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365:茨の森と降って来る熊派

※『歪黒樹の棘』が生えてきたタイミングで『リュミエーギィニー』が枯れ始めている事を書き忘れていたので訂正しています。

 枯れて光を失った『リュミエーギィニー(魔除けの針葉樹)』の奥には黒い靄が固まったような『歪黒樹の棘』が犇めきうねっていて、絡まり合う茨はまるで一本の巨木のように四方に枝を伸ばして禍々しい影を辺りに落としていました。


 その太さは直径六メートルから八メートルちょっと、樹高は三十メートルを越えていて……もうどうすればいいのかわからないといった大きさまで成長していますし、その周囲にはさながら茨の森というような大小さまざまな黒い茨がデバフを撒き散らしながら近づくプレイヤーから栄養を吸い取ろうと蠢いていて、そんな中にモンスター達まで犇めいていたりとなかなかどうしようもない状態になっていますね。


(リンネさんも渋っていましたが…これは納得の厄介さですね)

 プレイヤーが駆逐される前に一本でもいいので中核となっている『歪黒樹の棘(3本の巨木)』を伐採したいところなのですが、近づけば近づくほどスキルが使えなくなりますし、『ギャザニー地下水道』にあった茨よりデバフの効果が強いようですし、茨自体が暴れているのでめげそうになるのですが……私達が勝利する為にはこの厄介な黒い茨を何とかしなければなりません。


(人外系のステータス補正があるだけマシかもしれませんが)

 そのおかげで人並みに動けているのですが、私の後ろを恐る恐るというようについて来ているグレースさんは種族が人間なので特別な補正(種族補正)がありませんからね、いつもより動きにキレが無いような気がします。


『かなり『歪黒樹の棘』に近づいて来ましたが…大丈夫(デバフは大丈夫)ですか?』

 私は獲物を求めて伸びて来た黒い茨を『魔嘯剣』で打ち払いながら振り返るのですが、改めてPTを組んでおいたグレースさんは盾を構えながらあたふたと視線を左右に彷徨わせてから返事を返してきました。


『え…は、はい?大丈夫で()!』

 そして質問の意図を理解しないまま大きく頷くグレースさんは語尾を噛みながら頬を染めて視線を彷徨わせるのですが……『搾精のリリム』が精気を吸う時には快感を伴いますからね、ついうっかり気持ちよくしてしまったグレースさんからは色々な物が出てしまいましたし、湿った衣類を気にしながらモジモジ(下着を代えたそうに)していて……落ち着かないのか時々盾を無駄に振っていたりと集中力が切れているのが丸わかりですね。


(まあそのおかげで私のお腹が膨れたのですが…)

 そういう事(イチャイチャ)に免疫のないグレースさんが集中力を欠いてしまうのは仕方が無い事なのかもしれませんが、グレースさんが恥ずかしいと思えば思うほど吸い取れる精気が美味しくなるような気がして……もしかしたら下着を調達する事も着替える時間も作れたのかもしれませんが、モジモジしているグレースさんが可愛くて……いえ別にこれはそういう羞恥プレイの一環という訳ではないのですが、とにかくスキルが完全に封印されてからは牡丹や淫さんの調子も悪いので先を急ぐ事にしましょう!


(敵は熊派だけではありませんし)

 意図的にグレースさんから目の前の問題へと意識を向けるのですが……黒茨の森の中に犇めいているのは『ディフォーテイク大森林』から溢れて来たモンスター達で、具体的に言うと一メートルから二メートルくらいの黒くてネバネバした芋虫であるデファルシュニー、二十センチから三十センチくらいの電気を纏った巨大蜂であるパラライズビー、薄汚れたような灰色の樹皮を持つ枯れた大木であるオールドトレント、突き刺す事だけを考えているような巨大な牙を持つ一メートル五十センチ前後のサーブルボア、体高一メートルくらいの物凄く硬い甲殻を持つ巨大カブトムシであるビックホーンビートルなどが押し寄せて来ていて、レベルは大まかに三十後半から四十中盤と第二エリアの中盤くらいのボスであるゴブリンチャンプ(レベル43)に並ぶようなモンスターばかりですね。


 まあブレイクヒーローズの場合はレベルより取得しているスキルとAIによって強さは変わるので単純に比べる事は出来ませんし、私のレベルもこの戦いが始まってから1レベル上がって37レベルと目の前に居るモンスター達と同じくらいか下くらいなのでそうレベル差がある訳ではないのですが……それはあくまで『歪黒樹の棘』の影響が少ない場所で戦ったら何とかなるかもしれないという話ですからね、デバフ(スキルの封印)を受けながら戦うのは無謀以外の何物でもありません。


(とはいえ…『歪黒樹の棘』を伐採する為には犇めいているモンスターを蹴散らす必要があるのですよね)

 茨自体が襲ってくるのでコッソリ隠れて進む事が出来ませんし、現に今も黒茨を避けるように移動する私達に向かって奇妙な鳴き声を上げながら巨大芋虫であるデファルシュニーが向かってきていて……万全の状態で相対すれば何とでもなる相手なのですが、スキルが封印されている状態ではあまり戦いたくない相手ですね。


『ノワールは支援…グレースさんも構えてください!』


『ッ…は、はい!!』

 まだ子蜘蛛であるノワールの火力では相手にダメージを与えづらいですからね、何かあった時のサポートをお願いしつつグレースさんには迎撃指示を出したのですが……ノワールは軽く右手を振りながら離れて行き、ずっとワタワタしている訳にもいかないというように両頬を叩いて気合を入れたグレースさんは恥ずかしさを押し込みながら盾を構えて、その様子を眺めながら私も右手に『ベローズソード』を持ち、左手には『魔嘯剣』を持って斬り込みます。


 そんな私達の前に立ち塞がるのは私より(155cm)少し低いくらいのネバネバした分泌液を纏った黒い芋虫で、先制攻撃として繰り出した蛇腹剣(『ベローズソード』)の一撃は上部を覆っている甲殻のような装甲によって弾かれてかすり傷すら与える事ができません。しかも……。


(胸、が…痛、い…)

 スキルが無くなった事によってドレスによる胸の補正(支え)も無くなっていて、踏み込もうとすると胸がブルンブルンとおもいっきり揺れてバランスを崩してしまいますし、揺れに合わせてドレスと繋がっている下着が食い込んでピクンと身体が震えて切っ先がズレてしまいます。


 そんな状態ではまともに剣を振る事が出来ませんし、魔法そのものを軽減するドロドロとした体液は物理攻撃に対しても効果を発揮するのか剣先が滑りました。


(落ち着いて…)

 揺れる胸を支えながら一旦距離を取り呼吸を整えるのですが、麻痺攻撃をしてくるパラライズビーが近くに居ないのは良いとして、少し離れた位置に居るサーブルボアが突進体制に入っていますし、オールドトレントも獲物を見つけたというようにノシノシと近づいて来ていて……絵にかいたようなピンチに頭を抱えたくなりますね。


 一応スキル由来の魅了が抑えられているのでヘイト吸引効果が下がっているのでこちらに向かって来ている敵の数が少ないのが不幸中の幸いなのかもしれませんが、正直に言うと目の前に居るデファルシュニーだけでも手に負えないくらいの強敵で……。


「GYUKYURURU!!」

 何とか戦わずにやり過ごせないかと別ルートを探している内に巨大芋虫はブヨブヨした全身を縮めてバネのように跳び上がると砲弾のような勢いで突っ込んできて……デファルシュニーの攻撃は予備動作が大きいので何とか回避しながら『魔嘯剣』を置く形でカウンターを入れたのですが、ブヨブヨとした本体を覆う装甲に大きく弾かれて体勢を崩してしまいます。


(これ…くらいなら!)

 熊派パワーが注がれているのか何度か力試しとして挑戦した『ディフォーテイク大森林』で戦った時より勢いがあって手が痺れるのですが、デファルシュニーの突進攻撃は単調ですし、そのまま勢いを殺すように後転して受け身を取り……不意に嫌な予感がしてそのまま転がり続けると今まで私が居た場所に向かって赤色の何か(人影?)が降って来て、地面が爆発しました。


「グワッハッハッ、今のを避けるか!!レイブンやカイトが手こずるっていうのもあながち嘘じゃねーな!!」

 そうして楽しそうに笑いながら砂煙の中から現れたのは4メートル近い赤色の巨人で……私が熊派の幹部ではないかと思っているレッドジャイアントのギガントさんですね。


(こんなタイミングで来ますか)

 毀棄都市方面(安全な南東方面)に逃げ出す人を殲滅しつくしたのか中央のカイトさんやレイブンさんが敗れた事で配置換えになったのかはわかりませんが、あまり戦いたくない相手(熊派)がやって来てしまいました。


「悪いがここ()の防衛を任されちまったからな、オレの目が黒いうちは誰も通さ…ッ、たぁあ…!?」

 近くに生えている『歪黒樹の棘』を足場にエルボードロップを繰り出して来たギガントさんはのそりと立ち上がりながら巌のような左右の拳をガツンと合わせて吠えるのですが、そんな風に喋っている間に『ベローズソード』で目を狙い……魔力操作の無い蛇腹剣の剣速と軌道だと簡単に防がれてしまいます。


「てめぇ…喋っている途中に攻撃をしかけるんじゃねぇよ!最後まで話を聞きやがれっ!!」

 そして話している途中で攻撃を受けた悪の熊派(ギガントさん)が怒っているのですが……。


「先に卑怯な奇襲攻撃(ジャンピングエルボー)を仕掛けてきたのは貴方の方ですよね?」

 私は体勢を立て直す時間を稼ぐためにも言い返しておいたのですが、言われたギガントさんは「たしかに」というようなキョトンとした表情を浮かべて顎に手を当てます。


「ん…おお?そういやそうか…じゃねーよ!!オレ達は良いんだよ!なんたって悪の組織の一員だからな!!」

 そんなどうでもいい事を力説しているギガントさんなのですが、この手の巨大な敵を倒す時のセオリーともいえる目や口などを狙っても防がれるというのはなかなか厄介ですね。


 しかもギガントさんもパワーアップしているせいでその皮膚は生半可な攻撃では斬り裂けない事がわかりました(簡単に防がれました)し、デファルシュニーなどのモンスターは騒ぎを聞きつけて集まってきていますし、どうやってこの危機を乗り越えるかなのですが……。


(まだ諦めるつもりはありませんが…どうしましょう?)

 私の後ろにいるグレースさんは目を丸くしながらもやる気は満々ですし、ギガントさんの武器は素手ですし、防具は天幕か何かに使用されていた大きめの布を利用した六尺褌(前垂れの無い褌)という思い切った格好で……その巨体に合った装備が無いのがギガントさんの弱点ですね。


 何かしらのアイテムを隠しているような様子もないという事は下手な小細工をしてこないという事ですし、防御力を底上げするような装備も身に着けていないところに付け入る隙があるのかもしれませんが……思考を巡らせながら剣を構える私の視界には予想より早く動いた知り合いの姿が見えていて、これならなんとかなるかもしれないとほんの少しだけ口元を緩めました。

※プレイヤーのレベルについての補足ですが、第二エリアに居る最前線組(主力プレイヤー)の平均レベルは30前半くらいで、高い人は30後半くらいです。ユリエルが高いグループに入っているのはほとんどソロ活動をしているおかげで経験値を総取りしているからで、大規模PTやクランに参加している人とソロで活動している人で分かれている感じです。


※少しだけ修正しました(4/20)。

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