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37:ロックゴーレム戦

 走り始めながら、私は改めて状況を確認しようと辺りを見回しました。まずはロックゴーレムですが、大きさは高さ5メートル、横幅7,5メートル。逆三角形の体に、小さな頭がちょこんと乗っているような体型です。遠くから見ているだけならいざ知らず、走り寄れば見上げるような大きさがありますね。

 そのロックゴーレムの近くでは、モモさんを含む7人のプレイヤーが攻撃を継続しており、10人程度が周囲から湧き出るピット対策をしています。

 途中参戦したアヴェンタさんは、どうやらそのまま直進して攻撃を仕掛けるようですね。その姿を横目で見ながら、私はもう少し状況を確認するために、【腰翼】を使いながらゴーレムの周囲を周ります。【看破】は……流石に弾かれますね。諦めて目視で確認する事にしましょう。


 露出したわかりやすい弱点がないかと思ったのですが、流石にそういう物はないですね。ただなんというか、魔力……でしょうか?何か不思議な力がロックゴーレムの頭の方に集中しているような気がします。高さ的にも攻撃が当たりづらい場所ですし、そこが弱点なのかもしれません。狙うのならそこ()ですね。

 私はぐるりと1周見て回り、そのまま更に走り抜け、ロックゴーレムの後ろを取るように動きます。そして私が様子見をしている間にも、状況は動いていきます。


「おらぁあっ!!」

 まずはアヴェンタさんの参戦により、一時的に勢いでロックゴーレムを抑え込みました。そこにモモさんの号令がとび、攻撃を集中させます。レミカさんは得物が短剣ですので流石にロックゴーレムには歯が立ちませんが、周囲のプレイヤー達と上手く連携し、前線組が戦いやすいように湧き出るピットを倒していっていますね。全員善戦していると言えなくもないのですが、それでも攻めあぐねているという感は否めないです。

 まだ蘇生アイテムなんて言う物もないので、死亡判定を受けたら復活させる方法がありません。纏わりつかれたハエか何かを振り払うように腕を動かすロックゴーレムの一撃を受け、じりじりとプレイヤーの数が減らされていっています。

 一番の攻撃ソースになっているアヴェンタさんも、流石に相手が相手ですから大剣を使って攻撃しているのですが、ガキン!ガキン!と金属で岩を叩いているような音が響き渡っているだけですね。内部的な処理(与ダメージ)はわかりませんが、表面上は浅く削れて色が変色する程度で大したダメージを与えているようには見えません。このままではじり貧ですし、仕掛ける事にしましょう。


「アヴェンタさん!頭を狙ってください!」

 私が走りこんだ位置は、ロックゴーレムの後ろ、膝裏の見える位置ですね。頭部を直接狙いたかったのですが、純鉄のロッドは今まで投げていた物より重さがありますし、攻撃のたびにロックゴーレムの上半身は大きく動き、小さな頭は狙いを定めるのが難しかったので安全策を取りました。そして私の火力だけでは足りないかもしれないので、この場で一番火力が発揮できているアヴェンタさんに声をかけます。


 アヴェンタさんは一瞬「は?どうやって狙うんだ、お前馬鹿か?」みたいな顔をしたのですが、私の左手を見て、ニヤリと笑い、ロックゴーレムに駆け寄ります。


 【ルドラの火】。MPを消費しすぎると動けなくなりますので、この後の事を考えて出力は半分です。


「って!」

 狙うのはロックゴーレムの膝の裏。狙う効果としては、膝カックンです。


 ロックゴーレムは足を止めて拳を振り回しており、足元は静止目標と何ら変わりはありません。十分な大きさもありますし、私の投擲した【ルドラの火】を纏った『純鉄のロッド』は狙い過たずロックゴーレムの右膝裏を打ち抜きました。


 小爆発と衝撃。青白い炎を撒き散らせながら膝をつくロックゴーレムに、私とアヴェンタさんが駆け寄ります。


「うぉぉぉおおおお!!」

 アヴェンタさんは、膝をついたとはいえまだ高さのあるロックゴーレムを駆け上がると、その頭部に思いっきりツヴァイヘンダーを振り降ろします。


 ガキンッ!!


 激しい火花とともに、あれほど強靭だったロックゴーレムが微かに傾ぎました。


「GUOOO……」

 飛び上がったアヴェンタさんは羽虫か何かを払うように叩き落とされてしまったのですが、流石にこの一撃はかなり効いたのか、ロックゴーレムは地響きのような呻き声をあげました。

 初めて怯んだロックゴーレムに、他のプレイヤー達も色めき立ち、待機組もここが攻め時と、我先にと攻撃を開始します。


「これで…」

 私はアヴェンタさんが稼いでくれたヘイトを利用して、一気に駆け寄ります。頭部に攻撃したアヴェンタさん、前方から駆け寄る大量のプレイヤー達、ロックゴーレムの意識が前方に向いているうちに、背後に回っていた私は左手で解体用ナイフを持ち、【腰翼】を使い思いっきりジャンプします。着地の事は、着地する時に考えましょう。


(終わってください!)


 アヴェンタさんが作り出した斬撃の痕に、【ルドラの火】を込めた解体用ナイフを叩き込み、右手のロッドで釘を打つように、解体用ナイフをおもいっきり内部に打ち込みます。


 めり込むナイフ。燃え上がる青い白い炎。叫び声をあげながら両腕を振り上げるロックゴーレム。


「OOOoooo」

 ロックゴーレムの低い叫び声が響き渡り、他のプレイヤー達からも歓声が上がりました。MPが尽きた(意識が朦朧とした)私は受け身に失敗して【腰翼】を捻って呻く事になりましたが、会心の手ごたえに、自然と笑みが浮かびます。興奮に頬も赤くなっているかもしれません。


「やったか!?」

 沸く歓声の中、誰かがそんな事を言っていました。いえ、ちょっと待ってください、誰ですか不吉な死亡フラグを立てた人は。そしてその言葉がフラグになった訳ではないのでしょうけど、ロックゴーレムは頭上で両手を組みなおし、動き始めます。それは最後の足掻きと言う物ではなく……HP減少による、パターン変化ですね。


(これは、無理ですね)

 ロックゴーレムの両腕を使った全力のストンプ攻撃に、足元の地面が爆発しました。


 単純な地面揺らしや衝撃波という物だけではなく、石とか岩とかが周囲に飛び散り、あちこちから悲鳴が上がりました。


 総攻撃のために近づきすぎていたプレイヤー達はミンチになり、ある程度距離を取っていた人達も、頭より大きな岩が高速で激突してきたわけですからね、薙ぎ倒されていきました。障害物を利用できた人や、かなり遠くにいた人は何とか生き残ったようですが、ストンプ攻撃による衝撃波と砂煙が収まった時に立っていられた人は、1人か2人いるかどうかという程度まで減っていました。そんな生き残り組に、ピット達が群がります。


 私は爆心地にいましたからね、勿論やられました。激突してくる岩礫。痛いとかそういうレベルの問題ではなく、その衝撃で私の意識はブラックアウトしてしまい……気が付けば、はぐれの里のリスポーン地点でぼんやりと佇んでいたという有様です。


 周囲にはあの場所で戦っていた他のプレイヤー達が大勢佇んでおり、アヴェンタさんや、モモさんやレミカさんもいますね。誰もが何が起きたのかよくわかっていないという顔をしています。


「な、何が起きましたの?ワタクシ達、ゴーレムと戦っていましたわよね?」


「ええ、ですがあれはちょっと…」

 何が起きたのかよくわかっていない人。痛みや恐怖で震えている人。あのゴーレムをどうしたらいいのだろうと頭を抱える人。苛立たし気に地面を蹴っている人。その後もポツポツと死に戻ってきた人がいて、急に人口密度の増えたはぐれの里のリスポーン地点では、村人達も「何があったんだ?」という顔で集まってきて、ちょっとした騒ぎになってしまいました。


 私も少しの間呆然としていたのですが、改めて再挑戦をと考えたところで、武器を2つ(ロッドとナイフを)手放していた事を思い出します。そして無理な受け身をとった時だと思うのですが、ベルトポーチに入れていた回復ポーションの瓶が割れてしまっていました。残っているアイテムはロッド1本に、投げナイフ3本、携帯食料が2箱です。バッグ類が全て残っているのは幸運でしたが、【ルドラの火】に焙られた左手首辺りの裾の部分が燃え尽きてしまっていたりと、散々な状態です。これ()に関してはちょっと別の問題があるのですが、とにかく今は、残金と装備の事を考えて頭を抱えたくなりました。

※ユリエルの残金は8,200Fです。これから食費が抜かれたりするので、ちゃんとした武器を新規に購入する事はできません。ピンチ!


※誤字報告ありがとうございます(10/17)訂正しました。

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