4:スキル
私はスキル一覧表を見ながら、軽くこめかみを押さえました。
初期スキルとして選べるスキルの数はなんと330個。その中には種族として選択できないスキルもあるのですが、オープンβ時は200個の中から選んでいた筈なので、それと比べてもかなり増量されている事がわかります。ブレイクヒーローズはスキルゲーですから、これは悩みどころです。
選べるスキルの数は5つ。種族が人間の場合だと選べる数は3つだった筈なのでそれよりかはマシですが、吟味しないといけない事に変わりはありません。
スキルは4つに大別されており、『基本スキル』が100個、『戦闘スキル』が100個、『生産スキル』が100個、『種族スキル』が30個という配分です。
『基本スキル』というのはパッシブスキルを含むその他のスキルとも言えるもので、『戦闘スキル』は主に攻撃系統や戦闘で使うスキル、『生産スキル』はそのまま生産に関するもので、『種族スキル』は種族固有のスキルです。
ただ全体の数は多いですが、かなり細分化されており、水増し感というか、キャラクターの個性を際立たせたいのだという運営の考えが透けて見えるラインナップでした。
一例をあげるとすれば、剣を使うスキルが【片手剣】【大剣】【細剣】【刀】に分かれているというように、武器の種類ごとにスキルが分けられており、防具も同じ仕様です。
細分化されている武具類のスキルをいちいち取得するのは効率が悪いのですが、取得しているスキルから新しいスキルが派生していくシステムである事と、ブレイクヒーローズの世界では“精霊の加護”というものがあるので、戦闘職を目指すなら最初に何かしらのスキルを取る必要があるでしょう。
HCP社としてはリアルな人間がファンタジー世界を旅をする硬派なゲームが作りたかったのでしょうが、この辺りはゲーム映えというか、色々と妥協した結果なのでしょう。レベルを上げてスキルを習得する事への意味、スキルの熟練度を上げる意味、剣からビームを放つなどのどう考えても人間が出来る事でない行動への理由付けが、この精霊の加護なのだと思います。
どういう事かと言うと、ブレイクヒーローズの世界の魔物は普通の武器では傷つきづらく、精霊の加護を秘めた武具でないと対処が難しいという設定がありました。プレイヤーは精霊に召喚された加護を受けられる人間という扱いで、この精霊の加護を受ける行為というのが各種スキルの取得であり、スキルの熟練度を上げれば……つまり精霊の加護が増せば攻撃力も上がっていき、超常的な力が振るえるようになっていきます。一応スキルを取得しなくても装備は出来ますが、スキルを取得していなければ加護を受けていませんので効果は最低になりますし、次のスキルへの派生の問題もあるので必要なスキルは習得が推奨されています。
(さて、だいたい目星はつけましたが…)
私が望むのは近接の戦闘職で、プレー方針としては所謂攻略組です。現実では胸のせいであまり運動が得意ではありませんが、ゲームの中なら話は別です。スキルは汎用性の高そうなものや、後から習得が難しそうなものを優先して選んでいきましょう。
まず取るのは【看破】です。これは定番ですね。【鑑定】が生産寄りのスキルで対象の情報がわかるスキルであるとすれば、【看破】のほうは対象のHPや耐久度がわかるスキルといった感じです。生産をせず戦闘をメインにするのなら【看破】一択ですね。
続いて取るのは【魔人の証明(力)】。これは種族スキルで見た目が変わってしまうので少し悩みましたが、基本ステータスの倍率が『HP:B、MP:B、空腹:F、STR:B、VIT:C、INT:C、DEX:C、AGI:D、LUK:D』と大幅に上がるので取る事にしました。
このスキルを取得すれば、頭の両サイドに手のひらサイズの巻貝のような角が付くので一目で人間ではないといった姿になってしまいますが、この倍率の高さは美味しいです。
続いて取ったのは【腰翼】です。【爪】や【牙】も攻撃力という点ではかなり良い性能をしていたのですが、日常的な不便さが出てきそうでしたのでパスしました。全体的な補助が行える【尻尾】とは最後までどちらにするか悩みましたが、スキルの熟練度を上げれば空を飛ぶ事が出来るようになるとの事なので、翼にしました。
【翼】系のスキルは“頭”と“背中”と“腰”につけられるとのことでしたが、頭はもう角が生えていますし、背中は飛行寄りで上下の動きに強いとの事でしたが、落下が怖いので腰にしておきました。【腰翼】は左右の動きに強いとありますので、戦闘に有利そうだという点も魅力的ですね。
生えてくるのは30センチほどのガッシリとした蝙蝠の羽のような翼で、残念ながら天使の羽のような可愛らしい翼ではありませんでした。頭の角と合わせて何か悪魔っぽい見た目になっていきますね。
次に【尻尾】と言いたいところですが、あまり色々な要素を最初から足しすぎるとまともに動かせるかどうかわかりませんし、尻尾の生える位置にかなりの問題があったので今回は保留としました。
その、なんと言いますか、翼の方はどうにか誤魔化しがきくとしても、尾てい骨のあたりから伸びる尻尾というのはどう考えても隙間からパンツが見えてしまいそうなので躊躇ってしまいます。いえ、HCP社の事ですから、よほどちゃんと防具の方をオーダーメイドしないと確実にパンツが見えるでしょう。もう少し効果がしっかりしていれば取得も考えたのですが、現状では防具を改良できるようになるまでは保留です。
後は、少し悩みましたが基本スキルの【魔力操作】を選びました。HCP社のゲームはリアル志向の影響なのか、魔法は不遇になる傾向があるのですが、初級スキルは使い勝手の良いものが揃っていた筈です。魔法系統のスキルを何も持っていない状態で後々魔法を習うのも難しそうなので、初期スキルとして取得しました。いわば保険ですね。
ちなみに不遇な理由は、大規模な魔法だと本当に詠唱動作を数分間続けなければいけないという、実用性が皆無な所です。数分間特定の動作を繰り返したり、本当に呪文を唱えたり、パズルを解いたりするらしく、そんな事を戦闘中にまでやらせようとするHCP社は本当に鬼畜だと思います。
オープンβ時の動画で数分かけて上級の爆発魔法を放っている映像があったのですが、あれ、自爆だったそうです。PTはもちろん半壊、そこから全滅となかなか悲惨な結果になるという動画でした。そんな不遇な魔法ですが、十数秒もあれば発動可能な初級魔法には便利なものが揃っていた筈です。
【魔力操作】自体は何かあるというスキルではないのですが、魔力の運用が楽になり、詠唱難易度が下がったり、魔法全体の利便性が上がったりするという、汎用性の高さがウリです。とりあえずこれを押さえておいて、何か覚えたい魔法が出来たらそれを覚えようと思います。
そして最後に取るのは【片手剣】です。本当は継戦能力を考えて“盾”が欲しかったのですが、盾スキルが【小盾】と【大盾】に分かれていたので、いったん保留です。私としては【大盾】の方が欲しいのですが、私の筋力で持てるかどうかわかりませんので、実物に触ってから考えてみることにしました。どちらにしても何かしらの攻撃用のスキルが必要だと思いましたので、汎用性の高そうな刃物系の技能も含んだ結果が【片手剣】です。
ちなみにSPを取っておくことも出来るようなのですが、あくまでポイントを持ち込めるだけで、初期スキルの中から選びなおせるという特典はないそうです。習得は通常通り。よほど最初にレアスキルを発見するという事でもない限り、振っておいた方が習得難易度的にも良いそうです。
とにかく、結構時間を使ってしまった気がしますが、選んだスキルは【看破】【魔人の証明(力)】【腰翼】【魔力操作】【片手剣】の5つ。
最後にプレイヤーネームですが、これはいつも通り『ユリエル』と入力しておきます。本名そのままなのですが、ありふれた天使の名前ですし問題はないでしょう。
どうしても日本で暮らしているとミドルネームを使う機会が少なく、持て余してしまいます。折角両親から貰った大切な名前なのですから、こういう時くらい活用させてあげたいものです。
それにしても、自分の娘に天使の名前を付けるというのはどういう感性なのでしょう?私がお婆ちゃんになっても名前がユリエルのままなので、少し考えてしまいます。両親に尋ねても「私達の娘が天使以外になるはずがない!」と熱弁を振るわれました。二人とも悪い人ではないのですが、少し親馬鹿が入っているのかもしれません。
「これでお願いします」
すべての項目を埋めてから、私はナビィさんに声をかけました。
完成したのは、胸の大きな、ピンク髪の少しぼんやりした顔をした悪魔といったアバターです。スキル構成は生産を捨てた戦闘寄り。
『はい!承りました。伝え忘れていましたが、最寄りのブレイカーズギルドにおいて各種依頼、クエスト、チュートリアルが受けられますので、ご利用の方は最寄りのブレイカーズギルドにお越しくださいませ。各種疑問、質問等は公式に別途お尋ねください』
ナビィさんの言葉を聞きながら、私はウィンドウに最終確認が出てきたので<OK>のボタンを押します。
すると目の前の風景が光にのまれ、溶け出します。私の意識とアバターの感覚が繋がり、微かに風を感じました。
『この世界をよろしくお願いします』
光が広がり、私はブレイクヒーローズの世界に降り立ちました。