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336:エルフの女王

 リンネさん達にミューカストレントの戦利品を見せているとエルフの兵士達に囲まれてしまったのですが、まだこちらに穂先を向けていないとはいえ槍を構えていたり矢をつがえている人が居たりとおもいっきり警戒されていますね。


「そのような喧嘩腰では客人が驚いてしまいますよ」

 そんな兵士達を制止しているのはどこかのんびりとした口調の高貴な女性……アルディード女王が血気にはやる兵士達を押しとどめてくれているのですが、これはいったいどういう事なのでしょう?


(兵士達だけなら見回りだと思うのですが)

 私達は今『隠者の塔』を見下ろせる山頂付近の柵の近くに居ますからね、怪しげなアイテムを持っている危険人物として兵士達が声をかけてくるのはわかるのですが……あまり出歩かないという女王陛下がわざわざこんな所に来る理由がよくわかりません。


 その理由を探るためにもという訳ではないのですが、アルディード女王の様子を観察してみると膝下辺りまで伸びている柔らかそうなハニーブロンドの髪の毛が『フュージヌ』という特殊な蔦(形状記憶する植物)によってふんわりと立体的な編み込みがなされていたりとなかなか整った顔立ちをしているのがわかりますし、常に微笑んでいるような慈愛を秘めた碧眼に見つめ返されました。


 着ている物は『ロイヤルシルク』という強度や魔法防御がある最高級のシルク素材をふんだんに使ったローブのようなドレスで、所々に植物を象った金細工で装飾されている豪華な衣装を身に着けていたのですが……運営の趣味なのかもしれませんが、Pカップ(116㎝)に近い巨乳をさらけ出してギリギリ乳輪を隠せるかどうかという前垂れで覆っているだけという格好はいかがなものかと思います。


 そしてこれだけ丸みのあるふっくらとした大きなバストが重力に負けていないというのもまさしくファンタジーなのですが、アルディード女王が少し動く度にたわわなバストが揺れていて……そこに居るだけで後光が差しそうな存在感と前垂れで隠しているだけのピンク色の物がチラチラと見えそうになっていたりと、なかなか周囲の視線が酷い事になっていました。


「はっ…しかし…」

 そんな私の感想をよそにアルディード女王の言葉で武器を下げる兵士達なのですが……それでもその視線はテルマさんが持つミューカストレントの一部に向いていたりと、おもいっきり警戒されたままですね。


「あ、いえ、これは!?」

 そしてテルマさんは今更になって手に持っていたミューカストレントの木材をソロリと後ろ手に隠すのですが、なぜわざわざ兵士達の目の前でそんな怪しげな行動をとるのでしょう?


「おい!そこの女!その背中に隠した物を出せ!!」

 案の定問い詰められていますし、テルマさんは困り顔でリンネさんや私達に助けを求めるような視線を向けてくるのですが……そんな私達を見てアルディード女王はクスクスと可笑しそうに笑いました。


「これまた懐かしい気配を持つ人が居ると思ってやって来たのですが、まさかこんなにも可愛らしい客人が『亜黒樹(あこくじゅ)』を持っているなんて…いえ、笑い話ではないですね…申し訳ないのですが、それは危険な物ですのでこちらに渡していただく事は出来ないでしょうか?」

 「懐かしい気配」と言いながら私の方に視線を向けたような気がするのですが、どういう事でしょう?その理由がわからないままアルディード女王はテルマさんの背後でウネウネと動いているミューカストレントの一部に視線を戻しながら渡すよう提案してきたのですが、この触手っぽい木材が「危険な物」というのは同意しかないですね。


「とはいえ訳も分からず奪われる身となる貴女達からすると納得が出来ない話なのでしょう…なのでまずは確認したいのですが、貴女達はそれが何かという事はご存じなのですか?」

 そしてアルディード女王は一度息を吐くと話を進めていくのですが、これは一種のルート選択なのでしょうか?


(敵対するか味方になるか…でしょうか?)

 ミューカストレントの根っこを討伐した事によって何かしらのイベントが始まっているのかもしれませんが、どう返事を返しましょう?


「毀棄都市に居るボスの一部よね?」

 そんな事を考えながら私達が軽くアイコンタクト(誰が何を話すか)をとっている間にまふかさんが「当然わかっているわよ」みたいなノリで返事を返すのですが、「ボス」という単語がよくわからないのかアルディード女王達も視線でのやり取りをしていたのですが、その辺りの説明を含めて話を進める事にしたようですね。


「貴女達の言う「ボス」という存在がそうなのかはわかりませんが、それは朽ちた大樹の一部であり『亜黒樹』と呼ばれている物の断片です。精霊の守りが弱り幼樹も無き今、放置していればきっとこの世界に大いなる災いを呼ぶ事になるでしょう」

 そうアルディード女王は語るのですが、『亜黒樹』だとか「精霊の守りが弱り」だとか「幼樹も無き今」とか何か色々と気になる単語が出てきて……まあ今は質問してもいいような空気でもないですし、まずは大人しく女王陛下の話を聞く事にしましょう。


「勿論貴女達が持っている物を寄越せと言っている以上相応の対価は支払いましょう…そして貴女(ブレイカー)達の場合はお金より何かしらの秘宝(アイテム)の方が良いと思うのですが、どうしますか?」

 そうして最後に軽く脅すように目を細めるアルディード女王なのですが、つまりミューカストレントの一部を渡す代わりに何かしらのアイテムを貰えるという事のようですね。


『悪い取引ではないと思いますが?』

 ここでエルフ達と敵対する理由がありませんし、WM(ワールドマーケット)に流してお金に変えるよりも何かしらのレアアイテムに変えてもらった方が良いと思います。その事をPT会話経由で伝えて2人に確認を取るのですが、まふかさんやグレースさんもチラチラと視線を向けてきたりしながら少し考えた後、それで良いのか軽く頷くように肯定の合図が返ってきました。


『あたしも何かしらのレアな武器が貰えるのならそっちの方が良いけど』


『わ、私も…それで!』

 という事でアイテムは交換する事にして、代表してまふかさんに対応をお願いしましょう。


「ええ、それでいいわ」

 そうして相談を終えた私達はアルディード女王と交渉を再開するのですが、この場合立場がややこしくなるのがリンネさんとテルマさんの2人ですね。


「……」

 というのもリンネさん達はある意味この場に居合わせただけ(討伐していない)ですし、「自分達も貰えるのだろうか?」というようにソワソワしているのですが、口を挟む(報酬の交渉に混じる)のは意地汚いと思っているのか会話には入ってこようとしていませんでした。


「それで、具体的にはどんな物が貰えるのかしら?」

 そしてまふかさんは一番気になる事を質問していたのですが、色々と準備もあるので今すぐ交換が出来るという訳ではないようですね。


「貴女達の望む物を…そうですね、『亜黒樹』の浄化には丸一日(リアルでは12時間)かかると思いますので、その作業が終わる頃には受け渡しの準備も出来ていると思います」

 との返答だったのですが、どうやら配られるアイテムは個々の種族やスキルに合わせてある程度任意の物を貰えるようでした。


「それはここに居る5人が…という事ですか?」

 そうして私が改めて人数について確認を入れると、アルディード女王はニッコリと微笑み頷きます。


「ええ、貴女がそれを望むのなら」

 その肯定の言葉にリンネさんとテルマさんの顔にも喜色が浮かぶのですが、とりあえずこれで交渉成立ですね。私達はミューカストレントの一部をアルディード女王達に渡すと光る五枚の木片を……どうやらこれが通行証や交換チケット代わりになるようで、これを持って女王の天幕までやってきたら任意のアイテムと交換してくれるようです。


(そういえば…)

 そして話し合いも終わり帰り支度をしているアルディード女王達なのですが、魅了の関係で女王陛下にはなかなか会いに行く事ができずに『アルディード女王への報告』というクエストをずっと放置していましたからね、今更『蜘蛛糸の森』関連の話をするには遅すぎるにしても、この際気になる単語やら諸々気になった事を訊いてみましょうか?


「あの、幾つか聞きたい事があるのですが…よろしいですか?」

 そうして私は立ち去ろうとするアルディード女王を呼び止めたのですが、周囲を取り囲む兵士達の顔が怖いですね。


「はい、なんでしょう?」

 それでもアルディード女王本人は気さくに対応してくれるようですし、思い切って色々と聞いてみる事にしたのですが……まず『亜黒樹』というのはそのままミューカストレントの事であり、エリアボスである『歪黒樹(わいこくじゅ)』の亜種だからという事らしいですね。「守りが弱くなっている」というのは『エルフェリア』を守っていた光の龍(崖の防壁)の事であり、『リュミエーギィニー』の力がデファルセント達に吸われて弱くなっている事も指しているようでした。


 そして「幼樹も無き今」というのは『蜘蛛糸の森』にあった『精霊の幼樹』の事で、これが無くなった事によって『歪黒樹』を止める物が無くなり『エルフェリア』も飲み込まれてしまったという事が言いたかったらしいですね。


「『精霊の幼樹』は今は亡き倭東人(わとうじん)とレナギリー達が共に育てていたのですが、幼樹が人の手により枯れたとなれば盟友(レナギリー)の力を頼る事も難しいでしょう」

 と、こんなところで倭東人の話が出てきたのですが、なんでも倭東人と自称していた男性……たぶん設定上和風な文化を伝来させた大昔のブレイカーなのだと思いますが、そんな彼がレナギリー達と共に植えた友好の証が『精霊の幼樹』だったようです。


 そしてエルフ達からすると倭東人は蜘蛛と共存した人間という認識のようで、別の大陸なのか異世界なのかわからないのですが、一時期『エルフェリア』にも立ち寄った異邦の知識を持つ()()()()()()()()()()男性だったという事で……なんでも彼はレナギリーと深く愛し合っていたらしく、流石に大昔の事なのでその男性の魂はすでに世界と一つになった(死んだ)らしいのですが、蜘蛛達が比較的人類側の立ち位置だったのは彼の影響が大きいみたいですね。


 そのおかげで魔王軍が攻めてきた時にはエルフ達と蜘蛛達は協力して対抗していたいたのですが、『ギャザニー地下水道』や『蜘蛛糸の森』に『歪黒樹の棘』を送り込まれてその対処に追われている内に戦力を分断されてしまい、エルフェリアは結界を張って閉じこもる事で延命し、レナギリー達も『精霊の幼樹』の力を使い『歪黒樹』に対抗していたようです。


 言われてみれば吸われたエネルギーが糸を伝わって中心の建物……『精霊の幼樹』に集まるような構造になっていましたし、それで何とかエリアボスの侵略を押さえ込んでいたのでしょう。


「もし『精霊の幼樹』を蘇らせる事が出来ればこの戦況も打破できるのかもしれませんし、彼女(レナギリー)の怒りも収まるかもしれませんが」

 そうアルディード女王が嘆くのですが、『精霊の幼樹』は『アルバボッシュ(精霊樹)』の種が芽吹いた物ですからね、レナギリー達と和解する為には第一エリアに戻って精霊樹の種か苗を手に入れて持って来ないといけないのでしょうか?その場合は『イースト港』で船に魔力を込めて動かして『アルバボッシュ』まで戻った後に種か苗木を貰って来てからレナギリー達に渡してとなかなか面倒な手順を踏まないといけなさそうですね。


「あるいは、懐かしき倭東人の力をその身に宿す貴女ならレナギリー達を宥める事が出来るのかもしれませんが…流石にこの状況では難しいかもしれません」

 そうアルディード女王は話を締めくくるのですが、まるでこの場に倭東人が居るようなセリフに私は首を傾げます。


「どういう事だ?ブレイカーが倭東人という事なのか?」

 リンネさんが私達を代表して質問をするのですが、精霊の加護を受けているのがブレイカーですからね、ブレイカー=倭東人という事なのでしょうか?


「残念ながら精霊の加護を受けているのと精霊を取り込みその力を宿している事は違います、ただ……そうですね、そこのピンク髪の女性からは微かに倭東人の気配を感じますので、もしかしたらどこかで『精霊の幼樹』と接触していたのかもしれません」

 そうアルディード女王が私の方を指し示すので周囲の人達が驚いていたのですが、そういえば『蜘蛛糸の森』の攻略中に『精霊の幼樹』の葉っぱを食べて(取り込んで)いましたね。


「色々あって葉っぱは食べましたが…もしかしてそれが原因でしょうか?」

 そう私が訊き返してみると皆に「なんでそんな物を食べたの!?」みたいな顔をされてしまったのですが、卵下しの為に食べた事を話すと寄生されていた(エッチな目にあった)事が皆にバレてしまいますし……とにかく色々とアルディード女王から話を聞けた半面、考えなければいけない事が多すぎるのでいったん情報を整理する事にしましょう。

※『精霊の幼樹』を取り込んだユリエルの存在とミューカストレント討伐の報酬の受け渡しなどのイベントが混じりあった結果女王陛下がひょっこりとやって来ましたが、ミューカストレントだけを持ってきた場合は危険人物として逮捕される未来もありました。


 因みに幼樹関連の話は幾つかキーとなる単語を混ぜて女王陛下に質問すれば普通に答えてくれますし、アルディード女王もレナギリー達と戦いたくないので結構色んな人に「幼樹があれば」みたいな話やレナギリー達の話をしてくれます。


※テルマさんは情報収集が好きで危機的状況になると冷静に判断を下せる参謀タイプの人なのですが、普段はちょっとマイペースなところがあります。別に人を困らせようと思って木材を隠していませんし、兵士達があまりにも怖い顔をしながら木材を睨みつけていたのとリンネさん達が困っているようだったのでソロリと隠してみたくらいの空気の読めない(むしろ空気を読んだ?)行動をとっただけなので悪気などは一切ありません。


※少しだけ修正しました(2/20)。

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