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247:障壁の突破

(たかが10分、されど10分…ですね)

 私達もまふかさんも押し寄せる無数のゴブリン達の猛攻に何とか耐えていたのですが、常時ラッシュを受けている状態なので疲労が溜まり、集中力が削られていくのがわかります。


 それを何とかアイテムで補っていたのですが、ポーションの残りは『HP回復ポーション』が0で『MP回復ポーション』が8で『スタミナ回復ポーション』が6とこの短時間で半数近く使ってしまい、投げナイフに至っては残り3枚ともう殆ど残っていません。


 そうして築き上げたのは屍山血河(しざんけつが)というのでしょうか?折り重なるようにして倒れている大量のゴブリン達の死体からキラキラしたホログラム()が舞い上がり、なかなか酷い光景ですね。


 血しぶきが飛び散らないだけマシなのかもしれませんが、ゴブリン達が使おうとしていた麻痺毒の原液がアチコチに撒き散らされており、空気中の麻痺毒の濃度が徐々に上がっていっているような気がします。


(少しピリピリしますし)

 私の場合は『翠皇竜のドレス』のおかげで多少の耐性があり、MPの補充が足りていれば動けなくなる程の『麻痺』になる事はないのですが、それでも麻痺毒の水たまりをうっかり踏み抜いてしまったり、毒の塗られた刃が掠めると流石に痺れて動きが鈍ってしまい、結局『麻痺治し』を2回使用する事になりました。


 そういうなかなか酷いフィールドトラップが時間経過と共に広がっているのですが、まふかさんの場合は状態異常に対する耐性装備がないので更に苦労しているようで、定期的に『麻痺治し』を使用して何とか立ち回っているようです。


 そういう訳で時々回復の為にまふかさんの動きが止まるのですが、ゴブリン達のヘイトが私達の方に向いているので何とか治療する余裕があるよう感じでした。


「ッ…うー…」

 まあそういう麻痺毒もなかなか大変なのですが、充満した麻痺毒のせいで皮膚の感覚が鈍くなっているのか、ドレスがきつく締め上げ刺激されると痛みより別の感覚がこみ上げて来て溢れてしまい、息が上がり無駄な体力を消費してしまいます。


 そんな私を見てゴブリン達は「GOBUGOBU」と大盛り上がりなのですが、お返しにベローズソードの一閃か【オーラ】を込めた拳か蹴りをお見舞いしてあげました。


(それにしても…)

 息を吐き出し周囲を見回したのですが、ゴブリン達の攻撃が止む気配がありません。


 最初の内は怖気づいた様子を見せる事もあったのですが、時間経過と共に入り口方面に向かっていた手強い主力が戻ってき始めており、レベルや装備が整った強めのゴブリンが増えてきました。


 しかもゴブリン達の中には統率系(群れの強化)のスキルを持っている個体がいるようで、徐々に連携の質や強さが増していっているような気がします。


『ねえ、あれ!』

 そんな事を考えていると、小屋の上から矢を放っていたブッシュゴブリンを蹴散らすために屋根に登っていたまふかさんが声をかけてきたのですが、私の居る場所(障壁前)からはまだ何も見えません。


「GOBUBUUUUUxtt!!!!」

 ただその雄叫び、空気を震わせる圧力、そして魔力の動きからしてとうとうボスゴブリンとその取り巻きのホブゴブリン達が戻って来た事がわかり、それに合わせて攻勢をしかけてきていた他のゴブリン達の士気があがります。


(ですが、少し遅かったようですね)

 ある程度頭の中でカウントダウンしていた数字が0になる少し前、ブンと空気が揺れるような感じと共に障壁に当てていたギルドカードから魔力が広がり、障壁の色と模様がまた少し変わりました。


『まふかさん、時間です!』

 ボスゴブリンはまだ屋根の上に登らないと見えない位置にいて、こちらの撤退準備は完了です。

 戦うにしても流石にアイテムが心もとない(回復アイテム無し)ですし、突破が目的なのでここは素直に引くべきですね。


『ええ!』

 まふかさんの返事を聞きながら、私は障壁の変化に気付いて近づいてきていた2体のゴブリンを蹴散らします。


「GO…x!?」

 ここまで来てギルドカードを奪われ妨害される訳にはいきませんからね、背中を見せて隙だらけのゴブリン達に斬りかかり、私がギルドカードを調べようと手を伸ばしたタイミングで『認証完了、通過可能です』というウィンドウがポップアップしてきたのですが、どうやらこれで障壁を通過できるようになったみたいですね。


 早速私は自分のギルドカードを回収してから障壁を通り抜けたのですが、その時の感覚はブワッとした独特な感じで、魔力の流れからこの障壁が『エルフェリア(エルフの国)』側から張られた物(ゴブリンを防ぐ障壁)である事がわかりました。


 その障壁を何とかしようとしているゴブリン達と『歪黒樹(わいこくじゅ)の棘』という対立構造が生まれているようなのですが、その辺りの情勢についてはよくわかりません。


『『エルフェリア開拓()()』が『エルフェリア』に到達しました。地理情報が更新されましたので、詳細を知りたい方はブレイカーズギルドにてご確認ください』

 とにかく障壁について考えながら通り抜けた瞬間にワールドアナウンスが入り、スキル制限が解除されたのですが、どうやらこの障壁を越えた先は『エルフェリア』判定となっているようですね。


(なかなか大変でしたが…)

 ゴブリン臭さと麻痺毒が無くなっただけでかなり空気が澄んだ様な気がするのですが、どうやら鼻が死んで気づいていなかっただけで、それだけ酷い匂いと毒が充満していたのでしょう。


 私は新鮮な空気を吸うために一度大きく深呼吸をしたのですが、障壁は半透明なのでゴブリン達からはまだ見えていますからね、諦めきれないブッシュゴブリンやゴブリンシャーマンから矢や魔法が飛んできています。

 勿論その程度の攻撃で障壁が壊れる事は無いのですが、数が多ければ万が一という事もありえますからね、すぐにこの場所から離れた方が良いのかもしれません。


 因みに障壁越しに崖打ち(安全な場所から攻撃)が出来たらよかったのですが、ある程度の速さがある(攻撃)や魔法は障壁を通過できないようですね。


 まあそうでもなければ簡単にレベリング出来てしまいますし、攻撃は通過しない仕様になっているのでしょう。


 そんな事を考えながら障壁越しにゴブリン達を眺めていると、流石に突破できないと気づいたのか障壁を攻撃するのを止めて苛立たしげに地団太を踏み歯嚙みをし始めていたのですが、ゴブリン達にはもうどうする事も出来ないようですね。


 そしてそんなゴブリン達を蹴散らし『麻痺治し』を飲みながらまふかさんがこちら側に駆けこんできたのですが……速度制限に引っかかったのか、おもいっきり障壁にぶつかっていました。


『だっ!?え?ちょまっ、な、なんで…ってぇ!!?』


「GOBU!?」

 それから慌てて障壁に手をつき立ち上がろうしていたのですが、そんなタイミングですり抜けてしまったようで、急に支えを外されたような感じでこちら側に倒れてきました。


『大丈夫ですか?』

 なかなか愉快なぶつかり方をしていたのですが、上半身はこちら側で下半身がゴブリン側と所謂壁尻みたいになっていますからね、ゴブリン達に襲われる前に安全なこちら側に引き込んでおきましょう。


「ぷぃ~」


「うっさいわね!何が言いたいのよ、もう!」

 そんなまふかさんを見て牡丹が残念そうな感じに息を吐き、牡丹に文句を言うために通常会話に切り替えたまふかさんが怒鳴っていたのですが、ここで喧嘩をしていても仕方がありません。


 変に障壁を攻撃され始めても困った事になりますし、ゴブリン達の視線を切る為にも私達はその場から離れる事にしたのですが……。


「あれは…」

 階段をのぼりながら振り返ると、丁度集落に戻って来たボスゴブリン達が見えました。


 【看破】の結果は、ボスゴブリンの名前はゴブリンジェネラルで、レベルは40。


 身長はホブゴブリン(2m前後)より頭一つ抜けた身長で、レベルはそう高くはないのですが、鍛え抜かれたマッチョな体には禍々しい人骨をモチーフにしたような部分鎧を着ており、胴鎧を中心に小手や拗ね当てというように各所を覆うような物を装着していました。


 武器は両刃の巨大な戦斧で、刃の大きさは60センチ程度でしょうか?全長は1.5メートルほどの重量級の武器を軽々と片手で持ち歩き巨大な盾を()()()()いるのですが、斧と反対の手に持っているモノの方が問題ですね。


 ズタボロの女性プレイヤー……どうやら私達が囮にした女性PTの人達はゴブリン達に捕まってしまったようで、装備はボロボロ、服はいままさにコトに及ぼうとしていたというようにひん剥かれており、なかなか惨憺たる有様でした。


 まふかさんと協力し、1対1ならスキル制限を受けていても救出できる(勝てる)と思うのですが、そんなゴブリンジェネラルの周囲を固めるのは()体の少し強そうなホブゴブリンと、数百匹のブッシュゴブリンとゴブリンシャーマンの混成部隊です。


 こちらの軍団には通常ゴブリンは殆ど含まれておらず、どれもなかなか手強いゴブリン達が揃っているのですが、そんなゴブリン達がゴブリンジェネラルの統率を受けてパワーアップしているようで、なかなか厄介な集団となっています。


 そんなゴブリン達がまるで戦利品だと言う様に女性プレイヤー達を運んできていたのですが、流石にスキルが封印されている状態では真正面から戦うのは難しいと思います。


(残念ですが…)

 物資もあまり残っていませんし、無策で真正面から突っ込んでもミイラ取りがミイラになるだけで、誰も救う事は出来ません。


「GOGOOOOOBUUUUx!!」

 彼我の差を考え撤退する私達に向かって、ゴブリンジェネラルは「まんまと囮に引っかかって出し抜かれた」というような怒りのこもった叫び声をあげていたのですが、障壁越しなのでそれ程の圧力は無く、まんまと逃げおおせた獲物に向けた憎しみだけを感じる事が出来ました。

※一時撤退です。


※今更かもしれませんが、ユリエルが「私達」という場合の「達」の中には牡丹も入っています。牡丹と一緒にいる際に「私」という場合は個人の感想や個人の動きを示す場合です。


※ポーションの使用について、HPとスタミナはまだわかるけど【ルドラの火】が無いのにMPは何に消費したの?問題ですが、基本的なドレスの維持と【魔水晶】で遠距離魔法を封じているのでそのぶんが消費されています。


※PT名の「エルフェリア開拓まふ」については、最初は「エルフェリア開拓隊」と名前を付けようとしたのですが、同じ名前がありますと言われたので「隊」を削ってまふかさんの「まふ」を追加したという感じです。因みにこのPT名はまふかさんにはとても不評でした。


※まふかさんが障壁に引っかかったのは速度制限もありますが、ギャグと言うより読み込み始めた時間がユリエルより遅かったので、通過可能になる時間に誤差があったからです。

 あと通行時間に関してどうでもいい事ですが、ユリエルの脳内カウントより早いタイミングで通過可能になったのは、ユリエルがカウントを始めたのがウィンドウがポップアップしてバーが減り始めたタイミングから計算していたからで、実際のカウントはギルドカードが光ったタイミングから計算されていたからです。

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