26:現在の攻略状況
稼ぎを行う前に、先にスキルをいくつか取得しておきましょう。そう思い攻略情報や掲示板を見ていた時に発見したのですが……どうやら私が金角兎と戦った時の動画がアップされていたようですね。総合掲示板の方は何とも言えないコメントで溢れていたのですが、攻略掲示板の方ではとどめの一撃についての真面目に考察がされていましたね。誰が上げたのかは少し気になりますが、悪い意味での炎上という訳でもないですし、まあ良いでしょう。
まず取得したのは【解体】ですね。任意で死体を消せるようになるだけではなく、このスキルを持っていれば、解体するべき箇所がぼんやりと赤く光るようになります。後はその光っている場所を縁日の型抜きのように切り取るだけですね。レベル1だとまだ光る範囲がぼやけていたり、隠れている希少部位がわからなかったりするのですが、それでもどこを切り取ればいいのかわかるのは良いですね。
続いて取ったのは【筋力増強(微)】と【飢餓耐性(微)】です。これは種族特性の長所を強化して、短所をフォローするスキルですね。力に関しては体感1.1倍と言ったところで、空腹度の減少も1割減と言った所です。大きくは変わらないのですが、スキルレベルが上がればもう少し効果が出てくれる事を期待しています。
ここからは趣味のレベルになるのですが、取っておいたのが【見切り】と【魔力視】の2つです。【見切り】に関しては角の認識能力があれば必要ないのかもしれませんが、他のゲームだと有能なスキルである場合が多いですし、発展の余地もあるので取得しておく事にしました。レベル1だと正面からの攻撃が0.1秒前に薄い赤いラインとして表示されるというあまり役に立たないスキルなのですが、将来性に期待ですね。まあレベルが上がったとしても実際に避けるのは私のままなので、補助くらいに考えておきましょう。
【魔力視】に関しては、種族特性の長所を伸ばすような意味合いで取得しました。これで発せられている魔力がぼんやりと見えるようになり、モンスターの位置がわかったり、隠れている魔法アイテムを見つける事が出来たりするようです。ただ相手が気絶していたり、意図的に力を押さえたりしていると魔力が見えなくなる場合があるそうで、注意が必要です。
後、小盾を使ってみた感想ですが、種族特性と【筋力増強(微)】があれば補える範囲ではあるのですが、反応がワンテンポ遅れるような気がしますね。心置きなく防御が出来るのはメリットですし、持ち手を改造すれば色々と応用が利きそうではあるのですが、今のところは保留としておきましょう。使い潰すまで使ってみて、それから判断しても遅くはないかもしれません。
色々と考えた結果、以上5つのスキルを取得しました。SPはまだ3ポイント残っていたのですが、これは別のスキルを取得したくなった時や、何かのために取っておく事にしました。
どこでも良いと言われたのですが、私は通ってきた東門でギルドカードの提示を行い、手続きを完了させておきます。これで心置きなく出入りできますね。そのまま東の草原で角兎の相手をしていたのですが、ちょっと検証に熱中してしまいましたね。予想より時間が過ぎており、気づけば辺りが薄暗くなっています。
練習に付き合ってくれていた何匹目かの角兎を解体し終わったところで、ナップサックがいっぱいにもなりましたし、一度町に戻る事にしましょう。
そういえば、スキル検証の途中、桜花ちゃんから連絡がありました。何でも南の砦にグリフォンが出たらしく、その応援に駆け付けるので試合は後日との事でした。その話はとても興味深かったのですが、私の目的地と反対側であった事や、桜花ちゃんが「たぶん倒されてると思う」と言っていたので諦めました。南の砦まで2時間程度、確かに今から駆けつけても倒されている確率が高いですね。なんでも知り合いからの救援要請だったので断れなかったとの事です。続報として「やっぱり倒されてたー」と来ていたので、慰めておきました。
やはり他のプレイヤーのメイン攻略ルートは南のようですね。βテスト時代に発生したワールドクエスト『王都開放』が失敗に終わったらしく、再戦を望むβプレイヤーの主力がそちらに向かっているようです。現在は南側のムドエスベル山脈の中程にある砦あたりまで攻略が進んでいるようで、そこを足掛かりに攻略を進めているようです。
東は攻略情報を見た限りでは続報はありませんね。というのもこちら側はβテスト時代何もなかったらしく、わざわざ向かう人がいなかったそうです。
私はナタリアさんが攻略をしている事を知っているのですが、書き込みを行っていないようで、ネット上にはまだ新情報はありませんね。こちら側はナタリアさんからの続報を待ちましょう。
西に関しては、山脈を越えた先に港町があるらしく、そこを目指しているプレイヤー達がいたり、レベリングにちょうどいい敵が多いからとレベル上げに向かった人がちらほらいたりします。βテスト時代は特に先に進めるといった事もなかったのですが、港町から隣の大陸が見えるらしく、「もしかして渡れるんじゃないか?」という可能性が話し合われていますね。こちらも西の山脈の間にある砦辺りまで攻略が進んでいます。
そして私がこれから向かおうとしている北側ですが、こちらはほとんど攻略されていませんでした。亜人スタートの村がありますからね、βテスト時代に散々探索され尽くされていたらしく、目新しい物もないだろうと、さっさとアルバボッシュを、そして王都を目指す人が多かったようです。
生産勢が鉱山に向かった際に異変に気づいたらしく、クエストを見て慌てて引き返している人が何人かいるという状況ですね。
現在のブレイクヒーローズの攻略状況はこんな感じで、私はとりあえず北の鉱山の開放を目指し、武器を調えてから南の王都へというルートを予定しています。VRMMOなんて数日でクリアできるようなものでもありませんし、のんびりと行きましょう。
素材を持ってブレイカーズギルドに戻ってくると、少し周りが騒がしくなっていますね。南のグリフォンの事も知れ渡っているようで、「お前はどうする?」みたいな話をしている人達がいました。そんな会話に耳を傾けつつ、まずは素材を買い取ってもらおうと買取カウンターに並び、特段珍しい素材もなかったのですべて普通に買い取ってもらう事にしました。
角兎オンリーでしたが、それなりの数を狩っているので値段は合計3万6千Fになりました。角の単価が美味しいですね。次回からは角を重点的に集めてもいいかもしれません。そんな事を考えていると、「おい、お前!」と大声で呼び止められました。いきなり腕を掴まれそうになったのですが、そちらは避けておきます。
「何でしょう?」
いきなり喧嘩腰に怒鳴り込んで来たのは、ドワーフの男性プレイヤーですね。四角く整えられた茶色い髭面に、こげ茶の瞳、ビア樽のような体型と、これぞドワーフという感じの男性です。そういうキャラメイクをしているのでなければ、かなりお年を召している人のようですね。
身長は私より少し高いくらいなので、男性平均から考えると低く、人の2倍はある横幅は脂肪のようにも見えましたが、どうやらお相撲さんのようなタイプの筋肉ですね。たぶんですが、現実ではそれなりの年数肉体労働をしているような人だと思います。
とにかく、そんな強面の男性にいきなり凄まれてしまい、私の目が細められました。相手の方も私の様子を不躾に睨みつけていたかと思うと、スコルさんの剣を見ながら口を開きます。
「なんでお前がその剣を持っている?それは俺が知り合いに作ってやった奴だ。あいつが易々と人に奪われるような殊勝な野郎だとは思えねぇ、どういう理由で手に入れたか知らねぇが、返答次第じゃただじゃおかねえぞ」
あ、あー……はい、そういう理由でしたか。確かに、自分がプレゼントした物を全く知らない人が持っていたら驚きますよね。
「スコルさんから貰いました」
かなり端的に説明すると、ドワーフの男性は一瞬呆気にとられたような顔をした後、逆に顔を真っ赤にして怒り始めます。
「嘘言え!俺が丹精込めて作り上げたβ時代の最高傑作だぞ!?つーか、引き継ぐって言ってた物初日で手放すか!?あいつはそんな不義理な奴じゃねぇ!!どういう理由でお前が奪ったかわからねぇが、きっちり説明してもらおうじゃねぇかああぁんっ!」
「スコルさん」と名前を言って話が通じているという事は、変な因縁づけでなければ赤の他人の間違いという事もないのでしょう。とはいえ、「不義理な奴じゃねぇ」と言われても、本当に渡された物なのでそれ以上説明のしようがないのですよね。
フレンドリストを見ても、まだスコルさんは繋いでいないようですし、本人に説明してもらう訳にもいきません。
どうやらこの人は、物作りに命を賭けているタイプの人ですね。そもそもスコルさんの剣なんて端から見るとただのシンプルな片手剣ですからね、それを遠くから見ただけで、自分が作った物だとわかるくらいには1本1本大切に作っているのでしょう。
そして怒鳴れば怒鳴るほどヒートアップする人のようで、私は相手が落ち着くまで反論は控え聞き流しました。相槌を打っていると流石にだんだんと疲れてくるのか、口数が減っていきますね。そして疲れて呼吸を整えようとしたタイミングで、話しかけます。
「スコルさんは今犬ですから、犬の体だと使えないからという事で譲り受けました」
正確には魔犬ですが、見た目的には大きな犬なのでこの説明で問題ないでしょう。人の種族を了承もなくバラすのは抵抗がありましたが、こうなっているのもスコルさんのせいですし、そのあたりは気にしない事にしましょう。
「い、いぬ…?あいつ今、犬になっているのか?」
「はい、正確には魔犬ですが、総合掲示板の一つ目にその報告があった筈です。疑うのでしたら、確かめてもらってもいいですよ?」
「ん、ああ……いや…」
この人も、自分が作った剣を赤の他人が持っている事にカッとなりはしたようですが、相手はあのスコルさんですからね。この人の前で猫を……本人は犬ですが、猫を被っているのでなければ、きっと胡散臭い人という認識があるのでしょう。
「う、いや、だが……俺が丹精込めて作った物だぞ?結構苦労したし、それを……いやぁーでもアイツならなぁ……」
怒鳴り散らして少しは気が済んだのでしょう、徐々に冷静さが戻りつつある頭に「あいつならあり得るかも」という考えがよぎったようですね。それにしても、色々な人に信用できない人と認識されているのはある意味凄いですね。
しどろもどろな様子でドワーフの男性は私の顔や胸を見ながら、降参を示すように、大きくため息を吐き出しました。
※少し位置関係がわかりづらいムドエスベル山脈についてですが、アルバボッシュを中心にほぼ円形みたいな形をしている山脈です。なので東西南北どこに向かってもムドエスベル山脈に到着します。
※【見切り】スキルがレベル1で1秒は強すぎるという意見があり、1秒→0.1秒に変更されました。ここからレベルが上がるごとに秒数が伸びていく事になります。
※誤字報告ありがとうございます(1/29)訂正しました。




