261:反撃開始
『『ギャザニー地下水道』を根城にしていたゴブリンジェネラルの変異種が『エルフェリア開拓まふ』により討伐されました。初回討伐者達にはSPが3ポイント進呈され『変異ゴブリンジェネラルの討伐者』の称号が授与されます。ゴブリンジェネラルは弱体化したのちゴブリンチャンプとして再出現致しますので、未討伐の方は是非チャレンジしてみてください。またこの討伐により『エルフェリア』への通過条件が緩和されましたので、変異ゴブリンジェネラルの情報と合わせて最寄りのブレイカーズギルドにてご確認ください』
少し遅れてゴブリンジェネラルを討伐した事を知らせるワールドアナウンスが入ったのですが、まふかさんやリンネさん達が群がるティベロスターに押し切られている状態ではあまりのんびりと聞いている余裕はありません。
(すぐに助けに行くべきなのですが…)
とはいえ流石に激闘の後ですからね、ビチビチと入れ食い状態のように跳ねるティベロスターで溢れる水面から少し離れて一息つかしてもらい、その間に水中に流していた【オーラ】で水没しているベローズソードを引き上げにかかるのですが……跳びかかって来るティベロスターが鬱陶しいですね。
これに対応するだけなら【オーラ】の鞭で良いのですが、エトワーデメーと戦う事を考えると切断できるかどうかというのは大きな違いがありますからね、落ちている場所もわかっているので呼吸を整える間に水底を攫って拾い上げておきましょう。
「ぷーうー」
「っと……牡丹、ですよね?」
そうしてベローズソードを拾い上げているとイビルストラ形態の牡丹?が水中を泳いで合流してきたのですが、私が進化した影響が牡丹にも出ているのかその姿を大きく変えていて、新手のモンスターかと一瞬警戒してしまいました。
(これはもうストラというよりクラゲですね)
スライム形態になったらまた形がかわるのかもしれませんが、ストラ形態だと2D時代に流行った某有名RPGに出てくる回復魔法を使うスライムのような見た目と言いますか、ケープから六本脚の長い触手が伸びているといったクラゲのような見た目に変わっていますね。
色は黒系統で材質はトロトロとしたゼリー状、触手の先端はプニプニしたコブみたいになっていたりと触っているだけで気持ちいい質感なのですが、牡丹の意志によって表面を波立たせたり動かす事も出来たりとなかなか凶悪な性能になっているようでした。
(それは良いのですが…)
牡丹が言うには一本一本の触手が太くなった事もあり前よりも動きやすくなったとの事なのですが、肩装備として考えると太くなった触手が腕に干渉するといいますか、絡まる感じがして少し邪魔ですね。
「ぷー……ぷっ!」
「どうし…ぷぁっ、ぼ、牡丹?」
私が装着感について考えていると、牡丹が何かに気づいたようにいきなり頭の上によじ登って来たのですが……プニプニとしたゼリー状の物体によじ登られると口が塞がり息が詰まってしまいます。
「なに、を…?」
「ぷー?」
私はその行動の意図を掴みかねていたのですが、牡丹は首を通す所を塞いでケープ部分を膨らませたかと思うと「これでどう?」と言う様にへばりついて来て、そのまま頭の上に居座りました。
(ああ、帽子になったのですね…これなら触手も当たりませんし、牡丹も全方位に対応が可能と)
触手自体は地面に届くくらいは自由に伸び縮みするようですし、これなら真下以外に死角がなくなります。
そして見た目的にはゲームや漫画でよくある膨らんだベレー帽みたいな感じで、それから六本の触手が伸びてウネウネとしているという少し特徴的な見た目ですね。
「ズレ落ちたりしませんか?」
ただこれだと牡丹が頭の上に乗っているだけですからね、戦闘中に振り落とされないか心配になったのですが……意外と大丈夫らしいです。
「ぷー」
との事で、牡丹が言うには吸盤のように頭に吸い付いているし、接地面を変化させて髪の毛に絡みついているのでよほどの事が無ければズレ落ちる心配は無いとの事でした。
「そうですか…」
それはそれで牡丹が吹き飛ばされた時には私の髪の毛がブチブチと引き千切られる事になるのですが……一層被弾には気を付ける事にしましょう。
「っと、そうですね…ついでにこれも回収しておいてもらっていいですか?」
私は髪の毛の問題については一旦横に置いておく事にして、折角倒したゴブリンジェネラルが水没している訳ですからね、頭の部分はティベロスターが群がって酷い事になっているのですが、両手斧と盾、そして鎧を着ている胴体部分は何かに使えそうですしと牡丹に回収しておいてもらいます。
「ぷっい」
重量が問題になるかと思ったのですが、どうやら進化した事で重量軽減の効果もついたのか収納している限りはなんとかなりそうですし、水から引き揚げると牡丹は六本の触手を使って器用に収納していたのですが……収納場所が帽子の内側という事で入れる瞬間はちょっとアレですね。
水没していた物を入れたので麻痺毒がポタポタとかかってしまったので『麻痺治し』を出してもらったのですが、そういえばと思い出したように携帯食料も出してもらい齧ってみる事にしました。
(味覚は変わりませんが、回復量が5分の1くらいになっていますね)
どうやら嫌な予感が当たっていたようで、空腹度に関しては何かしらのデメリットが付与されているのか普通の食事だとあまり回復しないようですね。
(まあ食事が出来るだけましなのかもしれませんが)
これで空腹度が回復しないとか、味が無味無臭とかになっていたら空腹度の回復が苦行となるところでしたし、普通に食べられるだけで御の字としておきましょう。
ただ普通の食事だと満腹度の減りが早いような気もしますし、これだとかなりの量を食べ続けないといけないのですが……空腹度を一番効率良く回復させる方法が誰かから精気を絞り取るというのはどうなのでしょうね?ちょっと洒落にならない制限が課せられたような気がするのですが、ここまで特殊な進化を続けているキャラを作り直すのも何ですし、進化してしまったものはしょうがないという事で問題は後回しにする事にしましょう。
「ではそろそろ行きましょうか」
私は一息入れた後に右手にはベローズソードを持って左手には投げナイフ、牡丹は左前触手に盾を持って残り3本に投げナイフ、残りの2本は予備のフリーハンドとなかなか凄い構えとなります。
因みにゴブリンジェネラルの盾は牡丹には重すぎるとの事で装備はしていませんし、鎧もサイズが合わないので売却予定ですね。
両手斧だけはまふかさんが使えないか聞いてからでいいと思いますが、肝心のまふかさんは途中で体力が尽きたのか今はエトワーデメーに取り込まれてヌチョヌチョされているようですし、まずは救出しなければなりません。
(ただ私の能力は触手とは相性が悪いのですよね)
そもそも触手をいかせる方法がよくわかりませんし、そうなると【呪印】を入れてから蹂躙という戦法は使えません。
まあそれでもエトワーデメーはゴブリンジェネラルと違いスキルが封印されている事が前提のモンスターですからね、レベルの割に弱いみたいなので捕まらない限りは大丈夫だと思うのですが……改めて確認した祭壇付近の様子はピンクの霧が充満していてとかなり酷い状況ですね。
霧は吸っただけでいってしまうような強力な媚毒のようですし、そんな霧が充満している中でやられている皆さんはなかなか大変な事になっていました。
無数のティベロスターが服の中に潜り込みニュチョニュチョされている人、大きなティベロスターに押し倒されて無防備な姿のままズボズボされている人、そしてそれらを纏めるエトワーデメーに捕まった人は……こちらまであられもない嬌声が響いて来ていたのですが、その周囲に充満しているのはピンク色をした媚毒ですからね、藻掻く事も出来ずにただただ嬲られているようです。
反撃しようにもスキルが封印されている状態ではままならず、物量に押し切られる形で敏感な突起を細かな肉の芽によってしゃぶり尽くされ、穴と言う穴に肉槍触手を挿入されては抵抗する術がなかったのでしょう。
(何とかしてあげたいのですが…)
まふかさんとリンネさんが頑張って何人か逃がしたようなのですが、それでも要救助者は10人前後と、救出に向かったまふかさんとリンネさんも助けなければいけないとなるとなかなかの大所帯ですね。
こうなったら一度ルシアーノさん達と合流するというのも手なのですが、救出のためにはスキルが封印されている区画に入らないといけませんからね、戦力としては数えない方がいいでしょう。
(突入するとなると、まずはあのピンクの霧を何とかしないといけませんね)
【水魔法】で洗い流すのは私の種族的な特性として何か大変な事がおこりそうですし……ここはルシアーノさんに習って爆風でピンクの煙が吹き飛ばせないか試してみる事にしました。
「牡丹」
「ぷ!」
といっても【ルドラの火】は封印中ですからね、ここは使い捨てのアイテムであるゴブリンシャーマンの杖を使ってみる事にしましょう。
(では…いきます!)
ゴブリンジェネラルを倒した事でゴブリン達は混乱していますし、ティベロスター達は水面から離れておけば時折飛び上がってくる程度と、牡丹に対処してもらえばチャージする時間は十分にあります。
そう判断して牡丹から渡されたゴブリンシャーマンの杖を構えたのですが、この杖は使用者の魔力によって威力が変わるようですし、魔力『SS』の力を存分に発揮させてもらおうと私は最大まで魔力を溜めてから、エトワーデメー目掛けて巨大な火球を放ちました。
※収納時に重量軽減しているのは牡丹の力というよりユリエルの【魔翼】と【オーラ】の合わせ技で、本来は対象を空中に固定する事が出来るみたいな力の応用です。
想定される使用方法としては対象を恥ずかしい恰好で固定して好き勝手にするみたいな感じであり、その力を無意識的に物資の運搬に使っている形となります。
と言うより、そういう力でも発動していないと頭の上に重量物が乗っている事になるので首がとても痛くなってしまうかもしれません。




