279:隠者の塔
私達は『エルフェリア』北方に広がる『クヴェルクル山脈』の窪地にそびえ建つ古びた石造りの塔を発見したのですが、建物自体はかなり古い物ではあるものの、その近くにはここ最近人が来たような痕跡が残っていました。
(負傷者を運んだ跡…でしょうか?)
所々足跡が乱れている場所や滴る液体によって汚されている場所があったのですが、そんな痕跡が雑草と蔦に覆われたボロボロの塔の中へと続いています。
(もしかしたら他のプレイヤーがいるのかもしれませんね)
なので丸見えはどうかと思い【狂嵐】のせいで衣服が弾け飛んでいるまふかさんに新しい毛皮をかけてから塔に近づいて行ったのですが、近づく度に密生している『リュミエーギィニー』のおかげかモンスターの気配が遠ざかりました。
『『隠者の塔』のポータルを開放しました。リスポーン地点の再設定を行いますか?<YES><NO>』
そして敷地を示す為だけに立てられたというような棒が塔の周囲に打ち込まれていたのですが、そんな簡易な柵の中に入るとアナウンスが入り……どうやらここは本格的なセーフティーエリアになっているようですね。
雰囲気的には『プルジャの工房』や『サルースの館』という感じでしょうか?というより明らかに塔からはルドラの気配が漂ってきていたのですが、そういえばエリアに1つはルドラの像があると神様が言っていたような気がします。
(まあ今はそれより…)
探せばルドラの像があるのかもしれませんが、まずは気絶したままのまふかさんを休ませてあげないといけませんし、とにかく塔の中に入る事にしましょう。
「…すみません、驚かせてしまいましたか?」
そうして私達は今にも腐り落ちそうな木製の両開きのドアを開けて中に入ると、先客である男性が肩にかけていた弓に手をかけて一瞬戦闘態勢を取りかけたのですが、私達の顔を見ながら構えをときました。
「…いや」
確かこの人は……ジョン・ドゥさんでしたっけ? 第一エリアのゴルオダスイベントの時に納品系で1位を取っていた人で、第二エリアでも毀棄都市を発見していた人ですね。
私はそんなジョンさんの視線を遮るようにスカート翼を広げてあられもない姿のまふかさんを隠したのですが、その仕草にジョンさんは何があったのかを察したのか、紳士的な態度で横を向きます。
「確か…ユリエルといったか、ワールドアナウンスが入っていたから誰か来るだろうと思っていたが」
ジョンさんはパーマのかかったアッシュブラウンの髪をした背の高い男性で、装備品は『エルフェリア』で買ったと思われる物が揃っており、武器は弓と剣、防具は通気性の良さそうな長袖のシャツとズボンの上に革製の軽鎧にブーツという、接近戦も出来るハンターみたいな機動性重視の装備をしていました。
「第一発見の実績を横取りしてしまいました?」
バタバタしていてあまり深く考えていなかったのですが、先着している人と出くわすと少し気まずいですね。
「いや、告知されても面倒が増えるだけだ」
そう肩を竦めるジョンさんが言うには、毀棄都市を発見してからおこぼれにありつこうとする人達に付きまとわれる事も多くなり、辟易していたので丁度良かったそうです。
「そう言ってくれると助かりますが…っと」
私はジョンさんと会話をしながらまふかさんを横に出来る場所を探したのですが……塔の外観を見た時から思っていましたが、石造りの古びた竈や流し台は辛うじて残ってはいるものの、木製の家具類はボロボロになり腐っていて、中は結構ボロボロですね。
「そいつを休ませたいのなら向こうの部屋を使うといい…それでついでに転がしている奴を診てくれると助かる」
「転がしている奴?」
「ああ、途中で拾ったんだが…俺にはどうする事も出来なくてな」
私がキョロキョロしていた事に気がついたのか、ジョンさんがそんな事を言ってきたのですが……何でも『エルフェリア』で装備を整え、その試し打ちをしようと強い敵の居る場所に来たところでハーピー達に襲われている女性を見つけ、助け出したのだそうです。
ただあのハーピー達にやられていた訳ですからね、それはもう色々と酷い状態だったようで、男性であるジョンさんが治療しようとすると後で訴えられるかもしれないからという理由で手が出せず、とりあえず隣の部屋に放り込んでおいたとの事でした。
因みにその時金魚の糞のように付きまとっていた男性がハーピー達に連れ攫われてしまったそうで、その男性を助けに行こうと思いながらも助けた女性をこのまま放置して行くのも後味が悪いしと考えているうちにやって来たのが、私達なのだそうです。
「……その後でいい、出来れば救出しに行く時に手を貸してくれないか?」
そうしてジョンさんがどういう意図をもってハーピーの巣に向かうのに私を誘ったのかはわかりませんが、そんな事を提案してきました。
「すみません、PTメンバーが目を覚ましてからでないと何ともお答えできません」
別に厭らしい目的があるという感じでもないのですが、それでもどういう意図があるのか分からないのでやんわりと断ると、ジョンさんは別に断られた事を悲しむ訳でもなく「そうか」と淡々と呟くと、連れ去られた男性を救出する為の準備を始めます。
「助けに行くんですか?」
「面倒」とか「つきまとわれて」みたいに言っている割には連れ攫われたら助けに行くんですねと思いつい訊いてしまったのですが、ジョンさんは私の言葉に皮肉気に笑います。
「折角のゲームだろう?」
そう言いながらもジョンさんはあまり楽しそうな顔はしておらず、助けに行くのも友情や義理とかではなく、ただのクエスト感覚のようですね。
「そうですね」
とりあえず同意しておくと、ジョンさんは何ともよくわからない表情を浮かべたのですが……すぐにいつも通りの無気力な無表情に戻ります。
もしかしたら私を誘ったのはただの似た者同士なだけなのかもしれませんが、とにかくジョンさんは弓の弦や矢の本数を確かめた後、塔から出て行きました。
(変わった人ですね)
(ぷぃ~…)
今まで警戒するように触腕を上げていた牡丹はフニャフニャと力を抜いたのですが、とにかくその後姿を見送ってから私はジョンさんもあのハーピー達と戦い追い払ったのだという事実に気が付き、衣類の汚れから見るかぎり無難に切り抜けたみたいなのですが……どうやったのでしょう?
たぶん聞いても「企業秘密だ」とか手の内は見せてくれないタイプで誤魔化されるような気はするのですが、ついて行ったらわかったのでしょうか?
とはいえもう出て行った後ですし、今はまふかさんの休憩が最優先で、隣の部屋にいる女性というのも気になるのでまた今度にしましょう。
(確か隣の部屋に…)
因みに『隠者の塔』の構造としては、正面ドアを開いた場所は古い竈の在る円形の大きな部屋になっていて、その部屋から見て右側に2階に続く階段がある細い廊下、その廊下を挟んで寝室という名の木の破片と布の残骸が残っている部屋が一つ、後はトイレやお風呂などの水場類がある感じですね。
(これは…)
そして部屋を仕切るようなドア類は腐りきっていて崩壊しているので、廊下まで来るとジョンさんの言っていた「転がしている女性」というのが見えてきたのですが……それがまた凄い状態で、漂ってくる匂いに私は目を瞠ります。
ハーピーの攻撃は物体を破損させるようなものではないので、鮮やかな紫色のインナーカラーの入った長い黒髪の女性が着ているピッチリした全身スーツは股間部を除き無事だったのですが、その下にある未成熟な身体はハーピー達の振動攻撃を念入りに受けて嬲られた事がわかるような酷い有様で、ぐっしょりと濡れた衣類からは汗の匂い以外にも色々と漂ってきていました。
そして質の悪い事にその責め苦はまだ続いているのか、振動が抜けきっていないというようにその身体は時折ビクンビクンと痙攣していて、凌辱の痕が残る股間からは白濁した液体が溢れてトロトロと垂れ流しで、膨らみともいえないささやかな胸の先にある乳首はピッチリしたスーツの下からその場所を主張していたりと、何かしらの状態異常が続いているようですね。
「何で、ユリエルが…いるのかな?」
そうして転がされている女性……ハーピー達に犯され続けた結果、まるで臨月腹のようにお腹をプックリと膨れ上がらせたシノさんが脂汗をダラダラと流しながら苦し気に顔を上げて、そんな憎まれ口を叩きました。




