表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

376/527

359:蹂躙の裏側

 時間帯的(リアルでは夕方)にまだ薄暗い(ゲーム内は夜)のですが、私の場合は暗視能力(【暗視(弱)】)があるので視界に問題はありません。むしろ誰かが上げた魔法の照明弾があるおかげ周りは明るいくらいで、斑模様に照らし出されている巨大な『歪黒樹の棘(黒い茨)』が……大きな物は西と南西と中央やや南側の三本でしょうか?その周囲には枯れて腐り始めた『リュミエーギィニー』と大小さまざまな黒い茨が広がっているのですが……目を背けている場合ではありませんね。


(それにしても…)

 『隠者の塔』に侵入したモンスター達はまさしく手あたり次第と言うように人々を襲っているようで、熊派に襲われた人は比較的普通にやられているのですが、モンスターにやられている人達はそのまま凌辱の限りを尽くされているようで、南西の『ディフォーテイク大森林』から湧き出して来たオールドトレントに絡めとられて装備を剥ぎ取られている人やドファルシュニーという巨大な芋虫に這い寄られて押さえつけながら媚毒を擦り込まれている女性達は大変な目にあっているようで、南からは『ギャザニー地下水道』から溢れたゴブリン達が物量を頼りに襲い掛かってきており、東からはハーピー達があの嫌らしい振動波を放ってきたりと乱痴気騒ぎがおきていて、味方を助けようと割り込んでくるプレイヤーの攻撃が飛んできたりモンスター側がワラワラと集まって来たりと本当に酷い有様ですね。


 そして本格的に攻め込まれた影響なのか『隠者の塔』はセーブポイントとしての機能を失っているようで、死んでいった人がリスポーンする事がなくて……最寄りのセーブポイント(『イースト港』?)に飛ばされて行っているのか反撃できるプレイヤーの数が時間と共に減少していき、それに伴い加速度的に防衛側が劣勢に立たされていっているようです。


(侵入するのならこのまま直進するのが無難でしょうか?)

 現在地は『隠者の塔』の南東(毀棄都市)側で、北上しようとすればハーピー達が飛び回っている場所(東から北東)を通過する必要がありますし、反対側に回ろうにもモンスターの群れが遮っていて、おあつらえ向きのようにこの方面には『歪黒樹の棘』が生えていないのでこのまま進む方が良いのかもしれませんね。


 そんな事を考えながら私は息を整えるように大きく深呼吸をするのですが、『隠者の塔』に近づいたところで私達も黒い茨の影響を受け始め……封印の強度は遠距離系、魔法系、通常スキル系、身体強化系と言う順番で強くなっており、私の場合はギリギリ【魔翼】と【羽ばたき】が機能しているので機動力は確保できているのですが、【マジックミサイル】や周囲に影響を与える魅了系のスキルはいまいち不調で、黒い茨に近づいたら何もできなくなる可能性があるので立ち回りには注意していきましょう。


 とにかくそういう周囲の戦況や状況を確認しながら全力移動に伴う疲労を回復させるために『スタミナ回復ポーション』を飲むのですが……まず敵の攻勢が手薄な北側まで迂回する為にはハーピー達が飛び回っている場所を通過する必要があるのでパスするとして……それらを迎撃しているのはジョンさん達でしょうか?エルフの兵士さん達と協力して何かしらの(魔法)でハーピー達の振動を防ぎながら一進一退の攻防を繰り広げていたりするのですが、お互いに広範囲攻撃を繰り返しているので近づくのは自殺行為ですね。


 続いて私達が居る南東側は『歪黒樹の棘』の生えていない場所という事で多くのプレイヤー達が逃げてきているのですが、それを遮っているのは4メートルくらいの赤い巨人と熊派の面々で、その巨体から放たれる圧倒的な暴力で逃げ腰なプレイヤー達を蹂躙していました。


 その戦いぶりは荒々しいの一言で、赤色の巨人は熊派の幹部クラスなのかもしれませんが……『弱点看破』の結果はギガントさんと言い、レベルは33のレッドジャイアントと私よりレベルが低くはあるのですが、スキルゲーであるブレイクヒーローズだとレベル差はあまりあてに出来ません。それに……。


(強化状態…ですか)

 キリアちゃん(熊派の首魁)か『歪黒樹の棘』の力だと思うのですが、暴れている熊派やモンスター達は軒並みパワーアップしているようで、その辺りに居る一般モンスターと戦うより面倒な事になりそうなので熊派と戦うのはグレースさんの救助を行った後が良いかもしれません。


(そう考えると今の状況はなかなかラッキーな状況ですね)

 プレイヤーの大半がわかりやすい敵役である熊派に襲い掛かっている状態で……というより熊派を集中的に狙っているせいでモンスターが無視されているだけなのかもしれませんが、良い感じに熊派の足止めをしてくれていました。


 これで人探し中の私達が狙われる確率が下がりますし、中途半端に逃げ道なんてあったらプレイヤーの大半が『隠者の塔』から脱出してしまって奪還作戦も何もない状況になっていましたからね、熊派は熊派であまり細かな統制が取れていないのかもしれません。


「お…?」

 そんな事を考えていると後ろから看破が放たれた事で(不意打ちかと)振り返るギガントさんなのですが、そんな大きな隙を晒した瞬間に彼と対峙していたプレイヤー達の総攻撃が始まります。


「今だ!畳みかけろ!!」


「おぉぉおおおっ!!どけぇえええっ!!!」

 そして特攻する人、使えるスキルを使って打開しようとする人、突破だけを狙って駆け抜ける人、ギガントさんはその勢いに少し驚いたようなのですが「その意気や良し!」というようにガハハと笑うと、こぶしを打ち鳴らして吠えました。


「よっしゃぁああかかってこいやおらぁああっ!!全員仲良くミンチにしてやらぁああ!!」

 そうして熊派VSプレイヤー達の戦いが激化していくのですが、冷たいようですが退路を彼ら(熊派)が塞いでくれているおかげでプレイヤーの多くが逃げそびれていますし、熊派の視線を引き付けてくれているうちにコッソリと侵入してしまいましょう。


 因みに最寄りの戦況はそういう感じであり、南側は『エルフェリア』から溢れ出して来たゴブリン達が攻め入って来ていて……南側の防衛には(ゴブリン)の対処が必要という事でシノさん達のような魔法使い(範囲攻撃勢)が沢山居たようなのですが、スキルが封印されてしまった魔法使いが無数のゴブリンにかなう訳もなく蹂躙されていて、戦線が突破されていました。


 そして南西にある『ディフォーテイク大森林』からは大量のトレント系のモンスターやら蟲系のモンスターやらが押し寄せてきているのですが、こちら側(エリアボス側)は敵の主力が来るだろうという事でリンネさん達のような熟練PTやクランが立ち塞がっていて、特にリンネさん達は『ギャザニー地下水道』の黒い茨によって酷い目にあった事がある人達ですからね、苦戦はしているものの周囲の人達に声をかけながら上手く立ち回っている(南西から西の維持)ようですね。


 最後となる北側は敵の本拠地から最も遠いという事で比較的手薄なのですが……まあこちら側はすぐ傍がエリア外(断崖絶壁)となっているのでわざわざ塞ぐ必要が無かったという事で伏兵(熊派)を配置しなかったのでしょう。


 とにかく戦況はそのような混戦状態で、こうなると問題となってきるのが中央にまで攻め込んでいるゴブリン達なのですが……私はギガントさん(最寄りの熊派)と『歪黒樹の棘』の影響範囲に入らないように迂回しながらグレースさんを探す事にしたのですが、思ったより攻め込まれていたのでアルディード女王の安否も確認しておいた方が良いのかもしれません。


ここで(ワールドクエスト中に)アルディード女王が倒されたら大変な事になりますし)

 レナギリーとの和解のためには協力を要請しないといけませんし、ワールドクエスト中に女王陛下がやられてしまった場合は今後の戦況に大きな影響を与えすぎてしまいますからね、救助する必要があったら救助しておきたいと思います。


 そういう訳でグレースさんを探しながらアルディード女王を探す事にしたのですが、なんとなくグレースさんなら人の流れに沿って動くと思ったので人の動きを追いながら移動していると私が人外系(『搾精のリリム』)だからか熊派と間違われて時々攻撃が飛んできて……よく見てみるとそのプレイヤーが熊派だったり熊派じゃなかったりとややこしいので適当にあしらっておきましょう。今はそれより……。


(大丈夫ですか?)


(ぷ~…)


『…問題ない』

 ノワールは地力(ダークスパイダー)があるからなのか比較的マシな方なのですが、【テイミング】スキルで繋がっている牡丹と【淫装】で繋がっている淫さんがどうにも不調のようで、『歪黒樹の棘』の影響下に入ってからは動きが鈍いですね。


 まあ暴走したり意識が飛んだりはしていないようなのでまだまだ大丈夫なのかもしれませんが、スキル(身体強化など)が封印されているせいで身体が重いですし、あまり無理はしないように立ち回る事にしましょう。


(わかりました、2人共あまり無理をしないように…)

 私は3人の様子を窺いながら辺りを見回すのですが、どうやら女王陛下達は南から押し寄せたゴブリン達の襲撃を受けて北側に押し出されて行ったようで、中央のテント付近にはいませんでした。


(どうしましょう?)

 グレースさんに連絡を入れて現在地を聞けばすぐに場所を特定する事が出来るのですが、すでにリスポーン(死亡して復活)しているのなら助けに行く(場所を聞く)必要がありませんし、生き延びているのなら話しかけた事によって邪魔をしてしまう可能性があるのですよね。


 そうでなくてもグレースさんは乱戦に弱いですし、話しかけたせいで注意が逸れてやられてしまったら申し訳なくて……とりあえずゴブリンの死体を追いかけながら北側に向かってみると、2メートルくらいの筋肉質なゴブリンがアルディード女王を押さえつけているのを発見しました。


 その周囲に飛び散る白濁した液体は……あまりジロジロと見ない方がいいのかもしれない行為の結果かもしれませんね。とにかくこの筋肉質なゴブリンはゴブリンチャンプと言い、ゴブリンジェネラルの代わりに『ギャザニー地下水道』のボスをやっている廉価版のゴブリンなのですが……『歪黒樹の棘』による強化があるので下手をしたらゴブリンジェネラル以上の強さがあるのかもしれませんし、周囲にはパワーアップしたゴブリン達も居るので気を抜かない方が良いでしょう。


 そうして彼我の戦力差を分析しているとホブゴブリンに襲われそうなグレースさんを発見したのですが、左手に付けている奇妙な盾はアルディード女王から貰った物でしょうか?


(後でどんな効果の物を貰ったのか聞いてみたいですね)

 とにかくアルディード女王が即時殺されるような状況ではなかった(楽しんでいた)のでグレースさんの救出を優先する事にして、私はスキルの封印の影響を受けながらもスカート翼と【魔翼】で接近し『ベローズソード』の一閃で周囲に居たゴブリン達を薙ぎ払うのですが……茨の影響でやや軌道が甘いですね。


 それでも直接的な武器スキルはまだ生きているのか『剣舞』が入り、グレースさんに詰め寄っていたホブゴブリン達の首を一撃で斬り飛ばします。


「大丈夫ですか?」

 そして私がゴブリン達との間に入るとグレースさんは大きな目を真ん丸に見開いて、それがフニャフニャと弛んでいき……。


「ユリエルさぁ…ん」

 今まで必死に戦っていたと思われるグレースさんは気が抜けてしまったのか涙でぐちゃぐちゃになりながら抱きついて来たのですが、私はその温かさと柔らかさをしっかりと受け止めてから、改めてゴブリンチャンプとその取り巻き(ゴブリン)達に対して剣を向けました。

※定期的に抜けているような明るさの設定についての補足ですが、ユリエルの場合は暗視能力があるので明確にデメリットがあるような時以外は描写したり描写しなかったりしています。そしてグレースさんサイドでは本人の特殊な目によって明暗がよくわかっていなかったりするのでよほどの事が無ければ描写される事がありませんし、描写されたとしてもグレースさんが一般人ぶるための演技だったりします。


※少しだけ修正しました(4/19)。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ