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40:再戦(ロックゴーレム前半)

 採掘場の中央にロックゴーレムがしゃがみ込んだような姿勢で佇んでおり、それを取り囲むようにピットが数十体湧き出ています。私とアヴェンタさんが昨日負わせた頭部の傷は完全に治っているようで、刺したナイフも抜けてしまったのか見当たりません。その辺りに落ちているのでしょうか?

 ロッドとツルハシを構えながら私がそんな事を考えていると、いつの間にか時間になっていたようですね、攻撃が開始されました。


「それでは皆さん、攻撃を開始してください!」

 モモさんの号令一下、まずは弓での牽制が開始されます。息の合った、とはいきませんが、各自バラバラと放たれた矢が敵に降り注ぎます。弓の攻撃(この威力)ではロックゴーレムを倒す事は出来ませんからね、狙うのは主にピットの誘引です。矢が降り注いでいる間に、魔法職の人が詠唱に入りました。内訳としては攻撃魔法が3人で、回復魔法が2名ですね。これだけの人数(60人)が集まっていても、魔法を使う人がそれだけというところに、このゲーム(ブレイクヒーローズ)での魔法職の不遇っぷりがわかります。モモさんが詠唱に入った事により、レミカさんが指揮を引き継ぎます。


「押し止めますよ!」

 こちらの攻撃に反応したのでしょう、ピットの大群が一斉に動き出しました。その動きに合わせて迎撃に出たのが、レミカさん率いるタンク勢と、アヴェンタさんです。アヴェンタさんはアタッカーチームなのですが、何故かタンク勢と一緒に突撃していますね。作戦を理解していなかったというより、ただ暴れたかっただけでしょう。群がるピット達を楽しそうに蹴散らしていっています。

 ちなみにタンク勢とは言っていますが、大盾を持っているタンクらしい人は一人だけと、見た目としてアタッカーチームとそれほど変わりはありません。その唯一大盾を持っているドワーフのように横に広い大柄の男性は無口な方らしく、喋っているところは見かけませんでしたが、レミカさんと上手く連携してピット達を左右に押し分けて、順調にアタッカーチームの進む道を作ってくれているようですね。


「さて、そろそろおっさん達も行きますか」

 牽制と、押し寄せるピット達の撃退。この辺りになるともうあちこちしっちゃかめっちゃかで、指揮なんてあってないようなものです。目の前の敵に全員で群がるような素人集団丸出しの攻撃が続いています。

 怒声と怒号、叫び声やら喊声(かんせい)があちこちからあがっていて騒がしいですね。そんな乱痴気騒ぎの中、スコルさんはいつも通りの胡散臭い笑顔を浮かべたかと思うと、私の方を見てウィンクをしてきました。「合わせて」という事でしょうが、私が見た限りではロックゴーレム前のピット達の排除が終わっていませんし、弓矢による攻撃も断続的に続いています。魔法職の攻撃も終わっていませんし、もう少し待ってから攻撃した方が安全だとは思ったのですが……戦闘が不得手と判断されてタンク勢に回された人もいますからね、そういう人達を助けるためにスコルさんは攻撃を開始したいのでしょう。正面の敵は蹴散らせない程の数ではありませんし、私もスコルさんに合わせて突撃しましょう。


「わかりました」

 私が頷くと、スコルさんは「ひゃっはー!!」と叫びながら突撃を開始しました。種族的な補正があるのでしょうけど、本気で走られると【腰翼】を使っても追いつけませんね。敵の間を縫うように走るスコルさんの後を追いかけるのが精一杯です。

 順番でいうと先頭を走るのがスコルさんで、次に私、次がピット達の群れを突破して来たアヴェンタさんで、4番手が意外な事にシグルドさんですね。彼、足が速かったのですね。その後はもう触発されたように全員突撃を開始しており、しっちゃかめっちゃかの状態です。めいめいに武器を掲げ、喊声をあげながら突撃してきています。その攻撃に驚いて、支援勢からの攻撃が一時的にやみました。


「っと、あらよっと!って」

 ロックゴーレムの周囲にいたピット数体を引き倒しながら、後続の進路を確保するスコルさん。駆け寄るスコルさんに合わせてロックゴーレムは右手を振り降ろしますが、そんなモーションの大きなものに当たるスコルさんではありませんね。サイドステップでその攻撃を躱すと、振り降ろされた腕を駆け上がり頭部に攻撃を仕掛けます。いえ、何か当たり前のようにそんな事していますが、超絶的な技巧ですね。流石に登りきる前に腕を動かされ攻撃自体は失敗していましたが、それでロックゴーレムのヘイトがスコルさんに集まりました。

 スコルさんが左に抜けていったので、ロックゴーレムの視線……と言っていいのかわかりませんが、微かに体がそちら側に向いており、右側がお留守ですね。私はそちら側に攻撃を仕掛けましょう。

 作戦的に(後半火力集中)まだ【ルドラの火】は使えません。右側を走り抜ける瞬間、ツルハシをおもいっきり振って、ロックゴーレムの左足を攻撃します。


 ガツッ!!っと、思いのほか硬い感触と、手のしびれが襲ってきます。ミシミシとツルハシの木の部分が裂けるようにたわみ、破損一歩手前と言う状態です。私がロックゴーレムを直接攻撃したのは【ルドラの火】を纏わせた攻撃だけだったのですが、こんなに硬かったのですね。アヴェンタさんはこんな物を何度も叩いていた訳ですが、よく腕が無事でしたね。

 立ち止まれば後続する人に轢き殺されかねませんから、私もスコルさんに倣って右側に抜けておきます。ツルハシはもう駄目でしょうし、少しでも後続の人へのヘイトが散るようにと、ロックゴーレムの後ろに抜けた後、体を捻りツルハシを頭部目掛けて投擲しておきます。投げたツルハシは首元に当たって弾かれてしまいましたが、まあいいでしょう。崩れたバランスは【腰翼】を使い立て直し、その場所から離脱します。


 続くアヴェンタさんは進路上のピットを蹴り倒し、シグルドさんも進路上のピットを斬り伏せて、ロックゴーレムに肉薄します。示し合わせたというよりも、単純な立ち位置の問題として、アヴェンタさんが私と同じ左足に、シグルドさんが右足に攻撃を仕掛けるようです。


「おらぁあっ!!」

 おもいっきり叫びながら一撃を入れたアヴェンタさんと対照的に、シグルドさんは静かに剣を振ります。シグルドさんの剣が当たる瞬間、一瞬剣がブレて見えたのですが、何かのスキルでしょうか?ガガッ!!と多段ヒットしたような音を立てて、ロックゴーレムを大きく削りとりました。どうやらその一撃はアヴェンタさんより多くのダメージを与えていたようで、驚いたように目を見開くアヴェンタさんに向かって、シグルドさんは「フッ」と笑います。


「てめぇ…」

 アヴェンタさんは悔し気にもう一度攻撃を仕掛けようとしたのですが、後続から迫るアタッカーチームに気づき、一撃入れただけで駆け抜けていった私やシグルドさんを忌々しそうに見た後、舌打ちをして後方に抜けてきました。

 後はもうしっちゃかめっちゃか固まって攻撃するアタッカーチームと、ロックゴーレムの殴り合いです。ガツガツと武器の当たる音と、ロックゴーレムに殴られ飛んでいくプレイヤー達。殴られた人は回復魔法を使おうにも殆ど即死ですね。次々とリスポーンしていき数を減らしていきます。桜花ちゃんと十兵衛さんはしっかりとロックゴーレムに一撃入れた後、離脱に成功していました。

 桜花ちゃんはまだ攻撃し足りないようですが、「巻き込まれるぞ、一旦離れろ!」と十兵衛さんに首根っこ掴まれ、「ずるい、アタシも!」と何か騒いでいるのが聞こえます。

 ちなみにスコルさんが気にしていたドゥリンさん(タンク勢)はピットと1対1で殴り合った結果、やられてしまったようですね。


「さあ準備が出来ましたわ!皆さん、下がってくださいまし!!【ファイアー……」

 団子状態で攻撃するアタッカーチームに向けて、モモさんからの指示が飛びます。慌てて味方の射線から逃れようと離れていくプレイヤー達を尻目に、モモさんが……()()()()()()


 ドーン!!というどこか間延びしたような音と共にモモさんが爆死し、プレイヤー達の動きが一瞬止まります。


「えーまあ…気にせず攻撃を続けてください」

 モモさんは詠唱途中に関係の無い事(プレイヤーへの指示)を喋りましたからね、ただの詠唱失敗(暴発)でしょう。唐突に総隊長が爆死した事によってプレイヤー達の間に動揺が走りましたが、レミカさんがどこか呆れたような顔でそのまま攻撃指示を出します。こういう時のために魔法職はある程度距離を置いて布陣していたので、残りの2人は無事です。詠唱の終わった方から炎と氷の魔法が飛び、爆炎と氷塊が炸裂します。


「GUOOooo…」

 何はともあれ、この手のモンスターにありがちな、防御力はあるけど魔法防御がという仕様なのか、単純に人数による暴力なのか、ロックゴーレムは苦しそうな叫び声をあげながら膝をつきました。さあ、ここからですね。


「攻撃を途切れさせないでください、続いて第2射!!」

 ピット達は数を減らしていましたので、矢による攻撃もロックゴーレムに向けられます。制圧するように発射された一斉掃射が終わると、攻撃パターンの変わる後半戦が始まりました。

※ブレイクヒーローズにおいて魔法職は不遇。便利ではありますし、効果も高いのですが、戦闘で有効なレベルの魔法を使う場合は戦闘中に知恵の輪を解きながら原稿用紙数枚ぶんの呪文を一字一句間違いなく唱える事が要求されます。


※誤字報告ありがとうございます(10/17)訂正しました。

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