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382:判断と他PT

「KYUAAAAAAXX!!!」

 飛び交うハーピー達の鳴き声や特徴的な振動音が辺りに響き渡ると身体がゾワリとしてしまうのですが、私達の前を行くPTがどうなっているのかを確認しようと岩陰から覗いてみる事となり……ネットの情報では地下から噴き出した魔力が水晶になっているという事だったのですが、『クリスタラヴァリー』に入ってすぐの場所はクラフト素材や建築素材としてなら使えるかもしれないといった最低品質(F品質)の石材がゴロゴロしているだけで、山頂付近に見えているような巨大な水晶は見当たりませんでした。


 植物も『リュミエーギィニー(魔除けの針葉樹)』や握りハサミのような形をした『シザーリーフ』という金属質の植物がほんの少し生えているだけで、岩山の大部分は『ベルクストーン』という数メートルから数十メートルの直方体で出来た巨大な大岩が地面から飛び出してきていて、この横方向に薄い板を重ねたようなミルフィーユ状の大岩の間をジグザグに縫って進むような地形となっているので見通しはあまりよくはありません。


 それでも何とかチクチクする植物やら道を塞ぐ大岩やらを避けて近づき、岩陰から戦闘の様子を窺うのですが……どうやら『ベルクストーン』の陰に隠れている先行PTに対して10体近いハーピー達が代わる代わる攻撃をしかけているという最悪の状況のようですね。


「おい!こっそり行けば大丈夫っていう話だったよなっ!!抜け道があるって!何でこんなところにハーピー達がたむろしているんだよ!?」


「知るか!大方どこかの馬鹿が倒し損ねたとかそんなところだろ!!」

 振動が辺りに反響しているのと砂煙が舞い上がっているので詳しくはわからないのですが、戦士風の装備をしている黒髪の男性と深緑色のフード付きマントを着ている男性が言い合いをしていて、その近くには矢を放つ小柄な男性とリーダー風の男性が居て、後は股間を押さえてビクンビクンと震えている3人の男性が転がっているという計7人のPTがハーピー達と戦っているようでした。


 攻撃手段は弓矢や投擲武器(アイテム)を主体としつつリーダーが何かしらの補助呪文を唱えて振動を軽減しているといった感じで、今のところ何とか被害を出さずに戦えているようなのですが、お世辞にも戦況が良いとは言えません。


『まふかさん』


『…何で止めるのよ?』

 そして宣言通り苦戦しているPTを助けるためにまふかさんが出て行こうとしたのですが、流石にこの数は無謀なので止めさせてもらいました。


『流石にこの数は』

 もう少し少なければ助けに入ってもよかったのですが、残念ながらこの戦力差で出ていくのは自殺行為でしかありません。


 それに私達の目的は『音晶石(おんしょうせき)』の鉱床を探す事であってハーピー達の殲滅ではないですからね、ここは見捨てた方が良いと思います。


『それは…わかっているけど……ああもう、降りて来てくれたらギタギタの八つ裂きにしてあげるのに!』

 そんな不利な状況だというのに「尻尾を巻いて逃げ帰るのは格好が悪い」とでも言いたげなまふかさんは一瞬不機嫌になるのですが、戦力差は理解しているのでどこかホッとしたような顔をしながらも憎々し気にハーピー達を……その中でも特に動いていないにもかかわらず一番目立っている一体(特殊個体)を睨みつけました。


(あれは単純な上位種というよりこの辺りを縄張りにしているボスクラスのモンスターだと思うのですが…)

 どこか野性味を残しているハーピー達とは違い、キラキラと輝くような鮮やかな瑠璃色のロングヘアーを後ろで縛って垂らしているハーピーが1体だけ混じっているのですが、通常のハーピー達と違うところは背中から羽が生えている事と他の個体よりスタイルが良い事で……【弱点看破】は気づかれるので打てない(使えない)のですが、存在感というか格の違いと言いますか、一目で上位種だという事がわかる特殊個体がこの群れを率いているようですね。


(何故ボスクラスのモンスターがこんな最序盤(山に入ってすぐ)に居るのかは謎ですが…獲物を求めて徘徊しているのでしょうか?)

 ゲーム的な仕様(徘徊型ボスモンスター)と言われればそうなのかもしれませんし、複数のハーピー達が上空を飛び交っている状況では何時発見されるかわからないですからね、そんな事を考える前にこの場所から離れた方が賢明なのかもしれません。


『あのー…ユリエルさん…?』

 それにこれだけハーピー達が集まり攻撃を仕掛けていると狙われている訳でもないのにヴヴヴヴと空気が振動していて……弱めのローターを服の上から押し付けられているような感覚にグレースさんはモゾモゾしながら『藤甲の盾』を構えているのですが、それだけではハーピー達の振動を防ぐ事が出来ないのは明白ですね。


『大丈夫ですか?』

 ハーピーの振動波は純粋な空気の揺れというより魔法攻撃(魔力波)に近いですからね、【狂嵐】が発動しているまふかさんは比較的平気そうな様子ですし、私も意識して【淫気(魔力)】を放出していれば少しだけマシになり……こうしてある程度の対処が可能になっている事に対してレベルアップの実感があるのですが、反対に一番振動の影響を受けているのがお手軽な対処法の無いグレースさんで、軽く揺すり弄られるような振動に戸惑っているようでした。


 それにこれは周囲にある鉱石の影響なのでしょうか?もしかしたら微量に含まれている『音晶石』の増幅効果が働いているのかもしれませんが、振動があちらこちらから反射して広がっているような感じで……耐久度が不安なので本格的な戦闘になるまでは温存しておきたかったのですが、こうなったら早々に切り札でもある『魔嘯剣』を使わせてもらう事にしましょう。


『ふゅあい!だ、大丈夫です!』

 そして吸収の力がある『魔嘯剣』の出力を強めると私の周囲に広がっていた振動が収まったのですが、効果範囲が狭いので剣を持っている手でグレースさんを抱きかかえてあげると何故か固まってしまい……対抗するように牡丹が右足にニュルリとしがみついて来て、何となくそういうものかというようにノワールがカサカサと左足にしがみついてきたので奇妙な状態になってしまいます。


『何遊んでいるのよ』

 そしてまふかさんはワチャワチャしだした私達に対してジト目になるのですが、ある程度の至近距離に居ると振動を防げますし、グレースさんの身体が柔らかくて気持ち良いですし……。


『まふかさんもどうですか?剣の近くだと振動がマシになりますよ?』

 まふかさんだけ仲間外れという訳にもいきませんからね、誘ってみるとおもいっきり睨まれてしまいました。


『嫌よ、何であんたとくっついていないといけないのよ…って言っても…まあ、ずっと【狂嵐】を維持しているのもしんどいから試してみても良いんだけど』

 とかなんとか言いながらまふかさんがドレスの裾を摘まむように擦り寄って来ると良い匂いがして……両手に花と言う状態は個人的には嬉しいですし『魔嘯剣』のおかげでハーピー達の振動がマシになったのですが、この状態だとまともに動けないのが難点ですね。


『皆さん…一旦あそこに』

 ハーピー達は獲物を倒したら巣に持ち帰る習性があるようですし、一旦どこかに……地面から斜めに生えてきている数十メートル単位の『ベルクストーン』の下に隠れられるような隙間があるので、ひと段落するまで岩陰に隠れておく事にしましょう。


(それに運が良ければ反対側に抜ける事が出来そうですし)

 なんとなく奥行きがありそうな横穴ですし、ボスハーピー達を迂回して進む事が出来たら探索も捗ると思い岩陰に隠れる事にしたのですが……どうやらその横穴には先客がいたようですね。


「やっほーまふまふ、奇遇だねー…でもなんでユリエルも一緒に居るの?」

 腰まで届く黒髪に紫のインナーカラーを入れたやや小柄(1 5 4cm)な女性、装備は魔女っぽさを演出する三角帽子と薄手の全身タイツにジャラジャラとした装飾品を身に着け、身長と同じくらいの木製の杖を持ったどこか眠そうな顔をしているシノさんがにこやかにまふかさんに挨拶をした後、何故か露骨に「嫌な奴に会った」みたいな顔をしながら私の事を見ながら息を吐きました。


「あたし達はまあ…成り行きって奴?っていうより何であんたがこんな所にいるのよ、もっと先に行っているんじゃないの?」

 同じ配信者として面識のあるらしい2人は気軽なやりとりをしているのですが、どういう訳か私はシノさんに嫌われているのですよね。


「それはまあ…この辺りが少し気になったっていうか、あまり突っ込まないでくれると助かるかなー?」

 『クリスタラヴァリー』の発見報告があった時間から考えるとシノさんはもっと先の方まで進んでいてもおかしく無いですからね、何でこんな最序盤に居るのかが謎だったのですが……ゴニョゴニョと言葉を濁すシノさんの様子を見ていて不意に閃いたのですが、もしかしてある程度進んだところでボスハーピー達に見つかり逃げ帰って来てしまったという感じなのでしょうか?


「いやーといっても私も別に好き好んで擦り付けたんじゃないよ?ちょっと気になる横穴に隠れていただけだし……それにほら、私って魔法職だら、距離を取って対処しようとしたらあの人達がいきなり割り込んできてねー」

 私の視線や同じような考えに至ったまふかさんの呆れたようなジト目を受けてしどろもどろに弁解するシノさんなのですが、言い訳を聞く限りでは事故だったようですし……まあその辺りの事情は一旦横に置いておくとして、のんびり喋っている場合でもないので話を先に進めましょう。


「緊急避難的なものがあったのだと思うのですが…それよりこんな所で立ち話も何ですし、もう少し奥の方に詰めてもらっても良いですか?」

 横穴の大きさは一人ぶん……頑張って2人がすれ違えるかと言う大きさだという事もあり、シノさんが動いてくれないと私達が穴の中に入る事ができません。だというのに……。


「ヤダ」


「ヤダ、ではなくてですね…今はそんな事を言っている場合では」

 駄々っ子のように通せんぼをするシノさんなのですが、こうして言い合っている間にもハーピー達に見つかる可能性がある訳ですし、私達が見つかるとなし崩し的にシノさんが見つかる可能性もある訳で、さっさと隠れた方がお互いの為になる筈です。


「わかっているよ、もう…しかたないなー…嫌々だけど、場所を譲る事にするよ」

 流石にこのまま言い争っていても埒が明かないという事はシノさんもわかっているようで、少しだけ悩んだフリをした後に場所を開けてくれるのですが……どうやら穴の中に入るという事に時間をかけすぎてしまったようですね、騒ぎを聞きつけたハーピー達がこちらに向かって来たようで……。


『あ、あの…ユリエルさん!!』

 オロオロと私達のやり取りを見ていたグレースさんが空を指し示すのですが、その先には襲撃体勢に入っているハーピーが居て……急に空を見上げ始めた私達に倣うようにシノさんも空を見上げて慌て始めました。


「ちょちょちょ、どうするのさーユリエル達のせいで見つかっちゃったんだけど!?」


「今は責任のなすりつけよりも早く中に!あと何か振動を防ぐ魔法はないんですか?」


「あるにはあるけどー呪文の詠唱がね!すぐには無理かなー?」


「てかあんたは達は言い争う前にさっさと奥に行きなさいよ!後がつっかえてるのよ!?」


「わか……あ、ちょっと待って…駄目だって、そんなに押したらっ!?」


「え、ちょっと、シノさん!?どこを引っ張って…!?」


「ユリエルさん!?」

 まふかさんがシノさんを押し込んで、押されたシノさんは何かを掴もうと手を伸ばして……私の胸元を掴んだまま転倒するシノさんともつれ合うように倒れ込んだところにハーピー達が襲い掛かってきました。

※いつもブレイクヒーローズをご愛読ありがとうございます。話数は382話なのですが、皆様の応援のおかげでep数が400に到達する事が出来ました。これからものんびりまったり更新していきますので、どうぞよろしくお願いいたします。また☆やいいね、感想などを入れてくれると猫が喜びますので、ボタンを押していってくれると助かります。

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