366:増援…ですよね?
もう少しで中央広場南の『歪黒樹の棘』に到着するというタイミングでレッドジャイアントのギガントさんが立ち塞がり、私は周囲の状況を確認してから……仕掛けました。
「ほう、正面突破たぁ肝が据わっているな…だがよー…そう簡単にはここは通さねえよッ!!」
両手を広げるように待ち構えるギガントさんも迎撃を選択して向かってくるのですが、その巨体から発せられる圧迫感はなかなかのものですね。
(この体格差ですし、動きもなかなか素早いですし)
これでギガントさんの動きが鈍かったら戦闘を回避するという選択肢もあったのですが、相手はパワーアップしているのに私達はデバフを受けていて……地味に一歩を踏み出す時間が同じくらいですからね、こうなると縮尺の関係で逃げ出す事が出来ません。
「はっ、足元に潜り込めば何とかなるとでも思っているかもしれねぇけどよぉッ!…チィッ!?」
ただクロスレンジに持ち込んだ場合は小回りと死角の問題で私の方が有利に戦えますし、その事を理解しているギガントさんは右手を地面に叩きつけ……その行動の意味を察した私は妨害目的で目元めがけて投げナイフを投擲しておいたのですが、鬱陶しそうに左手を翳すように防がれてしまいます。
「うぉぉらぁあああっ!!!」
そして力任せに掘り返した地面を……身長四メートルの巨体が土を掘り返すと一種の土石流のような勢いで石と礫が襲い掛かって来るのですが、下手な範囲攻撃でも機動力の無い私達からすると回避するだけでも一苦労ですね。
(淫さんが居れば楽なのですが)
スキルが封印されている関係で淫さんの補助を受ける事ができず、仕方なく手動操作でスカート翼を動かして体を覆いつつ回避行動をとるのですが……広げたスカート翼にボスボスと命中してくる拳大の石の衝撃にバランスを崩して地面を転がってしまいます。
(これは地味に…)
露出の大きなドレスで地面を転がっている訳ですからね、正直に言うとかなり痛いです。
『手伝いたいのはやまやまなのだが…下手に動かそうとすると足を引っ張りそうだからな、むしろその方が良いのかもしれんが』
(良くはないと思いますが)
そんな私を見かねたのか淫さんが反応してくれたのですが、今『翠皇竜のドレス』が蠢いたら大変な事になってしまいますからね、意図的に活性度を下げる事によって動かないようにしてくれているのは助かります。
(ぷ~…)
(牡丹もありがとうございます、2人ともあまり無理はしないように)
【テイミング】はモンスターを手懐けているという設定ですからね、スキルが消えると牡丹の中の野生が目覚めてしまうようで……まあ牡丹の場合はスキルが無くても反抗的になるという事はないのですが、最近はまふかさんやグレースさんや淫さんにかまけて遊んでくれない事が寂しいようで、私ともっとイチャイチャしたくなってしまうそうです。
(確かに最近はあまり構ってあげられていませんでしたが…わかりました、ひと段落したら一度皆でゆっくりしましょう……ただのんびりするのはこのピンチを切り抜けた後で、ですよ?)
とにかくそういう2人が私の足を引っ張らないよう自主的に動きを止めてくれているのですが、私達がそんなやり取りをしながら体勢を立て直している間に巻き添えを食らう形で礫を防いでいたグレースさんは衝撃を受けきれないまま吹っ飛ばされてしまい、ノワールも妨害するように糸を吹きかけてくれているのですが……流石にギガントさんとの体格差では馬力負けしているようですね。
「2人とも…無事ですか!?」
私は無理やり糸を引き千切るように暴れているギガントさんの背後を取りながらグレースさん達の様子を確かめるのですが……。
『だっ…けほ、で…っ』
ノワールは捕まらないように動き回っているのですが、吹っ飛ばされたグレースさんは『大丈夫』と言いながらノソノソと起き上がろうとしていて……背中を強く打って息が詰まってしまったようですね、無理やり喋ろうとして咳き込んでいるところにサーブルボアが襲い掛かります。
『右三十度、茨の陰からイノシシです!』
『は…はいっ!ひっ!?』
そして何とか立ち上がろうとしているグレースさんを助けに行きたいのですが、続くテントの支柱アタックを回避していたりとこちらもあまり余裕がないですし、下手に合流しようとすれば2人纏めての残骸アタックで一網打尽という可能性がありますからね、カバーに入る余裕がありません。
「ああクソッ!?ちょこまかと…ジッとしやがれっ!!」
それに脅威は暴れているギガントさんや襲い掛かってきているサーブルボアだけではなく、デファルシュニーやオールドトレントも集まって来ているという不味い状況で……そんなタイミングで力強い声が聞こえてきました。
「待たせたわね!」
そして颯爽と現れたまふかさんはそれなりの大きさがある黒い茨に引っかかったまま高らかに啖呵を切っているのですが、何故まふかさんはそんな所に引っかかっているのでしょう?
「いや~ユリちーもピンチみたいだけど…なかなか無謀な事を考えているみたいね~てか格好良く助けに来たおっさんには驚かないんだ、それはそれでおっさん悲しい!折角ユリちーの為に頑張って走って来たっていうのに~」
そんなまふかさんを運んできたスコルさんはグレースさんに襲い掛かろうとしていたサーブルボアの後ろ脚に噛みついて転倒させていたのですが……どうやら橋を架ける事は早々に諦めて単独走破して来たようですね。
(スコルさんの機動力だったら残骸を跳んで渡って来る事も出来ると思いますが…)
その場合はファントムジェリーを誰かに押し付けてきたという事になるのですが……どういう協力関係だったのかはわかりませんからね、そういう独断専行も織り込み済みの集まりだったのかもしれません。
そして『隠者の塔』に来る途中でまふかさんを見つけたから拾ってきたという感じで……移動力という点では四足歩行しているスコルさんの方が上ですからね、そういう諸々の偶然が重なった結果私の到着予想時間より早く2人が到着し、救援が間に合ったのだと思います。
「スコルさん達が近づいて来ているのが見えていましたので」
そして戦闘中なのでそっけなく言い切る私に対して「素直じゃないんだから」みたいにスコルさんは肩を竦めながらヤレヤレ感を出すのですが……。
『スコルさん!』
「やっほーグレグレ、頑張っているみたいねー…まま、挨拶は後々…とにかくまずは立ち上がってっと」
そして通常会話に切り替え忘れているグレースさんはスコルさんとまふかさんの参戦に目を輝かせていて……何故それで伝わっているのでしょう?読唇術なのかもしれませんが、スコルさんは胡散臭いウィンクをしながらグレースさんを助け起こしているのでそちらはスコルさんに任せてしまっても良いのかもしれません。
「って、ちょっと、あんた達!あたしの事を忘れているんじゃないわよね!!芋虫がこっちに来ているんだけ…うひっ!?え、茨も…何これ!?」
ただ茨に引っかかっているまふかさんは近づくデファルシュニーに対してバタバタしていて……たぶんギガントさんが奇襲攻撃を仕掛けて来たように茨を足場にして格好良くエントリーするつもりだったのだと思いますが、デバフを考えずに動いてしまい足を滑らせてしまったのでしょう。
「あー…」
その結果が黒茨に捕まるという失態で、そして何故か敵であるギガントさんも「あちゃー」みたいに顔を手で覆っているのですが……不意打ちをした時も「正々堂々と戦え」みたいに怒っていましたし、熊派なのに時々正論を言うのはなんなのでしょう?
「ギガントさんは熊派…なのですよね?」
【弱点看破】の結果はレッドネームですし、カイトさんやレイブンさんの仲間で『歪黒樹の棘』の防衛をしているという行動だけを見れば紛れもない熊派なのですが、この人だけはスタンスが違うような気がするのですよね。
「おう、バリバリの熊派だぞ?つーかオレが言うのもなんだが…あれをほっておいてもいいのか?」
そして本当に熊派かどうか聞いてしまった私に対してギガントさんは見ていられんというように赤い肌を更に赤く染めながら宙ぶらりんになっているまふかさんを指さしていて……。
「助ける時間を貰っても良いんですか?」
敵の目の前で堂々と救助活動をしても良いのかはわかりませんが、助けられるのなら助けたいので一応確認してみる事にしましょう。
「ああ……いや、う~む…そうだなぁ…男だったら自業自得だって笑い飛ばすところなんだが……女かー…いやーだからといって敵が増えるのを待ってるつーのもなー…」
「ちょ、ちょっと、悩む前に助け…ひゃん、この茨…どこ触って…」
私達がどこか呑気な会話をしている間に黒い茨はまふかさんのピッチリした衣服の中に入り込み艶めかしい身体を締め上げるのですが……その棘は痛いというより気持ちいいのか敏感な場所に触れた瞬間ピクンと身体が跳ねたりしていますし、ただでさえ薄い衣類が破れて恥ずかしい部分が露になっていったりとなかなか凄い事になっていました。
「待って…ちょっと、本当に…はっ…んッ!?」
トゲトゲした茨がまふかさんの股間を摺り上げると気持ちよさそうにのけぞってしまい、そんな極上の獲物を狙ってまふかさんの足元ではデファルシュニーがモゾモゾと動いていて……高さがあるから手をこまねているのですが、このままだと茨と巨大芋虫のせいでまふかさんが大変な事になってしまいそうですね。
「ねえ、お2人さん…そんな事を喋っている間にもモンスターがワラワラなんだけど…そろそろ動かないと不味いんじゃない?」
そしてサーブルボアと戦っていたスコルさんが呆れながらも正論を言ってくるのですが、会話の為に動きを止めているのはギガントさんだけですからね、確かにその通りなので気持ちを切り替える事にしましょう。
「そうですね…」
「だな…頑張るチビ達の為に負ける訳にはいかねーし、ここは心を鬼にして……てめぇら!ここを通りたかったらオレをぶちのめして行くんだなぁッ!!」
微妙な空気を引き裂くようにギガントさんが拳を握り吠えたところで私も剣を構えなおし、スコルさんやまふかさんという増援を受けた私達と熊派の第二ラウンドが始まりました。
※熊派といっても中身は普通の人間ですからね、目の前に触手っぽい何かにヌチャヌチャされている女性が居たら気が動転してしまう事もあります。




