表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

387/527

369:侵攻後のあれこれ

 戦線が崩壊して第二エリアの北端に追い詰められた私達は海に面した断崖絶壁に追い込まれる事となり……こうなる事がわかっていたので毀棄都市(南東)方面に抜けて『イースト港』勢力と合流しておきたかったのですが、東側を防衛していたエルフの兵士達が抜けた穴にはハーピー達が雪崩込んで来ていて……頑張ればもしかしたら突破する事が出来たのかもしれませんが、瀕死状態のまふかさんと集中力が切れ始めているグレースさんを連れて移動するにはリスクしかありません。


 こうなると退路は必然的にモンスターの少ない北側しかなかったのですが、追い詰められた先に待ち構えていたのは先に脱出していた人達が作り上げていた簡易防衛拠点であり、土系の魔法と植物系の魔法で急造された柵の中にはエルフの兵士達(N P C)と生き延びる事が出来た数百人単位のプレイヤー達が腕を撫して押し寄せて来るモンスターを待ち構えていました。


(こんな所に防衛拠点…ですか?)

 何かしらの遺構跡に作られたと思われる簡易防衛拠点を見た時は不可解に思ったものですが……というのも『隠者の塔』の北側には断崖絶壁と海だけが広がっている場所でしたからね、開けた場所なので何かしらの遺構があったら見落とす事は無いと思うのですが……。


「ここが使われていたのはかなり昔の話だからな、『リュミエーギィニー(魔除けの針葉樹)』が群生してからは警戒する必要もないだろうという事で放棄されていたんだが」

 との事で、防衛についているエルフの兵士さんが言うにはエルフと言う長命種が「かなり昔」というくらい昔の建築物は崩れて地面に埋もれて見えないようになっていたそうです。


 それを何と使う事が出来ないかと掘り返してみたら建物を囲っていた魔物除けの防壁(外壁)が奇跡的に使える状態だったようで……何か物凄いテコ入れ感を感じさせる唐突さなのですが、エルフの兵士さんもあまり詳しい事情は知らないようですし、ワールドクエストが進んだ事によってイベントが進んだだけのような気がしますし、追撃して来たモンスターとの戦闘に忙殺されている内にその件は有耶無耶になってしまいました。


 とにかくスタンピード(暴走)化しているモンスターを撃退していると結界の効果が出て来たのか徐々に攻勢も下火になっていきましたし、防衛についているプレイヤーが数百人しかいないといっても熊派の総数の倍以上の人数が居る訳ですからね、スキルが使える状況だと互角の戦いを繰り広げる事となり……いくらパワーアップしているといっても熊派も人の子である以上疲労が溜まっていきますし、協力して必死に頑張るというスタンスのプレイヤー達でもないので疲労が出始めると同時に脱落者が続出していきます。


 勿論この熊派の動き(攻勢が弱まる)がプレイヤー側の油断を誘うためのブラフだという可能性もあったのですが、その頃になると『隠者の塔』が陥落寸前((出発時の情報))だという事で『イースト港』から無理やり駆けつけて来てくれた人達がいますし、簡易防衛拠点を築いた事によってログイン先の変更があったのか直接防衛拠点にログインしてくる人も増えて来て……こうなるとこれ以上強攻しても得るものが少ないと熊派も諦めたのか徐々に攻勢が止み、私達はギリギリのところで踏み留まる事ができたようですね。


(何とか(しの)ぎ切りましたが)

 ただそんな激戦に巻き込まれていた私達も疲労困憊で、増援が到着して熊派の攻撃がやんだのを確認してからログアウトする事となり……夜中は両陣営とも動きが無いまま過ぎていき、しっかりと休憩を取った私は早朝から簡易防衛拠点にログインする事にしました。


(キリアちゃんには負けっぱなしですからね…頑張りましょう)

 そんな決意と共に改めて簡易防衛拠点を見て回る事にしたのですが……今日は土曜日という事もあり朝からそれなりの人数が繋いでいるので心強い限りですね。


(まあ人が多いとそれはそれで面倒臭いのですが)

 ノワール(ダークスパイダー)を連れていると「何で蜘蛛が?」みたいな視線を向けられますし、魅了スキルが溢れているせいであちらこちらから「天使ちゃんだ」とか「リアル天使ちゃんだ、スゲー」とか言われてしまい……とにかくそういう下心を含んだ視線を母の教え通り毅然と無視しながら簡易防衛拠点の中を見て回っていたのですが、本当にここは掘り返しただけの遺構跡を柵で囲っただけと言う場所のようでした。

 

 拠点としての機能はダンジョン内にあるセーフポイントに毛が生えたというレベルですし、任務とかお願いと言う形のクエストを受けられるだけでアイテムの販売すらありません。


 そう、アイテムの販売すらありません。


(これはなかなか厳しい戦いになりそうですね)

 状態異常の回復薬は丸々残っているのですが、昨日の戦いではそれなりに消耗品を使ってしまい……スタミナ回復ポーションが3本にHP回復ポーションが5本、MP回復ポーションは少し多めに買い込んでいたという事もあり残り8本で、投げナイフに至っては9本しか残っていないのでこれらの消耗品をこの拠点で補充しようとすると商魂たくましく声を張り上げているプレイヤー達や生産に熱を上げているプレイヤー達から購入する必要があるのですが……。


「はぁ?ノーマルポーションが一つで5万(元値の10倍)って…いくらなんでもぼったくりだろ!?」


「そういわれましても…私達も運搬費や色々と危険を承知で運んできている訳ですし…嫌なら買わなくても良いんですよ?」


「くそッ…足元を見やがって!!チッ…10本50万だ、持ってけドロボー!!」


「へへ、毎度あり」

 みたいな交渉があちらこちらでおこなわれており、私もここから更に値段が吊り上げられる可能性を見越して確保しておいた方がいいのかもしれませんが……激戦にならなければ十分持ちこたえられる量がありますからね、最悪自作する(【錬金術】に挑戦する)という手もあるのでもう少し様子を見る事にしましょう。


 そんな少しだけ騒がしい簡易防衛拠点の中を見て回っていると士気高揚の為なのかアルディード女王がエルフの兵士達を連れて見回りをしていたのですが……どうやら日を跨いだ事によって少し元気になられたようですね、流石に劣勢に追い込まれているのでその顔色は冴えないのですが、漲った決意がオーラのように滲み出ているのかその独特な雰囲気に押されるように人ごみが割れてアルディード女王が私の近くまでやって来るとノワールを見つけて足を止めるのですが……。


「こんな所に蜘蛛が?ああ、貴女はあの時の……ありがとうございました、わたくし達が無事に生き延びる事が出来たのはひとえに貴女達の活躍があったおかげです」

 それから隣にいる私の顔を見てからフカブカと頭を下げるのですが……いくらなんでも防衛に協力した全員に声をかけるというのは手間がかかりますからね、多分これは頑張った人へのご褒美と言いますか、ある程度の活躍をした人に「お礼の言葉」を伝えて回るというイベントの最中なのかもしれません。


「頭を上げてください、何とかなったのは皆の頑張りのおかげですし」

 キリアちゃんには負けてしまったのですが、こうして女王陛下にわざわざお礼を言われるくらいの活躍をしたという事は私達の頑張りも満更無駄ではなかったようで……とはいえ頑張ったのは私達だけではありませんからね、ギリギリ崖っぷちで踏み留まれたのは熊派と戦った皆の頑張りのおかげだと思います。


「ご謙遜を…貴女が駆けつけて来てくれなければわたくし達は醜いゴブリン達の餌食となっていましたし、こうして反撃の芽を残す事も出来なかったのでしょう」

 その時の記憶(滅茶苦茶にされた)はあまり思い出したくないのか困ったように笑うアルディード女王なのですが、そんな私達のやり取りに周囲の人達が「おお、流石天使ちゃんだ」と騒めき……何故か「2人とも凄いおっぱいだ」とか「天使ちゃんでもアルディード女王には負けるんだな」とか「馬鹿言うな、形とハリなら断然天使ちゃんだ!」とかいう会話が聞こえよがしに聞こえて来るのですが、いったい何処を見ているのかと頬が熱くなりますね。


『おい』


(わかっています)

 そんな下心の乗っている無数の視線を受けていると『搾精のリリム』の性なのか身体が火照ってきてしまうのですが、淫さんが呆れたようにツッコミを入れて来て……アルディード女王には色々と聞きたい事や頼みたい事もありますからね、一旦深呼吸をして落ち着く事にしましょう。


「では助けたお礼という訳ではないのですが、出来れば手伝って欲しい事があるのですが……()()をお願いしても良いですか?」

 この不利な戦況も『精霊の幼樹』を育ててレナギリー達(蜘蛛達)と協力すればひっくり返す事ができる筈ですし、イベントを進める為にも「協力」を強調してお願いする事になったのでやや不自然な切り出し方になってしまったのですが……。


「他ならぬ命の恩人の頼み事ですからね、出来れば叶えてあげたいとは思うのですが…」

 助けた弱味に付け込むように切り出したからなのか、それとも私がどちらかと言うと熊派寄りの見た目(『搾精のリリム』)をしているからなのか、アルディード女王の左右に控えていた兵士が難しい顔をしながら(恩着せがましいと)手に持っていた槍を持ち直すのですが……その兵士達を押しとどめながら女王陛下が首を傾げました。


「それは…どのようなお願いなのでしょう?」

 そしてアルディード女王が言葉を濁すのは出来る事と出来ない事があるという事なのだと思いますが、私の頼みというのは『精霊の幼樹』について知りたい事があるだけですからね、たぶん大丈夫だと思います。


「『精霊の幼樹』の育て方を教えて欲しいのですが…何か知っている事はありませんか?」

 何処に熊派のスパイが潜んでいるのかわからない状況ですからね、あまり人前ではこういう話をしない方がいいのかもしれませんが……まともに人目を遮れるような建物もない場所ですし、これだけ耳目を集めている状態で人気のない場所に移動するというのも不自然なので堂々と情報を得る事にしましょう。


 それにレナギリーとの和解条件の中には皆と協力する事が含まれていますからね、情報漏洩をしておいた方が言い訳が出来る(皆と一緒に動いた)ので一石二鳥なのかもしれません。


「幼樹を、ですか?ですがあれは……そうですか、だから蜘蛛を連れて…わかりました、わたくしの知っている事でしたらお伝えしましょう」

 たぶんイベント補正(都合の良い解釈)が働いているのだと思いますが、アルディード女王は私達がレナギリーとの和解の為に動いている事を察したのか訳知り顔というように頷いてくれて……そのおかげで核心部分であるレナギリーと和解する為には『精霊の幼樹』が必要だという説明を人前でする必要がないまま、アルディード女王から幼樹の育て方を教えてもらう事が出来ました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ