表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

415/527

397:打ち合わせとレナギリー達の狙い

 私達は覚えたてのスキルを色々と試しながらレナギリーの拠点に向かって進んでいたのですが、その道中は何事もなくとはいかないようですね。


『また来たぞ』

 そう淫さんに注意されるまでもなく、毀棄都市から流れて来たと思われるゴースト達が薄霧の中から現れるのですが……“そこに存在している”と認識するとぼんやりと【探知】が働いて強調表示されるように姿が浮かび上がりました。


 逆に言うと意識しなければ【探知】に引っかからないといいますか……これは慣れるまでに色々と苦労しそうなスキルですね。


(わかって…いますが)


「OoooOOOxx…」

 まあ不意さえつかれなければ問題ない相手ですからね、呻きながら手を伸ばしてくる逸れゴースト達を『ベローズソード』で打ち払うのですが……ゴーストだけでもこれで16体目と、中央(ギャザニー地下水道)から流れて来るゴブリン達もチラホラと見かけたりとモンスターの襲撃が増えている事に色々と懸念を覚えてしまいます。


(モンスターの勢力圏が広がっているのでしょうか?)

 『リヴェルフォート』からレナギリーの元に行くには熊派が押さえている『隠者の塔』を掠めるように進む南東ルート(地下通路ルート)と『クリスタラヴァリー』を経由して道なき道を進む東回りルート(峻険な岩山ルート)しか無いため、わざわざこの辺りまでやって来るプレイヤーは非常に稀でした。


 そして熊派が勢力圏を増やしている影響が出ているのか倒す人が居なくてモンスターが溢れ出しているのかはわかりませんが、このモンスターの量は少し気を引き締める必要があるのかもしれません。


(まあスキルを試すのには丁度良かったですが)

 まず【探知】に関してなのですが、コツが必要なものの問題なく運用できるようで……暗視能力が低下しているので夜時間になったら多少気を付けないといけないのかもしれませんが、その辺りはニュルさんや淫さんのフォローに期待する事にしましょう。


 続いて【淫魔の口づけ】の吸収効果なのですが、時折襲ってくるゴブリン相手に試した結果はなかなか良くて……恍惚の笑みを浮かべながら一瞬で干からびていくのは何だか可笑しかったのですが、とにかくスキル自体に問題はないようですね。


 ただ自分達でMPを回す時(空腹の回復等)にも効果が乗っているようで、補充効率が上がったのは良いのですが……それの何が問題かというと色々とありまして、具体的に言うと牡丹におっぱいを吸われる時の気持ち良さが上がっていました。


 いえまあその辺りは吸う量や強さを調整すればいいのですが、その辺りはお互いに気を付ける事にしましょうという事になっています。


『どうした?』


(いえ…何でもありません)

 その時の腰の抜けるような感覚を思い出すと下腹部と頬が熱くなるのですが、淫さんが心配そうに声をかけて来て……その淫さんについても新事実があり、本人は『眷属ではない』と言い張っている割には確りと眷属判定が入っているのか【秘紋】の付与範囲に入っている事がわかりました。


 なのでスキルを付与すれば淫さんも他者から精気を奪う事が出来たのですが……テイミングにも何かしらの内部パラメーターがあるのでしょうか?少し前まで付与できなかったのですが、気が付けばいつの間にか付与できるようになっており……ただこれに関しては一長一短と言いますか、下手に魔力を消費すると【淫装】としての本能が呼び起こされるのか暴走してしまいますし、少し無理をすると耐久度の消費が激しくなってしまうのでこれに関しては最後の切り札といった感じですね。


 因みにテイムモンスター用の画面は開けないので装備品扱いというのは変わりなく、扱い的にはインテリジェントデバイ(意思の有る道具)スといった感じなのでしょうか?スキルを覚えたりする事は出来ませんし、普通の装備画面が開かれるので牡丹達とは違う何かという扱いになっているようでした。


 後はニュルさんの移動に関してなのですが、懸念していたほど問題が出なかったといいますか、触手を通常空間に出したまま1メートル近い本体部分だけを空間に沈めて移動するという器用な事が出来るようで……たぶん【招集】で消費する分の魔力を自己回復ぶんで賄う事が出来ているのだと思いますが、この辺りはMPの回復手段が私からの譲渡に依存している牡丹よりも柔軟に運用できるようですね。


 本人も苦しくないのか機嫌よくウネウネと触手を動かしており、最終的には【吸収】して余った余剰魔力を牡丹達に回せたらという事を言っていたので、実現したら色々と便利になるのかもしれません。


 ただ触手を出しているのが【招集】の範囲内であるため、常に私の周囲1メートル以内に直径50センチ程度の渦から触手が出ているという絵面的な問題があると言いますか、図らずとも淫魔っぽさが増してしまったような気がするのですが……まあニュルさんに問題がある訳ではないですし、移動方法としては有用なので見た目に関しては目を瞑る事にしましょう。


「ぷっ、ぷー」

 そして何より、ニュルさんという弟分が出来た事が嬉しいのか牡丹が跳びはねていて……表向きは魔力が消費できない状態(疲労状態)になった時の移動方法を2人で模索していたのですが、ニュルさんが牡丹の上に乗ってウネウネと動いていたり羽で浮かぼうとしている牡丹に触手を絡ませて運搬されようとしていたり一緒にピョンピョンと跳ねてみたりと色々と思考錯誤をしているようですね。


 絵面は触手に絡まるスライムという何とも言えないものだったりたまに牡丹が丸吞みされていたりするのですが、最終的には渦に潜んで触手をウネウネさせる方法に落ち着き……ニュルさんが単独で移動する場合は無数の触手を代わる代わる使って跳びはねるという独特な移動方法が編み出されていました。


 この方法だと成人男性が普通に走る程度の速度が出るようなのですが、小回りが利く半面触手自体が使えなくなるという問題があって……次に考えられたのが本体部分を縮めてバネのように跳ぶ方法なのですが、この方法だと一回の跳躍距離が伸びる事と跳ぶ前にかがむ動作が入るのでどうしてもワンテンポ遅くなったりと一長一短あるようで、その辺りはスキルレベルを伸ばしつつ色々と思考錯誤をしてみるようです。


「2人とも、そもそろ到着しますよ」

 そんな騒がしい皆と一緒にレナギリー達の居る『臨時キャンプ地』までやって来たのですが、前回来た時よりも防備が増しているのか糸の量が増えていて……蜘蛛達の姿がありませんでした。


「ノワール?」

 ここまで案内して来たダークスパイダーの子(ノワール)供に疑問を投げかけると前脚を振りながらもう少し北東側(毀棄都市側)を指さしていて……これはレナギリー達が移動したという事なのでしょうか?


 そう思いながらノワールの案内で移動するとカサカサとフォレストスパイダーやダークスパイダーが寄って来て、その都度ノワールに説得?されているのかはわかりませんが、何かしらのやり取りをした後にどこかに去って行くというのを繰り返しました。


(どういう事でしょう?)

 やや警戒したような様子なのは触手を引き連れているからなのかもしれませんが、その辺りの事情をノワールに聴いてみるとレナギリー達は西方からやって来る何かに苦労していたようで……この辺りは身振り手振りなので凡そしか伝わらないのですが、たぶん西方からやって来る何かというのは熊派の事で、定期的にやって来る熊派の妨害に嫌気がさしてどこかに本拠点を構えようと引越しの真っ最中のようですね。


 そこで目をつけられたのが小競り合いを続けている『毀棄都市ペルギィ』で、今まさにミューカストレントが支配する幽霊都市の攻略に取り掛かろうとしているのですが……難易度の高そうな方を狙うのは倭東人(人とは争いたくない)の事があるからでしょうか?


(現有戦力ではなかなか厳しいと思うのですが)

 1プレイヤーとしてはもう少しこのまま粘って熊派の注意を引いて欲しいのですが、『リヴェルフォート』に居るアルディード女王と違ってレナギリー達は孤立無援の状態ですからね、何時までも簡易拠点で防衛を続けるわけにもいかないという厳しい現実があるのかもしれません。


 とにかくそんな事をボディーランゲージを交えて伝えてくるノワールの説明を聞きながら糸に覆われ真っ白になってしまった森の中を進んでいると、幾多の蜘蛛達に(かしず)かれる白く美しいアラクネの姿が見えてきました。


「ドウ…シタ、ワガムスメ」

 そして引越しの真っ最中だったからなのか、それとも道半ばで(幼樹を植える前に)戻って来たからなのか、私達を見つけたレナギリーは愛情半分怪訝さ半分といった顔で問いかけてきます。


「少し確認に…()()()()()()『精霊樹の枝』を植えるのに適した場所を見つけたのですが、そのまま植えていいものかと思いまして」

 和解の条件に「皆と協力する」という条件が入っていますからね、“皆と協力”という点を強調しながら確認をしてみるとノワールが意味深に見つめてくるのですが……レナギリーは考え込むように目を伏せてからゆっくりと口を開きました。


「ナル、ホド……ドコデモ、イイ……ガ、ワレワレモソコヘウツルノデ、スコシナヤム」

 との事で、こちらに運んで来るのならそこを本拠点とするし、別の場所に植えたらそちらに移動したいとの事ですね。


 少し悩むというのは毀棄都市の攻略を進めているからだと思いますが、最終的な判断は私に任せるという事で……多分これは一種のプレイヤーへの選択肢みたいなもので、このイベントを進めている人がレナギリーの新しい拠点を決める事が出来るという事なのだと思います。


「わかりました、ではそのまま現地に植える方向で話を進めたいと思うのですが……毀棄都市攻略の方は何とかなりそうですか?」

 こちらに鉱石を運ぶのは人手や労力が大変な事になってしまいますからね、出来れば『クリスタラヴァリー』の鉱床にそのまま『精霊樹の枝』を挿したいと思うのですが……ただ植えた場所に移住するとなると熊派の一大拠点となっている『隠者の塔』と毀棄都市の間を通り抜ける事になりますからね、多くの脱落者が出る事が考えられます。


 というのも現在地から『クリスタラヴァリー』へ向かう為には毀棄都市を避けて通る事が出来ず、東回りルートでは大きな川があるので無理やり渡ろうとすれば毀棄都市からの攻撃時間が長くなるだけですし、毀棄都市と『隠者の塔』の間を縫うように西回りルートで移動するとなると両脇から攻撃を受ける事となり……それだけ苦労して移住したとしても熊派の主力が居る『隠者の塔』とミューカストレントのいる毀棄都市に囲まれているという袋小路に入り込んでしまう事になりますからね、それならまだ余力のあるうちに毀棄都市を攻略してから『クリスタラヴァリー』に向かった方が良いと思ったのでレナギリー達の勝算を聞いたのですが……。


「ムスメニモ、テツダッテホシイ」

 戦力的にやや不安があるのか困ったようにレナギリーは眉を顰めるのですが、その話に乗るには色々と準備不足なのですよね。


「すみません、手伝いたいのはやまやまなのですが…装備の修理と補充をしなければいけないので少々お待ちしてもらっても良いですか?」

 言いながら今にも刃が欠けそうな『魔嘯剣』をレナギリーに見せるとまじまじと武器を眺めてからあっさりと引いてくれて……とはいえここでレナギリーが負けてしまったら元も子もありませんからね、私が熊派の勢力圏に殴り込みをかけるのは既定路線でしたし、このままレナギリーの戦いに参加するというのも悪い選択ではないのかもしれません。


 まあレイブンさん達がいる『クリスタラヴァリー』から近いのがやや不安材料なのですが、ある程度離れてくれればまふかさんとグレースさんが上手くやってくれるでしょうし……何とかなると思います。


「ワカッタ、ソノヨウニシヨウ」

 そして毀棄都市攻め自体は最初から予定されていたという事もあり、攻略してから移住するという案には特に反対意見が無いようで……あっさりと纏まった話に胸をなでおろす事になりました。


(とんとん拍子で話が進みましたが…後は無事に『イースト港』にたどり着けるかが問題ですね)

 急いで『イースト港』に移動してアイテムの補充をしなければいけなくなりましたし、まふかさん達が動き出すまでに戻って来ないといけないのでなかなかタイトなスケジュールなのですが、キリアちゃんに近づく(熊派の勢力圏を削る)ためにもうひと踏ん張りする事にしましょう。

※誤字報告ありがとうございます(3/27)訂正しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ