253:一段落とこれから
※前話を少し訂正し、麻痺していたリンネさんに麻痺治しを使用した事にしました。
「ここまで来れば大丈夫だと思いますが…」
ゴブリン達を蹴散らし『歪黒樹の棘』の影響範囲外に抜けた所で、私は担いでいたリンネさんを下ろして状態を確認しました。
ポーションと麻痺治しで身体の方は多少持ち直しているのですが、着ている服はボロボロですし、ゴブリン達に凌辱されたという痛々しい痕跡は残っていますからね、精神面での負担が心配だったのですが、なんとか大丈夫そうですね。
時間があれば【水魔法】で身体を洗ってあげる事も出来たのですが、周囲からは「GOBUGOBU」という叫び声が聞こえてきていますし、何時ここにゴブリン達が殺到してくるのかわからないので今は諦めましょう。
「恩にきる…そして助けてもらっている身でこんな事を言うのもどうかと思うのだが、テルマを……いや…クランの皆を助ける為に手を貸してくれないだろうか?」
リンネさんの内心では今すぐにでも助けに行きたいというような様子なのですが「流石に自分1人では難しい」と悔し気にボロボロの剣を握り締めながら頭を下げ、その手が小刻みに震えていました。
「わかりました、このまま放置も出来ませんし、私も微力ながらお手伝いしようと思います」
その口ぶりからしてテルマさんという方をとても心配している事が伝わって来るのですが、その方が既にゴブリンにやられている可能性も……と、そんな事を考えていてもしょうがないですね。
このまま生贄が『歪黒樹の棘』に捧げられ続けると何時かは障壁が破れ『エルフェリア』にゴブリン達が攻め入ってしまうかもしれませんし、黒い茨の成長を少しでも遅らせるためにも出来得る限り助け出しておくべきでしょう。
「感謝する、勿論私も戦うが……その、何で君は戦えているんだ?何か無効化するようなアイテムかギミックがあるのか?」
種族が人間であるリンネさんは『歪黒樹の棘』の影響を受けるとかなり弱体化してしまいますからね「どうやったら戦えるんだ?」と聞かれ、チートを疑われても嫌なので私は自分の推論も交えて話しておく事にしました。
「詳しくはわかりませんが、ゴブリン達は弱体化が入っていませんし、たぶん人外種ならデバフ効果が効きづらいのだと思います」
私は人外種ですからと自分の姿を見せると、リンネさんは私の体をマジマジと見てから「ふむ」と頷き考え込んでしまったのですが、あまり長々と話している余裕はありませんね。
「そうか、すぐに対策が打てないのは残念だが…」
リンネさんは「仕方がない」と思考の切り替えたようで、握っていたボロボロの剣の柄を軽く握り直したりして、ソワソワと辺りを見回していました。
リンネさん的にはすぐに仲間を助けに行きたいといった様子なのですが、スキルが封印される関係で戦うのは私の方ですからね、別のPTという事もあり「自分が指示を出してもいいのだろうか?」という感じで……これは私の方から積極的にプランを出していった方がいいのかもしれませんね。
「まずは集落に捕まっている人達の解放を目指そうと思いますので、リンネさんは周囲のゴブリンを牽制して安全に運んでこれる場所を作っておいてもらってもいいですか?」
「……ああ、分かった、それくらいなら何とかなると思う」
リンネさんは初対面の私が名前を呼んだ事に一瞬怪訝そうな顔をしたのですが「プレイヤーなら名前を調べる方法はいくらでもあるか」と納得したような顔ですぐに頷いてくれました。
(そういえば、ある意味私がリンネさんの隙を作ったようなものなのですよね)
私の【看破】のせいで余所見をしてしまいゴブリン達に引き倒されていたのですが、リンネさんはあの状態で油断した方が悪いと思っているのか、それとも遅かれ早かれ押し倒されていたと思っているのか、あまりその事を気にしている様子はありませんでした。
(謝罪は後でするとして、今は目の前の問題ですね)
そうして私は一旦深呼吸をしてから周囲の状況を探るのですが、どうやらゴブリンジェネラルの位置からだとこちらの動きが見えていないのか新しい指示は出ておらず、ゴブリン達は後手に回っている状況ですね。
ただ何時までこの状態が続くかわかりませんし、そのうち乱入者が居る事に気づいて立て直して来ると思いますので、それまでに何とか集落内の女性プレイヤーの安否だけでも確かめたいのですが……とにかく1人ずつ確認していくしかありません。
(あまり期待は出来ませんが)
ゴブリンに捕まった女性はかなり酷い目に合っているようですしと、まずは集落の広場でホブゴブリンにやられていた女性から見て回る事にしたのですが……動けずビクンビクンと痙攣している女性プレイヤーに新しいゴブリン達が群がっていて酷い有様です。
どうしようもない状態だったのでゴブリン達を蹴散らしてから女性プレイヤーにも止めを刺し、セーブ地点に送り返してから集落内に残っている残りの女性プレイヤーの救出に向かったのですが……2名のうち1名は感覚がオーバーフローしていたのか目の前でログアウトしていき、ホブゴブリンに襲われている大き目の小屋の中に居る最後の1名だけが無事なようですね。
ホブゴブリンに襲われていながら意識がある事に驚いたのですが【狂嵐】スキルの連続使用でバテ始めているまふかさんはゴブリン達が立て籠もる小屋を攻めあぐねているようですし、今は詮索より救出を優先する事にしましょう。
『援護します』
『よけいな、お世話よ…って、言いたい…んぁ…は、ぁ…』
まふかさんの身体は上気し、滝のような汗を流して小刻みに震えて苦しそうに息を吐いていたのですが、トロトロと零れる液体にゴブリン達がギャッギャッと騒いで五月蠅いですね。
どうやら電気を纏いすぎて感覚がおかしくなってしまったようで、鋭敏になった神経は空気に触れるだけで軽くいってしまうくらい高められていたのですが、持ち運べるアイテムの数が限られている事もあり、まふかさんはポーションを節約しようとしてかなり無理をしているようでした。
『少し休んでいてください、ここは私がやります』
私は三種のポーションをまふかさんに投げ渡し【魔翼】とスカート翼を広げます。
「GOBUーーUU!!」
その受け渡しを隙だとみたのか、それとも獲物が2人に増えた事で嬉々として飛び出してきたのか、ゴブリン達から矢が飛びホブゴブリンが巨大な木の板を持ち突っ込んで来たのですが、飛んでくる矢は牡丹にまかせて私はホブゴブリンの足をベローズソードで薙ぎ払いました。
「GOx!?」
ドッと巨体が倒れてくる所に蛇腹剣の刃を配置して、私はホブゴブリンの自重と振り上げる力でその太い首を切断します。
『相変わらず嫌味なくらいの手際よね』
『そうですか?』
まふかさんの感想はよくわからないのですが、とにかくホブゴブリンを始末した後に周囲のゴブリン達を一掃し、小屋の中にいた女性を救出したのですが……その女性は多少の疲労はあるものの、意外と大丈夫そうな感じです。
「いやーごめんねー迷惑かけちゃってー、天使ちゃん、だよね?うわーリアルで見るとおっぱいデカっ……あーそれと、ごめんね?足ガクガクだから担いでくれると助かるかな?頑張れって言うのなら何とか頑張るけど」
このホブゴブリンにやられていた割に物凄く軽く話しかけてきた人はルシアーノさんといい、ややピンク色を帯びた乳白色の髪の毛は乱暴に掴まれたのかボサボサで、ジト目のように細められた桜色の瞳には涙の跡があり、その瑞々しい褐色の肌にはゴブリン達の体液がかかっていたりと酷い有様だったのですが、本人は至って普通の様子でケロっとしていました。
「いえ…困った時にはお互い様ですので」
「助かるーそれとついでにもう一ついい?そこにあたし達のアイテムが置かれているんだけど、その回収もお願いしていいかな?アイテムないとあたしの戦力半減だからさ」
そんな軽い調子に少々面食らい、小屋の中にあったルシアーノさん達の奪われたアイテムも言われるがままに回収したのですが、少し量があったのでまふかさんにも手伝って貰いましょう。
「え、まふまふ?凄い!本物だ!」
「あー…どうも…って、今はそれどころじゃないでしょ?」
ルシアーノさんはまふかさんを知っているのかはしゃいだ様子なのですが、今は【狂嵐】の影響で衣類がボロボロで半裸に近い状態ですからね、そんな状態で自分の事を知っている人に会うのは恥ずかしいのか、まふかさんは顔を赤らめながら視線を逸らしていました。
何かいきなり騒がしくなったような気がするのですが、あまりのんびりとお喋りしているとゴブリン達が殺到してきますからね、私達は必要最低限のアイテムを回収すると足腰に力が入らないルシアーノさんの治療もそこそこに、リンネさんのいる『歪黒樹の棘』の影響範囲外に向かって移動を開始します。
「ルシアーノ…!?」
「ごめんねリーダー、足を引っ張っちゃって…」
そうして押し寄せて来ていたゴブリン達を何とか倒していたリンネさんと合流したのですが、リンネさんが「心配した」というような顔で駆け寄るのとは対照的に、ルシアーノさんは軽い調子でヘラリと笑いました。
「そんな事は気にしなくていいが、その…大丈夫だったのか?」
リンネさんはクランメンバーがどんな目に合っているのか把握していたようで「あんなデカイのに襲われて」みたいな事を言いかけたようなのですが、本人に直接聞くのは憚られたのか言葉を濁します。
「うふ…平気平気、でも凄かったよー、だって彼氏のチ〇ポより大きいんだもん」
まるでそれが良かったというようなルシアーノさんのあまりにも赤裸々な発言に私は固まり、まふかさんはモジモジしてリンネさんは「あー…」みたいな残念そうな顔をしていたのですが、ルシアーノさんはホブゴブリンの立派なモノを楽しんでいたとの事です。
「そ、そうか…それは、よかった…な?」
幾らここにいるのが女性だけだからと言ってもという発言だったのですが、ルシアーノさん耐性が一番高いリンネさんが頬を染めながら咳ばらいをして何とか言葉を捻り出していたのですが……あの大きさの物を良かったと言えるのはなかなかの強者ですね。
ルシアーノさんのせいで変な空気になってしまったような気がするのですが、とにかくこれで残りは西の水場に連れていかれた人達の確認と救出だけとなりましたので、私はもうひと踏ん張りだと気合を入れなおす事にしました。
※ルシアーノさんは普通に二股三股とかかけるタイプで、現在の彼氏さんは筋肉ムキムキのマッチョマンでご立派です。
そして助け出された時に驚いたり戸惑ったりしていないのはリンネさんから事前に通話が来ていたからで、その治療にはルシアーノさん達のアイテムが使用されています。
※少し修正しました(8/22)。
※誤字報告ありがとうございます、修正しました(8/22)。




