292:合流(+1)
どうやらスコルさんの到着が遅れそうなのでのんびりとスキルの検証をしながら待つ事にしたのですが、まず【ルドラの火】に関しては炎っぽい何かになっていると言いますか、より物質に近くなった状態で安定しているようですね。
わかりやすく例えると燃えているオイルを動かしているような感じといいますか、性質が液体に寄った事でやや汎用性が削がれながらも問題なく元の炎状態に戻す事も出来ますし、そして何より戦闘に使うとしたらある程度の形がある方が便利なのでこれはこれで良しとしましょう。
次に奇妙な経験値の入り方をしている【錬金術】なのですが、やはりこれは料理が【錬金術】扱いされているようで、工程を増やしたり難しい料理を作ろうとしたりした時に経験値が入るようですね。
まあ料理は魔法とも言いますし、野菜やお肉を刻むのと薬草を刻むのは一緒だという事なのかもしれませんが……何か変な隠し効果でもあるのかと思ってシールドビークに料理を食べさせてみた結果、軽く酩酊するような効果が出ました。
つまりまたしても私の作った物には禄でもない効果が付与されているようなのですが、種族的な耐性なのかそういう仕様なのか、自分が食べる分には問題が無いので料理についてもまあ良しとしておきましょう。
そして【バイオアブソープ】に関しては効果が少なすぎる事を抜きにすればHPとMPと空腹度とスタミナが回復する便利なスキルだったのですが、徐々に周囲の氣を取り込む事によってスースーする感じが強まっていると言いますか、時間がたつにつれて何か色んな所が敏感になっていっているような気がして落ち着きません。
「っ…ぅ…」
皮膚全体が呼吸をする時の爽快感と自然回復のせいでぷっくらと膨らんだ乳首がドレスのトロトロとした裏地によって締め付けられてしまうと子宮が疼き、プルンプルンと胸が揺れる度に先端が摘ままれ舐めまわされるような刺激が走り、身体が震えて息が漏れてしまいます。
呼吸を落ち着かせようにも深呼吸をすればするほど周囲の氣を取り込む量が多くなるのか身体が昂ってきてしまい、ドレス越しに見えるピンとしたいやらしい出っ張りやしっとりとした肌の汗ばみ、スカートの下では少し食い込んだ布面積の少ないショーツには恥ずかしいシミが出来てと、このスキルは自らをも蝕む諸刃の剣のようなものですね。
(集中していれば何とか……いえ、それより…溢れている分を何とか外に出せないでしょうか?)
HPやMPが満タンになった後は身体がほわほわしてきてしまい、その力をお腹に集めるだけでいってしまいそうになるのですが……何とか私がそんな劣情と戦っていると、最近はドレスの制御を頑張ってくれている牡丹がすまなさそうにションボリしてしまいました。
「大丈夫…です、これは牡丹の制御…んっ、じゃなくて……少し擦れているだけ、ですから」
最近は【意思疎通】のレベルが上がってきているのでわざわざ言葉にする頻度が減ってきているような気がする牡丹なのですが、悶えている私に対して何もできない事への無力感に苛まれているようですね。
ただ私がモゾモゾしているのは牡丹のせいではありませんし、どうする事も出来ない事ではあるのですが……そんな心配してくれている牡丹の気持ちは受け取っておきましょう。
とにかく最後に検証したのは【マジックミサイル】なのですが、これは投擲時に魔力を使うものの普通に便利な技でした。
とはいえ威力の向上としては切れ味+1程度ではありますし、直角に曲げたり必中させたりする事は出来ずに緩やかに誘導するのが精いっぱいなのですが、射程距離が飛躍的に伸びただけでも戦術の幅がかなり広がりましたので、このスキルを伸ばしていけばかなり便利なスキルになると思います。
そんな風に多少のトラブルはありながらも色々なスキルのチェックを終え、食事や休憩を挟み一息入れた頃に……やっとスコルさんから連絡が来ました。
『いやー何あれ、壁の近くにボスが居座っているしゴブリンは多いし、おっさんもう足ガクガクよ…何とか突破したけど、あれはホントしんどかったわー』
とか余裕だったのか大変だったのかわからない事を言っていたのですが、スコルさんは無事に『ギャザニー地下水道』を突破して『エルフェリア』に到着したようですね。
『おつかれさまです、地下水道を突破したとなると今はエルフェリアですか?』
スニーキング系のスキルが豊富なスコルさんならすぐに突破してくるかと思ったのですが、どうやら運悪くゴブリンチャンプが出現している時間だったようで少々手こずってしまったとの事です。
『そそ、今はエルフェリアでちょっち休憩中ー…にしても残念ねー、群がってくるゴブリン達を千切っては投げ千切っては投げ、そんな恰好よすぎるおっさんの雄姿を見ていたらユリちーも惚れなおしたかもよ?』
『惚れなおすも何も、まず前提条件が可笑しいのですが…』
平常運転のスコルさんの軽口にはつい目を細めてしまうのですが、とにかく改めて『隠者の塔』から南東……スコルさんからすると『エルフェリア』の北の森を抜けてから東北東の方角に進んだ『クヴェルクル山脈』の麓に広がる『リュミエーギィニー』の林の端辺りで待ち合わせをする事にして、私もそれに合わせて行動する事になりました。それ自体は問題なかったのですが……。
「ぷー!!」
まるで素振りのように触手をシュッシュッと振っている牡丹が元気よく頭の上で暴れているのが色々と心配の種なのですが……どうやらスコルさんに会うという事で少し興奮気味のようで「変な事をしたらただじゃおかない!」みたいな物騒な事を言いながら6本の触手をおもいっきり振っているのは歩く時にバランスが崩れるからやめて欲しいですね。
「牡丹…」
最近はまふかさんに噛みつく事もなくなっていたので多少性格が丸くなったのかと思ったのですが、あくまでまふかさんに対しては「仕方ないな」と妥協していただけで、スコルさんに対してまた別の感情があるようでした。
「ユリエルさんっ!!」
まあそんなこんながありながら待ち合わせ場所に向かうと、異様な速さで駆け寄ってくる見慣れた女性の姿があります。
「ぷっ!?」
そうして牡丹の目が真ん丸になるような勢いで全力疾走してきたグレースさんはタックルを仕掛けようとしているような前傾姿勢で急ブレーキをかけたかと思うと、砂煙を上げながら私の前でピョンとジャンプしました。
どうやら飛びつく寸前で自制したようなのですが、そんないつも通りの動きに私は苦笑いを浮かべてしまいましたし、少し遠い場所から舌を出してハッハッハッと犬のふりをしているスコルさんはどこか「してやったり」みたいな顔をしていたりと、どうやら私を驚かせるためにグレースさんを連れて来たみたいですね。
(だから遅れたのだと思いますが)
いきなり他の人を連れてきた事やそのせいで待ち合わせ時間がズレ込んだ事はあまり褒められた事ではないのですが、別にグレースさんとは知らない仲でもないですからね、スコルさんからしたら「いやーついてきちゃったのよーごめんねー」という程度の軽い感じなのでしょう。
まあ私に連絡する前にグレースさんと話しをしていたようですし、もしかしたらスコルさんが連絡してきた時にはまだ近くにいて「会いに行くのなら一緒に」みたいな流れになったのかもしれません。
「いやーなるほど……確かに今のユリちーは町の中に入れないわーってか枯れたおっさんもビンビンになり過ぎていて近づけないんだけど……飛びついていい?」
「やめてください」
とにかく文句を言おうにもどこか気勢を削ぐような胡散臭い笑みを浮かべているスコルさんはそんな冗談を言っていたりと、良い意味でも悪い意味でもあまりお変わりはないようですね。
そしてどうやらその装備や見た目に関しても大した変化はないようで、装備は首元に巻いた『収納のストラ』と大きめの鞄を首からつっているだけと、第二エリアに居る事を考えるとかなりの軽装です。
「あっ、あの!…今日はお日柄も良く!」
そうしてグレースさんの方もそろそろ夕方になろうかというゲーム内時間に天気の話をしていたり手をワキワキさせながら視線をキョロキョロと彷徨わせたりと、無理やり笑おうとしているせいでニチャリとした笑顔を浮かべているといういつも通りの様子だったのですが、こちらの方はかなりの変化があったようでした。
「身長を戻したのですね」
もともと170センチ近くあった身長はリアル寄りの高さとなり……だいたい160センチくらいでしょうか?グレースさんの性格から考えると課金してまでというよりたぶんイベント時の引換券を使ったのだと思いますが、前回見かけた時よりかなり身長が縮んでいます。
「あ、はい!この方が動きやすいので…その…ユリ、エルさんと…並び…へへ…」
最後の方はゴニョゴニョと小声すぎてよく聞こえなかったですし、ウヘヘと笑うグレースさんはモジモジと指先を遊ばせていたりしたのですが、確かにそれだけ無理やり身長を伸ばしていたのなら咄嗟の時の感覚が狂うというのも道理でしょう。
そして身長をもとに戻そうと思ったり、第二エリアの深い所までやってこようと思うようになった心境の変化はあったみたいなのですが、ケープのついた縁取り装飾のある薄水色の膝丈ローブに黒タイツ、上側が開いたCの字のような装飾がついた杖と四角い金属盾という装備に関してはあまり変わりがありません。
違いがあるとすれば靴が真新しいアウトドア用のミドルブーツになっている事と、装備品やアイテムを入れるための大型のボディーバッグを前掛けにしている事くらいですね。
「とにかくお2人ともわざわざご足労ありがとうございます」
積もる話はあるのですが、とにかくまずはわざわざこんな所まで魔石を回収しに来てくれた2人に対して私は頭を下げておきました。
※【秘紋】では上級スキルの【マジックミサイル】を付与する事ができない事を指摘され、猫がうっかりしていた事もあり訂正しました(1/24)。




