260:搾精のリリム
ゴブリンジェネラルとの激しい戦いの最中、レベルが上がって進化条件を満たした私は『搾精のリリム』に進化する事になったのですが、種族の説明文には『歪黒樹の力を取り込んだ特別な淫魔』とあり、説明文にすら『淫魔』と書かれ始めた事に少しだけモヤっとしてしまいますね。
まあ『レッサーリリム』になった時点で遅かれ早かれと言う感じではあったのですが、とにかく『搾精のリリム』は単純なレベルアップでの進化と言うより、重度の『呪印』状態で進化した事が色濃く反映されているようで【翠皇竜】のようにスキル化はしていないものの、それに準ずる力が扱えるようになった特別な存在という扱いのようです。
そういう影響を受けている為なのか、見た目に関しては歪黒樹的な要素が取り入れられているようで、少し大きくなった巻貝型の角には細い蔦が絡まったようなデザインになっており【魔翼】も丸みを帯びた楓の葉を半分にしたような形とどこか植物的なデザインが取り入れられています。
後はドラゴン的だった尻尾は爛れたように溶けて固まったような見た目になっていたのですが、その硬そうな見た目とは裏腹に柔軟に伸び縮みするようで、尻尾の先には全長30センチくらいの紫ピンク色をしたバラの蕾のような物がついていました。
(相変わらず動きに慣れるまでが大変そうですが…)
蕾なので開くのかと思って少し力を入れてみると中からドロリとした液体が垂れてきて、そのドロリとした液体にティベロスターが凄い勢いで集まって来てきたりと、あまり変な事をしない方が良いかもしれませんね。
因みに種族値は『HP:B、MP:SS、空腹:F、STR:B、VIT:A、INT:B、DEX:S、AGI:D、LUK:B』と、空腹が下がった事を除けば全体的な強化と正当進化を遂げていました。
とくにMPが『SS』になったのは魔力を使った戦い方をしている私にとってはかなり嬉しい増加で、DEXが『S』なのは……指技的なものなのでしょうか?
純粋な人間の種族値がオールDである事を考えると種族補正がかなり高いのですが、その中でAGIだけが未だにごく普通の人間レベルである事がとても新鮮ですね。
まあ移動寄りの補正という事ですし、進化しても人間の形をしている以上は人外の移動速度を出す事は出来ないという事なのでしょう。
『HP:B』と『VIT:A』に関しては歪黒樹の樹木的な生命力の表れなのだと思うのですが、体力が増えるのは良いとして、HPが増えるというのはどういう感じなのかと思っていたのですが……皮膚が硬くなったりという直接的な防御力の強化と言うより、ダメージを肩代わりしてくれる樹皮的な魔力の膜が生成される形での装甲値的な強化のようでした。
削れるとパリパリと剥がれるようにホログラムが上がるのですが、どこまでダメージを肩代わりしてくれるかはわかりませんし、あまり依存しないように立ち回った方が良いかもしれませんね。
後は唯一の減少した空腹に関しても色々と問題があるような気がするのですが、補正が下がった以上に深刻なのはお腹の減りに合わせて軽く発情しているようなフワフワした感じが続いている事で、これに関しては治る事を祈るか餓死する前に何か対策を考えた方が良いのかもしれません。
他にはこの進化に伴い色々なスキルの効果が変わっているようなのですが、流石に戦闘中なので細かく検証するのは後回しにして、とりあえず進化した事により覚えた3つのスキルの説明文を流し読みしておいたのですが……驚いた事に【呪印】が使えるようになっていました。
これは歪黒樹の力を取り込んだ事が影響しているようで、自由に『呪印』の付与と解除が出来るようになっていたのですが、使いこなせるようになるとなかなか良いデバフとなりますね。
二つ目は種族名に冠されている【搾精】なのですが、これは『相手の精気を搾り取る』みたいなフワっとした説明がされているのですが、こういう説明文が短いタイプは厄介なものが多いので効果が少し不安ですね。出来れば早いうちにスキルの効果を確かめておきたいと思うので、隙を見てゴブリンジェネラルに使ってみる事にしましょう。
そして三つ目が【夢魔】なのですが、これは魅了系のスキルを単純に強化するパッシブスキルのようですね。
私の予想では前者2つが特殊な条件を満たした時に覚えるスキルであり【夢魔】がリリムに進化した時の通常スキルなのだと思います。
そう考えると『搾精のリリム』への進化条件はレベル30以上の『レッサーリリム』である事が前提条件であり、歪黒樹の力を取り込める種族かつ『呪印』状態であるといったところが進化条件だと思うのですが……。
「ソ、ソノチカラハ…デファルセントサマノ…マサカオマエモトリコンダトイウノカ!?」
と、私は結構のんびりとステータスチェックをしていたのですが、唖然としていたゴブリンジェネラルも危機感に駆られたのか戦闘態勢に入っており、これ以上のんびりと考察している余裕はないですね。
ただいきなり光り出した私から離れようと足の固定を解いていたのが運の尽きで、肺の中の水も進化した影響で元通りのようですし『呪印(重度)』も自分の【呪印】スキルで解除してと、かなり劣勢から立て直す事が出来ました。
「グォォ、オオオ……ッッ!!?」
そうしてゴブリンジェネラルはまたもや魔力を吹き飛ばそうと吠え始めたのですが、流石に一度喰らった攻撃を二度喰らう程私は馬鹿ではありません。
(させ…ませんっ!)
私は【魔翼】とスカート翼を展開し、肉棒を押さえ込むために絡みつけていた尻尾を引っ張り急速接近すると、そのまま巨体の死角に回り込むようにして一撃を入れようとしたのですが……ゴブリンジェネラルはこんな時でも元気がいいみたいで、凄い量の射精をおこなっていたりと本当に最悪の敵ですね。
ビュルルルと音が聞こえてきそうな勢いで発射される白濁した液体を横目に、一瞬だけぶつけられた衝撃波に外皮がパリパリと剥がれていくようにホログラムが散っていくのですが、幾らHPやVITが上がっていると言っても防御面での限界はあるでしょうし、直撃に耐えられるかはわかりません。
とにかくいきなり射精し始めてよろめいたゴブリンジェネラルの後ろに回り込み、私は右手に【オーラ】を込めて少し長めのナイフを作ろうとしたのですが……歪黒樹の影響なのか【鞭】スキルの影響なのか、紫ピンク色をした茨の鞭みたいなものが出来てと、色々な所に進化の影響が出ているようですね。
(それなら!)
このまま殴ってもよかったのですが【オーラ】で作った茨は一本だけではなく数本纏めて操作できるようですし、私は複数同時制作からの操作でゴブリンジェネラルを縛り上げて動きを封じにかかります。
「コノ、テイド…ッ!?」
両手両足を縛られたゴブリンジェネラルは憤怒の表情を浮かべて藻掻いているのですが、下半身からは白濁した液体を垂れ流したままだったりと、滑稽さが先にきてしまいますね。
そんな状態でもこちらが馬力負けしているのは納得がいかないのですが、これだけ動きが鈍っていれば攻撃の回避は余裕です。
(【夢魔】はパッシブスキルのようですし、まずは【呪印】からですね)
全てのスキルを確かめている余裕はないのですが、まふかさん達を救援しに行った時に新しいスキルが暴発しても怖いですからね、とりあえず覚えたスキルだけは試しておこうと茨を振り切ろうとするように両手斧を振り回しているゴブリンジェネラルとの距離を測ります。
(まずは弱体化を……っと?)
そうして【呪印】から使ってみたのですが……弾かれますね。
(何か条件があるのでしょうか?)
「フザケルナッ!コノテイドデオレサマヲトメラレルトデモ…ッ!!」
スキルの説明を改めて確認している間もゴブリンジェネラルが怒り狂っているのですが、今まで散々いたぶられたお返しもありますからね、意地悪だとは思うのですがいたぶりかえしてあげる事にしましょう。
「思っていませんが、これでだけ鈍っていたらそれだけで十分ですよね?」
私はゴブリンジェネラルを挑発しながら相手の空振りを狙い、その間にスキルの確認をするのですが……どれも説明文が短く読み解くのが難しいですね。
とにかく【搾精】はスキルを介してでもいいと言う事なので【オーラ】の茨越しでも発動するようなのですが、直に触っている方が効果が高いとの事なので私は振り回されている両手斧を掻い潜るようにしてゴブリンジェネラルの懐に入り込むと、カウンター気味にお腹に右ストレートを入れながら【搾精】を発動させました。
「オッ…オオオッッ!!?」
「っ!?」
そうすると度重なる射精によりちょっとだけしなびていた肉棒がいきなりムクムクと立ち上がり、性欲お化けであるゴブリンジェネラルが白目を剥くほどの大量の射精がおこなわれる事になったのですが……その時私はゴブリンジェネラルの前にいましたからね、ギリギリ回避して直撃は受けなかったものの、少しだけ飛び散る白濁した液体が顔にかかってしまいました。
(本当に、最悪…ですねっ!)
攻撃すれば反撃を返すモンスターというのもいるにはいますし、ぶっかけられたのはある意味自分のミスではあるのですが、本当に最悪だと思ったのは【搾精】で吸収すると空腹度が回復した事であり、ビックリするくらい美味しくて幸福感に包まれた事ですね。
自然とゴブリンジェネラルの白濁液を浴びながら笑みがこぼれてしまったのですが、何かもう色々と嫌な予感がして……一旦その問題からは目を逸らしましょう。
そうして軽く引くくらい吐き出したゴブリンジェネラルに対して今度こそ【呪印】が入ったのですが、どうやらこのステータス異常は私の時と同じくいった時限定で入るようですね。
ランクは『軽度』『中度』『重度』の三段階で、三回いかせたら殆どのモンスターを無力化できるという強力なスキルではあるのですが、戦闘中にいかせるとなると地味に難しい条件なのかもしれません。
(まあ私の種族の場合はどうにかなるのかもしれませんが)
残念な事にそういう事に特化した種族に進化していっているような気がするのですが、ブレイクヒーローズのモンスターが全てエッチなモンスターという訳ではありませんからね、あまり種族に囚われずに普通の強さを求める事にしましょう。
「オッ、オッ、オォォオオ…」
とにかく茨と『呪印』で弱体化しているゴブリンジェネラルなのですが、ここまで動きが鈍くなっていれば普通に戦った方が早いのかもしれませんが、散々好き放題された後ですからね、意趣返し的に【呪印】の恐怖に怯えてもらう事にしましょう。
「【媚毒粘液】」
「ヒッ!?…マ、マテッ!?ッ…ゥォオオオオオッッ!!?」
この時の私は少しキレていたのかもしれませんが、とにかくドロリとした粘液をオーラで固めて肉棒を包んで擦り上げると面白いほど簡単にゴブリンジェネラルの肉棒から白濁した液体が出て来て、悶え苦しんでいました。
一擦りでゴブリンジェネラルが無様にいき果てているのですが、まふかさん達に悪戯している時ほど楽しくないですね。
(ビジュアル的な問題でしょうか?)
よくわからないのですが、これで【呪印】が中度に進みました。
「【スタミナドレイン】」
ここまでくると私のスキルに対する抵抗力は殆ど無いようで、激しい戦闘で消費した疲労やMPの回復をさせてもらう事にしましょう。
「オォォォオオオオオオッッッ!!!?」
そして【夢魔】の力なのか【ドレイン】の効果も上がっているようで、こうなると『歪黒樹の棘』から送られてくる力より私の吸う力の方が強く、ゴブリンジェネラルからみるみる精気が失われていき、武器を落として干からびていきました。
(これはこれで少し楽しいかもしれませんが……やっぱり無しですね)
しかも【ドレイン】にも快楽が伴うのか、堪え性の無いゴブリンジェネラルがあっさりと3回目の射精を無駄撃ちすると【呪印】の状態が『重度』に進行し、ここまで弱体化してしまうともう肉棒に【オーラ】を絡めているだけでいかせ続けられるのですが、涙や鼻水を垂らして赤面したゴブリンジェネラルは私的には無しですね。
「クッ、ソオォォオ、コンナ、コンナコトデェェ…」
このままだと死因が『射精のし過ぎ』なんていう情けない事になりそうなゴブリンジェネラルは憎悪と羞恥で顔をどす黒くしていたのですが、最後の抵抗かそれとも懇願なのか、震える腕で何とか私の頭を掴もうとしてきたのですが……そんな最後の抵抗を許すほど私はお人好しではありません。
「それでは…」
私はその大きな手のひらが届くより速く【オーラ】の糸を細く細く撚り集めると、ゴブリンジェネラルの首に巻き付けます。
それから魅了の効果で気持ち悪いくらいに集まってきていたティベロスターを弾くためにも水中に【オーラ】を流しておき、私は泣き叫ぶゴブリンジェネラルの首に巻き付けていた刃物のように研ぎ澄まされた【オーラ】をおもいっきり左右に引きました。
「さようなら」
【呪印】により抵抗力を失っていたゴブリンジェネラルの首がキラキラとホログラムを上げながら飛んでいき……ボチャンと溜め池の中に落ちて無数のヒトデ達の餌となりました。




