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27:お詫びと鉱山と厄介ごと

「すまんかった、盗まれたのかと思ってついカッとなっちまった」

 周囲からの失笑のような、生温かい視線が気になりましたので、場所をレストラン街のフードコートに移させてもらいました。空腹度の問題もありますからね、とりあえずパフェでも食べながら話を聞かせてもらいます。


 改めて頭を下げるドワーフの男性は、ドゥリンさんと名乗りました。βテストの頃からだけでなく、他のゲームでも鍛冶や生産系をやっているという根っからの生産勢だそうです。スコルさんの剣を作ったのもこの人のようですね。

 アルバボッシュに買い物に来たついでに、初期クエスト(ギルドカード発行)をこなそうと()()()()()()、スコルさんの剣を持つ私の事を見つけたらしいです。


「いえ、勘違いしても仕方がない状況でしたし、あまりお気になさらず」


「そう言ってくれると助かる。くそっ!それにしてもエイジの野郎、後でただじゃおかねぇ。いらん恥かいたじゃねぇか」

 後半は独り言のようでしたので、聞かなかった事にしましょう。どうも前後の文脈から考えて「エイジ」と言うのがスコルさんの事だと思うのですが、あだ名か何かでしょうか?流石にゲーム内で堂々と本名を呼んでいるとは考えられませんので、他のゲームでの呼び名か何かなのでしょう。それくらい親しい間柄であれば、私がスコルさんの剣を持っていた事への怒りも理解……できなくはないですが、どちらかというとドゥリンさんの場合は性格のような気がしますね。とにかく、怒りの矛先がスコルさんに向いたので良しとしましょう。


「あーそれでな、お詫びと言っちゃなんだが、ソレ、直してやろうか?耐久度削れてるだろ?つーか直させろ、それだけボロボロだと見ていられねぇ」

 「ソレ」というのはスコルさんの剣の事ですね。【看破】で見たのか、それとも経験則なのかはわかりませんが、この剣の耐久度が危険なレベルである事がわかるようです。


 事情がドゥリンさんの口からしか語られていませんので、手の込んだ詐欺(剣を奪うための演技)という可能性もありますが、どうせ修理しなければもうすぐ壊れるような物ですし、盗られたとしても問題は無いでしょう。もともと貰い物ですし、このまま使うには不安しかありませんから、直してくれると言うのなら直してもらいましょう。


「お願いしてもよろしいですか?」

 私がスコルさんの剣を手渡すと、ドゥリンさんは剣のチェックを始めます。


「おう、任せな。ここが欠けてこうなって……うーむ、すまんが『鉄鉱石』持ってないか?他のは何とかなりそうなんだが、無ければちょっと難しそうだな」


「すみません、持っていないですね」


「だよな……しゃーない、ちょっくら素材取ってくるから、それまでかんべんな?」

 ちょっと散歩に行ってくるみたいな気軽なノリで言っていますが、ドゥリンさんが行こうとしているのは魔物が溢れ出てきたというはぐれの里の近くの鉱山ですよね?武具屋の店員さんが言うにはそこくらいしか鉱山がないとの事ですが、他にも『鉄鉱石』が手に入るような場所があるのでしょうか?


「……取ってくるというのは、もしかして北の鉱山からですか?」

 

「おうよ、テストん時(β時代)からそこで採っているからな、まあ俺の庭みたいなもんよ」

 その庭、魔物に占拠されてしまっていますが……もしかしてドゥリンさんは北の鉱山に魔物が溢れているという事を知らないのでしょうか?


「………」

 ドゥリンさんの装備は初心者装備で、武器は持ち手の長いハンマーですね。大きなリュックを背負い、中身はどうやら拾った素材や初級の道具類が入っているようです。本人の話しぶりやレベル的に戦闘系のスキルを取得している様子もありませんので、スキル配分は生産特化型でしょう。


 どうしましょう?危ないからと引き留めるとか、護衛として一緒についていくという選択肢もありますが、ドゥリンさんの性格を考えると面倒くさい事になるような予感がします。出会いがしらの勘違いで数十分怒鳴ってくる人ですからね、悪い人でなかったとしても、適度な距離を維持するのが精神衛生上良いような気がします。


「その鉱山、魔物が溢れ出て閉鎖されたらしいですよ?」

 とりあえず、事実を伝えておきましょう。後は相手の反応に合わせましょう。


「マジか!?」


「ええ、行った事がないので私とドゥリンさんの言っている鉱山が同じ物かわかりませんが、ギルドでクエストも受けられる筈です」

 パフェの残りをつつきながらそう答えると、ドゥリンさんは腕組をしながら考え込みます。生産の事や魔物の事、色々な事を考えているのか「むむむ」と唸りながら少しの間考えていたかと思うと、「よし」とひとつ膝を打つと、顔を上げます。


「それじゃあ余計にほっとけねぇな。採掘できないと俺達の死活問題だ。早速行くとするか。ほら、さっさと食っちまえ、行くぞ!」

 あ、私も一緒に行くことになっているのですね。まあいいですけど。


「…それはいいのですけど、私はまだはぐれの里のポータルを開放していませんよ?」

 アルバボッシュに道具を買いに来たと言っていたので、ドゥリンさんの開始地点ははぐれの里なのでしょう。ドゥリンさんの移動はポータルで一瞬かもしれませんが、私の場合は徒歩になります。今すぐに飛んでいきそうなドゥリンさんには悪いのですけど、それほど急に向かう事はできません。


「ちっ…出発地点がこっちだとそうなるのか……しゃーない、それじゃあ俺は先に行って鉱山の様子見てくるから、また後でな!」

 嵐のようにバタバタと走り去るドゥリンさんを見送ってから、私はゆっくりと残りのパフェを食べきりました。お腹は膨れないのですが、舌の上に乗る甘さのおかげで、不思議と頭に糖分が回っているような気がしますね。

 わざわざドゥリンさん(厄介な人)を追いかける必要性はないのですが、行かなかったら行かなかったら怒鳴りこんでくる気がしますね。まあ目的地(北の鉱山)は同じなのですから、強制イベントか何かと割り切ってとりあえず追いかけるくらいの緩い感じで良いのかもしれません。


(剣、持っていかれましたし…)

 せっかちな人です。持ち逃げされないために、保険としてフレンド登録をする事も出来たかもしれませんが、まあいいでしょう。面倒ごとが増えるような予感がします。


 さて、どうしましょうと少しの間ぼんやりしていると、ちょうどスコルさんがログインしてきました。時間的にはまだ就業時間内のような気がするのですが、早上がりかサボりなのでしょう。タイミングが良いというか、空気を読んでいるというか、スコルさんは色々な所で得をする(運が良い)タイプのようですね。


『すみません、ちょっといいですか?』


『お、なになに?おっさん待っててくれたの?いやーモテモテで困るねーでもおっさんいい年だから、惚れたら火傷するかもよ?』


『今ドゥリンさんという方と話をしていたのですけど……』


『-----』

 あ、会話が中断されました。


『待ってください、その、色々と面倒な事になっていまして』


『えーいやー…おやっさん(ドゥリンさん)案件でしょう?おっさん嫌な予感しかないわー聞きたくなーい』

 スコルさんは嫌がっているのですが、原因がスコルさんから渡された剣なので、出来ればドゥリンさんの事はスコルさんに任せたいですね。


『確認したいのですが、二人は本当に知り合いだったのですね』

 そうであるのなら私の心配事(持ち逃げされた可能性)の大半は解決するので、まずはその事を確認してみます。


『…まあーなんつーの?おやっさんとは仕事上の諸々って奴なんだけど、まあそれはいいとして、どうなったのよいったい』

 二人はリア友だったようですね。とにかく、私が掻い摘んで事情を説明すると、スコルさんは何とも言えない呻き声をあげています。


『そもそもですけど、ドゥリンさんは戦えるのですか?鉱山を開放する気満々で出ていきましたが』


『そうねー鎚叩くのはうまい。平地でこける。体力無いからすぐばてる。スキル構成はよほどの事がなければガチの生産寄り。まあ結構いい歳だから仕方ないって言えば仕方ないところがあるんだけど…とりあえず、そんな感じ?』

 全然駄目そうですね。


『まあそこまでガッツリ関係しているのなら頑張ってちょーだいって事で、おっさんはレベル上げに勤しむのであった。あ、ちなみに行かないと後でおっかなーい事になるから、ちゃんと行く事をお勧めするわ。これ、おっさんからの忠告ね』


『…スコルさんは来てくれないのですか?』


『そう言われてもおっさん今繋いだところで関係ないしー、ボインちゃんの問題なんじゃないのぉ?』


『……来る前にスコルさんと話したって言ってもいいですか?』


『それちょっとズルくない?おっさん後で怒られる流れよ?』


『ズルイも何も、スコルさんから貰った剣をきっかけに絡まれたわけですし、スコルさんに何とかしていただかないと困ります。後ボインちゃんって言わないでください』


『いやー絡まれたのは()()()()()()が色々と持っているからだとおっさん思うけどなー…まあいいわ。繋いでいるのバレたらおっさんも怒られるし、一肌脱ぎますか。()()()()()()は今どこ?』


『…アルバボッシュです』


『OKOK。それじゃあササっと…って言っても移動にちょっと時間かかるけど、ギルド前で待ち合わせでいい?おっさん到着したら連絡するわ』


『わかりました。それまでレベル上げでもしておきます』

 スコルさんとの連絡を終えて、私は食べ終わったパフェの容器を返却口に持っていきました。

※ユリエルはその容姿からよく絡まれるので若干疑り深いです。ゲーマー気質で考察も良くしています。ただそれらは表情には出ていませんし、何だかんだと甘いところがあるので他人からは人付き合いの良いタイプだと思われています。


※スコルさんとドゥリンさんはリアルの知り合いです。数年前に定年退職したドゥリンさんが暇だからと頻繁に職場に顔を出していたら、ドゥリンさんの息子さんから鬱陶しいと言われ大喧嘩、その相談を受けたのがスコルさんです。「暇ならゲームでもしたら?」とスコルさんが誘いました。それからFDCのセッティングやら細々とした雑用を手伝わさせられているという間柄です。


※誤字報告ありがとうございます(10/17)訂正しました。

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[気になる点] アイテムの所有権の仕様が気になる ドゥリンがアイテムを盗めたから、物を奪うことはできる でも、PKにメリットがない以上、動けなくして盗んでも無意味 さらに、簡単に所有権の放棄ができな…
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