339:検証の結果と溢れ出る物
軽く傾斜のある岩山と眼下に広がる大森林、あまり隠れる場所のない見晴らしの良い狩場には1匹のシールドビーク……巨大な嘴を持つ体高1メートル程度の二足歩行する鳥型モンスターがトコトコと歩いていました。
彼らの生息場所はもう少し東側の『リュミエーギィニー』の林がある辺りなのですが、今は色々と勢力図が入れ替わっているようですからね、他のプレイヤーのいない閑散としたこの場所まで迷い込んできたのでしょう。
(あれにしますか)
その巨大な嘴で地面をほじくり返す事に夢中になっているようですし、ソロなので色々と試すのには丁度良いでしょうなんて考えていると、頭の上で牡丹がプルリと揺れました。
(ぷっ、ぷー)
(それは構いませんが……そうですね、ではよろしくお願いします)
牡丹も色々と試してみたいようですし、ここは牡丹に任せてみる事にしましょう。
そういう訳でグニョングニョンと準備運動のように伸び縮みしていた牡丹はゴム紐付き『魔嘯剣』と『鋼の盾』を取り出すと弾むようにシールドビークの背後目掛けて駆け寄っていくのですが、ある程度距離を詰めた所でもう一度大きく跳び上がったかと思うと30センチ程度の牡丹が薄く引き伸ばされるようにして2メートル近い帯状に変化して……全身を伸縮させて剣と盾を振り回す姿は水を得た魚といいますか、【蜿々長蛇】を手に入れたスライムといったところですね。
自身の身体を一つの武器として振るう牡丹はまるでフレイルのようだったのですが、柔軟性をこれでもかというほど活かして振りかぶった二つの武器をシールドビークの頭に叩きつけました。
「KYUKEEEx!!?」
そしてゴッと鈍い音を立てて垂直に叩きつけられた金属の塊を頭頂部に受けてよろめくシールドビークなのですが、命中率がいまいちなのか『魔嘯剣』の方は数メートル先に振り下ろされて地面を抉っていました。
「ぷいーっ!!」
たぶん体がビヨーンと伸びるせいで攻撃のタイミングがワンテンポ遅れているのだと思いますが、一つ遅れる事で全体の動きが悪くなっているような奇妙なやり辛さがあるようですね。
それでも直接握っている盾の方は何とか制御出来ているのかそのまま薙ぎ払うように足を払ってシールドビークを転ばせていたのですが、『魔嘯剣』の方はというと……というより【蜿々長蛇】の方ですね、自分の身体を【蜿々長蛇】で伸ばしながらゴム紐付きの『魔嘯剣』を【蜿々長蛇】で制御してという二段階制御には牡丹も手を焼いているようでした。
だからと言って『魔嘯剣』を直接持ってしまうとスキルの関係で効果がややこしくなってしまうというジレンマがあり……もしかしたらスキルレベルが上がっていけばその辺りの修正も出来るようになるのかもしれませんが、現在のスキルレベルでは制御できないと諦めたのかすかさずヘッドロックの要領でシールドビークに絡まりつくと、そのまま魔力を溜めて一気に放出しました。
「ぷーーッ!!」
その体勢から放たれるのはスキルレベル1の【電撃】とそれほど火力のある攻撃ではなかったのですが、ベッタリとこびりついた状態から放たれる電撃にシールドビークの毛が逆立ち焼け焦げていきます。
「KYUWAAAAx!!?」
暴れるシールドビークは電気ショックを受けてビクンビクンと藻掻いているのですが……とにかくこの後色々と検証してみた結果、牡丹の【電撃】は体のどの部分からでも出せる結構便利なスキルである事がわかりました。その反面遠距離攻撃は出来ず、効果としてはバフのない【狂嵐】のようなスキルだったみたいですね。
因みにこのスキルも同質判定を受けているのか私に対するダメージはなく……まあダメージが無いと言っても低周波のようにビリビリはしますし、敵の身体を流れた電気や水などの導電体を経由した電撃などは普通に痛いのですが、この辺りは【ルドラの火】の爆発によって自傷するのに似ているのかもしれません。
後はスキルレベルの問題で火力が低いのと、牡丹のMP的に連続使用が難しい事が問題点でしょう?とにかく敵の体を経由すれば私もダメージを受けるので使い方には注意が必要なのですが、単独行動中の自衛戦闘程度だと大丈夫そうですね。
「KYU…Ruu…」
そして即死しなかったシールドビークは定期的に【電撃】を浴びせられたり【水魔法】で湿らされたりしていて「早く殺してくれ」みたいな悲しそうな目をしていたのですが……この坂を下ると『ディフォーテイク大森林』から溢れてきた蟲達や植物系のモンスターで溢れていますからね、『隠者の塔』のプレイヤー数が一気に増えた影響で周囲に丁度いいモンスターが居ないのでこの子には頑張ってもらいましょう。
(もう少し南東方面に行けば丁度良いモンスターがいるのかもしれませんが、あちらは主戦場になっているので人が……ああ、いえ…それより…)
これもモンスターの分布が変化した影響なのかもしれませんが、どうやら『ギャザニー地下水道』から溢れ出てきたと思わしきゴブリン達が『エルフェリア』を越えて『クヴェルクル山脈』までやって来るようになったみたいですね。
まあ数も少ないですし隠れる場所も限られる岩山ですし、魅了の力のおかげでフラフラと姿を現してくれるので私のスキルの練習には丁度良いのですが……気が付けばみすぼらしい鉄屑のような胴鎧と腰巻を身に着けた槍持ちブッシュゴブリンが1体、その3メートル後ろに弓持ちのブッシュゴブリンが1体というツーマンセルのゴブリン達が私達の様子を窺うようにジリジリと近づいてきていました。
(ぷ?)
(牡丹はシールドビークの止めをお願いします)
新手の出現に牡丹が「大丈夫?」と訊いてきたのですが……2体くらいならスキルを試すのにはちょうど良いですね、そういう訳で……。
「GOt!?」
「GOBU!?」
(これで残り1、残った方で色々と試させてもらいましょう)
まぐれ当たりが怖い弓持ちの首元に投げナイフを投げつけて黙らせると、私は【弱点看破】を使用するのですが……首が弱点として光っているのはいいとして、股間がひときわまぶしく輝いているのはどういう事なのでしょう?
(それに『軽く握った手で亀頭付近をこするように動かされるのに弱い』って……弱点がわかるってそういう意味なんですか!?)
名前とレベルとHP以外にも性感帯やら経験人数がわかるようになったセクハラスキルに頬が熱くなりますしSPの振り直しを要求したいのですが、こんな事で振り直しが出来るようになる訳もなく……残念ながら諦めるしかないのが悔しいですね。
私はその苛立ちを込めて【魔翼】を大きく広げて飛び込こむと、蹲っていた元弓持ちブッシュゴブリンの首元に刺さったナイフをおもいっきり蹴り込んで止めを刺しておきます。
(翼も動かしづらいですね!)
魔力の結晶のような翼はどうしてもカクカクした動きになりますし、動かすと中途半端に【羽ばたき】の効果が乗って余計にバランスを崩すのですが……これはもう慣れるしかありません。
とにかく冷静になろうと突き刺さったナイフを蹴り飛ばした姿勢のまま止まって呼吸を整えると、その硬直を攻撃後の隙だと思った槍持ちのブッシュゴブリンが横から突きかかって来るのですが……私はフェイントに引っかかったブッシュゴブリンの横っ面を叩くように尻尾をしならせ強かに打ち据えます。
「G…GOBYA!!?」
「ッ!?」
【蜿々長蛇】の影響を受けた【尻尾】は確かに武器として使うには十分の威力を秘めていたのですが、感度が上がっているせいで尾てい骨に響いて子宮が揺れました。
(これは思ったより)
ギュッと身体に力が入りドレスの食い込みを意識してしまうのですが……今は我慢ですね。とにかく私は横っ面を叩かれてよろめいたブッシュゴブリンとの距離を詰めると、左手掌底で喉を狙いながら無理やり押し倒して手に持っていた槍を蹴り飛ばして武装解除をしておきます。
(淫さん!)
『…別にこれくらいなら我が出なくても構わないだろう?』
他に予備武器や毒薬などを持っていない事を確認してから淫さんにお願いするのですが、高みの見物といった様子だった淫さんは「やれやれ」というようにスカート翼を変形させると仰向けに倒れたブッシュゴブリンを拘束してくれて……とにかくこれでのんびりとスキルの検証ができますね。
「GO、GOBU!?」
因みに淫さんに拘束されたブッシュゴブリンは暴れて拘束を解こうとするのですが、この期に及んでどのような事を考えているのか力強くそそり立った輝く陰茎が腰巻からはみ出ていたりとなかなか眉を顰めたくなる光景が広がっているのですが……流石に常に輝いているのは鬱陶しいですね。ON/OFFは任意のようなので【弱点看破】の強調表示を切っておいたのですが、これで変な所が輝き続けるという地獄のような状態から抜け出せたので残りのスキルを試していく事にしましょう。
(まずは【吸精】から)
そうして暴れるゴブリンの頭を押さえつけながらスキルを発動させるのですが、全然吸収できませんでした。
(レベルが低いからでしょうか?)
【ドレイン】だったらもう少しズズっと抜けたのですが、【吸精】の場合は引っかかっているような感じなのですよね。
何度か発動させてみるも変わりませんし、何か変な引っかかりを覚えるだけなので次のスキルを調べてみる事にしました。
(あまり使えないスキルが増えるのは困るのですが)
次は名前自体は変わっていない【催淫】の強化具合を調べる事にしたのですが……『精神対抗を行う事によってより深く魅了がかかる』というのはどういう事なのでしょう?
説明文だけではよくわからないのですが、とにかく色々と試してみようと試行錯誤している内にブッシュゴブリンと目が合い……これはスキルの発動中に私の事を認識する事がトリガーとなっているのでしょうか?とにかく魔力対抗のようなつばぜり合いになった感覚があり、そのまま押し込むとブッシュゴブリンの身体がビクンと震えました。
「GOBU!?」
そしてブッシュゴブリンは目をパチクリとさせるのですが……これは一種の催眠術といいますか、このつばぜり合いをしている間に擦り込みを行えるのでしょうか?
(では改めて……眠ってください!)
「GO…GOBU…GO…BU…」
再度【催淫】を発動させながら押し切ると、ウトウトし始めたブッシュゴブリンが寝息を立て始めるのですが……眠たままだと実験が出来ませんからね、呑気そうな寝顔をおもいっきり殴って目を覚まさせておきます。
「GO!?」
そうして目覚めたブッシュゴブリンは何か不服そうな顔をしていたのですが、とにかくもう一度【催淫】をかけてみましょう。
そんな実験を行っているうちにブッシュゴブリンの顔がパンパンに腫れてしまったのですが……とにかく擦り込みが行えるのは意識とか精神面の範囲だけで、自害させるなどの直接的な行動を移させる事は難しいようですね。
(一種の状態異常やデバフを付与できるようになったと思っておきましょうか)
何か運営の想定している使い方とは違うような気がするのですが、殴り過ぎたブッシュゴブリンがそろそろ死にそうなので次の実験に移る事にしましょう。
因みにこれまでの実験で【蜿々長蛇】は期待通りの性能であった事が確かめられているのですが、これはどんな鞭状の物でも『ベローズソード』のように操作できるようになるスキルであり、射程距離を伸び縮みさせる事が出来るようになるようですね。違いがあるとすれば魔力操作というより技量的な範囲で動いているので物理法則から外れすぎている動きが出来ない事なのですが、尻尾やドレスの操作などにも適応されているので汎用性の高さが売りなのかもしれません。
【淫魔の証明】も色々と変わるスキルでしたし……あと試していないスキルは【淫気】と【カウントダウン】くらいでしょうか?まあ【カウントダウン】の方は相手をいかせる事が前提条件になるスキルのようですし、そんなスキルをブッシュゴブリン相手に使うのは嫌なのでそのうち試す事にしましょう。
(【オーラ】のように使えたらいいのですが)
そういう訳でドレスで拘束したままのブッシュゴブリン相手に【淫気】を試してみる事にしたのですが、このスキルは常時発動のパッシブスキルで常に私の周囲に発散されているようで……その効果で魅了されるか怖気づくかは相手次第のようですね。ブッシュゴブリンは当然のように前者であり、私が近づくと陰茎をビクンビクンとそそり立たせて暴れ始め、私が離れると少し落ち着いてというのは滑稽であり少し気味が悪いですね。
まあ奇妙な効果が発揮されているのはブレイクヒーローズだからと諦める事にして、さっそく【淫気】を動かしてみようとするのですが……【淫気】自体は魔力の固まりなので問題なく圧縮できましたし、通常の圧縮ではガラスのようにツルリとした質感になのですが、【翠皇竜】の影響や『精霊の幼樹』の影響なのか鱗っぽい結晶状にしたり植物的な質感や形状にする事もできました。
【淫魔の証明】のおかげで魔力の制御能力も上がっていますし、薄いピンク色のガラスのような剣くらいなら簡単に作れますし、これをメインに戦うのもありかもしれませんね。
(ケースバイケースなのかもしれませんが)
吸収能力もあり一撃が重い『魔嘯剣』や【剣舞】に適している形状で操作もしやすい『ベローズソード』と比べるとパッとしないのですが……汎用性の高さと耐久度を気にせず戦えるというのが利点かもしれません。
それに紐状に伸ばせばその長さは10メートル以上、【蜿々長蛇】を使えば更に倍以上と射程距離も長く……欠点は【淫気】自体が軽いので威力が低い事でしょうか?ある程度の防具を身に着けている敵やら硬い敵だと通じない可能性が高いのですが、牽制やら絡めて拘束する程度の事は出来ると思います。なので早速ブッシュゴブリンで試す事にしたのですが……。
「え…え?」
「GO、GOBUUUUx!!?」
【淫気】で出来たワイヤーでブッシュゴブリンを縛るとそそり立った陰茎から白濁した液体がいきなり迸り始めて……5秒……10秒……と、いくら性欲が強いゴブリン系とはいえ長すぎる射精時間だと思います。
「GO、GO…GOBU…x!?」
そうして私の【淫気】に縛られたブッシュゴブリンは射精を続けながらしおしおになっていくのですが、その射精が続いている間はありえない量のMPが流れて込んできて……これはもしかして今頃【吸精】が働いているのでしょうか?
(吸収量が…)
【吸精】は相手がいった瞬間にMPを吸い取る仕様なのかもしれませんが、そんな事を考えている間にもブッシュゴブリンが汚い絶叫を吐き出しながら恍惚とした表情を浮かべているのですが……MP吸収に合わせてHPとスタミナが回復し続けるので身体がポカポカしてきて性欲が高まりウズウズしてしまいますし、そのまま最後の一滴まで搾り取られたブッシュゴブリンはどこか満足そうな表情を浮かべながら死亡してしまいました。
※牡丹の【電撃】はというように、プレイヤーのスキル構成や種族によって同じスキルでも効果が違う場合があります。ユリエルの【電撃】は手から放つものですし、スキルレベルが上がれば足などの他の場所からも放てるようになりますが、牡丹は最初から全身で放つ事ができます。
※【催淫】は本来エッチな命令をしたりするものなので、意識レベルを落とす事によって眠らせたり身体の動きを鈍らせたりするのは本来の用途とは少し使い方が違います。そして本文では自害はさせられないという事になっていますが、スキルレベルが上がれば1人でシコシコさせる事も可能になるので疑似的に自殺に追い込む事は可能だったりします。
ただし精神力がゴミ屑レベルのゴブリンが相手なので通じていますが、通じない敵の方が多いですし、わざわざそんな事をするよりも普通に戦った方が早いので【催淫】を多用する事は無いと思います。
※【催淫】の精神対抗が発生する条件について少し訂正しました(2/26)。




