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329:合流と移り行く情勢

「ユリエルさ~ん!!」


「ぷゅいー!!」

 勢いよく抱きついてくるグレースさんと顔面目掛けて飛びかかって来た牡丹を身体で受け止めながら【魔翼】を使ってその勢いを殺すのですが、硬めの服を着ているグレースさんの感触と温もりが上半身にぶつかって来たかと思えば少しヒンヤリとした冷たさの中にある清涼飲料水っぽい匂いの牡丹にへばりついて来たりと……これはこれで何とも言えない気持ちになりました。


「あんた達ねーちょっとは落ち着いて…まあ無事だったのが嬉しいのはわかるけど」

 少し遅れて呆れ顔のまふかさんも合流してきたのですが、場所は毀棄都市周辺の開けた場所から第二エリアの大半を覆う樹海に入った辺りで、ここまで逃げて来た皆は結構ボロボロですね。


「ええ…皆さんも無事で何よりです…ただ……ゆっくりとお話をする前に少し離れませんか?」

 ただでさえまふかさんの知名度が高いという事もありますが、グレースさんと牡丹が騒ぐので蜘蛛達の追撃を受けながら東進して来た他のプレイヤーさんの視線が集まってきていて……のんびりお話しをするという雰囲気でもないので場所を移した方が良いのかもしれません。


「そうね……しっかし、大変な事になってきたわね」

 そんな事を言いながらもどこかニヤニヤしているまふかさんの周囲にはカメラが浮いていて、配信者的には「良いネタが手に入ったわ」みたいな事を考えているのでしょう、その言葉からは喜色が滲んでいるのが手に取るようにわかりました。


「そうですね」

 まあ今更慌ててもしかたがないですからね、まふかさんのように前向きにとらえていた方が何かと良い結果が生まれるのかもしれません。そう思う事にして、周りが騒がしくなる前に私達はその場から離れる事にしたのですが……四方をモンスターに囲まれている状態ですからね、少し離れた茂みの中に移動した程度にしておきましょう。


(気休め程度のような気がしますが)

 このくらいの距離ではまだ不躾な視線を感じるのですが……ある程度は仕方がないと諦める事にしました。


 そうして他のプレイヤーから少し離れて一息ついたところで私達は改めて現状を話し合ったのですが、どうやらここまで一緒に逃げて来た『臨時キャンプ地』の人達はこのままでは磨り潰されるだけだと『イースト港』のプレイヤー達と合流するために動いているようですね。


「まあ連中について行くかは自己判断みたいだけど…あんたはどうするつもりなの?」

 私の場合は魅了の影響で集団行動をとるのが苦手ですからね、まふかさんはこのまま皆について行くのか聞いて来たのですが……どうしましょう?


「出来たらアイテムの補充くらいはしたいのですが」

 蜘蛛と熊派の追撃を受けている状況で仲間割れ(魅了によるトラブル)なんて始めたら最悪ですからね、程よいところで別行動をとる方が無難なのかもしれません。


「あんたの場合はそうするしかないか…って、前々から思っていたんだけど、注目を浴びたくないんだったらもう少しその胸とか仕舞ったらどうなの?今にも零れそうで気が気じゃないのよね」


「それはまあ…色々ありまして」

 ドレスの消耗を抑えるために淫さんが頑張って(大人しくして)くれているのですが、布面積を増やすと【淫装】の効果が強くなってしまいますからね、なかなか丁度いい格好というのが難しかったりします。


「えっ…?あっ、わ、わたしはユリエルさんと一緒に行きますよ!?」

 そうしてグレースさんは私が別行動をとるのかと思って慌ててギューっと抱きしめて来たのですが……まあ1人で出来る事も限られてきますからね、一緒に行動する事には賛成です。


 因みについ先ほど話題に上った『イースト港』勢力に合流するという案への補足なのですが、途中毀棄都市の東側に流れる大河が横たわっていますからね、それをどうやって越えるかというのが一番の問題になってくるのですが……どうやらワールドクエストが発令された時の救済措置なのか、ミューカストレントが巨大化した影響で川の一部が堰き止められていて、川幅が極端に狭くなっている場所があるのですよね。


 そこに簡易な橋を架けようという案が浮上しているのですが……まあブレイカー(プレイヤー)なら剣を振るっただけでそれなりの大木を切り倒す事が出来ますし丸太をそのまま運ぶ事ができますからね、即席の橋なら何とかなるでしょうという感じらしいです。


 後は作っている最中や渡っている最中に水辺のジェリーローパーが襲ってくる可能性があるのですが、このまま何もしなければ蜘蛛達の猛追を受けたり毀棄都市方面からモンスターが襲い掛かってきたりと磨り潰されるのが目に見えていますからね、『ギャザニー地下水道』が封鎖されているのなら死に物狂いで橋を架けるしかないといった感じで……どうやら皆さん毀棄都市と『隠者の塔』を繋ぐ地下通路がある事を知っている人が少ない(居るけど言わない)ようなのですが、教えてあげるべきでしょうか?


(いえ、今はまだ伝えない方がいいですね…たぶん地下通路の事を知っている人も同じ考えなのだと思いますし)

 知らない人に教える事は簡単なのですが、地下通路の事を伝えた後にやっぱり崩落していて通れませんでしたなんていう事になったら目も当てられませんからね、まずは地下通路が今なお健在なのかを確認してから伝えた方が良いでしょう。


「それでは、これからの事ですが…」

 私はこれから地下通路がどうなっているかを確かめに行きたい事をまふかさんとグレースさんに伝えたのですが、2人共それで問題ないようですね。


「まあ良いんじゃない?あたしはほら、汗水たらして樵の真似をするっていうガラじゃないし…って、何よ?」


「いえ、なんでもありません」

 斧を元気よく振るうまふかさんというのもなかなか絵になるような気がしたのですが、それは言わない方が良いのかもしれません。


「は、はい!私はそれで良いと思います!」

 そしてグレースさんも右手をおもいっきり上げながらウンウンと頷いて了解の意思表示をしていますし、さっそく地下通路が通れるかを確認してから『隠者の塔』に抜けられるかを確認してみる事にしましょう。


 因みにこんな会話をしている間にも情勢が動いているのですが、『イースト港』に居るプレイヤーは数が少ないのでモンスターの襲撃を防ぐので手いっぱいになっているようでネットに上がってくる情報の大半は救援要請ですね。なんでも毀棄都市側からモンスターが溢れてきてかなり悲惨な事になっているようなのですが……遊撃任務ならともかく防衛戦となると魅了持ちの私は参加しない方がいいですからね、救援に向かっても混乱を招くだけなので『臨時キャンプ地』勢が無事に到着する事を祈っておく事にしました。


 続いて目的地である『隠者の塔』側の戦況なのですが……こちらは『ディフォーテイク大森林』から溢れ出て来るモンスターの攻撃を防ぎながらエルフの国(『エルフェリア』)の女王であるアルディード(N P C)さんの指揮のもと『エルフェリア』奪還に向けて動いているようですね。


 とはいえ第二エリアの最終ダンジョン(大森林)から溢れてくるモンスターや北方のハーピー達を相手にしながらの奪還作戦ですからね、なかなか大変な事になっているようで……そして勿論全員が全員協力的なプレイヤー達ばかりという訳でもないのですが、周囲が敵だらけで移動すらもままなりませんからね、消極的な賛成という感じで今のところは大きな混乱なく戦況が推移しているようでした。


 後はわかる範囲でという注釈が付く敵陣営の動きなのですが、私達(臨時拠点勢)を追撃してきている蜘蛛達は熊派との直接的な戦闘を避けながら戦力増強をしようとしているようで……食料兼苗床としてキャンプ地のプレイヤー達に襲い掛かって来ているようですね。これはまあ卵を植え付けて子蜘蛛を増やそうとしているのですが……やっている事はなかなかえげつないものの突拍子のない行動をとっている訳でもないので動きとしては読みやすい部類でしょう。


 そんな蜘蛛達と比べると動きが読みづらいのが熊派の人達なのですが、こちらはどうやら『セントラルキャンプ』に陣取った蜘蛛達を蹴散らしながら北上しているようで……『セントラルキャンプ(中央やや南)』を確保しつつ『ギャザニー地下水道(エルフェリアへの道)』へのラインを確保して突出部を減らそうとしているのでしょうか?


 このラインが繋がると第二エリアの西側を制圧された事になりますし、下手にキャンプ地を奪還しようとすると地下水道側から攻められてと挟み撃ちの危険性が増しますからね、とりあえず今のところは無難に動こうという考えなのかもしれません。


 といっても『セントラルキャンプ』を制圧したレナギリー達の動きも読めないところがありますからね、どうなるのかはまだわからないところがあるのですが……蜘蛛達は勝ち易きに勝つ(餌を求めて東進中)という方針で動いているので拠点を明け渡す形で熊派が勝つような気がしました。


 まあそれは私の予想でしかないのでどう転ぶのかはまだわからないのですが、とにかく第二エリアはそんな感じで……少し調べてみた第一エリアはシグルドさんやスコルさんなどの前線組が子蜘蛛の制圧に乗り出して蹴散らしているようですね。まあこれは順当な結果といいますか、少し言い方は悪いですが第一エリアはある意味第二エリア(ワールドクエスト)の余波みたいなものですからね、子蜘蛛の数にも限りがあるのでそのうち鎮圧されると思います。


 ただ思っていたより卵を植え付けられたままの人が多いという情報が少し気になったのですが……もしかして熊派が『蜘蛛糸の森』で暴れていたのは大量の卵を植え付けて人類側を混乱させるつもりだったのでしょうか?そんな考えが一瞬だけ脳裏をよぎったのですが……確かめるすべがないですし時すでに遅しなのでこれ以上考えていても仕方がないですね、こうなったら早々に制圧される事を祈りながら第一エリア勢の奮戦に期待する事にしましょう。


 とにかく今はそういう流れになっていますし、私達もこれから介入していこうと思うのですが……なかなか落ち着く暇がないのでSPを振るタイミングがありませんね。というのも実は毀棄都市を探索していた時にレベルアップしていたのですが、落ち着いてからSPを振ろうと思っていたら毀棄都市から脱出するタイミングでもう一レベル上がっていて、これで私のレベルは35で残りSPは5ポイントになりました。


 スキルレベルがMAXになったのもありますし、決戦前には調整したいのですが……現状変なスキルに成長したら大変な事になりますからね、もう少し余裕が出来るまで放置する事にしましょう。


 因みに毀棄都市で『魔嘯剣』を振り回していた牡丹も単身戦っていた影響が出たのか二レベルも上がっていて、現在のレベルは12/15……そろそろ魔石を与えて上限キャップを外しておかないといけなくなってきましたね。


 そんなこんな小さな問題があったのですが、まふかさんとグレースさん達と簡単な話し合いを終え、さあこれから地下通路が繋がったままなのかを確かめに行くという前に解決しておかなければいけないのっぴきならない用事がもう一つだけありました。


「出発前に非常に言いづらい事なのですが…まずはご飯にしませんか?」

 キリアちゃんからたっぷりと精気をもらったと言っても脱出から合流までに結構時間がありましたからね、空腹度は何とか理性を保てるギリギリという量まで減ってしまっています。


 そんな状態でグレースさんを抱きしめているとお腹が鳴りそうでクラクラして、周囲からの視線があるので何とか最後の一線は踏みとどまっているのですが、それもいつまでもつのかわかりません。


「ちょっと待って、ここだとちょっ…とっ!?」


「え、あ…わっ!?」

 怯えたように距離を取ろうとするまふかさんを尻尾いで絡めて引き寄せて、これから何があるのかを考えて赤くなったグレースさんがアワアワするのですが……ここまで来て2人を逃がす訳にはいきませんからね、しっかりと抱きしめて固定しておきます。


「大丈夫ですから、ほんとうに少しだけですから…ね?」


「ね…じゃなくて!あんたの言葉はどこか信用できないのよッ!!」

 引き寄せたまふかさんは元気よく暴れているのですが、とにかく他のプレイヤーの死角となる位置まで移動してご馳走(2人)を頂いてしまう事にしましょう。

※残念ながら今のユリエルからしたらごく普通の日常的な光景なので詳細は割愛させてもらいます。


※少し修正しました(2/7)。

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