282:輪唱
最近【ルドラの火】が敵に通じづらくなっているという事を考えていたら、ルドラさんが新しい力を授けようとか言い始めたのですが……そんな気軽にポンポンと新しい力を授けても大丈夫なのでしょうか?
一瞬そんな事を心配してしまったのですが、ルドラさんはニヤリと獰猛そうな笑みを浮かべると、片腹痛いはとでも言いたげに笑います。
『安心せよ、小さき者にも扱えるように調整はしてある。それにこの度与えるのは変化や応用といった小手先の技術だからな、それほど大それたものでは無い』
との事で、新しいスキルを授けるというよりバージョンアップといった感じのもののようで、必殺技が通じづらくなった時のパワーアップイベントみたいものだったのですが、ルドラさんが指を鳴らすとリンとした鈴の音が共振したように世界が揺らぎ、その力が私の中に宿っていくように軽く振動しました。
『これが新しき力…【輪唱】である。汝の場合は2カ所を共鳴させているだけなのでさほど出力は出ぬが……まあ当面の敵には十分だろう』
との事で新しいスキルを覚えたのですが、スキル説明欄を見る限りだと任意発動での自己強化技のようですね。
「【輪唱】」
さっそく試してみようとスキルを発動させてみたのですが……何も起きません。
『言い忘れておったが【輪唱】は【ルドラの火】を強化するものだ【ルドラの火】を灯しておらねば【輪唱】は起きぬと心得よ』
「なるほど…」
本当に【ルドラの火】を強化する為のスキルなのですねと改めて【ルドラの火】を灯してから【輪唱】を発動させると、左手と尻尾の炎が共鳴し合うように勢いよく燃え盛るのですが……何て言いますか、これは左手と尻尾を起点とした【狂嵐】といいますか、対流するような青白い炎が全身を巡り力が漲りました。
そして純粋な攻撃力強化と【ルドラの火】の威力が向上する事によって纏わせた炎には貫通効果が付与されるようなのですが……燃費はかなり悪く、通常の【ルドラの火】は私の魔力が上がるにつれて使用時間が増えていきましたし、スキルのON・OFFをきっちりすればかなり長時間使えるようになっていたのですが【輪唱】に関しては燃やせば燃やすほど出力が上がるタイプなのでそこまで器用な運用は出来ず、だいたい30秒程度で私のMPが完全に枯渇しそうです。そしてこれは……。
「あの…服が燃えているのですが…?」
【狂嵐】のようなスキルですからね、まるで燃えて当然というように身に纏っていたドレスが青白い炎によって勢いよく燃え上がっていました。
「ぷぃ!?」
まあ牡丹は私と同質の魔力持ちなので【ルドラの火】で焼かれる事は無かったのですが、耐性がある筈の『翠皇竜のドレス』ですら容赦なく燃え上がり一瞬で焼け落ちてしまったりと、その火力の凄さがうかがい知れますね……とか言っている場合ではなく、私は慌てて【輪唱】の効果と【ルドラの火】を消し止めたのですが、ルドラさんはその様子を見ながらどこか満足げに頷きます。
『ふむ…人間にしては問題なく使えているようだな、流石我が選んだ人間だけの事はある』
何か一人で勝手に納得していたのですが、これで本当に成功なのでしょうか?
『別に裸くらい見られても困るものではなかろう?』
そう言うルドラさんは恥じる事もなく全裸と言いますか、全身燃え上がるような炎と黄金の装飾品で身を飾っているだけなのですよね。
この辺りは人間と神様の感覚の違いなのかもしれませんが、元が芸術的な裸夫像だったのでそういうものかと思っていたのですが、自分も似たような状況になると少し考えさせられるものがありました。
「問題しかないような気がしますが……あと、MPが回復しなくなっているのですが?」
一応【ルドラの火】が魔力を燃料に燃えあがる特性上、体液や母乳に魔力がふんだんに含まれている関係でギリギリ炎が乳首や大事な所を隠してくれているとも言えなくないのですが……何かモヤモヤしてしまいますね。
そして焼け落ちたドレスの破片をかき集めて胸とか大事な所を隠しながらステータスを確認したのですが、私の場合は種族やスキル構成的にMP依存のものが多く、魔力が低下している状態だと筋力などの基礎ステータスが減るだけではなく【魔翼】などの出力も下がったりと戦力の大幅ダウンは避けられません。
『矮小なる人の身で我が力の一端を使うのだ、消耗が激しいのは仕方があるまい』
だというのにルドラさんはバッサリとその辺りの問題を切り捨てて……ようするに強力なバフを受ける代わりに燃え尽き症候群に陥るといいますか、少しの間MPが自動回復しなくなるデメリットがあるようですね。
それでいて魅了関連のスキルは魔力依存ではないという事で……これは使いどころを間違えると、無力な状態でモンスターを呼び寄せ続けるというかなり悲惨な状況になるのかもしれません。
(仕様については理解しましたが)
魅了に関してはともかく、デメリットに関してはよくある仕様なので受け入れる事にしたのですが、またしても服が燃え落ちてしまう問題に直面し……『翠皇竜のドレス』以上の耐性装備と言うとなかなか無いような気がするので、どうしましょう?というより30秒間フルで発動させようとしたら跡形もなく燃え尽きてしまうのですが、その状態からのドレスの【修復】は可能なのでしょうか?
(ぷー…)
牡丹も一緒に頭を悩ませてくれたのですが、よくわかりません。
『それなら問題はない、そのドレスも汝の従者も同じ因子を持っているのだからな、根源の方を従者の方に移しておけば再生も叶うだろう』
そうしてやっぱり私の頭の中を読んだルドラさんが解決方法を示してくれたのですが、どうやらドレスの核となる部分を牡丹に移しておけば完全に燃え尽きた後でも修復は可能なのだそうです。
と言う訳でその作業もルドラさんがしてくれたのですが……武器の方は因子が含まれていないので無理だという事でした。
『どうせその辺りで拾った物であるのだろう、壊れたらまた新しく手に入れたら良いのではないか?』
「それは…少し難しいと思いますが」
ルドラさんはサラリと言うのですが『ベローズソード』クラスの物を見つけるのはなかなか難しいと思います。
『ふむ、そうだな…そうなるといっその事汝の力で武器を作り上げるしか他ないが…』
【ルドラの火】の制御能力が上がれば炎自体を武器として振るう事も出来るだろうとの事なのですが、その辺りは要修練だそうで、今のところはどうしようもないですね。
「わかりました、頑張ってみます」
『良き心がけである、汝ならきっと我が力を十全に振るえるようになる日が来るであろう……しかし、どうやら少し長話をしすぎたようだな…我が現世に留まれる時間はあまり残されていないようだ』
そうしてそろそろ時間なのか、ルドラさんの形が少し翳ったかと思うと、残念そうに息を吐きました。
「色々とありがとうございます」
『気にするな、我にとってはよい余興である…それではまた次の大陸で汝の成長を待つ事にしよう』
そう言い残すとルドラさんの体が砂になり崩壊していったのですが、その砂も最後はキラキラとした光となり消えていきます。
それに合わせて部屋の中に充満していた神聖な気配や光が収まり古びた石造りの塔が本来の姿を現したのですが、とにかくこれでパワーアップイベントは終了のようですね。
(さて)
そうして念のため他にも何か隠されたギミックやアイテムが無いかと部屋の中を調べてみたのですが……何もありませんでした。それを確認してからそろそろ下に戻ろうかと思っていると、後で連絡を入れると言っておきながらバタバタとしていて連絡が出来ていなかったナタリアさんとウィルチェさんの事を思い出しました。
(すっかり忘れていましたね)
とにかく2人には連絡が遅れた事を謝罪しておき『エルフェリア』の北方に塔があった事を話しておいたのですが『いやー流石ユリエルちゃん、しっかりと探索しているねー』と感心を示すナタリアさんや『へーそうなんだ、僕も後で行ってみようかな』とかお気楽なウィルチェさん達とはそのまま情報交換をしておいたのですが、それが終わったくらいにやっと目を覚ましたまふかさんから連絡が入りました。
『ねえ、何か気づいたらよくわからない部屋に寝かされていたんだけど…どこ、ここ?あと何か凄い恰好の奴が隣で白目剥いているんだけど……あんた、何かやったの?』
不機嫌さと戸惑いの混じった言葉は何処か寝起きのような感じがしたのですが、とにかくどうやら無事に復帰したようですね。
『ここは『クヴェルクル山脈』の中にある『隠者の塔』の中で、シノさんは……ハーピー達にやられておりまして…とにかく少しお待ちください、一旦戻りますね』
何故かシノさんの事も私が何かした事にされていたのですが、とにかくこの部屋にはもう何も無いようですし、今後の話し合いもあるので一旦合流する事にしました。
(とはいえ…)
これだけ時間が経過してもまだ魔力が回復しないままというのが気になりますね。
意外と制限が厳しいのかもしれませんし、全損したドレスを修復しなければいけないというのもなかなか気が重いのですが……ここで悩んでいても仕方がないですし、私は覚悟を決めて淫装化している『翠皇竜のドレス』を【修復】してから、まふかさん達が待つ下の階に降りる事にしました。
※ナタリアさんとウィルチェさんに連絡を入れ忘れていたので、3階の部屋を調べている時に連絡を入れておいた事にしました。




