375:何食わぬ顔で
ソワソワと体を揺すりながらこちらを見てきているグレースさんとそれを妨害しようと体をポヨンポヨンと伸ばしている牡丹が牽制し合っていたりと……グレースさんのおかげでよくわかっていなかった【カウントダウン】の仕様が分かったまでは良かったのですが、勢いに任せて口走った愛の告白がどこまで本気なのかという問題が出てきてしまいました。
淫さんに言わせると『最初から好意には気づいていたのだろう?今までスルーしていたのだから今更ではないのか?』という事になるのですが、愛していると囁く事もイチャイチャする事も親しい間柄だと普通の行為だと母が言っていましたし、私は人の好意には鈍感なところがあるので今すぐ答えを出す事が出来ません。
それによくわからないまま答えるのもそれはそれで不誠実なような気がしますし、グレースさんの優しさに甘えるように一旦スキルの話に戻るのですが……【カウントダウン】については制限が厳しすぎるのとクールタイム的に連続使用は出来ないようですね。
そして連続使用を想定しないからなのか、一回あたりの経験値が多く……というよりどれだけカウントを進められたかなのでしょうか?これならすぐにレベルが上がりそうですし、精気を頂く時にこっそりとレベルを上げていく事にしましょう。
「あまりはしゃいでいると崖下に転がり落ちますよ?」
私はそういう色々なものを飲み込み何食わぬ顔で2人を宥めるのですが……淫さんがスカート翼を広げて支えてくれているといっても足場から転がり落ちてしまえばエリア外に転落してしまいますからね、飛行能力のない2人の場合はたぶん即死だと思うので声をかけない訳にはいきません。
「あっ、はい…あ、でも…牡丹さん…って、えっと、なぜ牡丹さんは私を押し出そうとしているんですかっ!?」
そして何故か「その手があったか!」みたいな顔をした牡丹がグレースさんを押し出そうと頑張り始めるのですが……本当に落下したら笑い話にもならないですからね、牡丹を抱きかかえて阻止しておきましょう。
「牡丹も…危ないですよ?」
私は腕の中でポヨンポヨン揺れている牡丹を宥めすかして落ち着かせようとするのですが、拗ねてしまった牡丹はそっぽを向いてしまい……どうしたら機嫌を直してくれるのでしょう?
「ぷ…?ぷーう、ぷー?」
そんな事を考えていると牡丹が「【眷属】スキルが欲しい」と目を潤ませて……何か最初からねだるつもりだったような変わり身の早さではあるのですが、ここまで欲しいと望んでいるのなら取得してあげた方が良いのかもしれないですね。
「わかりました…その代わり、あまり他の人に迷惑を掛けたら駄目ですよ?」
「ぷ!」
牡丹的には【テイミング】から【眷属】に代わるのは大きな意味があるようで、私は【擬態】と【エンチャントダガー】と【眷属】を取得する事になりました。
そして牡丹の方はSPが1ポイントしかないので悩むところなのですが、現在のスキルレベルの内訳は上から【筋力増強(微)】がMAXで、【大盾】がレベル9、【鞄】がレベル7、【ドレイン】と【跳躍】がレベル6、【投擲】がレベル5、【隠陰】がレベル4、【搾精】がレベル3、【蜿々長蛇】と【電撃】がレベル2となり……色々と新しいスキルを取得する事も出来るのですが、【筋力増強(微)】の上級スキルである【剛力】が便利そうなのでこれを取得しましょうか?
というのもこのスキルは単純な筋力アップ以外にも溜めを作る事で攻撃力がさらに増すというスキルで、牡丹の場合は攻撃から移動に防御と何をするにしても筋力値が反映されますからね、牡丹も自分が力強くなる事には肯定的な様子ですし、このまま上級スキルにした方が良いのかもしれません。
(牡丹も気に入っているようですし、このまま上級スキルにしてしまいましょうか)
そうして牡丹のスキルも決まってSPを振り、私も取得したスキルの使い心地を確かめてみる事にしたのですが……。
「どうですか?ちゃんと人間に見えますか?」
まず最初に試したのは【擬態】なのですが、このスキルは『搾精のリリム』を象徴する部分を変化させて人間に化ける事が出来るスキルで、角や翼などの色が変わって縮んだかと思うと肌に張り付き目立たなくなりました。
しかも【収納/展開】の場合はスキルや種族補正が封印されてしまい大幅に弱体化してしまうのですが、【擬態】の場合はあくまで人間っぽい見た目に変化しているだけなので人外としての能力はそのままで、レベルが上がればもっと色々な事が出来そうな将来性が期待できるスキルなのですが……。
「えっと?ああ、いえ…はい?だ、ダイジョウブダトオモイマス」
現状では人外化している部分が目立たなくなっているだけですからね、触った感触もブヨブヨした変な突起が残っていますし、引きつったような皮膚感覚があり……スキルのレベルが初期値のままだと完全な人間に化ける事は出来ないようですね。
「その…触ってみても良いですか?」
そんな私の姿を見て嘘のつけないグレースさんは汗をかきながら視線を彷徨わせていたのですが、変化した部分がどうなっているのかが気になったのでしょう、ゴクリと唾を飲み込み決意を漲らせながら提案してきて……それくらいならと私は頷きます。
「どうぞ」
「で、では失礼しまして…」
それから恐る恐るというように手を伸ばしてくるのですが、一度自発的に腰を振って吹っ切れた後だからなのかその手つきは嫌らしくて、頭を撫でるように伸ばして来たかと思うと翼のあった部分を擽るように背中をなぞり、調べるとみせかけて匂いを嗅いできたりと容赦がないですね。
「グレースさん?」
「はっ!?あ、いえ…すすすみません…あまりにも良い匂いだったものですから…ついッ!」
「ぷぃ!!」
しかも頭皮を嗅いでいた事を自分から暴露していくと牡丹が怒りも露わに大きく揺れて……一旦グレースさんから距離を取る事にしましょう。
「…まだまだですか?」
「あ…えっと…どう、でしょう?遠くから薄眼で見たら物凄く人間らしくなっていると思いますが…じゃなくてっ!?」
手のひらをワタワタと振ってから「違うんです!」と言いたげに身体を上下に揺するのですが、グレースさん的にもいまいち人間になり切れていないという評価のようですね。
『そうだな、特に頭皮の擬態が可笑しいが……後はお前達が“加護”というやつか?垂れ流しのままだから注意する必要があるのかもしれんな』
淫さんからも辛口の評価が出たのですが、あくまで見た目が変わっただけなので気を付けろという事でした。
「その辺りは仕方がないのかと」
元から魅了の力はどうしようもなかった訳ですし、能力の大幅な低下を招かなくなっただけマシだと思う事にしましょう。
「す、すみません…私なんかがユリエルさんのスキルにケチをつけてしまって…」
そして自己嫌悪気味に落ち込むグレースさんなのですが、スキルレベルが低くて上手く擬態できないというのはグレースさんのせいではないですからね、俯いてしまった頭を軽く撫でながらお礼を言っておく事にしました。
「他人から見てどう見えるか知りたかった訳ですし、正直に答えてくれてありがとうございます」
「ユリエルさ…んっ!?」
「ぷーい!!」
そして激情家のグレースさんはそれだけで頬を染めて涙ぐみ飛びかかろうとしてくるのですが、即座に牡丹が間に入り込んで来て……とにかくそのまま牡丹とグレースさんがボヨンボヨンと押し合い圧し合いを始めてしまうのですが、ほのぼのとしたじゃれ合いに目じりを緩めながら残りのスキルにもSPを振っていく事にしましょう。
(二つ目は【エンチャントダガー】ですが…これは今すぐ調べるのは難しいかもしれませんね)
【水魔法】のように投げナイフが水属性を帯びるだけならわかりやすいのですが、【媚毒粘液】を付与した場合は状態異常を与える事が出来るようになったりと付与できるスキルが多すぎるのが問題です。
(これは時間がある時に試すとして、次は【眷属】ですが…)
流石にグレースさんと一緒に居る時に一つ一つ効果を調べていくというのも悪いですし、【エンチャントダガー】に関しては時間がある時に調べておく事にしましょう。
そうして牡丹待望の【眷属】にSPを振る事になったのですが、説明文を読む限りではテイムしたモンスターに自分の力を分け与えて強化が行えるようになるというスキルで……どのような変化が起きるのでしょう?なんて事を思っていると、いきなり牡丹が光り輝き始めました。
「ぷーーぅー!!?」
「ユリエルさんっ!?」
「え?ちょ、ちょっと…グレース…ひゃんッ!?」
そして何故か私の身に着けている衣類まで牡丹に吸い込まれていき……唐突な全裸に血液が顔に集まって来てしまうのですが、慌てたグレースさんが咄嗟に私の胸を隠そうとおもいっきり鷲掴んできてしまい、変な声が出てしまいました。
「ぐ、グレースさん?隠してくれるのはありがたいのです、が…指を動かすのは…ッ!?」
乳肉にグレースさんの温かくも少し手汗で湿った指先が深々と埋もれるとギューっと圧迫されるような奇妙な感覚が広がりゾクゾクするのですが、そのまま容赦なく指先でグリグリされると下腹に力が入ってしまいます。
「ふわ、すご…重くて柔らかい」
「あの、感想を言うのも…んっ!?」
素っ裸のままグレースさんに胸を揉まれながら牡丹の変化を見守るというよくわからない状態になってしまったのですが、光が収まると小さな羽が生えたピンク色の物体が現れて……。
「ぷーーぅーいぃいいッ!!!」
「わっ、ひっ!?」
牡丹?の強化体当たりが直撃したグレースさんが吹っ飛ばされて足場から転がり落ちかけたりと、とにかくバタバタしながらも【眷属】化が無事に終了したようですね。
※誤字報告ありがとうございます(3/21)訂正しました。




