283:休憩後の行動方針
「遅かったわね…って、服が変わっているけど……何かあったの?」
ドレスを修復するのに時間がかかってしまい合流が遅れてしまったという事もあるのですが、手っ取り早く3階から飛び降りて正面ドアから入った私を出迎えた毛皮を巻いただけのまふかさんは、汗やら色々な液体でドロドロだった身体をお風呂場で簡単に水洗いしたようで、サッパリした姿で不機嫌そうに腕を組んで私の様子を頭の先から足先まで眺めていました。
「すみません、色々ありまして…これはその時の結果といいますか…」
牡丹側に統合された『翠皇竜のドレス』に関してなのですが、燃え尽きた状態から【修復】したら大きなデザインの変更は無いものの素材がガラリと変わっており、生物的な表皮といった感じの質感から少し分厚い半透明の液体金属チックなゼリー状の物に変わっており、スライム度が増していました。
これによりドレスの上から乳首やクリ〇リスをカリカリされた時にトロリとした内側の肉壁触手越しにその愛撫を受けてしまう事になりましたし、擦れた時の刺激が増したような気がします。
まあ性能的にはプニプニした事により純粋な防御力は減ってしまった代わり破けづらくなった感じで、耐性関連もワンランクアップしていたのは良いのですが、その分ドレスの上からの衝撃が響くようになっていたのがマイナスポイントですね。
後は『修復』時とドレスの魔力を補充する際に蠢くのは仕方が無いとしても、完全に牡丹の支配下に置かれた事によって見闇矢鱈にドレスが蠢く事が無くなり、牡丹が言うには【淫装】に宿っていた意思は不貞腐れて拗ねてしまっているのだそうです。
「で、何か見つけたんでしょ?そういう面白そうな事がある時はちゃんとあたしを呼びなさいっていつも言ってるじゃない!」
「呼びたかったのはやまやまなのですが、まふかさんが気絶していましたので…」
「ぷー」
「ぐっ、ま、まあそうだけど…次からはちゃんと呼びなさいよね!!」
私の反論に牡丹が同意するように触腕を上げるとまふかさんは言葉を詰まらせていたのですが、私が3階の話をすると「案内しなさい」との事で、一度上がってみたいとの事でした。
「いいですけど、もう何もないですよ?」
「良いのよ、あんたが知っているのにあたしが知らないっていうのが気に入らないだけだから」
「そういうものですか」
よくわからない理屈なのですが、他人の視点で見たら見つかる物もあるかもしれませんし、ベテラン勢でもあるまふかさんの観察眼に期待する事にしましょう。
因みに【輪唱】のデメリット効果である魔力の枯渇なのですが、だいたい30分くらいした辺りから徐々に自然回復が再開する事が分かったのですが、それでもすぐに元通りと言う訳にはいかず、自然回復量の減少中はMP回復ポーションの効果も下がったりと色々なデメリットが続くようですね。
その中でも特に痛いのがMP回復ポーションの利きが悪くなる事で、これがあるせいで減ったMPを無理やり回復させての連続使用というゴリ押しが出来ません。
それにゲーム内時間で30分と言うと安全が確保できていれば休憩に丁度良い時間なのですが、戦闘後にそのまま休憩と言う落ち着いた場面はなかなか無いですし、使いどころに悩むスキルになるのは確定ですね。
「うーん、やっぱり無いなー…ってことは素手かぁ、あんまり得意じゃないんだよねー……って何々?隠し部屋があったの…って、うわ、ユリエルだ」
そんな話しをしていると2階の物置を探っていたシノさんがブツブツと言いながら降りて来たのですが、私達の話し声に惹かれるように顔を出して……私の顔を見た瞬間ビクリと体を震わせたかと思うと、興味5割に恐れと嫌悪が半々ずつといった表情を浮かべてそそくさと引っ込んでしまいました。
人の事を鬼か悪魔かと言うような態度はどうかと思うのですが、股間から白濁した緑色の液体を出しながら白目を剥いてピクピクしていた姿を見た後ですからね、元気になってよかったと思います。
というよりこれはまふかさんにも言える事なのですが、2人とも結構酷い目にあっているような気がするのですが、あまり気にしていないですよね?
普通に活動しているのが驚異的と言いますか……まあ2人とも逆境を楽しむタイプっぽいですし、十分身体を休める事が出来たので心機一転しているだけなのかもしれませんが、多少ひどい目にあったくらいでは挫けないその精神力は見習いたいと思います。
「ねえ、あたしの気のせいかもしれないけど……何か変な事考えてない?というよりあんたって、嫌われているの?」
「変な事は考えていませんが……そうみたいですね」
「ぷぃー…」
変な事を考えていないかと言われてもよくわかりませんし、シノさんとは仲良くしたいと思うのですが……なかなか難しそうなのですよね。
「まああんたって無自覚に酷い事したりするし…自業自得なんじゃない?」
「何かしているつもりは……って、だんだん私への悪口になっていませんか?」
理不尽な風評被害のような気がするのですが、私が反論するとまふかさんと牡丹は顔を見合わせた後にそれはそれは大きなため息を吐きました。
「まあそんな事より、あんたが見つけた隠し部屋だけど…」
まふかさんは話を逸らす事で私の追求をはぐらかしたのですが、件のシノさんはまふかさんと一緒にドロドロだった身体を魔法で丸洗いした後、塔の設備を見て回りながら武器になりそうな物を探していたようですね。
というのも持っていた装備やアイテムをハーピー達に持っていかれたようで……人も攫うようですし、集めたアイテムを巣材にでもしているのでしょうか?とにかく何かしらの武器を見つけたら、奪われたアイテムを取り返しに行くつもりなのだそうです。
「先に言っておくけど…あたしはパスよパス。アイツら相手だとあたしが活躍出来ないし、どう考えて金策に向かない敵でしょ?」
そして流石に素手でハーピーの巣に行くのは無謀ではないかと、私が「手伝いませんか?」と言い出す前にまふかさんは先手を打ってきたのですが……確かにさっさと出発して行ったジョンさんに追いつけるのなら奥の手を聞き出すチャンスでもあるのですが、流石にそろそろお昼休憩を挟みたいですし、追いつくのが難しくなると本当に向かう理由がないのですよね。
「そうなのですが…」
新しい力も手に入れましたし、速攻を仕掛けて頑張れば1体2体は狩れるかもしれませんが、数は狩れないと思うので金策相手としてはいまいちというのもその通りです。
もし本格的に戦おうとするのであれば遠距離攻撃対策が必須になって来るのですが【魔水晶】で振動を中和させるにしても【魔力創造】で完全に振動をシャットアウトするような全方位のシールドを作るにしてもまだまだレベル不足ですし、それに防ぐ事が出来るようになったとしても、まともな遠距離攻撃手段が無ければ数を狩るのは難しいと思います。
「それよりあたしの服を手に入れる事の方が先決でしょ?まさか忘れて……ねえ、あんたってあたし達より先に来ているのよね?この辺りで金策に良さそうな狩場知っていたりしない?」
「それを教えて私の得になる事が無いような気がするけどー?そこんとこーどうなのかな?」
そしてそんな話していたタイミングで外に出て行こうとしていたシノさんを見かけて、如何にもただの雑談といったようにまふかさんが話しかけていたのですが……意図的に『クヴェルクル山脈』の発見報告をせずに独占しようとしていたシノさんですからね、ほんわかした笑顔の裏に毒を潜ませながら聞き返してきました。
「これくらいは雑談の範疇じゃない?」
「まー…そうだけどさ」
そこでシノさんはチラリと私の方を見たのですが、その視線に私は軽く微笑みを返すと何故かブルルっと身体を震わせられたのですが……どうしてでしょう?
「まあ…いっか、といっても私もちょっと前に来たところだからあまり知らないんだけどー」
そう前置きしてシノさんが語るには『クヴェルクル山脈』の西側の方で二足歩行をする巨大な鳥型モンスターを見かけたそうです。
これなら狩れそうだと攻撃しようとしたところ『リュミエーギィニー』があるせいで射線が通りづらく、もう少し近づこうとしたところをハーピー達に見つかってしまい、そこからはもう逃げるのに精いっぱいで詳細はわからないとの事でした。
「いやー次々に集まって来るし、振動はきついし、あれは地獄だったねー」
「ええ、あれは…きついわよね」
そう涙目になりながら話すシノさんにまふかさんもウンウンと頷いているのですが、何か2人ともクソゲー配信者と言う同一カテゴリーの人達だからか気が合うみたいですね。
(良いですね)
(ぷー…)
そんな仲良しの2人を私が羨ましがっていると、シノさんはチラリと私の方を見たかと思うと「これ以上関わっていると身に危険が及ぶ」とでも言わんばかりに会話を打ち切りました。
「っと、それじゃあ私はそろそろ行くから、情報はギブアンドテイクという事でー今度借りを返してもらうねー」
そう言ってシノさんはそそくさと出て行ってしまったのですが、私以外と話す時は普通っぽいのですよね。
まあ配信者としてまふかさんの方が上位にいますし、多少は上位勢に睨まれるのが嫌だからという打算が含まれているのかもしれませんが……あまりこの件を考えるとショックを受けそうなので、この話題はここまでとしておきましょう。
とにかくそういう訳で、まず私達はまふかさんを3階まで案内して……「何で外壁をよじ登った所にあるのよ!?」という理不尽な言葉を聞いたり何もないのを確かめてからお昼休憩を挟み、シノさんの情報を頼りに西側の探索と金策を開始する事になりました。
※ハーピー退治の考察について、少しだけ加筆しました(10/24)。




