248:エルフェリアに到着する事が出来ましたが…
ゴブリンジェネラル達が障壁に殺到してくるかもしれない事を考慮して、私達は視線を切る意味合いも兼ねて石造りの階段を登り始めたのですが、見ず知らずの方達とは言え女性PTが捕まったままというのが心残りですね。
まあブレイクヒーローズでは共同作戦中でもなければ他のPTとは不干渉でも問題はないのですが、結果的に囮にしてしまった形ですからね、見捨てたという感じが拭えず本当に大丈夫なのかと心配になってしまいます。
「ねえ、ゴブリンに捕まってる人がいたんだけど…」
そしてそういう正義感はまふかさんの方が強いようで、女性PTがゴブリン達に捕まっている事に対して何か言いたげな様子ですし何かに気づいたみたいなのですが……まあここで見捨てたら視聴者から何を言われるかわかりませんからね、助けに戻るのが道義上でも正しい行動なのだとは思いますが、それでもこちらの戦力は2人と1匹だけで、しかも障壁の向こうに戻るとなるとスキルの封印が待っています。
そんな状態でゴブリンジェネラルが率いる数百体のゴブリンを相手をするというのは、流石に今の私達の強さでは少々荷が重いと言わざるを得ません。
「助けに行きたいのはやまやまですが、手持ちのアイテムが……それにあの数を突破するとなると現有の戦力だと少々厳しいと思うのですが?」
それでもまふかさんが助けに行くというのなら、救出に戻るのもやぶさかではない心情ではあるのですが……流石に色々と厳しいと思いました。
「そりゃあまあ、あたしも『麻痺治し』とかもう殆ど残ってないし、補充してからが大前提になるけど……戦力に関しては大丈夫よ、なんたって…」
フフンと胸をはるまふかさんは何かいい作戦があるのか自信満々なのですが、その言葉を言い終わらないうちに階段が終わり『エルフェリア』が見えてきました。
「ぷぃー…」
そこに広がっていたのは、瑞々しい木々に覆われた横幅数十メートルにもなるような巨大な樹木が生い茂る手入れの行き届いた森の中で、樹木を保護する魔法がかかっているのかそこかしこからキラキラとした光の粒が舞っていました。
移動は空中回廊のように木と木の枝を伝って渡るような道が張り巡らされており、建物は樹木の洞を利用して内部に作られているようで、文字通り森と町が一体化しているというファンタジーな街並みが広がっています。
そして遠くに見える精霊樹に匹敵する巨大な大木が町の中心で女王陛下の居城のようなのですが、流石に距離があるのでよくわかりませんね。
ただその大樹から滴る緑色の液体によって町の半分ほどが水没しており、その液体に浸かった木々は元気よく巨大に育っているようです。
そういう巨木と緑の湖によって形成されているのが『エルフェリア』であり、樹木と樹木の間の空中回廊が発達した独特な街並みを形成しているのですが、違和感があるとすれば外を出歩く人がまったくいない事と、家の扉も固く閉められまるで厳戒態勢が敷かれているような重々しい雰囲気に包まれている事が気になったのですが……私達がそんな町並みを見上げていると、いきなり木製の矢が降ってきました。
「止まれ!よくも魔族がどうどうと『エルフェリア』に攻め入ってこれたものだな!」
威嚇だからなのか、私達の足元に刺さった矢にそれほどの危険性はなかったのですが「次は当てる」というように、まさにエルフというような緑色の服を着た美男美女が弓矢をこちらに向けて構えていました。
「なっ、ちょ、危ないわね!」
まふかさんは売り言葉に買い言葉みたいなノリで言い返していたのですが、私達は『レッサーリリム』に狼女、今はイビルストラ化していますが牡丹はスライムですからね『エルフェリア』の人達からしたらよくわからない魔物が攻めて来たと勘違いをしても仕方がない状態ではありました。
「こんな見た目をしていますが、私達はブレイカーで、この地に来た騎士団の要請により情報共有をする為に来ました」
言いながら私はギルドカードを掲げて見せるのですが、それを胡散臭そうに眺めていたエルフの衛兵?さん達は目を細めます。
「……失礼」
そして疑うような視線のまま何やらゴニョゴニョと口の中で呪文を唱えていたのですが、どうやら【鑑定】やサーチ系の魔法を使ったようで、走査線が走るような感覚と共にギルドカードの読み取りが行われたようです。
「貴殿らがブレイカーだという事は確かなようだな、すまない、障壁を抜けてくる者など久方ぶりだった故……どうやら客人のようだ!皆、弓を下ろしてくれ!」
私達に話しかけてきていたエルフの男性が周囲に潜むエルフ達に声をかけると、彼らは安堵したように弓を下ろして町の人達に説明するために散って行きました。
「だからって、いきなり攻撃してくる事はないんじゃない?」
まふかさんはいきなり攻撃を受けた事にご立腹のようだったのですが、話がややこしくなる前に勝手に進めさせてもらう事にしましょう。
「まふかさん……いえ、構いませんが、少々お尋ねしたい事があるのですが、いいでしょうか?」
折角なので色々と訊ねてみる事にしたのですが、まずは障壁に関して私の推理が当たっていたようで『エルフェリア』側がモンスターの進行を食い止めるために張った物のようで、エルフ達は今まさに魔王軍……その先兵となるゴブリン達との戦いの真っ最中だそうです。
ギルドカードが障壁に反応したのもこんな状態で救援が来るとすればブレイカーの連中だろうという事なのですが、私としてはそんなややこしい障壁を張るより『ギャザニー地下水道』と『エルフェリア』を繋ぐ唯一の通路である階段部分を完全に埋め立てたら良いのではと思ったのですが、採掘していた時代には鉱石を運搬するのに使っていた坑道の名残である階段はかなりの広さがあるので大量の土砂が必要になりますし、一度埋め立てたら掘り返すのが大変だからという理由でそのままらしいです。
「いざと言う場合は封鎖する手はずは整えているが、下手に魔法を使うと何がおきるかわからんからな」
との事なのですが、流石に爆破埋め立ては最終手段のようで、とりあえず障壁を張り見張りを立てる事で対処しているとの事でした。
まあゲームの設定的には完全に通行不能にしたら困るからという仕様上の問題なのかもしれませんが、守る方は守る方で色々と大変そうですね。
他には『ギャザニー地下水道』に染み出ている下水についてはよくわからないとの事で、障壁によって何かしらが変わったのかゴブリン達が何かしているのだろうとの事です。
後は障壁に絡みつく『歪黒樹の棘』について聞いてみたのですが、デファルセントと呼ばれる化け物の一部らしいという事は教えてくれたのですが、緘口令が敷かれているので詳しい事が知りたければ女王陛下に聞いてくれとの事で『蜘蛛糸の森』の状況やそれに付随する事柄についても「女王の口から」という事でした。
「ブレイカーにはブレイカー独自の行動原理があるから無理にとは言わんが、出来ればアルディード様にも事の次第を報告して欲しい、そうすれば我々の方針も定まるだろう」
との事なのですが、魔王軍の侵攻に合わせて逃げて来た人族もいるので、そういう人達を安心させるためにも人類側の動きを女王陛下に伝えて欲しいそうです。
そういう事を話の締めくくりに言われましたし、たぶん女王陛下に会うのが『エルフェリア』に到達した人の正規ルートなのだと思いますが、このまま向かって良いのかは少し悩むところですね。
「それはいいんだけど、ちょっと他のプレ……ブレイカーがゴブリン達に捕まっているんだけど、無視するのも寝覚めが悪いし助けに行こうと思っているんだけど、アイテムとかを補充できるような場所に心当たりは無い?」
そしてやっぱりまふかさんは助けに戻る気のようで、その言葉にエルフの衛兵達は少し考えるような素振りを見せてから小さく頷きます。
「そうだな……我々はこの場を守るのが役目故離れられないので案内は出来ないが、消耗品を補充したいのなら丁度いい店が幾つかある」
流石にブレイカーズギルドが進出してきていないのでW Mは使えないのですが、お金自体は『エルフェリア』でも人間族が使う物として利用可能という事で、武器屋と防具屋、あとは雑貨屋などの消耗品を売っている場所とポータルの位置を教えてもらい、私達はお礼を言ってから言われた店に向かい準備をする事になりました。
「じゃあ必要な物を買ってから、さっさと助けに行くわよ!」
まふかさんは救出する自信があるのか鼻息が荒いのですが、本当に大丈夫でしょうか?
(まあ見捨てるのは忍びないですし)
様子を見るために戻った時には全員リスポーンして居なかったという可能性もありますからね、そうなっていたらなっていたらで心置きなくアルディード女王のもとに向かえますし、判断するのはまふかさんの話を聞いてからでも遅くはないので、とにかく私達はアイテムと装備を整えてからゴブリン達に捕まった女性PTを救出するためについ先ほど登って来た階段から引き返す事になりました。




