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35:アヴェンタさん

 男性プレイヤーに大剣を突き付けられ、私は目を細めます。これ、どう考えても敵だと思われていますよね?まあ見た目はそれっぽい(角と翼もち)かもしれませんが、装備はブレイカーの物なのでその辺りで判断して欲しいものですがと、ため息を吐きたくなります。


「私もプレイヤーですが、それを知って向けているというのなら、相手になりますよ?」

 胸元のギルドカードを示しながら私がそう言うと、男性の方は目を瞬かせました。男性がランプを持っている事もあり、こちら()からははっきりと姿が見えるのですが、相手の方からは殆ど見えないようですね。男性は焦点を合わせるように睨みつけてきたかと思うと、私のギルドカードを認めたのか、ため息を吐きました。


「なんだ人か…紛らわしい。折角こいつ(大剣)の試し切りが出来ると思ったのにな」

 毒づきながらも、武器は仕舞ってくれました。


「ご期待に添えずすみません」


「……チッ」

 何か言いたそうだったのですが、ただただ面倒くさそうに舌打ちをされました。なかなかガラの悪い人ですね。そのまま歩き去るかと思ったのですが、何か逡巡するように辺りを見回した後、頭をポリポリとかいています。何がしたいのでしょう?よくわからなかったので私もその男性を見返していたのですが……改めて見ていると、持っている大剣に目が行きますね。この男性は片手で軽々と大剣を出したり引っ込めたりしていますが、どう考えても片手で扱える物じゃありません。


 ツヴァイヘンダー。日本だとツヴァイハンダー読みの方が一般的かもしれませんが、そういう種類の大剣です。長さは1.7メートルで、見た感じ少し分厚く作られているようなので、一般的な物より重量がありそうですね。重さ的には私の『純鉄のロッド』も似たような重さがあるのですが、長さが違いますからね、扱いやすさは天と地ほどの差があるでしょう。


「何だ、お前もこれに興味があるのか?」

 私がじっと大剣を見つめていると、男性は表情を緩めます。自分の好きな物を語る時の男性特有の表情といいますか、しかめっ面をしていなければ一気に印象が変わる人ですね。大きな犬が尻尾を振ってきたような態度の豹変に、一瞬誰か(スコルさん)を思い出しかけましたが、それはまあいいでしょう。


「いえ、それほど。ただよくそんな物を軽々と振れますね、と、見ていただけです」

 閉所の多い鉱山ダンジョンに持ち込んでくる辺り、私からすると選択基準も謎です。


「そうか…」

 私がバッサリと切り捨てると、男性はどこか傷ついたような、私が同好の士でなかった事にショックを受けたような表情になります。本当にただ“こういうのが好きだから”という理由で使っているのでしょうね。そういう考え方は素敵だと思います。


 とにかく、改めて自己紹介しあったこの男性はアヴェンタさんといい、何でもβ時代のトレーラー映像に映る大剣を見て振ってみたくなったそうです。名前も確か大昔の車か何かからの引用のようですし、実はミーハーなところがある人なのかもしれません。


「他のゲームだとどうしても重さがしっくりこなくてな。だがこのゲームのは、いい」

 そう言いながら軽く素振りをしてみせるのですが、剣圧(風圧)が凄いですね。近くで見ている私の髪が微かに揺れます。


「そうですね」

 私が適当な同意を示すと、アヴェンタさんは挑戦的な笑みを浮かべます。


「で、さっきの面倒臭ぇ提案だが……断ると言ったら?」


「別に、何も?」

 私が提案したのは、交互に戦うという取り決めです。セオリー的にはと言う注釈が付きますし、ゲームとしてルールが決まっている訳でもなく、『平等に、平和的に解決しましょう』以上の物ではないですからね。納得してくれない(それでトラブルになる)のでしたら、適当に時間差を付けて進めばいいだけです。


「俺は誰かの後についていくのも、誰かについてこられるのも好きじゃねぇ、だから……勝負だ」


「…勝負、と言いますと?」

 この人は何を言い出したのでしょう?


「俺も、お前も、この奥を目指しているのだろう?ならどちらが先に到着するか勝負だ。敵の屠った数でもいいぞ?」

 なるほど、確かにそれならどちらかの負担が増すという事はないのでしょう。ただ、勝負にする必要があるのかという事や、何だかんだ二人で敵を倒しながら最奥を目指すのならいっその事PTを組めばいいのにと思わなくもないですが、ソロでいたい人なのでしょうね、きっと。


「わかりました、お受けします」


「…いいのか?」

 提案しておきながら、私が受けると思っていなかったのか、アヴェンタさんは意外そうな、どこか面白がっているような表情を浮かべます。


「何か不都合な事でも?」

 どちらにしても同じルートを進むわけですし、勝負形式というのも……悪くありません。


「いや、ねぇな。じゃあスタートはこの石が地面に落ちたタイミングだ」

 言いながら、アヴェンタさんは大剣で地面にある石を上に弾きます。サッカーのリフトアップの要領なのでしょうけど、それを剣でやってのける技量に驚きますね。そしてその技量に目を見張っていて、出遅れました。


「しゃぁっ!!」

 アヴェンタさんが一声吠えて走り出したのに我に返り、私もその後を追いかけます。


(って、これ……)

 よくよく考えると、勝負を受けたのはかなり無謀でしたね。売り言葉に買い言葉と言いますか、私って実は負けず嫌いなのでしょうか?いえ、そんな事はないですね。人間不利益がなければ話を合わせるものですし、きっと普通の事でしょう。


 そんなどうでもいい事を考えながら走り出したのですが、意外とアヴェンタさんとの距離は離されていません。

 確かに私の走る速度は全然駄目なのですが、アヴェンタさんは灯りを頼りに走らなければならず、実はそれほど速度が出ていません。これなら【腰翼】を使えば勝ちは確実なのですが、短距離ならまだしも、ダンジョンの最奥までとなると私のスタミナが尽きますね。なので灯りを頼りに走るアヴェンタさんと、【暗視(弱)】があるものの走るのが根本的に遅い私が良い勝負になっています。


 と、そんな風に走り出した辺りで、ここは敵の数が多いルートですからね、ピット達がわらわらと湧いてきます。数は7体。一気に増えましたね。

 こんな閉所でどうやってアヴェンタさんが対処するのか目を凝らしてみると……。


「らぁっ!!」

 走る勢いそのまま、ピットを蹴り飛ばしました。所謂喧嘩キックですね。先制を受けたピット達はめいめいに攻撃を開始するのですが、アヴェンタさんは薙ぎ払っていきます……素手で。


 いえ、確かにこんな場所で大剣を振ったら壁に当たるので仕方がないのかもしれませんが、左右から来た敵には裏拳や拳、倒れた敵にはストンピングと、おもいっきりステゴロです。手に持った大剣が全然活躍していません。それでピット達を倒していけるのですから、単純にアヴェンタさんのポテンシャルが凄いですね。


 それでも流石に1対7ではアヴェンタさんも取り囲まれ、進行が止まりました。倒した数は4体なので、残り3体ですね。正面にツルハシA、左にツルハシB、右にスコップAです。微かに舌打ちをしたような音が聞こえてきます。

 左右の攻撃は無視して正面突破をする事を決めたのでしょう、再度走り出そうと踏ん張ります。ただ、少し敵の攻撃の方が早いようですね。攻撃を受ける確率が高そうです。今の(競走中の)アヴェンタさんは(ライバル)なのですが、仕方がないですね、カットに入りましょう。


 左のツルハシは予備動作中、右のスコップAの攻撃の方が早そうですね。私は【腰翼】で間に飛び込むと、左手のロッドでスコップを払い、右手のロッドで頭蓋骨を沈めます。正面のツルハシAはアヴェンタさんが倒してくれていますし、そのまま走り抜けたことで、左のツルハシBは攻撃を空ぶらせています。その振り終わりを狙い、一撃叩き込んで沈めておきましょう。


「お?」

 一瞬、アヴェンタさんと視線が合いました。こうやってしっかりと目が合うくらいには、アヴェンタさんも周囲を見ているようですね。アヴェンタさんは何か楽し気に笑うと、そのまま走り抜けていきました。

 助けてくれたのはありがたいが、勝負は勝負という事でしょう。何か面倒くさい人だなとは思ったのですが、勝負は始まったばかりですからね、私も気合を入れていきましょう。

※誤字報告ありがとうございます(1/29)訂正しました。

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[気になる点] ステータス補正STR-Bの主人公でもあきらかに無理な大剣を片手持ちって、キャラ設定大丈夫なのか…
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