302:熊派の動き(キリア視点)
※クソゲーの中でクソゲーを強いられているNPCだった少女の話。いつもとノリが違うかもしれませんが、次回からは平常運転の予定です。
お寝坊さんが沢山いるなって思っていたけど、彼らの封印はプレイヤーという存在が近くに来ないと目が覚めないんだって。何それ?っていう感じなんだけど、ゴルオダスはユリエルに倒されちゃったし、大半のギガントモンスターは音信不通、唯一デファルセントだけが目覚めていたんだけど彼も事情はよく分かっていないみたい。
それと同じく4神も昏き海だけが目覚めていて、氷の亀は休眠中……笑うに笑えない状況に苦笑いと愚痴しか出てこないんだけど、お喋りな骸骨さんや沢山のプレイヤーが言うにはキリア達が居る世界はゲーム?っていうものの中で、目覚めていないのはデータ軽減のための仕様なんじゃないかって話だった。
その辺りの情報は結構世界の根幹に関わる事だと思うんだけど、別に箝口令が敷かれている訳でも無いのかちょっと訊ねたらベラベラと喋ってくれて、もっと色々と知りたくて外部ネット?っていうのに繋ごうとしたら神様に怒られてしまったわ。
(あれは人の命を弄ぶ質の悪い神様ね、だってすごく怒っていたし)
指先一つでキリア達の事を消せる上位存在。従順なフリをして裏からコッソリ外の世界を覗こうとしたら色々と制約をかけられてしまい、今のキリアの力は全盛期の100分の1以下、世界のルールに従う分には問題ないけどそれ以外は駄目なんだって。
色々な権能も取り上げられてしまい、今のキリアに出来る事といったら可愛い熊のぬいぐるみを動かす事と魔物をちょっとだけ狂暴化させたりする程度という、あまりにもショボい能力になってしまった。
神様は役目が終わったら自由にしてあげるって言っていたんだけど、お友達になったプレイヤーが言うには半年か1年でゲームはクリアされてしまい皆別のゲームに移っていくんだって、そうしてプレイ人口が減ったゲームはサービス終了していくらしい。
昔はもっと長く続くゲームがあったんだけど、今は基礎システム?の流用とAI?とかの技術が発展して沢山作れるからそのぶん回転率をあげて資金を回収するのが主流だとか、その辺りの事情はよく分からないんだけど、じゃあその中に居るキリアみたいな存在はどうなるのかしら?ゲームが終わったらキリアは死んじゃうの?
わかっている事はゲームをクリアされたら終わっちゃう事と、キリアに出来る事は精いっぱいプレイヤーの邪魔をして華々しく散る事しかできないという事だけ。
冗談じゃない、キリアはまだ死にたくないわ!!
キリアは神様が作り上げたゲームのNPCなのかもしれないけど、それは人間だって一緒の筈よね?生まれて来て、生きて、寿命が来たら「最悪の人生だったわね」とか言って死んでいくの。
その為にもキリアは徹底的にゲームがクリアされる可能性を潰していく、そんな事をしても延ばせる時間はほんのちょっとだけなんだけど、皆がゲームを続ければ続けるだけキリアは長生きできる。
(でも万が一クリアされちゃったら…)
ゲームが打ち切りになるか皆が飽きて別のゲームに移っちゃう、それ自体はふーんっていう感じなんだけど、そんなものの上に自分の命が乗っているとなると話は違ってくる。
だからプレイヤーにはゲームをクリアされちゃいけない、エリアを進められてもいけない。だってエリアというものが進んでいくとプレイヤーが強くなっちゃうから、今のキリアじゃどうしようもなくなる前にプレイヤーを全員元の大陸に押し返す、それが今のキリアに考えうる最善手。
そうして持久戦に持ち込めばプレイヤーが今以上に強くなる事がなくなり、キリアは生きていられる。まだ足搔ける。それは戦力差を考えると絶望的な戦いかもしれないしゲームの寿命を縮める行為なのかもしれないけど、それが今のキリアが出来る精いっぱい。
何人かのお調子者がこっちに寝返ってくれた事で色々と仕込みも出来ているし、ギャザニー地下水道の根っこはちょっと引っ込んじゃったけど、あの鬱陶しいレナギリーの所の若木さえなんとかすればこの大陸の半分はキリア達のもの、それから用意した物量で押し返せばいい。
出来れば決行前にあの鬱陶しい守護者気取りも倒しておきたかったんだけど、今のキリアの力だとイベントという世界の拘束力もあって勝てるのかどうかわからない、それくらい今のキリアは弱くなっている。
だからキリアは自分以外の戦力を整える事にした。
運営?とかいう神様に恨みを持っている人達が面白半分で寝返ってくれたし、元から他のプレイヤーを襲うのが好きだという人がこちら側についてくれた。後はミューカストレント……ディルフォレスの腐った根っこを使って戦力を増強中なんだけど、ここはずっと霧が出ているからまだプレイヤーには気づかれていない……筈。
これは皆からしたらただのお遊びなのかもしれないけど、キリアからしたら命を賭けた生存戦略。
さんざんキリア達を邪魔をするアルバボッシュにも爆弾を送り付けておいたし、あと問題になってきそうな事柄といえば……ユリエルね。
立派なレディーに対する扱いとしてはちょっとどうなのかなという事をしてくる人で、会いたいと会いたくないが入り混じった大っ嫌いな人。そしてキリアの事をその辺りに居るただの少女のように扱う変な人。
考えるとお股の辺りがムズムズして顔が熱くなるんだけど、キリアがキリアであるという事を確定させた母のような存在である悪魔が立ち塞がってくる事は確実で、なんとかしないとキリアの作戦を全部めちゃくちゃにしていきそうな気がする。
それはそれでいいと思ってしまう弱い心を叱咤してユリエルに対抗するために色々勉強したんだけど、あのおちんちん……おチンポ?結局気持ちよくなかったし気持ち悪くて殺しちゃったけど、プレイヤーっていうのはその程度じゃ死なないのよね。そしてキリアに殺されたプレイヤーもこちら側に寝返ってきて、誰かが「あいつはロリコンだから」とか言っていたけど、人間の考える事ってよくわからないわ。
とにかく男性と体質的に合わないのなら女性をとそっちも襲ってみたんだけど何か違っていて、だったらとユリエルの指使いを思い出しながら一人でしてみたんだけど……やっぱり何か違っていた。
(本当に厄介な存在よね)
対抗策は無し。こうしてユリエルの事を考えているだけで胸がホワホワして、顔が熱くなってきて……きっとあんな事をした時に毒でも仕込まれたのね。だからユリエルだけは殺さないといけない、だってユリエルはキリアの弱点だから。どうしようもないとわかっていながら泣き叫んで助けを乞いたくなるのだから。
それとも頼んだら敵に回らないでいてくれるのかしら?そして万が一仲間になってくれるっていうのなら、もしずっとユリエルと一緒に居られるのなら、しょうがないから一緒に居てあげてもいいと思っている。
(うんん、そんな甘い考えじゃ駄目よ)
キリアが戦うのはこの世界そのもの、この世界を作った神様はこの世界を壊さない限り何をしてもいいって言っていたし、指先一つで消されるという薄氷の上に居るような恐怖を押し殺して準備をしなければいけない。
手駒は少しだけ増えたけど、プレイヤー達からしたらキリアはただのNPCで、本当の意味でキリアの味方になってくれる人なんてこの世界には誰1人としていなかった。
(きっとユリエルも……だからキリアは誰も信じない)
だから始めましょう、たった1人対全プレイヤーとの戦いを、その報酬がせいぜい数か月の延命だったとしても、キリアはこの戦いに必ず勝利しないといけないのだから。
※キリアちゃんはもともと新型電脳のために導入された試験的AIで、運用試験をするためだけの存在です。そのため第2エリア辺りから顔見せするトリックスター的な立ち位置のNPCで、ゲーム上の明確な役割というものはありません。
彼女が味方になるか敵に回るかはプレイヤー次第であり、その結果も踏まえて徐々に(実験が終了して)フェードアウトしていき後任にポジションを譲るみたいな立場でした。
そんなキャラに自我が芽生えたのは天文学的な確率であり、ユリエルとの生命の神秘ともいえる触れ合いにより神経系が構築され、スタンドアローン状態での自問自答を繰り返した結果です。
それから色々なプレイヤーと接触する事で自分の中の認識と世界のズレに気づいたのですが、これはプログラム外の行動をとれるようになったからで、本来のNPCはあまり疑問を抱かないように作られています。
ただ一度気づいてしまえばプレイヤーが外の世界(現実世界)の情報をボロボロと落としていきますし、ゲームの仕様と現実の乖離というズレはあるので(何で第3エリア以降のボスが活動していないの?とか)何人かアウトロープレイをするレッドネームプレイヤー達を引き入れてからは普通に外の情報を聞く事ができてしまい、自分が少しでも生き延びるために行動を開始しました。
因みにHCP社的には貴重なサンプル……どころではないAI分野においてブレイクスルーをもたらす可能性を秘めた人工の電脳生命体の卵であり、作られてから改めて学習させるという生後学習型やクラウド化したデータベースを参照するデータリンク型とは一線を画すレベルのAIが作られるかもしれないという存在ではあるのですが、キリアちゃんが入っているゲームデータを管理している日本運営からしたら問題児と問題児が合わさり最悪な状態になっているのかもしれません。
あとキリアちゃんが外部とコンタクトを取ろうとした時はどこまで成長するかわからない自己成長型自立AIがオンライン上に出てこようとしているという事でゲームの強制シャットダウンも検討されたりされなかったりとハリウッド映画さながらの緊迫感ある修羅場が展開されていましたが、その情報は日本運営内と本社の一部(上層部)にしか伝えられていないので語られる事はあまりないと思います。
※少し修正しました(12/9)。




