393:合流してからの諸々
※ユリエル視点に戻ります。
眷属化したジェリーローパーの力……結晶から魔力を吸いだす時の応用とか強引な力技みたいな感じで右足の結晶化を中途半端に解除してレイブンさんとビークリストゥを振り切り地下空洞からの脱出を目指している私達なのですが、出口と思われる場所には逃げ出そうとしているジェリーローパー達やアシッドジェリー達が詰めかけ渋滞を起こしていて……流石にそんな危険な場所を突っ切る訳にはいきませんからね、大回りしながら脱出路を探る事になりました。
「次はこっち…ですか?」
そんな脱出にも一役買ってくれているのが抱きかかえて運んでいるジェリーローパー……ニュルニュルしているからニュルさんとしておきますが、どうやらニュルさんは魔力の流れだけではなく空気の流れやら湿度などの色々な情報がわかるようで、その案内に従って地下空洞を進んだり引き返したりしながら何とか安全に脱出できるルートを探していたのですが、案内される場所がことごとくモンスター達が犇めきあっている場所なので通る事ができないのですよね。
(無理やり突破するのは難しそうですね)
蠢いているモンスターの数は凡そ数十体程度、私の右足が万全な状態で【輪唱】のデメリット効果であるMPの最大値の低下が無ければ無理やり突破するという事もできたのかもしれませんが……。
『おい、本当にソイツの案内は信用できるのか?』
因みにレイブンさんを拘束していた5体のジェリーローパー達はロストしてしまったようで……死ぬ寸前に『結晶化』の状態異常が入っていたので大回りして来たビークリストゥにやられてしまったのだと思いますが、いつ追いつかれるのかがわからない状況に淫さんはイライラしており……その辺りはレイブンさんがすぐに動けない状態になっている事に期待するしかないのでしょう。
(ニュルさんからしたら同胞ですからね、脱出ルートが似たり寄ったりになってしまうのかもしれませんが…)
そして同じ感覚器官を持つ者同士が逃げ出そうとしている訳ですからね、脱出ルートが被ってしまうのは仕方が無い事なのかもしれません。
『だと良いのだがな』
「KYUxX!?」
(ぷぃー…)
そんな事を言い合う私達に対してニュルさんがショックを受けたり頭の上の牡丹が「やれやれ」というように溜め息を吐いたり……気が付けばなかなか騒々しいPTになってしまっているのですが、とにかく今は愚痴を言い合っていても仕方がないので先を急ぐ事にしましょう。
「KYURURU」
とにかく「次はこっち」と別ルートに案内しようとしていたニュルさんが水分でブヨブヨになったビニールが擦れるような独特な音を立てながら触手をウネウネとさせているのですが、一度現在地を確認してみようとMAPを出してみると……未踏破のMAP上にPTメンバーのマーカーがある事に気が付きました。
(どういう事でしょう?)
あまりMAPの精度が良くないので高低差が読みづらいというのもありますし、地震の影響で地下空洞の順路が大きく様変わりしているので構造がよくわからないのですが……どうやら地上に居ると思っていたまふかさんとグレースさんの2人が地下に居るようですね。
一瞬何で2人が地下に居るのかわからず私やシノさん達を助けに来てくれたのかと思ったのですが……その割にはその場から動くそぶりがありませんし、どうしたのだろうとマーカーの位置を頼りに横道に入り、天井に亀裂が入っている崩落現場みたいな場所までやって来たのですが……。
(4…5体くらいでしょうか?)
天井の穴は小さく死角が多いので断定はできないのですが、魔力の反応からするとだいたいそれくらいの数の敵が地上で待ち受けているのだと思います。しかも何かしらのモンスターが無理やり地下に入って来たような跡も有りますし、ここから脱出する場合はそれなりに気合を入れないといけないかもしれませんね。
『その数なら無理やり突破するという事もできるかもしれんが、なかなか厄介だな』
(ええ、どうしま…)
淫さんの呟きに同意しながら辺りを見回したところで……亀裂の真下、土砂や岩石が崩れ落ちてきたと思われる瓦礫の中から何かが這いずったような跡が横道っぽい所に続いている事に気が付きました。横道っぽいというのは出入口が不自然に崩れた土砂によって塞がれているといいますか、内側から崩して塞いだような感じになっているといいますか、とにかく人為的な蓋がされているような感じの奇妙なへこみです。
(もしかして…)
MAP上のマーカーはその横道から少し内側に入った所を指し示しており……どうやら2人はこの先に居るようですね。
「まふかさん?グレースさん?そこに居るのですか?」
私は外に居るハーピー達を気にしながら小声で話しかけると、何かが動く気配がして……内側からザッザッと土を掘り始める音が聞こえてきました。とにかくハーピー達に見つかる前に私達も手分けをして岩を退けたり土を掘り返したりと何とか穴を開通させると、泣きそうな顔をしたボロボロのグレースさんが居て……。
「ユリエルさ~ん!!」
「ぷっぅい!?」
「どう…したんですか、こんな所で…まふかさんも」
そして牡丹や淫さんの迎撃やらニュルさんの妨害やらを回避したグレースさんが物凄い勢いでタックルを仕掛けて来るのですが、どうやら横穴の先は少し広めの空間になっているようで……そこにまふかさんも居るようですね。
「どうもこうも…って、その触手…」
そして壁にもたれかかるような形で休憩をしていたまふかさんもどこか安堵したような顔で溜め息を吐いたのですが、ニュルさんを見て顔を引きつらせながら後ずさろうとして……疲労困憊なのか上手く動けないようでした。
「その辺りの事情は後程、落ち着いてから話しますので…とりあえずこの子は味方ですので、まずは中に入れてもらってもいいですか?」
2人ともかなりボロボロですし、そんな状態で横道の出入り口で騒いでいたら外に居るハーピー達に見つかりそうですし、まずは出入口を塞いでおく必要があると思います。
「あ…は、はい、すみません!」
「そうだけど…もうちょっとあたし達の心配をするとかそういう配慮は無いの?」
そうして各々違う反応をしていたのですが、まずは治療をしないといけないと思ったのでグレースさんには『HP回復ポーション』と『MP回復ポーション』を、まふかさんには『MP回復ポーション』と『スタミナ回復ポーション』を渡しておきました。
「ありがとう、ポーションが枯渇していたから助かったわ」
との事で、出入口をもう一度崩して塞いでから2人に事情を聞いてみると、ハーピーと戦っている最中に地面が揺れて割れ目に飲み込まれるように地下に落下してしまい……グレースさんの【ガッツ】が発動してなんとか踏ん張り、まふかさんを横道まで引きずって来たそうです。それから回復魔法を駆使して何とか治療を終えたのですが、MPも枯渇気味で動けなくなってしまい……。
「ハーピークィーン…ですか?」
どうやら2人はこの辺りに居るボスに目をつけられてしまったようで、砂埃が収まってから突入して来たハーピー達がこの辺りをしつこく巡回しているので出るに出られないまま私達がやって来たそうです。
(来るときには見かけませんでしたが?)
もしかしたら近場にまふかさんとグレースさんが居ないという事で遠出をしているのかもしれませんが、何にしてもボスクラスのモンスターが地下空洞という自分のフィールドではない場所まで追って来ているというのはよほどの事ですね。
「ほんと…さっさと諦めて欲しいんだけど…」
「そうですよね、本当に嫌になっちゃいます」
そして呆れたように息を吐くまふかさんとクスクスと笑うグレースさんがハーピークィーンに対する愚痴を言い合っていて、何か2人の距離が近いような気がするのですが……私の気のせいでしょうか?
『雨降って地固まる…という奴ではないか?』
ハーピー達との激しい戦いを一緒に潜り抜けた事によって友情が育まれたのかもしれないと言う淫さんなのですが、もしそうだったとしたら私も嬉しいですね。
「何よ?」
そして2人が仲良くなって良かったですねと見ていると、まふかさんが訝し気に聞いて来たのですが……。
「いえ、2人が仲良くなってくれてよかったと思っただけです」
「何よ…それ」
何故か私の言葉に噴き出したまふかさんは笑いのツボに入ったのかそのまま笑い続けるのですが、それほど可笑しな事を言ったのでしょうか?
「あー…笑わせてもらったわ…それより熊派がどうとか言っていたけど…あんたの方は大丈夫だったの?あの地震は熊派が何かやったんでしょ?」
「そ、そうです!落下したらものすごく痛かったですし、大丈夫だったんですか!?」
そしてひと段落してから別行動中に何があったのかを聞かれてレイブンさんがビークリストゥの封印を解いた事を掻い摘んで説明する事になったのですが……。
「何でそういう大事な事を先に伝えないのよ!?」
案の定怒られる事になったのですが、疲労困憊のまふかさん達に話しても仕方が無かったですからね、まずは2人の回復が優先です。
「振り切ってきたのですぐに追いついては来ないと思いますし…それに、2人の怪我の方が心配でしたから」
なのでその事を正直に話すと言葉を詰まらせたまふかさんの怒気が和らぐのですが、それでもやっぱり納得いかないというように息を吐きました。
「それは…そうだけど!はぁ、まあいいわ…それで、これからどうするの?」
ビークリストゥとレイブンさんが追いついて来るまでにもう少し時間があるとして……まふかさん達の話では地下空洞に突入してきているのはハーピークィーンが1体に通常のハーピーが4体の計5体、しかも閉鎖空間という奇襲を受けやすい状況だからなのか常にハーピークィーンの後ろにはノーマルハーピーが配置されているそうです。
その為ボスだけを倒して取り巻きが慌てふためいている間に逃げ出すという事も出来ないようで……地下と地上から挟み撃ちを受けても大変ですし、下手に逃げようとしても執拗な追撃を受けるだけですからね、突入して来ているハーピークィーン達を撃退しておかないと色々と不味い状況になるのかもしれないとの事でした。
「そうですね、それでは……釣り野伏で一網打尽にするというのはどうでしょう?」
ハーピー達が猛禽類のごとく獲物を見つけられるのならプレイヤー側が一方的に蹂躙されてしまいますからね、少し物陰に隠れるだけでやり過ごす事が出来るような相手ですし、私達が初見で見つける事が出来た引きずった跡を見つける事が出来ない程度の探索能力しかありませんし、仕掛けるのならそういうハーピー達の索敵能力の低さを考慮した罠を張っておくべきでしょう。
「そうなると…やっぱり地下で戦う事になるのよね?気が重いけど……短期決戦に持ち込まないと色々と不味いのよね?」
地下では振動波が反射して効果が増幅されますからね、「出来ればこんな状態では戦いたくなかった」と言うまふかさんは大きなため息を吐くのですが……ここまで執着されているのならビークリストゥ達が追いついてくる前に殲滅するしかありません。
「ええ、ここに来る途中の横道におあつらえ向きの場所がありましたので…ただ、取り巻きが居るので上手くいくかはわかりませんが」
「そっちの方は意外と何とかなるんじゃない?たぶんあんたの火力でも一撃二撃入れたら落ちると思うわ」
「それなら何とかなりそうですね」
まふかさんは今までの借りを返せると言いたげな様子半分別のボスが徘徊している事に対する心配半分という顔をしていて、状況について来れていないグレースさんはワタワタしていて……私は空気を切り替えるように両手をパンと合わせてニッコリと笑います。
「それでは…さっさと決着をつけて脱出する事にしましょう」
閉鎖空間で力を発揮しそうな『藤甲の盾』は地上に置いて来たみたいなのでグレースさんには普通の盾を装備してもらう事になりますし、右足やMPの最大値の低下など私も万全の状態とは程遠いのですが……飛行系のモンスターの場合は飛び上がって逃げられるのが一番面倒臭いですからね、相手の方からわざわざ閉鎖空間にやって来てくれているのならここで決着をつけてあげる事にしましょう。
※ユリエル側の話をおいおい説明しようと思ったのですが、まふかさんとグレースさんがユリエルの事を心配しないというのも変だと思ったので会話を色々と修正しました(6/19)。
※誤字報告ありがとうございます(3/22)訂正しました。




