254:準備と不安
ゴブリン達に奪われていた装備やマジックバッグの一部を回収した私達は、場所を移しながら簡単に情報共有を行い、これからの事を話し合いました。
「うーん、クロベルのバッグを持って来たのは失敗だったなー、採掘したての『リンニェール鉱』ばっかりだし……で、まふまふが持って来てくれたバッグはボロボロっと」
そうしてその間にクランではアイテムの管理と製造を受け持っていたルシアーノさんが中身の確認をおこなっていたのですが、まふかさんが持って来たバッグは【狂嵐】のせいでボロボロになっていて、中身が溢れ出してしまっているようですね。
「仕方ないでしょ、まだこのスキルに慣れっ…んぐっ!」
量も多かったので、運ぶだけならとまふかさんにもアイテムを持ってもらったのですが、どうやら途中で【狂嵐】の調整に失敗したようで、運んでいた鞄はズタボロになってしまいました。
「まふかさん」
とはいえ今は喧嘩している場合ではありませんし、ゴブリンジェネラル達のいる水場の近くの窪地に潜んでいる状態ですからね、あまり騒いでいると発見されてしまいます。
「んんっ…ッぅ…!!?」
なので私は「あたしのせいじゃないわよ!」と叫びかけたまふかさんの口を塞いだのですが……それだけでまふかさんは軽くいってしまったようで、私のスカートを掴みながら目をギュッと閉じて身体をビクンビクンと跳ねさせて、股間にシミを作っていました。
そんなあまりにもいきなりな出来事に私は驚いてしまい、咄嗟にスカート翼を広げてその姿を隠したのですが……リンネさんは「あー…」という顔をして、ルシアーノさんが興味津々と言った様子で目をキラキラとさせていたので、どうやらバレてしまったようですね。
「ッ……ぅー…」
2人の視線に対して、まふかさんは「穴があったら入りたい」というような様子で真っ赤になっていたのですが、その身体はポーションで無理やり回復させている状態ですからね、上がった感度を下げる時間や余裕もなく火照り続ける身体は昂る一方であり、口を塞がれるという本当に微かな刺激だけでいってしまう状態のようでした。
その辺りのデメリットと言いますか、リンネさんとルシアーノさんは【狂嵐】の効果を知らないのですが、プレイしているゲームがゲームですからね、何かしらの酷い効果が出ているのだろうという事でお互いに納得したようです。
「えっと、その、なんだ……そう、ここまで運んで来てくれただけでもかなり助かった、こんな状況だ、全ロスも覚悟していたからな」
周囲の様子を窺いながら、リンネさんはまふかさんがいきなりいってしまった事を誤魔化す様に話を進めるのですが、確かに第二エリアでアイテムを無くした場合はロストする場合がありますからね、少しだけでも取り戻せて良かったとの事です。
「そうそう、ここまで運んでくれたから中身も確認できたし―、でもアイテム担当として言わせてもらうと、余裕があったら残りも回収しておきたいかな?余裕があったらでいいからさ」
ルシアーノさんもその話に合わせるように続けるのですが、ゴブリン達に奪われたアイテムは20人分を超える量がありましたからね、たぶんその大半は破棄する事になるでしょう。
「それは流石に難しいと思うが……どうだろうな」
破棄するとなると資金面に大ダメージを受ける事は確定なのですが、リンネさんはもうある程度の被害が出る事は仕方がないと諦めているようで、渋い顔で眉を寄せます。
「まあまあ、無理はしない範囲でお願いしますよ、リーダー」
そんな風にあえてまふかさんの話題に触れないように会話をしていると、当の本人であるまふかさんはプルプルと震えていたのですが……おもいっきり私のスカートを引っ張るのは止めて欲しいですね。
パチパチと【狂嵐】が弾けて痛いですし、スカートを引っ張られるとそれに繋がる紐が股間にキリキリと食い込んできて、変な気持ちになってしまいますね。
「まふかさん」
私は耳元で囁くように声を潜め、諭すようにスカートを掴んでいる手にそっと触れたのですが、それだけでまふかさんの身体がピクンと跳ね、フーフーと息を荒げたまま期待と興奮の眼差しを向けて来るのですが……その目を見ていると何かムラムラしてきてしまいます。
甘酸っぱい香りを放つまふかさんの火照った身体を押し倒してめちゃくちゃにすればきっととても気持ち良くなれると思うのですが、流石に状況が状況ですからね、リンネさん達がいる目の前で始める訳にもいきません。
何とか散り散りになりかけていた精神力をかき集めて身体を離すと、まふかさんは一瞬絶望的だという顔をしたのですが……すぐに自分達が今どんな状況であるかを思い出したというように、視線をさ迷わせてから赤くなっていました。
(何でしょうね、この可愛い人は)
いつも強気なまふかさんがしおらしくケモ耳や尻尾をしょんぼりさせてモジモジしているのはなかなかクルものがあったのですが、そんな私達のやり取りを見ながらルシアーノさんがニヤニヤと笑っていますし、私は軽く深呼吸をしてから思考を切り替えます。
「それより、本当に私は囮になるだけで良いんですか?」
簡単な打ち合わせの結果、私達は作戦を決めていたのですが、役割的には私の負担が一番軽い事が少し気になりました。
「ああ、問題ない。というよりそもそも私達のクランの問題だからな、最初は任せるつもりだったが……全て人任せと言うのはどうだう?それに…」
最後の方は言葉を濁したリンネさんなのですが、たぶんそこに隠れているのは「出来れば自分達の手で助け出したい」というプライドみたいなものなのでしょう。
「わかりました、が……まふかさんは大丈夫ですか?」
かなり体調が悪いようですし、動けるのか心配したのですが……汗とか色々なものを溢れさせながらも何とか頷きます。
「だいじょうぶよ、もんだいないわ」
やや弱々しいものの、私達の場合は絶対にリンネさん達のクランメンバーを助けなければいけないという訳でもないですし、いざとなれば逃げればいいだけなので大丈夫でしょう。
その辺りはリンネさん達に確認をとっており「そこまで無理を言う事はできない」と、いざと言う時は撤退する可能性がある事を了承してもらっています。
「では念のためにもう一度手順を確認するが…」
そう言ってリンネさんが改めて作戦の概要を話し始めたのですが、当初私が提案した作戦はリンネさんとルシアーノさんの2人には囮となってもらい、ゴブリン達を誘引したままキャンプ側の出入り口を目指してもらうというものです。
これならリンネさんとルシアーノさんは『歪黒樹の棘』の生えていない場所を移動する事になるので弱体化も起きずに安定して戦えますし、ある程度ゴブリンが釣れたところでスキル封印に耐性のある私とまふかさんが突っ込んで捕まっている人を一気に救出すれば良いという作戦でした。
捕まっている人数が多いので守り切れるかという問題はあったのですが、リンネさんが言うには自衛できる程度の武器や防具があれば多少は粘れるだろうとの事で、捕まっている人達に配る為の武器や装備を持って行く事になったのですが……作戦が決まりかけた頃に「待った」をかけたのがリンネさんで「やはり私達のクランの問題だから」と訂正を要求し、最終的には私が囮としてゴブリン達を誘引し、そこにまふかさんとリンネさんが突入するという作戦になりました。
正直に言うと、人質が連れていかれた水場には『歪黒樹の棘』があるのでリンネさん達が近づくのは危険だと思うのですが「今はちゃんとした武器があるからな、ゴブリンくらいなら何とかしてみせる」との事です。
まあ自分の手でクランメンバーを助けたいという気持ちはわかりますし、機動力があり水上でも自由に動ける私の方が誘導に適している事も事実ですからね、多少の不安は飲み込みましょう。
そうして私達は打ち合わせと準備を終えたのですが、ルシアーノさんが2メートルくらいの自前の槍を持っているのは良いのですが、まふかさんの装備はボロボロで【狂嵐】に耐えられるマジックバッグも無い状態ですし、リンネさんの剣はゴブリンジェネラルに捕まる時に壊れてしまったのでクランメンバーの物を借りている状態です。
防具に関しても、ゴブリン達に奪われる時に剥ぎ取られてしまったという事で碌な物が残っておらず、半裸よりかはマシだろうとリンネさんは動きやすさ重視の白い半袖シャツに7分丈のジーンズ、ルシアーノさんは刺繍の入った濃藍色のローブと防御力にはさほど期待できない物になっています。
どれもクランメンバーの予備だそうで、収納グッズとしてはリンネさんの背中にくっ付いているようなバックパックとナイフや爆弾を吊り下げたベルトポーチ、救出時に配る為の自衛用の装備品が入った大き目のリュックを持っているだけと全体的に装備が心もとないのがやはり気になりますね。
「何、こちらにも考えはあるからな、安心してくれ、それじゃあ…行くぞ」
私が3人の装備を見ているとリンネさんはそう言って笑ったのですが、今はその笑顔を信じる事にしましょう。
とにかく残りのアイテムはルシアーノさんが管理する事となり、突入する2人の後方支援を行う為に対岸に纏めて置いておく事になったのですが……これ以上準備に時間をかけていると折角倒したホブゴブリンがリポップしてくるかもしれませんからね、私達はリンネさんの掛け声を合図に人質救出作戦を開始する事にしました。




