34:フィルフェ鉱山(その2)
夕食を食べて、今日の分の宿題を終えて、後はお風呂と日課のストレッチですね。それで時間は夜中の10時くらい。出されていた宿題が案外簡単だったので予定より早く終わったので、もう少し繋ぐ時間はありそうです。
攻略掲示板を見ている限り、鉱山の攻略も進んでいるらしく、先頭組は最奥の採掘場に到着したそうです。やはりと言うかお決まりのパターンと言いますか、そこにはボスのロックゴーレムが居たそうで、今はその攻略を目指しているのですが、なかなか上手くいっていないようですね。
その圧倒的な防御力と、ストンピングによる衝撃波。よくあるゴーレム戦といえばそうなのですが、初日で火力が足らず、回避や防御スキルも充実していませんからね、臨時PTが結成されたりしているようなのですが、なかなか苦労しているそうです。
苦労していると言えば、そこまで行くのにもなかなか苦労しているようで、参加者の6割くらいは途中で脱落するようですね。何か難所があるのかと思ったのですが、どうやら普通にピットにやられているようです。
これは初見時、耐性的な物に対処出来なかったのかと思ったのですが、どうやらブレイクヒーローズの戦闘システムが関係してきているようで、つまり、ダメージを受けると普通に痛いという事ですね。いえ、当たり前の事かもしれないのですが、普通のゲームは痛覚設定がもうちょっとしっかりしていますからね。その痛みに怯んでいるうちに2撃目を受けてしまうという感じらしいです。
まあいくらHPが残っていると言われても、ツルハシやスコップで殴られたら痛いに決まっていますからね、刺さったり斬られたりしたらその時点で戦闘不能に近い状態で、HPなにそれ美味しいの?状態になってしまうそうです。ここでも『クソゲー』だとか『いや、斬られたら痛いに決まってるだろ?』とかやりあっている人達がいましたが、それはまあ良いでしょう。
とまあ、そんな悲喜こもごもこもった攻略情報を頭に入れてから、私は再度ログインする事にしました。
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まずやる事は食料の補充に、武器の更新ですね。解体用の短剣も、本来の用途以外で使っているので耐久度の減りが大きいので、この際一緒に買い替えましょう。はぐれの里とアルバボッシュを行き来して、必要な物を買い揃えていきます。
短剣は、今までは武器にする事を前提にしていましたが、今回は別のメインウェポンを用意するので、本当に解体専用の『鉄の解体用ナイフ』を購入しておきます。ゲーム的なデータでいうとレアリティ【C】の品質【C】ですね。長く使う予定なので、店売り品の中では良い物を買っておきます。
続いて買ったのが『純鉄のロッド』という……鈍器ですね。長さは65センチで、太さは3センチの円柱形、重さを軽減する中空構造になっておらず、ギッシリ詰まった重さは6キログラムもありました。先端にちょっとした装飾が施されているのですが、それが良い感じに先端重量を高めてくれていますね。ゲーム的なデータだとレアリティは【UC】で品質は【C】です。それを右手用と左手用に2本購入しておきます。
この重さになるとちょっとしたダンベルを振り回しているような状態ですね。持ち運びはともかく、振るとなれば生身の状態だと扱うのは困難なのですが、ゲーム的なアシストを受けていれば何とか実用レベルと言ったところです。ただこれを今の剣帯に吊るすとズボンがずり落ちてしまうので、持ち運びはずっと手持ちです。まあ鉱山攻略の間だけという事で我慢しましょう。
SPは振らないので加護は得られないのですが、素材自体の耐久力はそのまま適用されますからね、これならそうそう壊れないでしょう。
色々購入した結果、残金は8,200Fと少し心もとなくなってきたのですが、必要経費として諦めましょう。とにかく、こうして準備を終えて、私は再度『フィルフェ鉱山』に戻ってきました。この時間帯になると接続人数自体上がり、鉱山の情報もちらほらとネットに上がってきているからか、攻略を目指すプレイヤーの数も多くなっていますね。まだまだ初心者装備と言う人も多いのですが、中にはβ時代からプレーしていそうな人もちらほら見えます。賑やかになってきた周囲の人だかりを見回しながら、私は軽く頬を押さえました。頑張りましょう。
ここで問題となるのは、どのルートで行くかですね。攻略しやすいルート、し辛いルートというのはやはりあるようで、断然人気なのが私とスコルさんが一番最初に潜った直通の一番簡単なルートですね。単純にβ時代から使用されていて情報が一番多いのと、どうやら敵の湧きも甘いらしく、一番人気のルートになっていました。
ただその反面、プレイヤー同士のいざこざが多く、獲物をとったとらないと言ったような、ちょっとしたトラブルが起きているようですね。それでも“簡単”という言葉に釣られたのか、他の人について行っているだけなのか、鉱山前の広場にいる人の大半はそのルートを選んでいるようですね。あまりごちゃごちゃとしたのは好きではありませんし、難しいと言っても難攻不落という訳でもないようですし、私は人気のないルートを進みましょう。
誰も来なさそうな端の方の小さい坑道に入ると……こちらはかなり暗いですね。灯りは殆どついておらず、メインルートの3分の1程度しか灯りが生きていません。少し進めば殆ど真っ暗という世界になり……早速ピットが出てきました。その数はいきなり3体。私は臨戦態勢となり、相手との距離を測ります。ツルハシA、Bと、スコップ1ですね。一応3人が横並びで戦える程度の広さはあるのですが、余裕を見たのか、ピットはツルハシ持ちの前衛2、スコップ持ちの後衛1の布陣となっています。
モンスターは鉱山から出てきていないという設定があるからか、入り口付近にいる私にはまだ仕掛けてきませんね。しかたなく距離をゆっくり詰めると、ある程度近づいたところでツルハシ持ちのAとBが先に動きます。
(まずは1)
【腰翼】を使い、大きく一歩。私から見て右側のピットの脇をすり抜ける勢いそのまま、左手で持ったロッドでツルハシAの顔面をラリアット気味に強打して砕きます。
(2…)
ツルハシAの体が邪魔で攻撃できない、反対側のツルハシBは無視。横合いから割り込むようにスコップが差し込まれてきたのですが、これはバランスを崩す事前提で回避し、右手で持ったロッドをカウンター気味に叩き込みます。完全に崩れたバランスを【腰翼】を使って無理やり立て直し、スコップ側に踏み込み壁に叩きつけて砕いておくと、残るはツルハシBだけとなりました。
まあ、耐性対策をすればこんなものです。ツルハシBは一瞬戸惑うような動作を見せたのですが、無慈悲に鉄のロッドを叩き込んで制圧完了です。
「ふぅー…」
流石に【腰翼】を全開で使うとスタミナの消費が激しいですね。緊張感が抜けると、ドッと汗が流れるような気がします。って本当に流れるのですね、これ。そんな所まで再現されている事に驚きながら、とりあえず先に【解体】をしておきましょう。ツルハシとスコップはこれから大量に手に入るでしょうし、嵩張るのでいらないとして、骨だけ回収しておきます。
私が3体分の骨を手に入れた辺りで、カツリカツリという足音が聞こえてきました。どうやら不人気なこのルートに別のプレイヤーがやってきたようですね。その人は巨大な大剣を背負い、ランプ片手にこちらに歩いてきています。
身長180センチの男性で、種族は人間。ボサボサの茶髪をバンダナで締め上げ、少し怖そうな顔つきをしています。ゲームによくいるガタイのいい男性という見た目なのですが、筋肉の動きに無理がないので、実は現実の体とあまり差がないのかもしれません。
ブラウンの瞳はどこか興味深そうに辺りをキョロキョロと見回しており、そういうところは何か動きが初心者っぽいですね。
こういう場合ですと、別れるまで交互に戦闘を行い、片方に負担がかかりすぎないようにするのがセオリーなのですが、この人はどこまで理解しているのでしょう?
とりあえず何かしらのアクションを起こそうと軽く会釈をすると、男性の方もこちらに気づいたようで、軽く目を細め、持っていたランプを掲げ私に光を照らします。
「はっ!」
「あの……」
こちらから話しかける前に、男性は獰猛な笑みを浮かべたかと思うと、流れるような動作で背中の大剣を引き抜き、突きつけてきました。
※薄暗い坑道内、骨を持つ角と翼の生えた少女を見た男性の反応はいかに。
※誤字報告ありがとうございます(10/17)訂正しました。




