381:『クリスタラヴァリー』
『クリスタラヴァリー』に向かう前にノワールと合流したのですが……そういえば周囲の警戒をお願いしたままどこかに行ったっきりで帰ってこないと思っていたのですが、話を聞いてみると仲間達と連絡を取り合っていたようですね。
(こことレナギリーが拠点としている場所の間に『歪黒樹の棘』がありますし、連絡がしづらかったのでしょうか?)
その辺りの事情は身振り手振りだけだったのでよくわからないのですが、牡丹達のようにスキルで繋がっているという訳ではないのであくまでそんな事を言っているような気がするという程度しかわかりません。
「それにしても…あんたって変なのに気に入られる質よね、このままテイマーでも目指すつもり?」
そして一抱えはあるような子蜘蛛とコミュニケーションを取っているとまふかさんに呆れられてしまったのですが、スライムの次は子蜘蛛を連れ歩いている訳ですからね、そう思われても仕方がないのかもしれませんね。
「それも良いのかもしれませんが…」
私の場合は体を動かしたくてゲームをしているという側面もありますし、テイマーとは相性が悪いのですが……魅了の関係で下手な人とPTが組めないのでテイムモンスターでPTメンバーを固めるのもありなのかもしれません。
というよりまふかさんはまだ気づいていないようなのですが、動く触手の塊ともいえる3人目の仲間も居ますからね、すでに立派なテイマーPTになっているような気がします。
「別に我はお前に使役されている訳では無いぞ」
そして私の仲間である事がとても不服であるというように淫さんが反論してきて……ドレス形態のまま喋られると擽ったいのですが、淫さんがいきなり喋った事に対してまふかさんは目を丸くしました。
「言っておかないとなし崩し的にお前の眷属だという事にされそうだからな…それにこれから共に行動するのだろう?言っておかない方が色々と不都合があると思うのだが」
私は自分のステータスや装備を言いふらすタイプではないのですが……淫さんが喋れる事をグレースさんは知っていますし、まふかさんだけが知らない状況というのは後々の火種になるような気がするので淫さんの言う通りここでバラしておいた方が良いのかもしれません。
(まふかさんはクランメンバーなので良いですけど、それ以外の人には勝手に喋らないでくださいよ?)
『お前にだけは自由奔放な行いを咎められたくないが……わかった、そうしよう』
だからといって自由に動かれると色々とやりづらいですからね、勝手にバラさないようにという約束をしてもらうとため息を吐かれてしまったのですが、そんな事よりもテンションが上がっているのがまふかさんで……。
「え?服が喋っ…って、何?あんたのってそういう装備なの?」
「そうだな…ただあくまでパートナーとして協力してやっているだけで屈服されている訳ではないからな、その点は理解していただきたい」
とか勝手な事を言っている淫さんなのですが、レアリティの高い装備が気になるのかまふかさんがまじまじとドレスを見てきて……鼻高々というように淫さんがモゾリと動いたのですが、それによってヌルヌルとしたドレスの裏地が舐めるように絡みついて来てしまい息が漏れてしまいます。
「え、ええ…色々と制限はありますがとても役に立ってくれて…いるのですが」
こうしてニュルニュルしてくる事が無ければ本当に良い装備だと思うのですが、人と喋っている時に乳首を舌で弾くように舐め上げたり膣口を弄って滲む愛液を啜ったりしなければ本当に良い装備だと思います。
「ねえ、折角だから試しに…って言いたいんだけど、このゲームで人の服を借りるのって…ちょっと、ねえ」
そして口では「ちょっと」と言っているまふかさんなのですが、珍しい装備を一度くらいは着てみたいというようにドレスを触ってきていて……その度に引っ張られるように揺すられ支えている突起部がキューっと絞まってしまい、身体が震えてしまいました。
「着るのは…その、止めておいた方が良いと思いますが…」
淫さんを着たらヌルヌルになってしまいますからね、本当に止めておいた方が良いと思います。
「あ、あの!そ、それなら私が着てみます!!」
そんなやり取りをしているとグレースさんが割って入ってくれたのですが……入ってくれはしたのですが、余計に話がややこしくなったような気がするのですが、何故お2人は私の着ているドレスを競うように着たがるのでしょう?
「そう言われても、こんな場所で着替えをする訳にもいきませんし……それより本当に休憩なしで直行する…のですよね?」
そんな疑問が頭をよぎったのですが、とにかく話を逸らすように『クリスタラヴァリー』に直行する事について確認してみる事にしました。
「当たり前でしょ、ただでさえ遅れているんだから……いくら面白くても二番煎じじゃ評価されないのよ?」
やや装備に気がとられていたのですが、私達は『リヴェルフォート』から離れた場所に居ますからね、敵が出るフィールドに居る事を思い出したまふかさんは「この話は後にしましょう」みたいな顔をして話を進めてくれるのですが、その間もグレースさんは何か言いたそうな顔でゴクリと唾を飲み込みながら近づいて来ていて……その事に私が気づくと苦笑いを浮かべるようにグニャリとした笑みを浮かべられたのですが、ワキワキしているしている手を淫さんが握るとおもいっきり驚かれました。
「ふゅッ、ゆ、ユリエルさんっ!?ドレスがニュルって、ニュル…わ、わぁああ!?」
「だから何であんた達は隙あらば乳繰り合おうとしているのよっ!!」
「…すみません?」
「何であんたはあんたで疑問形なのよ!!」
そんな風にワチャワチャしながら『リヴェルフォート』に寄らずに『クリスタラヴァリー』までやって来たのですが、PT単位の【神隠し】を使ってモンスターを回避しているといってもそろそろ気を引き締めないといけないですからね、ふざけるのはこれくらいにしておきましょう。
そういう訳で改めて目の前にそびえる山を見上げてみるのですが……『クヴェルクル山脈』の中でも一際高く聳え立つのが『クリスタラヴァリー』という場所で、ネットの情報では何かしらの強い力が横から加わり、地下にあった魔力溜まりから噴き出し固まった物が水晶のように見える事が地名の由来のようですね。
そして噴出している魔力の影響なのか他の場所よりも標高が高く、辺り一帯は白っぽい軟弱な地盤と特異な植生という一目でわかる異質さに加え、今なお地下から溢れ続ける魔力がハーピーなどのモンスターを引き寄せたり無数の深い裂け目を作り出していたりする危険な場所なのだそうです。
(出来たら鉱脈の位置とかも知りたかったのですが…流石に伏せられているようですね)
これくらいの簡単な来歴ならギルドでも調べられるので掲示板や攻略サイトに載っているのですが、鉱石などのアイテムに関する情報は残念ながらありませんでした。
まあ今までは情報を伏せたまま採掘していたような人達しか居なかった場所ですからね、その辺りの情報が出て来るのはワールドアナウンスを聞いて動き出した人が『クリスタラヴァリー』に到着した後くらいになるのでしょう。
(現地に行ってみるしかないという事ですが……それより抜けがあっても怖いですし、情報に関しては一度皆で共有しておいた方がいいのかもしれませんね)
まふかさんが淫さんの事を知らなかったように個々の情報には抜けているところがありますからね、『精霊の幼樹』を復活させてレナギリーと和解しようとしているなどの目的意識だけは共有しておこうと思うのですが……当たり障りのない話をしている間に別行動をしていた牡丹から連絡が入ります。
(ぷーいー…ぷー?)
との事なのですが、どうやら『リヴェルフォート』の道具屋ではポーションが買えなかったようですね。
「牡丹から連絡が入ったのですが…どうやらポーションの類は売り切れのようですね」
その事を2人にも伝えておくのですが、これに関しては買えたらラッキー程度の話でしたからね、特に問題ないのですが……。
「そう…それじゃあ手持ちでやりくりするしかないわよね」
「ひゃい」
いつの間にか取っ組み合いの喧嘩をしていたまふかさんがグレースさんの頬っぺたを引っ張っていたのですが……まあ2人とも仲が良いという事で見なかった事にしました。
とにかく牡丹の報告では数十人ものプレイヤーが待ち構えた上での早い者勝ちだったようですし、補充しておきたかった投げナイフも専用の物が無かったようで……それならその辺りの石を投げたり【淫気】を固めた物を投げた方がお手軽ですからね、採掘用の鉄のツルハシだけ買ってもらった後に合流してもらいましょう。
(お疲れ様です、まだ敵襲もないのでゆっくりと買い物をしてから…)
「ぷ!」
そうして私が伝え終わる前にツルハシを咥えた牡丹が【招集】を使ってワープして来たのですが、かなり急いで戻って来たのか息が弾んでいました。
「お疲れ様です…っと、牡丹?」
牡丹はツルハシをパクリと食べるように収納すると私の腕の中に飛び込んでくるのですが……それを見ながらまふかさんが肩を竦めてみせます。
「そういうのを見ているとテイマーも便利なような気がするんだけど…世話をするとなったら手間がかかりそうなのよね」
「ぷぃ!?」
そうしてまふかさんの何とも言えない発言に対して牡丹が目を瞠るのですが……ブレイクヒーローズのテイムモンスターは大人しく待機しているだけという訳にはいきませんからね、気持ちよくなってしまったり駄々をこねられたりと困る事もあるので誰にでも手軽に始められるというものでもありません。
「ゆ、ユリエルさんにでしたら、最悪の場合は私も一緒にペットにしていただければ!」
「どう最悪なのかがわかりませんが…それはそれでどうかと?」
そんな牡丹を見ながら色々と振り切れたグレースさんがよくわからない事を言うのですが……それは一旦横に置いておくとして、『イビルストラ』が淫さん側に行ってしまったので牡丹はスライム形態から変化できなくなっていたのですが、【招集】中の待機状態とでもいえばいいのでしょうか?【シャドウダイブ】のような特殊な空間に待機させておく事ができるようになっていました。
これを利用して危険な攻撃を回避したりする事が出来そうなのですが、待機中はジリジリとMPを消費する事が欠点で……まあ『搾精のリリム』の眷属となっている牡丹は普通のスライムよりMPが多いようですし、危険な時は遠慮せず隠れておくように伝えておきます。
そして結局そんな雑談をしながら漠然と山頂を目指して歩いていると、山肌にキラキラとした結晶が混じり白くなり始めた辺りで進行方向から戦闘音が聞こえてきて……空中を飛び交っているハーピー達もチラホラと見えますし、私達は武器を取り出し構えました。
「先客かしら?」
言いながら『デストロイアックス』を油断なく構えるまふかさんなのですが、遠くから見ているとなだらかに見える『クリスタラヴァリー』も近づいてみると直立した岩が連なる岩山で……縦に長い岩石が集積して作られた独特な岩場が形成されているので結構視界が遮られます。
(どうやら敵と出会わなかったのもたまたまという訳ではないようですね)
私達のすぐ前にワールドアナウンスを聞いて行動を開始した人達がいるようで、その人達がモンスターを引き付けて間引いてくれていたようです。
『とにかく近づいてみるわよ、それで苦戦しているようなら格好良く助けに入るの…それでいい?』
『乱入はしない方が良いと思いますが』
下手に獲物の取り合いになっても厄介ですし、むしろトラブルを避けるために別の道を探した方が良いのかもしれません。
『ああもう…わかったわよ!じゃあ手助けが必要そうなら格好良く助ける、手助けが必要じゃなかったら放っておく…それでいい?』
『わかりました、ではそれで』
『りょ、了解です!』
PT会話に切り替えた私達はそんな事を話しながら音のする方に進み、岩陰から覗き込んで何が起きているのかを確認してから助けるか迂回して別の道を進むかの判断をする事にしました。
※少しだけ修正しました(5/26)。




