306:態勢の立て直し
『見境なしか、お前は!?死んだらどうするつもりだっ!!?』
私は何とか搔き集めた魔力で【ルドラの火】を発動させると、群がるゴースト達とインフェアリーを焼き払う事に成功したのですが……確かに少し至近距離過ぎましたね。
パチパチと飛び散る青白い燐光とヒリヒリした痛み、【ルドラの火】によって直接的なダメージを受けない牡丹も煤けて「ぺっふ」と咳き込んでいますし、背中側以外がボロボロになった淫さんに至ってはほぼほぼ瀕死です。
「わかって…いますが」
そして自爆ダメージを受けた私に対して、牡丹は即座に各種ポーションをバシャバシャとかけてくれたのですが、流石に1本だけでは何とか動けるという程度に回復しただけで、まだまだ本調子とは言えないコンディションですね。
(今はそれより、ですね)
体調にかんしてはポーションを使えば回復するかもしれませんが、媚毒をたっぷりと擦り込まれてしまったクリ〇リスは腫れあがったように包皮から顔を出してヒクヒクと震えたままで、風が吹いただけで腰が抜けそうになりまともに動く事が出来ません。
その為いつ来るかわからない鋭い刺激に身構えるように身体がキューっと硬直してしまいますし、いつ他のプレイヤーが通るかわからない場所でほぼ全裸という状況にもドキドキしてしまったりとなかなか恥ずかしい状況ですね。
とにかくこのまま倒れているのも不味いので何とか立ち上がろうとするのですが、普通に立ち上がるだけでも媚毒塗れの身体はなかなか動いてくれず、微かな風が吹くだけで身体がガクガクと震えて力が抜けてしまい、ジンジンと赤く充血した蕾が私の身体を責め立てて汗が滲んでしまいます。
とにかく回復が足りないので追加で受け取った2本目の『MP回復ポーション』をチビチビと飲みながら呼吸を整えるのですが、その間に牡丹は焼き払ったゴースト達の魔石と……金色に光る鱗粉?を回収していました。正確に言うとインフェアリーの背中についていた透明で歪な羽の残りなのですが、倒した後は砂のように崩れて『妖精の鱗粉』という魔法防御や耐性を上げる効果のあるアイテムに変化するようです。
(状況を考えたら、一度撤退すべきですね)
牡丹がそんなアイテムを拾っているのを眺めながら私は痺れるような頭で状況を整理するのですが、どう考えてもこのまま奥地に向かうというのはただの自殺行為でしかありません。なのでまだ入り口付近に居るという事もあり、一度対策を練るために退却したいのですが……その場合に問題になるのが逸れたままのグレースさんなのですよね。
(まだ遠くには行っていないと思うのですが)
グレースさんの声や戦闘音が聞こえてこない事が不気味で、もしかしたらインフェアリーの幻覚によって遠くに誘導されてしまった可能性があるのですが……こうなったら意外と近くに居る事に賭けるしかないのかもしれません。
そんな事を考えながら私は辺りを見回していたのですが【ルドラの火】が暴発した瞬間は周囲の霧が吹き飛んだものの、流石に辺り一帯が晴れる程でもなく次第に霧は濃くなります。
それにあちこちからゴースト達の怨嗟の声が聞こえてきて、爆発音を聞きつけたのかこちらに向かって集まってきているような状況ではあまりのんびりとする事も出来ません。
(どうしましょう?)
PT会話が使えないといっても、近くに居るのなら大声で呼びかければ聞こえるかもしれませんが……正直こんな状態でインフェアリーの擬態がやって来たらどうしようもありませんので、静かに探るしかないですよね。
そういう訳で、私はまず【オーラ】を細い糸状に変化させて物理的に周囲の霧の中を探る事にしたのですが……安易な思い付きなので空振りに終わるかと思っていたのですが、周囲を探ってみると10メートルくらい離れた場所にゴーストに纏わりつかれているグレースさんらしき人影がありました。
(グレースさん…です、よね?)
最初に声が聞こえてきた場所からは少し離れていますし、もう少し私に魔力が残っていたら【ルドラの火】の暴走の余波を受けるような距離にグレースさんがいたのですが……この距離でお互いの姿が見えずに声が聞こえないというのも気になりますね。
まあもしかしたら幻覚で覆われている間は外部とは遮断されているのかもしれませんが、そのおかげで喘ぎ声を聞かれなかったという事を考えるとギリギリセーフなのでしょうか?そんな事を考えていると妙な気恥しさで顔が火照るのですが、とにかく向こうの様子がよくわからないという事と、こちらの声が聞こえていない様子から私達に襲い掛かってきたのとは別のインフェアリーが幻覚を発動中かもしれないので用心して接敵する必要があるのかもしれません。
(2人とも、いけますか?)
私は震える身体に活を入れて何とか立ち上がると、最低限の場所だけは隠そうと、胸の覆いとスカート翼を【修復】しておき『ベローズソード』を構えます。
『問題しかないが…どうせやるんだろう?』
(ぷっ!)
淫さんがボロボロになっているせいで耐性が下がっている事と、無理やりドレスを【修復】したので体力が削れてしまい、呼吸をするだけで霧の中に混じっている媚毒が身体を蝕むのですが……こんな状況でのんびりする訳にもいきませんので気合を入れていきましょう。
「ッ…くぅっ!?」
そういう訳で私達はグレースさん?を救出するためにその人影のもとに駆け寄るのですが【ルドラの火】だとグレースさんごと爆発四散する可能性があるので慎重を期する必要があります。そんな状態なので集中しなければいけないのですが、動けば剥き出しのままのクリ〇リスから鋭い刺激が広がってしまい、心がどんなに抵抗しようとしても身体がガクガクと痙攣してしまいました。
「OooOOoxxx!?」」
「え、ちょ、なに?あいつしくじ…!?」
そんな甘い刺激に耐えながら、私はグレースさんに群がるゴースト達に向かって踏み込み『ベローズソード』を振るうのですが……すっかりゴースト達のおもちゃになっていたグレースさんはゴーストに舌を絡められながら胸を弄られ蕩けた表情を浮かべていて、なんとなくその様子を見ているとイラっとしてしまいますね。
そのため少し強めに群がるゴーストを薙ぎ払い、仲間のしくじりに対して驚愕の表情を浮かべるインフェアリーを返す刃で切断しておきます。
「グレースさん、大丈……え、ちょっと、グレースさん!?」
「嬉しい…私もずっとユリエルさんと…」
そうしてグレースさんが本物であった事に私は安堵の息を吐くのですが、抱き起こそうとしたところでグレースさんが抱き着いてきたかと思うと、いきなり唇にキスをされてしまいました。その時の感触だけで媚毒に侵された私の身体は軽くいきかけてしまい、抱きしめられてくにゅりと胸が押し潰されただけで頭の中が真っ白になりました。
(グレースさんはまだ幻覚に…)
魅了の時も思いましたが、グレースさんはこういうステータス異常に弱すぎるようで、幻覚をかけていたインフェアリーが居なくなっても幻覚にかかり続けているというのもまた凄いですね。
「すみません」
耳元で囁かれるようなグレースさんの吐息にゾクゾクするのですが、このまま押し倒されては本末転倒ですからね、仕方がないのでかなり弱めに流した【電撃】で目を覚ましてもらう事にしましょう。
「え?…ぎゃぁっ!!?」
そうしてゴースト達にねっとりと舐め上げられたり舌先でコロコロと転がされたりと永遠に続くような愛撫に切なそうに身を捩っていたグレースさんは幸せな幻から一気に引き戻される事になったのですが、軽い電撃を浴びただけでいってしまうほどトロトロに蕩けていたグレースさんはビクンビクンと身体を震わせてから目をパチクリと瞬かせました。
「え、あれ…?ユリエルさんは?…ユリエルさんですよね?」
どんな幻覚を見ていたのかはわからないのですが、何か訳のわからない事を口走るグレースさんはキョロキョロと辺りを見回してからキョトンとした表情を浮かべ、私の顔を見返してきました。
「どんな幻を見ていたかはわかりませんが、毀棄都市には幻覚を見せる妖精が居るという話を聞いた事はありませんか?」
「え、じゃあ今までのは夢……?って、っひ!?ひゃぁ、わわわわっ!!?」
よほど恥ずかしい幻覚を見せられていたのか、一気に顔を真っ赤にして両手で顔を隠しながらバタバタと足を動かすグレースさんなのですが、とにかく暴れるのは後にしてここから脱出しないとまずいですね。
「OOOoooOOOOoo!!!」
そしてそんなタイミングでゴーストが再度集まって来たのですが、その中に1体だけ規格外の化け物が混じっているようで、私はグレースさんを庇うように抱きしめながら集まってくるゴースト達に『ベローズソード』を向けました。
(大きなゴースト?というよりもう中ボスか何かですね)
狂化ゴースト、レベルは40。それは身長5メートル程度の薄暗く光る赤い目をした骸骨の頭を持つゴーストなのですが、その手は普通のゴーストより長く骨ばっており、死霊のような白い靄を纏いながら周囲のゴースト達を引き連れている様子やそのレベルは、毀棄都市の中ボスと言っても差し支えないのかもしれません。
「グレースさん、話は後です、まずはここから離脱…くっ…ッぁ!?」
そうして私がグレースさんに撤退を囁いたところで狂化ゴースト達が動いたのですが、意外と素早い……というより宙を滑るような動きである事と、音がしない事で距離感がいまいち測り辛い打ち下ろしの右ストレートを何とか掻い潜るようにして回避をすると、すかさず左手の掬い上げが飛んできました。
「きゃーっ、ユリエルさんユリエルさん!?」
「グレースさ…ふきゅんッ、ああぁあっ!!?」
狂化ゴーストの爪がカリカリと地面を擦るとパックリとした裂け目が出来るのですが、そんな鋭い攻撃をこんな身体で受ける訳にはいけません。そしてなにより狂化ゴーストの一挙手一投足に対して有象無象のゴースト達が纏わりついていて、その数は把握できる範囲で数百体以上、距離を取ろうとする私達に向かって引き千切れて混ざりあったゴースト達を衝撃波のように叩きつけてくるのが厄介すぎます。
「ひぃぅッ!?またっ、そんなとこ…ぁ…ああ゙あ゙あ゙ッ!!?」
そしてまともに動く事すらできない状態の私達は津波のような広範囲の攻撃から逃れられずに捕まってしまったのですが、絡みついてくる無数のゴースト達にグニュリと胸を揉まれただけで恍惚とした刺激が脳髄に響き、インフェアリーとの戦いで敏感になってしまっている蕾を摘まみ上げられると雷に打たれたように身体がビクンと弾けてしまい、無様に潮を吹いて膝をついてしまいました。
『仕方がない、一か八かだっ!!』
「ぷっ!」
群がる無数の手や舌は弱い所を探り出し、私達は執拗に続く同時攻めに抵抗する事が出来ずに悶えて喘ぎ続ける事しか出来なかったのですが、狂化ゴーストが止めを刺そうと腕を振り上げたところで『翠皇竜のドレス』の制御を支配した淫さんと牡丹が頷き合います。
「何、を…っ!?ふぎっ!?」
私達がゴースト達の愛撫に溺れてあっぷあっぷしていると、いきなり牡丹が私とグレースさんの身体をギュっと固定したのですが、続いて人間の耐G性能を越える勢いで横方向への殺人的な加速Gがかかり……そんな淫さん主導の無理やりなスカート翼の羽ばたきによって、私達はいのちからがら『毀棄都市ペルギィ』から脱出する事になりました。
※ユリエルが自分で羽ばたく場合は耐えられる速度しか出していませんし、腰を支点にしているのでいきなり横っ飛びしたらグキってなりますし、実は2人も慌てていたので着地については何も考慮されていませんでした。
因みにグレースさんが移動していたのは距離が近すぎると流石に合流される可能性があったからで、程よい距離までユリエルに扮したインフェアリーが誘導しています。音に関してもインフェアリーが遮音性の結界を張っていたりと、毀棄都市周辺で見たり聞いたりする事に関しては幻覚系の攻撃を疑っておいた方が良いのかもしれません。
※少し修正しました(12/18)。




