263:まずは後方兵站線の破壊から
エトワーデメーが出していたをピンク色の霧をゴブリンシャーマンの杖で爆散させ、その隙に捕らえられていたまふかさんを救出したまでは良いのですが、この方法で致命傷を与えるのは少し難しそうですね。
というのも5方向に伸びた超巨大な触手の内の一本は常に溜め池に浸かるような位置に居座っており、ダメージを与えてもすぐに『歪黒樹の棘』からパワーを送られてきて急速に再生してと、これを通常の手段で倒しきるのは無理なのかもしれません。
「まふかさん、少し移動しますね」
それでいてピンクの霧と煙幕を吹き飛ばした影響でゴブリン達からも視認されていますからね、弓矢と魔法の遠距離攻撃の準備がされていますし、ピンクの霧を再度吐き出し始めたエトワーデメーから距離をとる必要もあり、私はまふかさんの身体を尻尾で固定して【魔翼】とスカート翼を広げます。
「わかったけど…んッ、ちょっと…」
出来たらまふかさんにも回避行動を取って欲しいのですが【狂嵐】の効果が切れるくらいには足腰が立たない状態のようですし、絡めた尻尾の感触に身体を震わせ色っぽく潤んだ瞳で見上げてくるまふかさんは本調子ではないようなのであまり無理はさせられません。
「動かないでください」
囁くように耳元で呟くと、まふかさんは軽く目を見開いてから弱々しく頷き体重を預けて来てと、何時もの勝気な様子と違いすぎてこっちまで調子が狂いそうになるのですが、これはエトワーデメーにやられて気が弱くなっているだけなのかもしれませんね。
とにかくそんな状態のまふかさんに媚毒まみれのヌルヌルした身体を擦りつけられるとその身体の柔らかさを嫌でも意識してしまいますし、抱きしめながら体温を感じているとムラムラしてしまいますし、尻尾を絡めて固定すると大事な所を擦りつけているような刺激が広がりお腹が鳴りそうになったりするのですが……本当にどうしてくれましょう。
(ぷっ)
そんな不純な事を考えていると、頭の上に乗っている牡丹が「今はそれどころではない」と軽く揺れるのですが、確かにそれどころでは無いので気を引き締めなければいけませんね。
(そうですね、まずはこの最悪の状況を何とかしないといけないのですが)
改めて周囲を見回してみるのですが、リンネさん達の方は完全に壊滅状態のようで、群がったティベロスターによって嬲られている人が多数とすぐに動けるような状況ではありません。
ただ見回して思ったのは意外と被害が少ないといいますか……いえ、酷い状況ではあるのですが、これだけモンスターに蹂躙されていてもリスポーンしている人が居ないといいますか、いっその事爆発に巻き込んで吹き飛ばした方がスッキリするかと思っておもいっきりやった訳なのですが、見える範囲での脱落者は居ないようですね。
そう思って見ていると、ティベロスターの肉槍触手によって貫かれていたクランメンバーさんの内の1人が耐えきれなくなったというようにホログラムになって消えて行ったのですが……そこから十数メートル離れた位置で復活したりと、どうやらやられた人は近くで復帰しているようでした。
(隔離イベント中の人達は、リスポーン地点がこの付近で固定されているのでしょうか?)
流石にその場復帰はゲーム的に色々と不味い気がするのですが、消えた位置と現れた位置を考えるとやや祭壇寄りに復活している感じで、その位置は最初にゴブリンに連れて行かれた待機場所辺りのようですね。
たぶんゲーム的にはゴブリン達から逃げ出そうとしたところを連れ戻されてみたいな扱いなのかもしれませんが、ゴブリン達も混乱中のようでいきなり現れる半裸の女性達に戸惑った様子で「GOBUGOBU」と騒いでいたりと、想定外だと思われる混乱が起きていて収まる気配がありません。
(こうなるともう強制送還は出来ませんね)
その場復帰となるとただ痛めつけるだけになってしまいますからね、後々のトラブルにならないためにもF Fには気を付けた方が良さそうです。
(それにしても、ここまで混乱してくれるのでしたら先にゴブリンジェネラルを倒せていたのはラッキーでしたが)
もしこれでゴブリンジェネラルが生きていれば組織だった行動が可能となり、生贄の確保に動いていたのかもしれませんが、リーダーが不在で指揮系統の崩壊したゴブリン達は一旦逃げ出すか目の前にいる半裸の女性達に襲い掛かるべきかを悩んでいるようで、そちらには適当に投げナイフを投げて牽制していれば事足ります。
(ただそうだとすると…)
隔離イベント中の人達がその場復帰するとなると、祭壇に捧げられていった人達がリスポーンしていったのが謎になるのですが……それ以前にスキルが封印されているこの場所で本格的な戦闘をするのが正規ルートなのでしょうか?
リンネさん達のレベルが問題ないと仮定すれば戦闘に参加している人数も十分の筈ですし、スキルの封印が甘い人外種でなければクリアできませんなんて言う難易度を設定しているとは思えません。
その辺りはちゃんと考えて作るのがHCP社ですし、というより何かしらのクリア条件を作る事でプレイヤーの不満を逸らそうとしているだけなのかもしれませんが、レベル帯や準備や状況が適切であれば“絶対にクリア不可能”という状況はそうそう無い筈です。
(そうなると、こちらもギミック戦闘でしょうか?)
障壁を突破する際には防衛戦的な要素が含まれていましたし、実はこちらの方も何かしらのクリア条件みたいな物が存在しているのかもしれません。
(キーとなりそうなのは祭壇ですが……流石にそう簡単に通してくれそうにありませんね)
あのゴブリンジェネラルですら儀式には一定の敬意を払っていましたし、何かしらのヒントがあるのかと祭壇に近づこうとしたのですが……今まで比較的大人しかった『歪黒樹の棘』がまるでとおせんぼするように伸びて来て、黒い茨の壁を作ります。
(厄介ですね)
ただある程度近づいた事で魔力の流れがわかり、祭壇は一種のパワースポットになっているようで……というよりこれは一種のポータルに近いですね。
流石に消えていった人達がどうなったのかまではわかりませんが、そんな『歪黒樹の棘』に守られているのは石畳の中心に鎮座する台座のような物で、見た目は黒くヌメヌメした植物の蔦や根っこが絡み合ったような歪な箱形の何かでした。
縦5メートル、横3メートル、高さは50センチ程度でしょうか?絡まる蔓は蠢き生きているようで、魔力の流れを見る限りではデファルセントから力が送られてくる場所がその台座のようで、その送られて来た力が祭壇を通してこの地に広がり『歪黒樹の棘』に流れ、そこから水場にというルートが出来上がっているようです。
わざわざゴブリン達が生贄をこの台座まで連れてくるのはここからデファルセントに力を送るのが一番効率が良いからのようで、この台座が双方向の力のやり取りをするのに適した場所なのでしょう。
(もういっその事、壊してしまいましょうか)
力が流れて行く先はエリアボスの元へですし、流れて来るのはデファルセントの力ですし、それによってこの付近のモンスターがパワーアップしていますからね、壊してしまった方が私達の為になるのかもしれません。
(とはいえ…)
私はまふかさんを尻尾で絡めて抱きかかえたまま、ベローズソードを持って踏み込もうとするのですが……『歪黒樹の棘』が立ち塞がり妨害をしかけてきました。
即座に動く本数は多くて3本程度で、少し遅れて5本前後、それから沢山と、前方を塞ぐ程度の妨害なので陽動をかければ突破できなくもないのですが……まふかさんは腰が抜けていて、リンネさん達もダウン中と今は陽動に割ける人がいないのですよね。
(牡丹)
(ぷ-)
こうなったら牡丹に頼ろうかと思って視線を上げると、牡丹が「これを使おう」というように木の枝を渡して来ました。
(これは…ゴブリンシャーマンの杖?)
そういえばまふかさんが2本持っていましたからね、その杖が入ったリュックも牡丹が預かっていてと……まあ出所はどうでもいいとして、つまりこれを使って『歪黒樹の棘』の隙間を縫うように遠距離爆破をしようと言う事なのでしょう。
(それは良いのですが…)
今現在まともに動けているのが私だけですからね、つまりどういう事かと言うと……攻撃が結構集中してきています。
矢は断続的に降りそそいで魔法も飛んできていますし、私達の企みを感じ取った『歪黒樹の棘』が狙い撃ちするように黒い茨を伸ばしてきてとなかなか忙しいのですよね。
それにエトワーデメーから距離を離したと言ってもティベロスターは群がって来ていますし、こんな状態で足を止めたら容赦なく物量に押し切られて飲み込まれる運命が待っています。
(ぷーい)
そう言う訳でゴブリンシャーマンの杖をチャージをしている時間があるのかと思ったのですが、牡丹が自信満々に「防御は任せて」との事なので、何かしらの策があるのでしょう。
(わかりました、ではタイミングを合わせましょう)
『歪黒樹の棘』をどう防ぐのかはわからないのですが、このまま逃げ回っていてもジリ貧ですからね、私は防御用に【魔水晶】を展開し、消費した分のMPを回復するためにMP回復ポーションを飲んで魔力をMAXまで回復させておきます。
「まふかさん、衝撃に備えてください!」
「え、あ…うん」
それから私はまふかさんに一言かけて、ギュッと抱きつかれる感触を感じながらゴブリンシャーマンの杖を構えました。
(チャージは最速全開で)
防御は全面的に牡丹に任せる事にして、私は【魔翼】等に回していた魔力を一時的に遮断して射撃体勢に入ります。
そうしていきなり杖を構えて棒立ちになった私達に攻撃が集中するのですが、飛んでくる矢やにじり寄るティベロスターは牡丹が斬り払い、魔法は【魔水晶】が、そして絡めとろうと斜め上から伸びて来た『歪黒樹の棘』は……。
(今から回避は…間に合いませんね)
立ち止まった私を目掛けて勢いよく黒い茨が伸びて来ているのですが、このままだとゴブリンシャーマンの杖のチャージが終わるより『歪黒樹の棘』が私の身体を絡めとる方が早そうですね。
だからと言ってチャージを途中で止めると暴発の危険もありますし、そもそも今から回避を取っても間に合うのかという距離まで黒い茨が迫って来ていたのですが……そんなタイミングで牡丹は懐からゴブリンジェネラルの盾を取り出しました。
「ぷっ!」
ドン!と地面に突き立てるように取り出された禍々しい巨大な盾は牡丹の筋力値ではまともに扱えないのですが、取り出して構える事くらいは出来るようですね。
そして曲がりなりにもボスが使っていた盾ですからね、伸びて来た『歪黒樹の棘』がガツン!とぶつかり大きく揺れながらも、その一撃を完璧に防ぎきりました。
(牡丹、ナイスです…ではこちらも!)
斜め上から叩きつけるように攻撃された事もプラスに働き、ゴブリンジェネラルの盾は地面にめり込み抜けなくなってしまったものの、そのおかげで変に弾かれたり押し込まれたりせずに攻撃を押し止めてくれたようですね。
そうして一度弾かれた『歪黒樹の棘』が態勢を立て直して回り込んでくる前に、私は最大まで溜めたゴブリンシャーマンの杖から火球の魔法を発動して……蠢く祭壇を吹き飛ばしました。
OOOOooooOOxxx!!!
瞬間広がる爆炎と荒れ狂う熱風の余波を手をかざしながら受け流し、祭壇が盛大に吹き飛ぶと、まるで空気が揺れるようにして喚き声のような音が辺りに響き渡ったのですが……どうやら私の予想通りこの祭壇がデファルセントから力が送られてくるパワースポットになっていたようで、その力の受け皿となる祭壇がなくなると同時にこの場に広がっていた禍々しい気配が薄まったような気がします。
こうなると『歪黒樹の棘』も心なしか縮んでしまったような気がしますし、纏める者もいないゴブリン達は逃げ惑い、小さなティベロスターは塩をかけられたなめくじのように縮んでいき大きい方も我先にと水の中へ逃げ帰って行く有様です。
そうして最大の障害物だったエトワーデメーへの力の供給も断たれ、若干萎れたような巨大な触手の塊は大幅に弱体化したのかピンク色の霧を出す事も出来なくなったようで、このまま畳みかければ何とか倒す事が出来るかもしれないという状況まで持ち込みました。
※ユリエルは魅了の暴発を恐れてあまり町での情報収集はしていませんが、ゴルオダス戦での結界的な物があるよという情報があったりと、実は色々な所にこうやったらいいよみたいな攻略のヒントがあったのかもしれません。
※少し修正しました(9/12)。




