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38:準備とお金の問題

 昨夜は結局、ロックゴーレムにやられた後モヤモヤしたままログアウトする事になりました。何とも言えない中途半端な結末だったのですが、時間も時間でしたから仕方がありません。そして今日は朝早くからログインして、討伐準備を始めています。と言うのも……。


『皆さん力を合わせてロックゴーレムを倒しましょう。集合場所は採掘場前、時間はリアルの朝7時ですわ!』


 攻略掲示板の書き込みの時間に合わせたからですね。記入者は『モモ』となっており、掲示板での反応は上々です。他の人が上げたあのロックゴーレムとの戦闘動画も上がっており、全体的には『やってやるかー』みたいな書き込みが多いですね。この中から実際に何人来るかは未知数ですが、私一人での討伐はまだちょっと難しそうなので、他の人とタイミングを合わせられるのなら合わせましょう。

 集合時間が少し早いような気がするのですが、これは誰でも参加できるように配慮した結果のようですね。学生は夏休み期間中とはいえ、社会人からすると平日です。ゲーム内は4倍加速しているので、サクッと倒してから出勤しましょうという設定時間のようです。後は単純に、今日の夕方募集して、それまでに倒されてしまっていたら悔やむに悔めませんからね、再戦するのなら早い方が良いでしょうとの事でした。


 夜間帯では特に動きはなく、「倒してしまってもいいのだろう?」と先走った人達もいたようなのですが、全員返り討ちにあったようですね。ロックゴーレムは無事に生き残ってくれているようです。


 いつもなら朝の日課(ストレッチ)を終わらせてからゲームに繋ぐところですが、今日はそういう事情もありましたので、朝食を軽く取ったら少し早めにログインしましょう。


*****


 まずしておかなければならないのは、装備を整える事です。所持金(残金8,200F)の都合上、ロックゴーレムに通用するような武器を今から揃える事も出来ないので、武器に関してはもう、途中でツルハシかスコップを拾っていく事にしましょう。

 続いて消耗品ですが、回復ポーションに関しては諦めました。ロックゴーレムの攻撃はどれも即死級ですから、回復している余裕がありません。買ったはいいけどまた使う前に壊れてしまったらショックですし、お金に余裕が出来たら購入する事にしましょう。スタミナポーションやMPポーションもあるのですが、金額的に一旦保留です。

 そして一番の問題は防具()に関してなのですが、とりあえず【ルドラの火】で燃えた袖口は折り返して半袖のようにして目立たないようにしておきます。いえ、見た目に関してはどうでもいいのですが、そんな事よりも、【ルドラの火】で防具まで燃えてしまう事の方が問題です。何時自分の服が燃え上がってしまうか分かりませんからね、使用にかなり制限がかかってしまいます。もちろん【ルドラの火】を使わないという選択肢もあるのですが……私からすると、使わないという選択肢は()()ですね。

 威力は申し分なく、消耗にも文句はありません。ただ仕様だけが駄目ですね。気を付ければいいだけかもしれませんが、スキルレベルが上がって火力が上がれば……将来的にどうなるかはわかりません。あまり考えたくない未来なのですが、使うたびに全裸になる可能性があるというのは、流石の私でもちょっと嫌ですね。

 使用不使用、問題点を考えに考え抜いた結果……とにかくこのスキルを何とか生かすために、私はアルバボッシュの防具屋さんに向かう事にしました。


「お、らっしゃい、軽鎧でも買いにきたのか?」

 どうやらこのゲームのAIはかなり優秀なようですね。昨日来店した私の事をちゃんと覚えているようで、前に接客してくれたエプロンを付けたドワーフの店員が私を見つけると話しかけてきました。


「いえ…その、耐火性のある装備はありますか?」


「ん、あるにはあるが……」

 ドワーフの店員さんはチラリと露出度の高い【ランジェリー】装備コーナーの方を見たのですが、複雑そうな顔で見返してきました。そうです、服が燃えてしまうのなら、燃えない防具を付ければいいだけです。それがちょっとエッチな装備だったとしても、です。


「いいのか?」

 前回は拒否しましたからね、心配そうなというか、どこか確認するように聞き返され、私は頷きます。


「やむを得ない事情がありまして」

 この火力は単純に魅力的ですし、それにそういう装備(エッチな服装)を着たとしても上に服を重ねればいいだけですからね、羞恥心とか色々な物は一旦横に置いて、実利を取る事にしましょう。


「そうか、まあそれなら幾つかあるが……知っての通り色々と流通が滞っていてな、あまり上等な物はねぇぞ?」

 そう前置きして見せてもらった防具……といっていいのかわからない物の数々は、レアリティでいえば【N】(ノーマル)までの物が置かれているようですね。これより上の物は王都や大都市に行くか、素材アイテムの持ち込みをして作ってもらうか、自作するしかないとの事です。今は特に耐火装備に使えそうな素材は持っていませんからね、購入という事になるのですが……。


(高いですね)

 属性耐性がつくだけで値段が一桁は跳ね上がっています。具体的に言うと、ここの店売りで一番安い耐火性のある装備は炎耐性(微)のレオタードなのですが、値段はなんと68万Fです。その値段でちゃんとした耐性がついているのなら金策して購入も検討するのですが、その値段で『微』ですからね。ドワーフの店員さんが言うには、ちゃんとした耐性となると100倍1000倍の値段が付くのがザラとの事でした。

 どうしたものかとゆっくりと考え込みたいところなのですが、周囲の視線がちょっと、気になりますね。どうしても【ランジェリー】コーナーを店員に案内してもらっていると、周囲の男性プレイヤーがチラチラとこちらを見てくるのですよね。露出の多い装備を手に取るたびに向けられる「そんな際どい物を着るのか!?」みたいな視線が居た堪れないので、早く決めた方が良いかもしれません。


「…すみません、8千Fまでで買える物ってありませんか?」

 もう予算を言って、無理なら無理と諦めましょう。少し不便にはなりますが【ルドラの火】を使う時に火の粉が体に当たらないように気を付ければいいだけですし、最悪の場合は、見られる(ポロリする)だけです。

 私は頬を軽く抑えながらドワーフの店員さんに予算を伝えると、流石にちょっと金額が少なすぎますからね、驚いたような顔をされました。


「すまんな、流石にその金額だと、ここにはないな」

 との事です。はい、諦めましょう。


「わかりました、ありがとうございます」

 結局何か恥ずかしい思いをしただけのような気がしますが、とりあえず耐火装備の購入は諦めました。服屋の方で上から簡単に羽織れる薄いピンク色のポンチョと、替えの下着(パンツ)を買いました。【ルドラの火】を使った時に予備が燃えてしまっては大変ですからね、ナップサックの奥の方にしまい込んでおきます。それから簡単に食事をとって、残金は2200Fですね。

 リアル朝食を食べた後にゲーム内でもまた食事と、何かちょっとお腹が変な感じがしますね。満腹感はないので普通に食べれるのですが、変な感じです。まあそんなどうでもいい事を考えながら、準備を終えた私はポータルを利用してはぐれの里に向かいます。


 今日こそロックゴーレムを倒そうと闘志を燃やしている人や、本当にロックゴーレムは倒せるのかと興味津々な人達が集まってきており、はぐれの里はどこかピリピリした空気が漂っていますね。私も昨日より装備が減って万全の状態と言えませんし、流石に緊張してきます。頬を軽く押さえて、深呼吸をします。とにかく、最善を尽くしましょう。


「あれーボインちゃんじゃない、もしかしてゴーレム退治?どうせならおっさん拾ってかない?」

 フィルフェ鉱山に向かおうとしたところで声をかけてきたのは、スコルさんですね。


「そうですけど……お仕事はいいのですか?」

 9時出勤であれば時間はまだ大丈夫なのでしょうけど、昨日は仕事中にゲームをしていて怒られていましたからね、スコルさんの何も考えていなさそうな能天気な顔を見ていると、本当に大丈夫なのかと心配になってきてしまいます。


「いいのいいの、多少遅れたとしてもおっさん重役出勤だから」

 本当かウソかよくわからない事をシレっと言いながら、スコルさんは笑います。


「それにこんな面白そうな事、逃したら勿体ないじゃない?ただでさえ昨日の戦いには参加できなかったしねーいやー残念残念、ボインちゃん活躍してたわよーという訳でおっさんも連れてって~おねが~い」

 昨日のロックゴーレム戦の動画をスコルさんも見たのでしょう、猫なで声でゴロゴロとお腹を見せて私の進路を妨害してきます。


「わかりました、わかりましたから」

 私がしぶしぶ同意すると、スコルさんは「へへへ」と舌を出して笑います。本当にこの人は緊張感のない人ですね。呆れながらジト目でスコルさんを睨み返えすと、だらしのない顔で笑い返されました。

※主任は火力が上がってから気づくだろうと思っていたのですが、ユリエルは早々に【ルドラの火】の駄目な仕様に気がつきました。これには色々とやむにやまれぬ事情があったりするのですが、それはたぶん後日。


※基本的に何の効果もない装備は安いのですが、効果や耐性がつくと値段が跳ね上がります。だいたい(微)が付くと100倍、(小)が付くと1000倍といった感じで、特別な効果がある物ほど値段が跳ね上がっていきます。


※誤字報告ありがとうございます(1/29)修正しました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 水被れば良くねって思います。 熱いものを掴むものと言えば、神話的にはヤールルングレイプル、あれって雷神トールのトールハンマーの暑さに耐えるためって言うけど、要するに革手袋か鎖帷子の篭手らし…
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