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327:暗躍の結末

 一般的なVRMMOのワールドクエストというのはプレイヤーが有利になるように出来ており、悪くて五分五分、七割から八割程度は良い方向に進むようになっているのが主流です。


 それはそういう配慮が無ければプレイヤーの大量離脱を招く(クソゲー扱いされる)からなのですが、残念ながらブレイクヒーローズの開発元であるHCP社は容赦が無い事で知られていますからね、プレイしている人の大半が“そういうもの(酷い時は酷い)”と認識しているので容赦のない結末になったりする物が多々ありますし、そういうバッドエンドすら楽しむのが根っからのHCP信者ではあるのですが……つまり私何が言いたいかというと、最悪の未来を回避するためにもキリアちゃんの企み(WQの妨害)は阻止しないといけないという事ですね。


「よっしゃー!どーんといけーどーんとぉっ!!」

 とはいえ大量のミューカスカタピラーと共に飛んで行ったキリアちゃんを追いかけようにも我謝さんとミューカストレントに率いられた大量のゴースト達が襲い掛かって来てきていますし、その対応に手いっぱいでその場からなかなか動く事ができません。


『ええい、数が多い!』


「くっ!?」

 とにかく群がるゴースト達を『ベローズソード』で斬り払いながら後ろに下がり、飛び散る欠片が身体に纏わりつかないようにスカート翼で後退するとミューカストレントの枝が伸びて来てと、払っても払っても押し寄せるモンスターの群れに辟易しながら第一波を凌ぎ切ると、私は軽く息を整えながら周囲に【オーラ】を発して幻覚魔法の対策をしました。


(何とかしてキリアちゃんの目論みを阻止したいのですが)

 みすみすワールドクエストを失敗させてしまうというのもゲーマーとしてどうかと思いますし、魔王軍の勢力が伸びて来るとキリアちゃんとお話しをする機会が減ってしまいそうなのですが……霧のジャミングは外部ネットにも影響を与えているのか他のプレイヤーに熊派の企みを伝える術がありません。


 一応なりふり構わず毀棄都市を脱出するだけならリスポーン(自殺する)するという手もあったのですが、対人問題とレベル上げの都合上私のセーブポイントは『隠者の塔』のままですし、そちらに移動してしまうとデスペナ(ポータルの使用制限)の関係で『蜘蛛糸の森』に駆け付ける事が出来なくなってしまうのですよね。


 そうなるとキリアちゃんの事を他人に任せる事になりますし、そもそも他のプレイヤーが私の言う事を信じてくれるかという問題もありますし、妨害に動いてくれた人達が熊派の人達を倒してくれるのかというのも問題です。


 そういう不確定要素を考慮しつつ私の理想を言ってしまえば、速攻で毀棄都市を脱出した後に情報サイト経由で熊派の動きをリークして、他のプレイヤー達に妨害をしてもらっている間に全力で駆けつけてキリアちゃんを説得するというのが一番いいのですが……流石にこの夢物語のような展開には幸運に幸運を重ねなければいけないという事は理解しています。


(撤退します!)

 それでもキリアちゃんの事を他人に任せる事はできませんし、我謝さんやミューカストレント達からは敵前逃亡する事になるのですが、私は毀棄都市の攻略を諦めて全力でキリアちゃんを追いかける事を選択しました。


『致し方なし、か…わかった、しかしここ(最奥)からの脱出となると骨が折れるな』

 行動方針を示すと淫さんはそんな事を言ったのですが、骨の無い淫さんから『骨が折れるな』という言葉が出てきたのはこの場を和ませる冗談なのでしょうか?


『どんな時でもユーモアを忘れないお前には感心するが、今のは別に冗談ではない』


(そうなのですか?)

 うっかりギャグを言ってしまった淫さんからは褒められているのか貶されているのかわからないような事を言われてしまったのですが、確かに冗談を言い合っている場合ではないですね。


「って、おい!ちょい待ち!!逃げるのは卑怯やでっ!?正々堂々戦いーや!!」

 そうしてスカート翼を広げて撤退に移った私に対して我謝さんが剣を振り上げながら何か言っているのですが、キリアちゃんを追いかけると決めたからにはこんな所で無駄に時間を使っている暇はありません。


 なのでインフェアリーの幻覚魔法の中を【オーラ】で探り、一番囲みが薄そうな場所を探してから一直線に毀棄都市を脱出する方向に動き出したのですが……転送魔法で飛んで行ったキリアちゃんに追いつけるのでしょうか?


(いえ、何としても追いつきます!)

 『精霊の幼樹(ようじゅ)』に絡みつく『歪黒樹の棘』に直接飛べるのならコッソリ移動してコッソリ処分すれば良いだけですからね、わざわざ手下を増やす必要がありません。そういう隠密行動をとらなかったという事は何かしらの出来ない理由があるからで、結界がどうのと言っていた事も考慮すると転送条件があるのだと思います。


 そしてゲーム的な仕様(乗り込む側のセオリー)からキリアちゃん達の作戦を予想すると、『蜘蛛糸の森』の近くまで熊派の人達と飛んで、そこからミューカスカタピラーを放って蜘蛛達を牽制、乱戦になっている間に主力が中心部に突入してという流れなのでしょう。


 最大戦力であるレナギリーがどこかに誘導されているので遅かれ早かれ攻略されてしまうのかもしれませんが、最奥に行く為にはコーンサキュドゥ(繭の化け物)を倒さなければいけませんし、『蜘蛛糸の森』の近くに居る和平派のプレイヤー達が妨害に動いてくれたら十分勝機はあると思います。


「っ…!?」

 そんな事を考えながら【魔翼】とスカート翼を使って近場の建物の屋根の上に飛び乗り、家屋の上を通って最短距離で毀棄都市を脱出しようとしたのですが……。


「OOOOOoooxoOOO!!!」

 地面が鳴動するような揺れと共に建物が隆起したかと思うと、家屋に絡まりついていた植物がいきなり襲い掛かってきました。


(この辺りに敷き詰められている植物もミューカストレントの一部ですか!)

 家屋に絡まる腐った植物は雰囲気づくりのオブジェクト程度の認識だったのですが、ミューカストレントが本格的に動き出した事によって魔力が流れて蠢いていますし、家屋の上に着地しようとした瞬間絡まりつくように伸びてきた蔓なのか根っこなのかわからないドロドロした物が私の足に絡まりつき、地上に引きずり落とそうと力を込めます。


 そして絡まりついて来た植物は腐食毒にも似た何か……ジュウジュウと音を立てて靴やらスカートやらを溶かしていくのですが、装備品だけを溶かす毒なのでしょうか?いきなり殺しにかからないのはキリアちゃんの命令(足止めして)がまだ残っているからなのかもしれませんが、このまま黙って丸裸に(武装解除)される訳にはいきませんね。


「【ルドラの火】!」

 私は即座に【ルドラの火】で絡まりついて来た木の根を焼き払うと、すぐさま行動の自由を取り戻します。


「OooOOOOx!!」

 するとミューカストレントも私の足止めは難しいと判断したのか、幾多もの木の根を集めて蠢く丸太のような触腕を作り上げると勢いよく横薙ぎに振るい……どうやら直接的な暴力で無力化する作戦に切り替えたようですね。


(それでも、これくらいなら!)

 私は『ベローズソード』でその触腕を受け流しながら上空に飛び上がり、追いかけてくるように伸びてきた木の根は淫さんのドレスの操作で打ち払います。


 そしてそのまま植物を焼き払うために発動していた【ルドラの火】を投げナイフに込めると、魔力を込めて(【マジックミサイル】)ミューカストレントの本体(樹木部)目掛けて投げつけました。


 その投擲自体は軽く枝を振るうだけで防がれてしまったのですが、爆発した影響で追いすがろうとしていたゴースト達の足並みが若干乱れたようですね。


 これで残る投げナイフは2本。何度も使える手ではないのですが、その混乱に乗じるように私は毀棄都市の外側、通信可能領域を目指して逃げ出したのですが……貴族街(中門内側)一帯に張り巡らされた木の根がミューカストレントの一部ですからね、何処に行こうともニョキニョキと根っこが生えて来て進路が塞がれてしまいます。


(急がないと…いけないのですが!)

 立ち塞がる木の根は『ベローズソード』で斬り払い、立ち塞がるゴースト達は【オーラ】と淫さんの操作する『翠皇竜のドレス』で薙ぎ倒して進むのですが、進捗は芳しくありません。


 というのもキリアちゃんからたっぷりと精気を貰ったのでお腹の方は満腹なのですが、ドレスの修理(【修復】)と【ルドラの火】の連続使用によってHPとMPは心もとないですし、回復しようにもポーションは各一本ずつと出来るだけ消耗を抑える必要がありました。


 なので仕方なく強固な防御陣地(モンスターのたまり場)には極力手を出さずに貴族街(毀棄都市最奥)から抜け出す迂回ルートを探す事になったのですが、包囲網の薄い方へ薄い方へと移動しているとどうしても遠回りせざるを得ず、余計な時間がかかってしまいます。


(見えました!)

 途中で『MP回復ポーション』と『スタミナ回復ポーション』を飲む事になったのですが、それでも何とか数多くの妨害を排除して貴族街を囲む壁の上まで到着して、川幅十五メートルの水路を見下ろせる場所まで来る事ができたのですが……そこで恐れていたワールドアナウンスが入り天を仰いでしまいました。


『『蜘蛛糸の森』が『我ら熊派』によって制圧されました。結果、ワールドクエスト『レナギリーの暗躍』は強制的にレナギリー達との対立が選ばれます』

 どうやらキリアちゃんは今日という日の為に万全の準備を整えていたようで、私はそのあまりにも早い制圧に対して目を閉じます。


第三勢力(魔王サイド)により『精霊の幼樹』が引き抜かれてしまった為、激怒したレナギリー達はあらゆるモノとの対立を選びました。それに伴いワールドクエスト『両者の狭間』が開始されます。これらの情勢の変化により各種モンスターや蜘蛛達の動向に大きな変化が現れますので、第二エリアに居るブレイカーの皆さんは可及的速やかに()()()()()()()退()()()()()()()()

 私が他のプレイヤーに妨害要請を出す前にキリアちゃん達は『蜘蛛糸の森』の攻略を終えてしまったのですが、この制圧速度だとリスポーンしてから他のプレイヤーに連絡を取っていたとしても間に合ったのかはわかりません。わからないのですが……『蜘蛛糸の森』の近く居る人達が妨害に動いてくれたらまた違う結果になっていたのでしょうか?


 それはもう仮定の話(もしも)になってしまいましたし、熊派の皆さんはもう少しで友好的に終わる筈だったワールドクエストをめちゃくちゃにしてしまった主犯格という事で皆に恨まれる事になり、その恨みはキリアちゃん達に重く圧し掛かる事になるのですが……もうどうする事もできません。


「OOOOooOOOOOxxxttttt!!!」

 そして私が唖然としながらワールドアナウンスを聞いていると、まるで世界中に鳴り響くように怨念混じりの歓喜の雄叫びが広がり、いきなり立っていられないレベルで大地が震えます。


 きっと『蜘蛛糸の森』の幼樹が取り除かれた事によってデファルセント(『歪黒樹の棘』)が本来の力を取り戻したのでしょう、その増幅した力を受けてミューカストレントが急成長して肥大化し、毀棄都市全域を覆うように伸びてきたドロドロの植物が地響きを立ててありとあらゆる物を飲み込んでいきました。

※残念ながらキリアちゃんは勝利を目前にして高笑いをするなんていう甘っちょろい覚悟で動いていませんし、準備も怠っていません。なので毀棄都市の最奥にユリエルを引きずり込んだ時点で十中八九勝利を確信していました。


※『レナギリーの暗躍』の結末についてなのですが、本来はプレイヤーサイドか敵対ルートという二者択一なのですが、今回はかなりレアなルートに進む事になります。

 というのも本来ならこの時点で魔王サイドからの干渉は少なく、第三勢力が関与してくるルートが選ばれる可能性が少ないからです。


 今回の場合はキリアちゃん達熊派がかなり頑張った結果、全世界で唯一三つ巴ルートに入るという快挙を成し遂げて第二エリアの勢力図が混沌としていく事になります。


※ブレイクヒーローズは偶数日投稿の為、次回は2月2日投稿予定です。


※少しだけ修正しました(1/30)。

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