284:シールドビーク戦
※加筆修正のお知らせなのですが、282話の【輪唱】習得後の3階探索時に、うっかり忘れていたナタリアさんとウィルチェさんへの返信を入れておいた事にしました。
お昼休憩を挟み、私達はシノさんの情報をもとに『クヴェルクル山脈』の西側に居るという二足歩行する鳥型モンスターを探す事にしたのですが……時折思い出したように飛んでくるハーピー達に見つからないように行動するのはなかなか骨が折れますね。
これで常時上空を飛び回れたらまともに動けなくなるところだったのですが、丁度ハーピーの巣へジョンさんやシノさんが殴り込みをかけている最中だからか、それとも単純に巣があると思われる方向とは逆の方向に来ているからなのかあまりその姿を見かける事はなく、私達は『リュミエーギィニー』の下に身を潜めながら慎重に索敵を続けます。
(あれがシノさんの言っていた巨大な鳥型モンスターですね)
(ぷっ)
そしてそんな私達の姿を隠してくれていた『リュミエーギィニー』がやや疎らになってきた辺りに、ソレはいました。
全体的な見た目としては、大昔に滅んだというドードーと言う鳥が近いのでしょうか?体高は1メートルちょっとの二足歩行をしている丸々と太ったような白い鳥で、自身の身長に匹敵するような平べったいクリーム色の巨大な嘴を持っているのが特徴なのですが、その嘴の付け根の一部がおでこの辺りまで伸びていたりと空気抵抗が大きそうな形状をしているせいか、ややその巨大さを持て余す様に岩肌の見える斜面をノタノタと歩いていました。
『まふかさん』
私がターゲットが居た事をPT経由で伝えると、まふかさんも『リュミエーギィニー』の影に隠れるように身を屈めて近づいて来て、私の指さす方向を確認します。
『あれね…ちょっと待ってなさい』
そうして【狂嵐】に備えて装備を整えているまふかさんの準備を待ちながら、私と牡丹は『ベローズソード』と投げナイフを抜き襲撃準備を整えるのですが、今のところドードー擬きが私達に気付いた様子はありません。
ノンアクティブ系のモンスターなのか、それとも嘴の形状的に索敵能力が低いのかはわかりませんが、尾羽が無いせいで丸々と太ったように見える体をノタノタと動かし、退化している小さな両翼をパタパタと動かす事で何とかバランスをとりながら『リュミエーギィニー』を嘴で突いていたのですが、その仕草や見た目にはどこか愛嬌がありますね。
そのまま何をしているのか眺めていると、どうやらこのドードー擬きは巨大な嘴で『リュミエーギィニー』の白くなった樹皮を削って食べているようなのですが、オーガビーストのように食べつくそうとしているというより本当にただの食事と言う感じで……食性としては草食動物なのでしょうか?
そしてそんな物を食べているからなのか、よくよく見てみるとその体は光属性を纏っているように薄く輝いていたのですが、その魔力のお陰で魔除けの植物が群生している場所でも生存出来ているようですね。
しかもこのドードー擬きは程よく食べ終わると満足したのかトタトタと移動し、モゴモゴしていた食べ残しをペッと吐き出していたのですが……その吐き捨てている辺りには小さな若木がチラホラと見えたりと、ドードー擬きと『リュミエーギィニー』は一種の共生ともいえる関係性を築いているのかもしれません。
(出来たら【看破】を打ちたいのですが)
観察した結果としては無害で大きな鳥という印象でそれほど強いようには見えないのですが、何が起きるかわからないのがブレイクヒーローズですからね、大まかな基準としてのレベルくらいは知りたいのですが……【看破】を使用すると私達が潜んでいる事を相手に知らせてしまいますからね、今は我慢です。
後はシノさんがこの状態からハーピー達の奇襲を受けたという事で、念のため周囲にモンスターが居ないかを確かめてみたのですが……遠くにチラホラとモンスターの気配はありますが、すぐ襲ってくるような敵はいませんし、ハーピー達の姿もありません。
そして幾ら疎らと言っても十分な量の『リュミエーギィニー』が生えているので視線は通っていませんし、速攻で目の前のドードー擬きを倒せばリンクされる心配も無いでしょう。
『大丈夫よ』
そうして私がドードー擬きの観察を続けていると、まふかさんが身長より長い『デストロイアックス』を構え、体に巻き付けていた毛皮を気持ちきつめに巻きなおした後に声をかけてきました。
それ以外のアイテムは近くの『リュミエーギィニー』の傍に置いたようで、これで戦闘準備は完了のようですね。
『わかりました、ではしかけましょう』
『OK、先陣はまかせなさい!!』
『ぷっ!』
言うが早いか『リュミエーギィニー』の影から飛び出したまふかさんはパチパチとした電気を纏い呑気に食事を続けるドードー擬きに襲い掛かるのですが、駆けだした瞬間纏っていた毛皮が【狂嵐】の影響を受けて燃え上がります。
『まふかさん、そろそろ毛皮も残り少なくなっていますし、あまり無駄な消費は…』
『うっさいわね!これで…きゃんっ!?』
そうして私の言葉に振り返りながら怒鳴り返そうとしていたまふかさんはブルンブルンと揺らしていた胸と股間を押さえながら失速したのですが、それを追い越しながら私は『ベローズソード』を構えます。
(まだ…んっ…発見されていませんが…)
距離は10メートル程度【魔翼】とスカート翼を使えば一足飛びといった距離なのですが『リュミエーギィニー』の魔力がチクチクしました。
なので軽く蛇行するように『リュミエーギィニー』を避けて進むのですが、魔力をかく乱するような効果があると言いますか、確かにこんな所に好き好んでモンスターはやってこないでしょうねという感じなのですが、とにかく魔力が操作しづらくなっていて気持ち悪いですね。
(ぷぃ…)
そういう地形効果を受けているのは牡丹も一緒なのか、軽く眉をしかめるように身を震わせると、その動きに合わせて『翠皇竜のドレス』がヌルリと身震いするように蠢きました。
(ッ…!?揺れ…ている所を舐められて…)
少しザラザラした巨大な舌が肌に絡まりつくような甘い刺激に耐えながら何とか一気に踏み込むと、力の高まりに合わせて【淫装】が流動するように蠢き肌を舐め回すような動き強まるのですが、私は短く息を吐き、眉をしかめながらも強引にその刺激を押し込み踏み込みます。
「KYUEEE!?」
そうして私は完全にドードー擬きを射程圏内に捕らえ、魔力操作というより【鞭】スキルとして攻撃を開始したところで奇妙な鳴き声を上げて反応が返ってきたのですが……。
(早いっ!?し、硬い…ですね)
『ベローズソード』をしならせ右上から左下への袈裟斬り気味に斬り払うと、ドードー擬きはその見た目とは裏腹に意外と機敏な動きをみせ、その巨大な嘴で私の攻撃を受け止めました。
どうやら『リュミエーギィニー』を食べる事によって蓄えた魔力が巨大な嘴に集まっているようで『ベローズソード』がガッガガガッ!!っと連続ヒットし【剣舞】が入るのです、それでも表面には掠り傷が入る程度となかなか硬く、嘴を攻撃するのは武器の耐久度的にあまり得策では無いのかもしれません。
なので私はそのままドードー擬きの左側に抜けながら返す刃で右側面を斬り払っておいたのですが……それも防がれ、もうここまできたら見つかるも何もないので【看破】を打つと、ドードー擬きの名前はシールドビークといい、レベルは30、名前の由来はその特徴的な盾のような嘴のようですね。
「っ、たぁあああああ!!」
「KYUTAAA!?」
そうして私の方を警戒して横を向いていたシールドビークに対して『デストロイアックス』に魔力を込めなが正面から突っ込んで来たまふかさんがおもいっきり突きを放つのですが……シールドビークは小さな羽をパタパタと動かしたかと思うと、ピョンと跳ねるようにしてその一撃を回避しました。
(今!)
(ぷっ!)
ただそんな明確な隙を私達が見逃す筈もなく、私と投げナイフを構えた牡丹が追撃を入れるとその側面からの攻撃にすら飛び上がった状態のシールドビークは体を捻って嘴で防ごうとするのですが、防ごうとする事がわかっていれば対処は可能です。
(動かしづらい…です、が!)
私は『リュミエーギィニー』に魔力をかく乱させられながらも、何とか『ベローズソード』の太刀筋を調整して嘴に沿う様に刃を回り込ませてシールドビークの右側面を抉ります。
「KYUx!?」
そうしてやっと丸々と太った体を削りホログラムが上がったのですが……これは何て言いますか、迂回攻撃しやすい私とは相性のいい相手ですね。
たぶん普通の攻撃ならこうも簡単に当たらないと思うのですが、軽く牽制を入れながら正面から側面を攻撃すると結構攻撃が当たります。
「こっ、の!!」
事実一撃必殺ともいえるまふかさんの『デストロイアックス』は魔力のこもった嘴で防がれてと、たぶん正面からの攻撃ならパワーアップした【ルドラの火】だったとしても致命傷を与えるのはなかなか難しいのかもしれませんが『ベローズソード』ならそんな強固な嘴を避けて攻撃する事が可能です。
「KYUI!?…KYUUAAAA!!」
そうしてまふかさんの一撃を受けてよろめいたところに側面から攻撃を叩き込むと、シールドビークはホログラムを流しながら最後の断末魔のような鳴き声をあげたのですが……そんな鳴き声が辺りに響き渡るとアチコチから「KYUEE!!」「KYUUUEE!!」という同族の鳴き声が響き渡りました。
(好都合ですね)
どうやら増援を呼ばれてしまったようなのですが、1匹目はすでに瀕死ですし、このまま各個撃破といきましょう。
『さっさとコイツを片付けるわよ!』
『了解です!』
まふかさんも同じ事を考えていたのかそのまま一気に攻撃を仕掛けて畳みかけるのですが、1匹目を倒しきったところに2匹目が来て、そこから3匹目と……攻略法さえ分かってしまえば対処は簡単な相手ですし、そこからはもう相性的にも美味しいボーナスゲームともいえるような一方的な狩りになりました。
※シールドビークは『エルフェリア』の北部に居たコッケーの一部が『リュミエーギィニー』に付着した塩分(海が近い)を摂取し続けた事によって進化したのだとも言われていますが、真偽の程は不明です。




