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運営者Side(鈴木主任視点):ワールドクエストの裏側と運営の日常

※本編の切りが良かったのと激闘の後に幕間的な雑談話を捻じ込みたかったのでここに、なので時間軸的にはちょっとだけ前後しています。

「オッはよーございマ~ス、シュニン!いやー今日モ暑いデスねー」

 出社中、もうすぐテナントが入っているビルが見えてくるという所で下乳がチラチラしているキャミソールにホットパンツという露出度の高い恰好をしている金髪碧眼のポルトーが調子っぱずれな挨拶と共に爆乳を揺らしながらやって来ると通りを歩いていたサラリーマンが「うぉっ!?」みたいな顔で振り返ったんだが、朝っぱらから疲労困憊だった俺はその勢いに押されて軽く手を上げ返す事しか出来なかった。


「ああ、おはよう……ポルトーは今日も元気だな」

 本社との交渉にスケジュールの調整作業と胃の痛い事が重なっている俺からすると元気いっぱいなポルトーが眩しく映り……あまり部下に情けない姿を見せている訳にもいかないと少しだけ背筋を伸ばして返事を返すと「そうでもないデスよー」とオーバーリアクションで肩を落とされた。


「日本の夏は暑いデスねー…シュニンは大丈夫なんデスか?」

 そしてポルトーは下からのぞき込むような姿勢でそんな事を聞いて来るんだが、その姿勢だと寄せられた胸がムニュリと潰れてくっきりとした谷間が出来て視線が吸い込まれていくし、無駄に距離が近いせいで軽く汗ばんだポルトーの匂いと熱に下半身が反応してしまい……。


「まあ湿度が高いからな…日本の夏はこんなもんだ」

 男の性だと自己弁護しつつ視線を逸らし、部下に劣情を抱いてしまった事を反省しながら平静を装うのだが……とにかく隣で歩くポルトーは「暑イ暑イ」とただでさえ露出度の多い服装の胸元を開けて手で扇ぎ、俺は視線を外すようにギラリとした太陽を見上げて目を細めた。


(確かに今日は暑いな……これでもフィルターが無かった頃よりマシらしいが)

 大気中に特殊なフィルターを張って気候を管理しているので秋が消えてなくなったり猛暑日を連発したりせずに過ごしやすくなっているらしいんだが、それでも温暖湿潤気候に所属する日本は湿度が高く設定されている事もあってムシムシと熱が籠っているような気がするし、その辺りの日本特有の気温(高温多湿)に慣れていないポルトーには辛いものがあるのだろう。


「今の俺が言えた事じゃないが、慣れない土地では体調を崩さないように体調管理をするのも社会人としての……って、オイ!?」

 そしてやっと空調のきいたビルの中に入ったところで少しくらいは上司っぽい事を言っておこうと思ったんだが、おもむろに胸の谷間の汗を拭き始めたポルトーにツッコミを入れてしまい……言われた方のポルトーはよくわからないという顔をしやがった。


「どうしたの、シュニン?」


こんな所(人目のある所)で堂々と汗を拭くな!ちゃんと更衣室は用意してあるだろ!?」

 服装規定がある訳でもないわが社の場合は更衣室と言うより私物を置いておくためのロッカールームと言う方が正解なのかもしれないが、とにかく身だしなみを整えるにしてもそちらでするべきだろう。


「え~でも中は寒いデスし」


「それはそうだが…いや、そうじゃなくてだな…そもそもポルトーの場合は服装が薄すぎるんだ、個人用の温度調整(ヒートスポット)があるだろ?それが嫌ならせめて上に羽織る物か何かを準備しておいてくれ」

 確かにビルの外は程よく季節を感じられるような温度に設定されているし、建物の中は快適に過ごせるように保たれているので汗ばんだ体が冷える事もあわせて寒暖差を感じるのかもしれないが、こんな所で堂々とブラまで持ち上げて汗を拭き始めてしまったもんだから周囲の視線が集まり……見ているこちらまで顔が熱くなってしまうんだが、見られている方のポルトーは至って平気な顔でケラケラと笑っていた。


「はぁー…ここが日本だという事を理解してくれ…」

 ただでさえ色々と法律スレスレのゲームを運営しているというのに、露出狂が居る変な会社として炎上でもしたら笑うに笑えない。


(これが異文化コミュニケーションって奴なのかもしれないが…いきなり外資系に転職したのは早まったか?)

 高年収に釣られたというのもあるんだが、強行軍のようなプログラムの新規開発よりもゲーム会社の保守管理部門の方がいくらかマシだろうとヒューコーポ(H C P)社に引き抜かれてきて……予想外に次ぐ予想外な展開に俺の胃には穴が開きそうで最近はあまりよく眠れていない。


(最近5キロ近く瘦せたんだよな、夜中にトラブルの連絡が入ってあまりよく眠れないし)

 もう少しのんびりできるかと思っていた俺の予想は盛大に裏切られる事となり……それでもそれなりの金額が動いている企画(ゲーム)でなければさっさと強制終了して作り直したいくらいなんだが、VRゲームの場合は法律関係が色々とややこしいという事もあり簡単に中断するという訳にもいかなかった。


 それにここで投げ出すというのは一緒に頑張っているチームメンバーにも悪いので真っ先にトップが落後する訳にはいかないんだが、目下の悩みは破天荒なポルトーの行動とキリアと命名されている特殊AIとそれらが引き起こすトラブルの数々だった。


 というよりも、俺としてはキリアが引き入れたプレイヤー(熊派)から現実空間の情報を収集し始めた頃から嫌な予感がしていたので本社に掛け合っていたんだが、どうやらこのAIは自分がプログラムの中に居る事を認識しているようで……それだけでもかなりヤバイ状況なんだが、ログアウトしているところを何度か見た後に自分もログアウトしてみようと挑戦し始めた時にはかなり焦った。


 慌ててメインプログラマーである中村が抑えて権限を剥奪する形で押さえ込んだんだが、この時は多くのプレイヤーが繋いでいる状態での強制シャットダウンも覚悟していたし、事実強制シャットダウンの準備をしていたんだが……キリアの事をモニタリングしている本社から呼び出しを受けてしまい、緊急会議の結果このまま続行する事が決定した。


(ゲームの中での出来事ですし…じゃねえよ!!)

 確かに最近のゲーム開発はAIに頼っているところもあるので多少プログラムが自由に動いているくらいは誤差の範囲なんだが、それはあくまで基礎プラグラムに上乗せする形で書き込む事が出来るようになっているだけで、大本の書き換えが出来ないようになっているというセーフティーが生きているから問題がないだけだ。


 わかりやすく言うとロボット三原則の「人間に危害を加えてはいけない」という原則が生きているからこそロボットはその辺りを自由にウロウロ出来ている訳で、誰かれ構わず襲い掛かるロボットなんかを放置していたら大問題になる事がわかり切っている。だというのにこのキリアというプログラムは堂々と破壊してはいけない(ゲーム)を破壊してでもいいから自分と言う存在を外部に繋ごうとして……この時の恐怖はハリウッド映画さながらだったし、メインプログラマーの中村が「ありえない!?」と絶叫してチーム一同騒然となったんだが、本部側が関係各所と本人(キリア)に交渉してみた結果丸く収まったという事でなあなあになってしまった。


 なあなあになってしまう時点で危機管理能力がどうかしているのだと思うんだが、この辺りは日本企業に無い露骨な成果主義(結果のみを重視する)と言うやつなのだろうか?確かに何かしらの取引をしたらしいキリアはそれから大人しくなり、本社としてはキリアというプログラムの限界を見てみたいのかもしれないが……下手をしたら独自の倫理観で動く自己成長するコンピューターウィルスが世の中に解き放たれる可能性があるというのに本社の動きは呑気すぎた。


 出来たらプログラムコードを精査してキリアの思考を読み解きたいのだが、本社側が管理している領域(データ)である事と無理やりハッキングしようとするとデータが壊れる可能性があるという事で当然のように不許可。しかも下手にこちらから手を出すという事はこちら側から繋ぐという事で……介入方法を学習したキリアがプログラムを書き換えて暴れ出す可能性もあって手が出せなくなったりと八方ふさがりで、とにかく日本運営としてはキリアの次のNPCを早々に出して()()()()()()()()()()()()方向で動いている。


 キリア関連の実験(特殊A Iの実証実験)が問題なく終われば本社も文句のつけようがなく……それでもあまり露骨なテコ入れをすると外部メディアにトラブルが起きている事を嗅ぎつけられる可能性があるからな、下手なところに情報を握られたら(フライデーされたら)訴訟祭りに発展する可能性があるのであくまでイベントの一環ですみたいな流れで差し込んでいくのが無難だろう。


(本当に頭が痛い…)

 日本支社はそういう危険なプログラムの押さえ込みも頼み込まれていて……あとキリアについて気になる点としてはユリエルというプレイヤーに強い興味を示しているという事で、こちらはこちらでかなりの問題児っぷりを発揮していた。


 というのもユリエルというのはかなり独自にイベントを進めているプレイヤーで、『蜘蛛糸の森』に行けばレナギリーと遭遇して最奥にある『歪黒樹の棘』を発見するし、この状況で戦況を左右するワールドクエストである『両者の狭間』を進めているのもユリエルだ。


 それにあれだけやり合っておきながらキリアの好感度が一番高いプレイヤーが誰かと聞かれたらぶっちぎりでユリエルで、これは仲間である筈の熊派の連中を余裕で抜き去ってトップを独走しているという何かの冗談のような奴だった。


 こうなるともうユリエルが競合他社の産業スパイだったとしても驚かないくらいにはゲームをめちゃくちゃにしているような気がするんだが、データは本社管理となっているので詳細は不明で……まあ明確な悪質行為を働いている訳でもないのでその辺りの身元調査をするのは法律的にグレーゾーンなので放置するしかないんだが、そんなAIやユリエルが介入したせいかワールドクエストは滅茶苦茶で、『毀棄都市ペルギィ』が崩壊して、続く『エルフェリア』奪還作戦が失敗してともう流れに任せるしかないというのが実情だ。


 勿論他のサーバー(他国)でもレナギリーと敵対する事を選択したり結果的に選択してしまった事になっているところはあるんだが、それでも熊派を名乗るPK集団が『エルフェリア』奪還イベント前に逆侵攻をかけて来る事はなかったし、NPC(キリア)が終業時間を気にしながら攻め入って来るという外の世界(リアル)がある事を前提に動く事もなかったし、ゴタゴタの煽りを受けて調整役の井上やメインプログラマーの中村が血反吐を吐くようなデスマーチをしている事やら何とか立ち直った高橋とポルトーの2人だけでオープン1か月記念のイベントを準備しているという酷いスケジュールに押し潰される事も当然なかった!


「シュニン~遅れマスよ?」

 そんな頭の痛くなる状況ですらどこ吹く風というように爆乳を揺らしながらルンルンとスキップしているポルトーを羨まし気に見ながら俺は朝っぱらから大きなため息を吐き、今日は大きなトラブルが起きずに無事に1日が終わる事を本気で祈るのだった。

※まったくどうでもいい事かもしれませんが、主任は機器の保守管理業務を監督する(在宅ワーク用の機材にトラブルがあった時に直す)必要があるので基本的には会社に出社しています。ポルトーさんは現在プログラム補助をしているので出社したり在宅だったりしますが、一時的な引っ越し先に会社レベルの機材が無いので比較的出社しているメンバーに入っています。この辺りは受け持っている業務(機密性が高くなると出社を求められる)や家庭環境(or機材)にも左右されるので結構マチマチだったりします。


※暑さに関して = 実は猫達の居る時代と比べるとかなり改善されていますが、主任達からするとそれが普通なので「暑いねー」ってなっています。たぶん猫達の時代にやってきたら2人は蕩けるかもしれません。


※透明な特殊フィルター = 大気圏に展開している地球を覆うようなリングから発生させている特殊な流体性フィルター技術で、濃度や厚みを変える事によって太陽光の入る角度や量を調整したりして地球全体の温度管理をしています。その副次的効果としてある程度の天気も変える事ができますし、温度の対流を利用して発電もしています。この時発電した電気は各国の軌道エレベーターを通して地上に送られて核融合を利用しない簡単な機械を動かすのに使われたりしているのですが、とあるお祖母ちゃんによって常温超伝導体が開発されているので送電や蓄電についての問題はクリアしています。


※ヒートスポット = 部分的に温めたり冷やしたりする装置があり、部屋に備え付けられている物とアクセサリー的に身に着けている物があります。いわば個人携帯用のエアコンみたいな装置で、今回の場合は「冷える」といっているポルトーさんの発言に合わせて温める装置の事を指しています。


※VRゲームの場合は法律関係が色々とややこしい = 法律関係に関してはVRゲームというよりフルダイブ技術とそれに関する関連法案で、使用者に対する安全マージンがかなり大きめに取られているので「本当にこれは必要なのか?」という規定が多いですし、日進月歩で成長した分野という事もあり無理やり後付けされた決まり事もあるのでかなりゴチャゴチャしていてなあなあで運用されているという事もあります。

そしてゲーム会社の場合は協賛とか色々な形で他の会社がかかわってきている事もあり、いきなり「やめます!」なんていうと大量の違約金とかが発生して大変な騒ぎになってしまう事を「ややこしい」と言っています。


本人キリアちゃんに交渉してみた結果 = 実はキリアちゃんの回想の方で語られていますが、キリアちゃん自身にサラッと流されるくらいの口約束だと思われているので何の拘束力もありません、動いていないのは念入りに準備をした持久戦に切り替えたからです。

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