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363:変なあだ名をつけられました

 煙るような氷片とあちらこちらに生えている巨大な氷柱(つらら)を利用して死角から襲撃をかけたのですが、レイブンさんは野性的な勘をフル活用して『魔嘯剣』の一撃を防ぎながら吠えました。


「はっ…こんなお粗末な奇襲くらいで何とかなる訳がねーだろうが…よ!!」

 そして剣を持つ手と反対の手に持っていた瓶のような物で殴り掛かって来たのですが……どうやら視界が塞がれている間に回復でもしていたのか空のポーションの瓶を持っていたようですね。


「何とかなるとは思っていませんが…」

 そのよくわからない攻撃を上半身の捻りで回避し、返事を返しながらヒット&アウェイ気味に下がるのですが……あっさりと距離を離した事にレイブンさんが訝しげな表情を浮かべました。


「ん?……っと!?」

 そして冷気の靄が残っている足元を狙った『ベローズソード』を小ジャンプするように回避して距離を取られてしまったのですが……本当に攻撃が当たりませんね。


(『歪黒樹の棘』の影響範囲外であればもう少し操作できるのですが)

 現状だと鞭のように振るう事しか出来ないので軌道が限られていますし、氷柱が生えているせいで攻撃の種類(薙ぎ払いが出来ない)が限られていて、【ポーカーフェイス】で誤魔化してはいますがスタミナの消費が激しいので息が上がります。


(これはもう…回避(移動)させた事に意味があるという事にしておきましょう)

 余裕がある時のレイブンさんなら剣か氷の斬撃で対応していた筈ですからね、仕切りなおそう(距離を取ろう)とするくらいには虚をつけていたのかもしれません。


(時間稼ぎとしてはこれで十分ですね)

 私はレイブンさんとの距離を詰めながら戦場全体を確認するのですが、カイトさんの一撃を防いだアルディード女王はMPが空になってしまったのかエルフの兵士達に担がれて戦線離脱中ですし、カイトさんとグレースさんは舞い散る氷片に咳き込んでいて……向こう(グレースさん)も一杯一杯のようですし、ギガントさん(赤い巨人)のような人達(他の熊派)が集まってくる前に決めにかかるべきですね。


「ごほ、ごほ…ああもう!!何も見えま……ひっ!?」

 そんなふうに周囲を気にしながら細かく立ち位置を調整しているとカイトさん達の方にも動きがあったのですが、次に仕掛けたのはグレースさんでした。


「たぁあーあああ!!」

 因みにグレースさんにお願いした事は私を背にしながらカイトさんの気を引いてもらう事で、攻撃を当てる事よりも回避に専念するようにお願いしていたのですが……というのもグレースさんに攻撃やら回避やらの細かな立ち回りをお願いしつつ全体を見回して私の位置を確認してもらっていたらこんがらがる事が確定していますからね、やってもらう事は回避に専念しつつ私の方向に背を向けている事だけです。


 1対1という状態ならグレースさんのスペックをフルに活用できますし……まあカイトさんが多角的に蟲達を操って来たら一瞬でやられてしまうのかもしれませんが戦闘センスという点では2人とも似たり寄ったりですからね、お互いに目の前の敵に対処しようと視野狭窄に陥っているようなので問題はないのでしょう。


「ひ、ヒィィイイ…ぐっ、…ちょ、ちょっと、痛い、痛い!?な、なんでこっちに来るんですかっ!!?」


「わ、私にも色々と理由がありましてっ!!」

 盾をブンブンと振るグレースさんとボコボコにされているカイトさんなのですが、耐久力が高いハイオーク(カイトさん)木製の鈍器()で殴り殺す事は難しいようですし……だからと言って魔法の撃ち合いとなると呪文の詠唱があるぶんグレースさんの方が不利になりますからね、接近戦に持ち込んだのはなかなか良い判断だったのかもしれません。


 それに意外と良い感じに押していて……ここで一気い押し切ろうと私が攻撃するとカイトさんも不利を悟って逃げ出すでしょうし、レイブンさんも「そっちがその手で来るなら」と動けないアルディード女王を攻撃する可能性がありましたからね、なかなか難しい状況に陥ってしまうと思います。


 なので私達も1対1に固執していると見せかけてカイトさん⇔グレースさん:レイブンさん⇔私という直線を作り出す事に集中していたのですが……。


「ひぃっ…も、もう…怒りましたよ!!容赦はしませんから!あっちに行ってください!!」

 そして殴られながらもどこか嬉しそうな笑みを浮かべて涎を垂らしていたカイトさんはグレースさんのオーバーな動きを見て「頑張れば自分でも倒せるのでは?」と考えたようで、反撃する意思を固めて温存していたたミューカスカタピラーを差し向けるのですが……回避に専念していたグレースさんは「ひょわぁああ!!?」とか叫びながら理解不能な動きで弾幕の薄い方向に跳んで攻撃をやり過ごし、空振りになった熊派のパワーアップを存分に受けた火球が射線上にいるレイブンさんを強襲します。


「おーおーカイトの旦那も珍しく張り切っているみたいだなーやっとやる気に…ばっ!?てめぇ!!?ふざけんな!殺されたいのかッ!!」


「ひぃッ、す、すみません…つい…」

 利用したのはお互いの立ち位置すら確認していない熊派の連携不足、そして私の位置からはグレースさんやカイトさんの動きが見えているのにレイブンさんの位置からはどんな戦いがおきているかがわからないという位置関係。


「ついじゃねえよボケ!!てめぇから先にぶち殺してやってもいいんだぞッ!!?」

 レイブンさんの立ち位置的には(私と相対していた)背後からいきなり奇襲を受けた形となるのですが、それでも回避できない物はスキルを使って避けたり氷柱を生じさせて防いだり、そうして火球を捌くので手いっぱいになったところに私が斬りかかりました。


「ぐっ…まさかアレ(カイトさん)の馬鹿さ加減を利用されるとは思っていなかったけどよー…この程度で倒せるなんて思ってねぇよなぁっ!?」

 そんな私の攻撃にも反応してみせるレイブンさんなのですが、流石に後ろを気にしながらだと動きが雑になっていますし、フレンドリーファイアを受けた後なので集中力が下がっているようですね。


「思ってはいませんが…別に止めを刺すのは私でなくても良いのですよね?」

 私は射線上から逃げようとするレイブンさんに並走しながらカイトさんを動きを確認し、攻撃の手を()()()()止めてから回避行動を取ると「またかよ」というように舌打ちをうちながらレイブンさんが横に跳びました。


「お゙い!!いくらお嬢のお気に入りだからといってこう何度も……あ、やべ」

 怒鳴り声を上げながらイライラと後ろを確認する(振り返る)レイブンさんなのですが、その視線の先にはグレースさんと必死に戦っているカイトさんがいて……向こうは向こうで手いっぱいなのでこちらに攻撃をしかけている余裕が無さそうなのですよね。


「余所見をしていても良いのですか?」


「しゃらくせぇっ!!ってぇ!?」

 私はレイブンさんの着地を待たずに『ベローズソード』で左肩を狙って攻撃すると強引に剣で弾かれそのまま右に……私から見て左側に回避されるのですが、動きが雑になっていたレイブンさんは自分が作り出していた巨大な氷柱にぶつかり追い込まれます。


 後ろにも中規模の氷の塊があり……無茶苦茶に氷を作り出していたのが仇となった形になるのですが、そんな状況に陥ってもレイブンさんは嬉しそうに笑いました。


「やるなぁ…たまらねぇなぁ…天使の()()ッ!!」

 その愛称はどうかと思いますし追い詰められてもレイブンさんは嬉々として剣を振るうのですが……無理な体勢からの反撃なので狙いが雑ですし、追撃をかける気満々だった私と一旦仕切り直す予定だったレイブンさんの違いが少しずつ出てきたようですね。


(一気に畳みかけます!)


『やれやれ、やっと出番か』


(ぷーっ!!)

 そしてここで温存していた牡丹と淫さんによる全力攻撃をしかけるのですが、お互いに何かしらの奥の手がある事は想定していましたからね、崩れた体制のレイブンさんは牡丹の六本腕に持った投げナイフ、淫さんのスカート翼、そして私の攻撃を合わせた同時連続攻撃を防ぎ回避スキルを駆使して避けていくのですが……いくらパワーアップした熊派といっても多勢に無勢ですし、魔力をチャージする(冷気を放つ)隙なんていうものを与える気はさらさらありません。


「チッ…くそ…くそがっ!!」

 それでも強化されたグリーンリザードの表皮はそれなりに硬いので私達の攻撃の大半が決定打になりませんし、致命傷になるであろう『魔嘯剣』の攻撃は確実に防がれるのですが、それでも回避スキルや野生の勘を利用した防御を手数で潰して確実にダメージを与えていきます。


(問題は…)

 この作戦の欠点は削り切るまでに時間がかかる事で、最初から仕掛けていた場合は削り切るまでにカイトさんの妨害(横合いから火球)が入る事が確定している事でした。


 そしてこちらの手の内(衣類が動く事)がバレた上での苦しい戦いとなっていたのですが……カイトさんが戦闘に参加してしまった事で逆に援護する事が出来なくなってしまい、今はもうこちらに手を出している余裕がないのですよね。


「ああくそ…折角これだけ滾る相手が居るつーのによぉッ!?まだ終わらねぇ、まだ終われねぇッ!!」

 追い込まれながらも最後まで諦めないレイブンさんは牡丹のナイフを表皮で受け止め手に持った剣で『魔嘯剣』を防ぎながら反対の手をポシェット(マジックバッグ)に突っ込むのですが……そんな明確な隙を見逃すほど私達は甘くありませんよ?


(終わり、です!)

 乱戦になってから今まで潜んでいたノワールが糸を吐いてレイブンさんの腕を絡めとると、反対の腕を淫さんが拘束して牡丹がナイフを突き立て動きを止めます。


 そして冷気が溢れ出て(自爆覚悟の攻撃が)来る前に私がレイブンさんの持っている剣を弾いて飛ばしておいたのですが……そんな状態でもレイブンさんは打開策を探すようにギョロリとした目玉(視線)を彷徨わせるのですが、ワタワタと戦っているカイトさんは怒られる事(同士討ち)を恐れて操るモンスターをミューカスカタピラー(数の減った芋虫)から近接用のデファルシュニー(大森林の大芋虫)に切り替えていて、援護が受けられない事を悟ると息を吐きました。


「づぁっ…チッ…はぁああ…ああ、くそ…ははっ、これがお嬢の警戒する天使の姉御の強さか…滅茶苦茶つえー…はぁあああ…って、なあ連絡先の交換とかしといていーか?」

 そして負けを認めたレイブンさんはチロチロと細い舌を出しながらフレンド申請を送って来るのですが、私は容赦なくその胸に『魔嘯剣』を突き立てて申し込みを却下しておきます


「面倒な事になりそうなので…お断りしておきます」


「ひひっ…じゃあまた今度だな…今度こそギンギンにそそり立った俺様のチ〇コで姉御をヒイヒイ言わせて…」

 これ以上話していても碌な情報は得られなさそうですからね、奥の手やら変な反撃を受ける前に傷口を抉るように斬り上げてレイブンさんに止めを刺しておきました。


『なんなんだろうな、この男は』

 そして粒子となり消えていく(リスポーンしていく)レイブンさんなのですが、最後まで色々と可笑しかったリザードマンに対して淫さんは呆れたように呟くのですが、本当になんなのでしょうね?


(それより今はグレースさんの援護ですよ)

 何か厄介な人に目をつけられたような気がするのですが、グレースさんとカイトさんがワーキャーとやり合ったままですし、今はそちらの制圧を優先する事にしましょう。

※少しだけ修正しました(4/20)。

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