コホン、ま、まあ今そんな事はどうでも良いではないか!皆の目の前に居るのはただの船好き…工房長のフィッチさ!」

 半分以上素が出でいましたからね、改めて演技ぶった身振り手振りでフィッチさんは皆の方を向くのですが……そんな事で誤魔化される人達ではありませんからね、問い詰められたり揉みくちゃにされたりし始めてしまい辺りが騒然とした喧騒に包まれます。


「ユリちー」


「そうですね」

 ワチャワチャしすぎてのんびりと雑談をしているという空気でもないですし、アイテムの補充もしなければいけませんからね、武器の修理ももう少しかかりそうなのでそろそろお暇させてもらいましょう。


 そういう訳で独身男性と既婚者の争いがおきている貸倉庫から離れる事になったのですが……カナエさんがフィッチさんの話をする時にやや挙動不審になっていたのも納得いったといいますか、こんなゲームを親子揃ってプレイしているというのもなかなか剛の者ですね。


 まあ2人とも技術畑の人っぽいですし、クソゲーを楽しんでいるというよりクリエイト方面の自由度が気に入っているのだと思いますが……何か不思議な感じがしてしまうものの、人に言いふらす類の話でもないので色々な事情があるものなのですねという事で納得しておきましょう。


「ふー…いやーそれにしてもユリちーって大体どこに行っても人気者ねー」

 そうして雑談というようにスコルさんが話題を振ってきたのですが……これはフィッチさん達に囲まれた事とかを揶揄されているのでしょうか?


「そうですか?技術畑の人達っぽいですし、女性が珍しいだけでは?」


「いやーこれを珍しいだけと片付けるのは…おっさんも変な虫が飛んでこないように守るつもりだったんだけどねー」

 スコルさんは周囲の視線や雑踏のようなざわめきを眺めながら、さり気なくナンパ目的で近づこうとしている人達を威嚇しているノワールや牡丹達を眺めながらしみじみと呟くのですが……そういうのをいちいち気にしていてもしょうがないですからね、実害がない以上無視するのが吉ではあると思います。


「それより…スコルさんはこの辺りの土地勘があるのですよね?ポーションとか投げナイフとかを売っているお店がどこにあるのか知りませんか?」

 私が知っているのはあくまでネットの情報ですからね、大体どのあたりにあるのかという事しかわかりません。それに武器の修理がどれくらいの時間で終わるのかはわかりませんが、用事を後回しにしているというのも何なので今のうちにアイテムの補充を済ませておきましょう。


「お?それをおっさんに聞いちゃう?それじゃあおっさんの行きつけのお店に行っちゃおうかなー?」

 そして何故か急にルンルン気分でスキップを踏みながら案内をしようとするスコルさんなのですが……。


「いかがわしい所に連れていきませんよね?」


「失礼な、ユリちーはおっさんの事なんだと思っているの!?」

 ショックを受けたというようにめそめそと嘘泣きをするスコルさんなのですが、いちいちオーバーリアクションすぎて信用ならないのですよね。


「胡散臭い人ですよね?」

 なので半眼で見つめながら正直に答えたのですが、スコルさんは何故かその答えに満足したようにブハッっと噴き出すように笑って……まあとにかくそんな風にふざけるスコルさんに案内してもらったのですが、お店の方はごく普通の道具屋と武器屋でした。


(ただ…個数制限があるのですよね?)

 出来たら別行動をするまふかさんやグレースさんの消耗品も一緒に補充しておきたいのですが……さり気なく店員の顔色を窺いつつ1個1個手元に取っていくと、特定の本数になると渋い顔をされるのですが……たぶんその表情の変化が1人あたりの購入できる限界なのでしょう。


「じゃあ、これとこれを…」

 そういう風に様子見をしながら買う数を決めていくのですが……淫さんの中に各種ポーションを10本ずつ、太腿のポーチに予備の1本を入れて……後はまふかさんとグレースさんに渡す為のポーションを3本ずつ購入しておきました。


 この時点でかなり渋い顔をされてしまったのですが、後は投げナイフを30本……と思ったのですが、どうやらこの数は個数制限に引っかかってしまうようですね。どうしようかと考えていると、牡丹が壁に掛けられていた物を咥えてズルズルと引っ張ってきたのでそちらに視線を移します。


「ぷっ!」

 との事なのですが、牡丹的には「これを投げナイフの代わりにしてはどうか?」という事なのでしょう。


(漁に使う為の投網…ですか?実物は初めて見ましたが)

 港町らしい道具といいますか、投擲物というより【蜿々長蛇(鞭の上位スキル)】で扱うような物ではあるのですが……確かに牽制用なら有効そうですね。


 さり気なく隣に居たノワールも右前脚を大きく振るようにして賛意を示していて……まあ糸を吹きかけたりするレナギリー達との共同戦線を張る予定ですからね、投網を使う場面があるのかもしれません。


「それじゃあ投げナイフを15本とこの投網を」

 そういう訳で投網も追加で購入しておくのですが、後はゴチャゴチャしていた雑貨類の整理もしておく事にして……ナタリアさんに作ってもらったナップサックや猫耳帽子はそのままで、汚れた布類は水洗いした後に売ってしまいましょう。そうして新しいビニールシートを1枚購入しておき……携帯用錬金釜や調理用のお鍋に関してはこのままでいいですし、塩コショウや携帯食料については消費分を買い足しておきます。


 後はずっと死蔵させている『リリスのポーション』はどうしようかと悩むところなのですが……まあ何かに使えるかもしれないという事で置いておくとして、『毒消しの薬草』6個、『麻痺治し』4個はそのまま、後はいつの間にか溜まって来ていた袋類をどうするかですね。


(これは…)

 袋類はアンギーフロッグの皮で作られたショルダーバッグとマジックバッグ化しているずた袋が2つほど雑貨扱いで淫さんの中に収納されていたのですが、淫さんは【鞄】スキルを持っていないのでマジックバッグが働いていなくて……もちろん付与する(【秘紋】)事は出来るのですが、つけたらつけたらで上書きが出来なくなりますからね、マジックバッグに関しては牡丹に渡してそのまま利用してもらう事にしましょう。


 これで牡丹の収納力がかなり上がったので鋼の盾以外にもカギ爪付きロープや投げナイフを渡しておく事が出来ますし、幾つかの回復アイテムを渡しておく事にしました。


(よし、これで)

 一通りアイテムの整理をしてからいらないアイテムを処分していると、店内を見て回っていたスコルさんが声をかけてきます。


「ねえねえユリちー、これ見てこれ!」

 そして牡丹の動きを真似しながら咥えて持ってきたのは港町に売っていてもおかしくはない水着ではあったのですが……いえまあ水着と言うより紐でしょうか?あからさまにどこも隠せなさそうな物を持ってきたスコルさんは満面の笑みを浮かべながら嬉しそうに尻尾をパタパタと振っていて……そんな物(エッチな水着)を私に見せて何が言いたいのでしょう?


「買いませんよ?それともスコルさんが着ますか?」

 ついつい半眼になってしまうのですが、スコルさんはデレデレとした締まりのない笑みを浮かべながら言いました。


「おっさんが着ても似合う訳ないじゃない、これをユリちーに…おっほうっ!?」


「ぷーっ!!

 そうして牡丹に体当たりを受けていたのですが……騒ぎになる前に購入する物を纏めて退店する事にしましょう。


「本当に…何をしているんですか、物凄く睨まれていましたよ?」

 そんな騒ぎをおこしてしまったのでお店の人には睨まれてしまったのですが、スコルさんに言わせると「やらないといけない定番のボケ」なのだそうです。とにかくそんなこんなで騒がしく露店街を歩いていると、騒ぎを聞きつけた……という訳ではないとは思うのですが、通りがかった知り合いに発見されて声をかけられました。


「あれー何か見た事がある帽子を被っている人が居ると思ったら…ユリエルちゃん…だよね?人の姿をしているけど」


「あらー本当ねー…お久しぶりー」

 それは狩人のナタリアさんと錬金術師のヨーコさんで、こんな所で珍しいと驚きを顔に出した後にスコルさんの姿を見つけて「うわ、おっさんがいる」みたいにナタリアさんが引いていたのですが……とにかく懐かしい顔ぶれに私も相好を崩して頭を下げました。


「お久しぶりです、こんな所で会うなんて奇遇ですね」

 2人とも装備が色々と新調されているようですし、プレイ開始時からの知り合いが仲良くゲームを続けている姿を見ると何か嬉しくなってしまいますね。

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