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36:勝負の行方とロックゴーレム

 アヴェンタさんとの勝負の行方ですが、結論だけ先に言うと……よくわからない事になりました。


「…お前、本当に体力ないな」

 呆れたように肩をすくめながら、襲ってきたピットを蹴散らしていたアヴェンタさんが引き返してくるのを見ながら、私は荒い息を何とか整えようと深呼吸を繰り返します。


「すみ、ません……」

 無理でした。私の体力では30分以上走り続けながら戦うなんて事は出来ませんでした。しかも長時間持ち続けている『純鉄のロッド』が地味に重いです。何か気づけば【筋力増強(微)】のレベルが2になっていますし、それだけ負荷になっていたのでしょう。


「で、次はどっちに行けばいいんだ?」


「次は……右、です」

 攻略情報を仕入れた時に覚えたMAPを思い出しながら、私はアヴェンタさんに指示を出します。


 というよりも、30分以上走り続け、戦い続けて息一つ乱さないアヴェンタさんが異常すぎます。何かそういうスキルでも取っているのかと思ったのですが、聞いてみたら「根性だ」との事です。色々と規格外すぎるでしょう。


 こうなると勝負はアヴェンタさんの勝利に終わったと言うべきなのかもしれませんが、どうやらアヴェンタさんは最深部に向かう順路を知らなかったようですね。

 全力で別ルートに走り去って行くのを不思議に思っていたら、途中で引き返してきてと言うのを繰り返した結果、私に合わせて移動した方が早いと、アヴェンタさんものろのろと歩く私のペースに合わせて移動するようになりました。


 結果的に、ピットの討伐数はアヴェンタさんが、最奥到着は私という感じになったようですね。まあまだ到着していないのですが、アヴェンタさんが「迷路かよ、くそが!」と白旗を上げたので、不戦勝で私の勝ちが確定したらしいです。


「もうすぐです」

 アヴェンタさんが戦ってくれたお陰で体力を温存出来ましたし、息を整えられました。大きく深呼吸をして、気持ちを切り替えます。


 細かった通路も徐々に広くなっていき、ボス(ロックゴーレム)のいるという、最奥の開けた採掘場が見えてきます。それに合わせて、徐々に人の声や戦闘音なんかも聞こえてきました。


「そうみたいだな」

 アヴェンタさんは今にも飛び出していきそうな、獲物を狙うような笑みを浮かべたのですが、そのまま突撃するような事はしませんでした。どうやら私の体調を心配しくれているようで、顔色を窺うような視線を送ってきていますね。


「先に戦っている人がいるのなら、順番を待たないと横殴りになってしまいますが……」

 そのあたりを指摘すると不貞腐れそうな人だと思ったので、私はあえて一般論的な話をする事にします。


「面倒臭ぇ…早い者勝ちでいいだろうが」

 アヴェンタさんのあまりにも率直な意見に苦笑いがこぼれますが、とにかく、一旦会話から思考を切り離して広場の様子を眺めます。


 どうやらこの採掘場には灯りが十分あるらしく、ここからでも戦っている様子が見えますね。“見える”という事は、PTごとにサーバーが分けられている訳でもなさそうです。そうなると順番を待つのがセオリーになるのですが、そのあたりの取り決めはどうなっているのでしょう?


 ボス戦のフィールドになっている採掘場の広さはだいたい直径200メートルの円形で、あちこち掘り出したと思わしき鉱石の山や横転したトロッコ、レールや、採掘道具などが散らばっていますね。地面は段差のある場所があるものの、比較的平坦な場所が多く、戦うのに不自由はしなさそうです。

 私達の方から見て、奥の方にロックゴーレムと取り巻きのように湧き出るピット達がいて、それに挑むプレイヤー達の集団が見えますね。

 手前の方では順番待ちをしているのか、別の集団が見えました。何人かは私の姿(角と翼)に驚いた様子を見せたのですが、隣にいるアヴェンタさん(普通の人間)を見てホッとしたような表情を浮かべます。

 よくよく観察してみると、どうやらそれほど秩序だって順番待ちをしている様子ではないですね。待機しているプレイヤー達が順番に戦闘に参加していっているようです。


「皆さん、攻撃の手を休めないでください、次々に攻撃して!」

 採掘場にいるプレイヤー達の指揮を執っているのは、ロックゴーレムの近くで戦っている女性プレイヤーでした。


 長めの金髪をサイドに流した、美人タイプの女性ですね。種族は人間で、胸のサイズはDカップくらいの、均整の取れたプロポーションをしています。武器は細身の剣と鉄の盾で、よく通る声で周囲のプレイヤーに声をかけながら戦っています。

 周囲のプレイヤー達の動きが若干ぎこちない事を考えると、もとから組んでいたというよりも、即席PTなのでしょう。それでも何とか連携を取りながら、ロックゴーレムに攻撃を与え続けているのですが……。


「何だあのぬるい攻撃は、日が暮れちまうぞ」

 アヴェンタさんは呆れたように吐き捨てました。


 ここまで(ダンジョン最奥)来れたプレイヤー達ですからね、それぞれそれなりに実力はあるのでしょう。ただ相手にするロックゴーレムが悪すぎました。

 大きさは高さ5メートル、横幅はその1.5倍もあり、巨体を生かす様に横薙ぎの攻撃が多用され、攻撃しているプレイヤー達は距離感を測りかねているようですね。そうしてまごまごしているうちに、巨大な岩石が直撃するに等しい横薙ぎの攻撃や、ストンプ攻撃、無限湧きのピット達に押し切られて倒れていっているようです。

 まあ何とか近づけたとしても、プレイヤー達が持っている武器は剣とか槍とかそういう物ですし、相手のロックゴーレムには文字通り歯が立たないといった様子です。


「それだけの自信があるのでしたら、ぜひ参加を。手が足りませんので」

 私達がそんな戦闘の様子を眺めていると、スッと横から現れたのは、金髪の、どこかキツネ顔の男性でした。獣耳はないのですが、もしかしたら本当に狐系の獣人なのかもしれません。糸目をニッコリと曲げ笑っているような顔をしているのですが、言葉には毒が込められていますね。


「お、いいのか?」

 そういうの(毒舌)にはあまり敏感でないのか、アヴェンタさんはウキウキとしながら大剣を引き抜きます。


「ええ、勿論です。一人二人でどうにかなる訳ではないようなので、暫定的なレイドボスという感じで皆さんで攻撃しようという事になりましたので」

 なんでも攻撃を中断するとロックゴーレムは【安息】のスキルを発動するらしく、HPを回復させてしまうようですね。なので最深部にいた複数のPTが協力して攻撃をし続けているそうです。

 手前側に集まっている人達は単純に腰が引けている人と、体力を回復するために下がってきた人の集団であり、交代しながら攻撃を続けているとの事でした。


「ちょっとレミカ!貴方も早く戦闘に参加しなさい!なんでワタクシがずっと戦闘に参加しているのですか!こういうのは貴方の役目でしょう!?」

 陣頭指揮をしていた女性がキツネ顔の男性に拳を振り上げて怒鳴っていますね。レミカと呼ばれたキツネ顔の男性は、オーバーに肩をすくめてみせました。


「いやーモモさんの戦いぶりがあまりにも見事な物だったもので、僕が戦う必要がないかと」


「必要があるとかないとかじゃなくて…ってキャーッ!!?」

 ブンッとロックゴーレムが横薙ぎに払った一撃を、モモと呼ばれた女性プレイヤーが間一髪で回避します。何故かその姿をものすごく嬉しそうな顔で眺めていたレミカさんは「やれやれ」と息を吐きました。それから短剣を抜くと、構えます。


「という訳ですので、是非二人にも参加していただけると助かります」

 レミカさんの武器はどうやらその短剣のようですね。どう考えてもロックゴーレムを相手にするのなら威力が足りなさそうで、頼み込むような目で私達を見てきます。


「もとからそのつもりだ」


「わかりました。そういう事なら参加いたしましょう」

 横殴りにならないのでしたら、全力で行かせてもらいましょう。


 私とアヴェンタさんは、めいめいの武器を構えて、ロックゴーレムに向けて走り出しました。

※採掘場の広さは大体甲子園球場のグラウンドくらいの広さです。

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