290:北部の探索結果と受け渡しについて
昨日はグレースさんと試乗会に行き、今日もまた色々と用事をこなしていたりとここ何日かはリアルの方が忙しくてブレイクヒーローズにあまり繋げなかったのですが、夕食後にやっとまとまった時間が出来たので張り切って攻略の続きを進めていく事にしましょう。
(さて、これからどうしましょうか)
とはいえ『隠者の塔』にセーブポイントを移してレベル上げと周囲の探索だけはしていましたし、そのおかげでレベルが2もあがりスキルレベルがMAXになったものがいくつかあったりと全然繋いでいなかった訳ではないのですが、短時間ログインの弊害で遠出ができなかったのが色々と痛いですね。
とにかくまずはMAPを見ながらここ数日の探索結果を頭の中でまとめるのですが、まず大前提として『クヴェルクル山脈』の中ほどの窪地にある『隠者の塔』から見ると東西に険しい岩山が伸びているので、ロッククライミングをするのでなければ移動できる範囲は北側か南側という事になります。
そうして北側と北西側はすぐに断崖絶壁になっており、その断崖絶壁の向こう側は海になっているので、釣り道具や泳ぐためのスキルが無い私からするとあまり探索し甲斐のない場所となっていますね。
それでも何かないかと簡単に散策してみたのですが……何も無し。あと北側で進めるのは北東方面だけなのですが、こちらはハーピー達の巣があるので現時点での攻略は断念せざるおえませんでした。
(まだ殲滅速度が足りませんし、振動が…)
一応【魔水晶】のレベルが上がりだんだんと振動を防げるようになってきたのですが、中途半端にプルプル震えられるのもまたアレがアレで、寄って集って屈服させられるという展開に変わりはありません。
こうなったら苦手な遠距離分野を補ってもらおうと魔法が得意なシノさんに声をかけてみたのですが怒らせてしまいましたし、この辺りを狩場にしているジョンさんに攻略法を聞いてみたのですが……流石に教えてくれませんでした。
そういう訳で北側はやや手詰まりの状態なのですが、反対の南側にあるのが『エルフェリア』で、南西方向にはエリアボスがいるのではないかという『ディフォーテイク大森林』が広がっていたのですが、流石にまだ厳しいですね。
モンスターのレベルは40以上、森全体を覆うような瘴気がモンスターをパワーアップさせているのか手強いどころではなく、何かしらの地形効果かそれとも敵の索敵能力が異様に高いのかすぐに見つかってしまいますし、見つかったら見つかったらですぐさまモンスター同士がリンクして押し寄せて来るので手に負えません。
こうなるともうソロでの攻略云々という問題ではなく、他のプレイヤーと足並みを揃えないとどうしようもないのでこちらも後回しにするしかないですね。
そうなると唯一残っているのが南東方面なのですが、『クヴェルクル山脈』の高低差と『エルフェリア』周辺の亀裂の影響で深さ数十メートルの崖が東西に広がっており、普通の人には通行できないようになっていました。
とはいえ前回は時間が無くて引き返しただけですし、崖も【魔翼】を使えば飛び降りる事が出来るくらいと、降りようと思えば降りれる深さなのですよね。
しかも周囲には怪しげな石造りの遺構があったり崖の下には薄暗い靄が出ていたりといかにも探ってくださいといった感じで、方向的にもキリアちゃんが居るという『毀棄都市ペルギィ』に続いているようですし、捜しに行ってみるのもいいかもしれません。
そんな風にやや消去法的に今日の行き先を決めると、私達はさっそく『隠者の塔』に置いていた野営道具……という名の焚火用の木材を片付け始めたのですが、これは『搾精のリリム』の燃費が異常に悪い事もあり、自炊するために集めておいた薪の一部ですね。
というのも最初は普通に『セントラルキャンプ』のホームまで飛んで買い物をしていたのですが、魅了の力が漏れているのか他のプレイヤーがテントエリアの探索を始めたりとあまり長居できる雰囲気では無くなってしまい、早々に撤収しなければいけなくなりました。
食料が無くなる度に『隠者の塔』から『エルフェリア』まで牡丹を派遣してという訳にもいきませんし、途中から自炊を始めなければいけなかったりとなかなかのサバイバル具合ですね。
手軽さを考えたらそのまま食べられる果物が自生していてくれたらよかったのですが『隠者の塔』付近に生えている植物といえば『リュミエーギィニー』くらなもので、その松のような低木についている小く黄色い実は絞れば油が出てくるような物ですからね、流石にそればかりを齧って飢えをしのぐ訳にもいきません。
こうなるといっその事料理系のスキルを取得したら調理効果の上昇が見込めますし、バフの効果を付与したり専用の調理道具が使えたりするのですが……そこまで凝るつもりは無いのでSPが勿体ないですし、調理に使うための火種がないという事の方が問題でした。
どうやらこの辺りも徐々に難易度が上がっているようで、一通り設備が揃っていた『プルジャの工房』と比べると『隠者の塔』はすべて自前で調達する必要があると言いますか、自炊するためにはある程度のスキルや道具を持っている事が前提となっているのかもしれませんね。
なので私達は火起こしの段階で躓く事になったのですが、『ルドラの火』の場合は火力が強すぎて薪が一瞬で燃え尽きてしまいますし、単純なマッチやライターの場合だと魔力を秘めている『リュミエーギィニー』が上手く燃えてくれずに料理には使えませんでした。
だからと言って空腹になってしまうと人を襲いたくなってしまいますし、仕方なくあまり余裕のないSPを使って火種だけでも確保する事にしたのですが……火種と言われて真っ先に思い浮かぶ【火魔法】はブレイカーズギルドに行って教えてもらう必要がありましたので、今回は選考外ですね。
他に火種にできそうなスキルを取得可能な範囲で選ぶとすれば……【電撃】しかありませんでした。
たぶんこれはまふかさんの【狂嵐】由来のスキルで、ピリピリしているうちに取得可能になったのだと思いますが……とにかく詠唱が不要のアクティブスキルで、両腕から射程の短い電気を出したり武器に電気属性を付与したりと汎用性も高そうなスキルだったので取得する事にしました。
スキルレベルが1だとたいした電気は作れないのですが、それでも『リュミエーギィニー』を削って細かい木屑にした後にバチバチと高電圧をかければ火を起こす事ができましたし、これで無事にお肉を焼けるようになったりとこの数日で私のサバイバル能力が上がったような気がしますね。
(そういえば…)
(ぷい?)
そういう思い出が詰まった野営具を片付けていると、牡丹の中に入れてある収納袋の中に魔石が溜まってきている事を思い出しました。
(そろそろ渡しに行かないといけないのですよね)
収納限界の都合上素材は定期的に売りに出しているのですが、魔石は牡丹の上限を上げる為に必要ですし、ドゥリンさんが魔光剣を修理するためにも必要なのでとっておいたのですが……ある程度集まって来ましたし、そろそろ渡しに行かないといけないのですよね。
(どうしましょう?)
ドゥリンさんはまだ第一エリアに居そうなのですが、魅了の関係上常に人でごったがえしているエリア間のポータルは使用できませんし、だからと言ってこのまま持っているのも邪魔ですしとか考えていると、本当に見計らったようなタイミングでスコルさんから連絡が入りました。
『やっほーユリちーおひさー、元気してたー?』
それはどこかとぼけたような声ではあったのですが、あまりにもタイミングが良すぎたために驚いてしまい、これはもう身近なところに監視カメラでも仕込まれているのだろうかとキョロキョロしてしまいました。
『元気ですが……もしかしスコルさんって監視系のスキルを持っていたりします?』
『……どゆこと?』
ついそんな事を聞いてしまうとスコルさんは少し不自然な間を開けたのですが、別にはぐらかそうとか嘘をつこうとかいう感じではないですね。
『丁度ドゥリンさんに魔石を渡しに行かないといけませんねという事を考えているタイミングでスコルさんから連絡が来ましたので』
『あーなるほどなるほど、余りにもタイミングが良かったって訳ね、まーそれは……ユリちーへの愛かな?困っているんじゃないかなーって、こう、ビビッと?」
『そういうのはいいですから』
相変わらずふざけた事をいうスコルさんなのですが、どうやら本当にたまたまだったようですね。
『まま、ほんとスキルとかそういうんじゃないから、単純なおっさんのシックスセンス?ていうのは冗談として…おっさんが連絡したのはグレグレの件でね、いやーもう凄い喜んでいたからありがとねーってだけなんだけど』
『ああ、なるほど……遅れましたがチケットありがとうございました、大変勉強になりました』
『いいのいいの、ユリちー達が楽しめたのならおっさんも嬉しいのよ、ほらあれ、若い子に焼肉奢る感覚って言ったらわかる?』
『すみません、全然わかりません』
スコルさんの言っている事はよくわからないですが、とにかく改めて試乗会のお礼を言い……スコルさんには軽い調子で流されました。
『で、おっさんの用事はそれだけだったんだけど、なんだったら渡す魔石は預かっておこうか?なんでも孫が夏休みだから帰省しているとかでおやっさんがインしている時間が不定期なのよね、てなわけで、いつ会えるのかわかんないのよー』
『そうしていただけると助かりますが、いいのですか?』
『いいのいいの、で、今更第一~とも思えないし…今居るのは第二エリアよね?おっさんどこに行ったらいいの?』
『私が今いるのは『エルフェリア』の北にある塔ですが……来れそうですか?』
セオリー的にはキャンプ地あたりで待ち合わせするのが良いのかもしれませんが、奇妙な事件が起きている人の多い場所で待ち合わせをするというのも色んな意味で危険なのですよね。
『大丈夫よーって言いたいんだけど、残念ながらおっさん地下水道突破してないのよねー……って事で、申し訳ないんだけど、待ち合わせ場所をキャンプ地とかに変えられないかしら?』
『それはちょっと……諸事情がありまして』
魅了の関係上、町中での待ち合わせはやめた方が良いと思います。
『うーん、そうなると……ちょっと時間がかかるかもしんないんだけど、いいかしら?』
若干の申し訳なさを滲ませるスコルさんなのですが、わがままを言っているのは私の方ですからね、時間がかかるくらいは仕方がないでしょう。
『はい、それで構いません……お手数をおかけします』
こうして嵩張っていた魔石はスコルさんが預かってくれる事になったのですが、取りに行けるのがいつになるかはわからないからと、近くまで来たら改めて連絡を入れるからという事で一旦通信を終える事になりました。
※グレースさんと一緒に行った試乗会については別作品としてUPしておりますので、どのような事があったのか気になる方はそちらもどうぞよろしくお願いします。
※ちなみにリンネさんのクランメンバーは飛ばされた場所から東に移動し『ディフォーテイク大森林』の端を掠めるように亀裂沿いに北へ移動してぐるりと回りこむ形で『エルフェリア』に到着というルートで生還しています。
※ユリエルは家庭科の授業以外に料理をした事が無いのですが、それはこの時代の現代っ子あるあるです。というより包丁を持って料理をする人の方が稀で、たいていの人はメニューを選んでボタンを押したら勝手に作ってくれるオートクッキングの機械を使うか家事用のロボットとかが調理してくれるのが普通で、よほどの貧乏でも無ければ温めたりお湯を入れたりするレトルトを調理するのがせいぜいです。
そのため料理というのは限りなく趣味的なものかオートクッキングのメニューを考えるような専門的なものという感覚で、人が作った手料理というのは三ツ星レストランとかで食べる豪華な物という感じになっています。
※スコルさんが若干引いたのは魅了に対抗していただけで、それほど深い意味はありません。というより本人には効果がないのであまり自覚はないのですが、ユリエルの声には魅了が乗っているので通話するというのは結構危険な行為でもあります。
※よくよく考えてみたら第一エリアでドゥリンさんの手伝いをしているスコルさんが『ギャザニー地下水道』を突破しているのも変ですし、今から突破するにしても事前に説明している筈だという事で内容を修正する事になりました(11/16)。




