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245:持久戦(前編)

 魔法の障壁を背にしたまま、スキルの一部が封印された状態で10分間の持久戦となかなか骨が折れそうな状況になってしまったのですが、今更嘆いてもしかたがないですね。


『牡丹!』


『ぷっ!』

 私の右手にはベローズソード、左手には投げナイフを持ち、牡丹も右の前垂れには鋼の盾、左の前垂れにはカギ爪がついた麻のロープ(鞭代わりの物)を持つのですが、牡丹の柔軟性や弾力性には【鞭】スキルが乗っているものの、武器を振るう方には【鞭】スキルが働いていないという変な状況でしたので、カギ爪ロープに関しては無理に使わないように言い聞かせておきました。


 そしてゴブリンシャーマンが放つ魔法への対策として、地下水道の途中に配置しておいた【魔水晶】を作り直してから、防衛に回しておきます。

 中継が無くなった事でボスゴブリンの動向がわからなくなるのは痛いのですが、入り口付近まで移動しているのは確認していますからね、戻って来るにしてもかなり時間がかかる筈です。


『くっ…』

 そうして戦闘準備もそこそこに、ゴブリン達から数十本の矢が飛んで来て戦闘が開始されたのですが、狙いがやや雑ですね。


 それでもこれだけ撃たれまくるとまぐれ当たりやカス当たりが怖いのですが、こんな序盤で負傷する訳にもいかないので、牡丹と協力して当たりそうな矢は丁寧に斬り払います。


『これは…最悪ですね』

 矢を斬り払った時に飛び散る黄色い液体についてつい毒づいてしまったのですが、どうやら(やじり)には毒が塗られているようです。


 種類としては地下水道に流れるヘドロを利用した麻痺毒でしょうか?ドレスのおかげで多少の状態異常耐性はあるものの、直撃したらどうなるかはわかりませんし、ゴブリン達が下卑た笑みを浮かべながら腰布の下でムクムクとさせている成人男性クラスのモノを見て、ワザと手を抜いているような攻撃の理由に察しがついてしまったのですが、こんな状態で動けなくなったら酷い目に合うのは確定ですね。


「【ルドラの…】!?」

 とにかくまずはわかりやすい脅威から排除していこうと、先頭にいる脂肪で弛みきった顔をしているホブゴブリン目掛けて投げナイフを投げたのですが、何かに吸い取られるような感覚と共に【ルドラの火】が不発して、何も纏っていない投げナイフがそのでっぷりとしたお腹に突き刺さります。


「GOBUU!?」

 【投擲】スキルが上手く発動するかどうかわからなかったので的の大きな体を狙ったのもマイナスに働き、脂肪の塊のようなそのお腹を貫通する事が出来ません。


(【投擲】も発動していないようですし…というより、スキルが使えない原因は『歪黒樹(わいこくじゅ)の棘』ですか)

 【ルドラの火】を発動させようとした瞬間『歪黒樹の棘』が怪しく光っていましたし、この黒い茨はもともと魔力を吸う性質がありますからね、ここまで成長すると何かしらのデバフ(スキル無効化)を撒き散らすようになるのでしょう。


(それにしても…)

 使えるスキルと使えないスキルの違いに関してなのですが、基本的な身体系のスキルは使用不可なのに対して、魔力感知は可能です。

 【ルドラの火(神や精霊の力)】が不発なのに対して【翠皇竜(魔物の力)】つきの【オーラ】はそのままと……たぶんこれは、魔物寄りのスキルや人外種由来のスキルは使用可能という事なのでしょう。


(考えてみると当たり前の事かもしれませんね)

 魔物寄りのスキルや能力まで封印される状況だったら、ゴブリン達まで弱体化してしまいますからね、そういうのに関してはデバフがかからないように効果範囲が設定されているのだと思います。


 そして戦う上でこれらはかなり大きなデメリットのような気がするのですが、それでも人外種である私達からすると戦力半減程度で済んでおり、これが魔物系スキルのない人間種の場合はもっと悲惨な事になると思うのですが……まあその辺りは協力プレイ(物量)で何とかしてくださいと言う事なのでしょう。


「「「「「GOBUGOBUxUUU!!」」」」」

 そんな事を考えていると、明確な攻撃(投げナイフの一撃)を受けた事でゴブリン達が激高し、獣臭い唾を飛ばしながら大合唱するように殺到して来たのですが、この物量の前では2人で固まっているより行動の自由を確保した方がよさそうですね。


『ギルドカードの防衛は私が、まふかさんは遊撃をお願いします!』

 障壁に刺さった私達のギルドカードがどういう扱いになるのかはわかりませんが、万が一の可能性を考えて、ゴブリン達にカードが引き抜かれないように近くで迎撃する人が居た方がいいでしょう。


 そして武器()を失っているまふかさんは圧倒的に火力が足りませんからね、殲滅に手間取ると袋叩きにあう可能性がありますし、それならそのスピードを生かして迎撃に出てもらう事にしました。


『それは…わかったわ、取られるんじゃないわよ!!』


『はい!』

 まふかさんは一瞬だけそんな重要な(大変な)役割を私に押し付けて良いのかという表情をしたのですが、何故かゴブリン達のヘイトは私に向いているようですし、迎撃の片手間に遠距離攻撃をしてくるゴブリン達に投げナイフを投げている余裕があるかわかりません。

 なのでどちらかが迎撃に出ないと遠距離からジワジワと削られる可能性があったので遊撃役は必須で、それはまふかさんの方が適任でしょう。


 その辺りの事を一瞬で確認し合った私達は二手に分かれたのですが、左端のゴブリン目掛けて駆けて行くまふかさんはどうやらスキル封印の影響をあまり受けていないようで、狼女特有の身体能力を発揮して包囲網の一角を蹴散らしました。


 まあ多少のデバフは受けているのかもしれませんが、P S(プレイヤースキル)で補える範囲のようで、まふかさんの足取りに迷いはありません。


 そうしてお互いを援護する必要が無くなり、行動がフリーになったところで私は機動力を確保するためにスカート翼を展開したのですが……ゴブリン達の視線の集まりが凄いですね。


 スカートの下の食い込んだIラインへの視線が痛いほど突き刺さってくるのですが、気配を消す【隠陰】は通常スキルで、ヘイトを稼ぐ魅了関連のスキルは『レッサーリリム』由来の物が多いですし、現在はヘイトを稼ぐスキルだけが発動している状態なのでしょう。


(【隠陰】が無くなるとこんなに酷い事になるのですね)

 餓死寸前まで追い込んだ後に水と食料を目の前に放り投げられたような勢いで迫りくるゴブリン達に若干慄きながら、私は軽く息を整えてから一度辺りを見回します。


 突撃してくるゴブリン達の陣形としては、中央に耐久度の高いホブゴブリンを3体配置して、残り50体くらいが遠距離攻撃組を残して半包囲したまま雑多に突撃をしかけてきているような状態です。


 その後ろからは、どこに隠れていたのかその数倍に匹敵するゴブリン達がラッシュイベントであるかのように押し寄せてきているのですが、とにかく目の前の敵のレベルとしては先頭を走るこん棒持ちのホブゴブリンが37と一番高く、その左右を固める素手のホブゴブリンBが33で、ホブゴブリンCが34です。


 残りのゴブリンのうち30体ほどが最弱の(レベル10~20の)通常ゴブリンである事は不幸中の幸いなのですが、残り20体は装備の良いブッシュゴブリンと魔法を使うゴブリンシャーマンの混成で、レベルは24から31でした。


 無限湧きしているような数であり「GOBUGOBU」といった地鳴りのような大合唱で押し寄せてきているのですが、増援ぶんは減らしていかないと物量の前に敗退しますね。


 とにかく攻撃して数を減らそうと思うのですが、殺到して来たゴブリン達がベローズソードの攻撃範囲に入る前に弓矢による第二射と準備が整った炎の魔法が飛んで来て、私は考える前に先頭にいるこん棒持ちのホブゴブリンAに向かいます。


「BUGOGOBU!!」

 【跳躍】による踏み込みがないので【魔翼】とスカート翼を使って位置取りを調整して懐に入り込んだのですが、味方ごと攻撃してくるブッシュゴブリンの弓矢とゴブリンシャーマンの炎の魔法が敵味方関係なく周囲に降り注ぎました。


「BOxtt!!?」

 そしていきなり近づいてきた私に対して慌てたようにこん棒を振り上げたホブゴブリンAなのですが、そのこん棒が振り下ろされる前に後ろから放たれた火球が背中に2発命中して、爆発しました。


(あっさりと同士討ちしましたね)

 あまり連携が取れていないと思っていましたが、ここまで容赦がないとなると少し厄介ですね。


 その事を確認してから私は別の角度から飛んできた魔法を【魔水晶】の短距離レーザーで迎撃し、その爆風にチリチリと焼かれながらもとの位置まで後退します。


 ゴブリンシャーマンが放つ魔法の誘爆率が高いので助かっていますし、断続的に発射される矢を払いながら血走った目で跳びかかって来るゴブリンに対してベローズソードを振るうのですが、魔力と【魔力操作】に関しては問題ないのですが【鞭】スキルが発動していないのかしなり具合はいまいちですね。


(【剣舞】も無し、ですか…)

 上級スキルなのでもしかして大丈夫かもと思いましたが、これだけ『歪黒樹の棘』が密集している場所だと上級スキルすら封印されるようです。


 とにかく遠距離からチクチクと飛んでくる弓矢に対しては牡丹の盾と位置取りで回避して、どうしても回避できない魔法に関しては【魔水晶】の短距離レーザーで迎撃するのですが、燃費的にはあまりよくありません。


 早々にジリ貧になりかけているところで、まふかさんは遠距離攻撃をしかけてきているブッシュゴブリンやゴブリンシャーマンに対して攻撃を開始したようなのですが、流石にすぐに一掃と言う訳にはいきませんし、あまりゆっくりと眺めている余裕もないのでその頑張りを心の中で応援しておくのに留めます。


「GOBUGOGO!!」「GOBUGOGU!!」「GOBUUUU!!!」

 そうして私は我先にと跳びかかって来るゴブリン達の足をベローズソードで斬り払い、出来るだけ障害物になるように転倒させていくのですが、後続のゴブリン達はやられた味方を容赦なく踏み越え私を引き倒そうと手を伸ばしてきました。


 そして前面のゴブリン達に気を取られた隙に、右手側にあるボロ小屋の上から打ち下ろし気味の矢が飛んで来て、それを何とか上体を逸らしながら回避したところで左から跳びかかって来た2体のゴブリンと短剣で斬りかかって来たブッシュゴブリンが一体いたのですが……流石に少し反応が遅れました。


「GOBU!?」

 それでも一番脅威度の高い(武器持ちの)ブッシュゴブリンの額に投げナイフを叩きつける事には成功し【魔翼】でバランスを取りながら跳びかかって来たゴブリンには蹴りをお見舞いしたのですが……。


「GOBUxU…」


「ッ…!?」

 蹴りを入れて後続にぶつける筈が【キック】や【跳躍】が無いので大したダメージにはならなかったようで、そのまま左足に抱きつくようにして受け止められてしまいます。


 涎を垂らしながらニタニタと頬ずりするように太股を撫でてくるゴブリンには鳥肌がたったのですが、それに何よりも、そのまま足を掬う様なタックルに大きくバランスを崩してしまい、そうしている間にもワラワラと手を伸ばしてくるゴブリン達の襲撃が続き、合間合間に矢と魔法が飛んで来ました。


「こ…のっ!」


「ぷっい!!」

 足にしがみついてきたゴブリンは逆手に持ち直した投げナイフを叩きつけ無理やり引き剥がすのですが、後退しようにも後ろは魔法の障壁が広がっているので下がる場所がありません。


 左右はニタニタと笑うゴブリン達だらけで逃げ場はなく、そんな状態でブクブク太って巨大な(2mの)ホブゴブリンが、群れを蹴散らしながら正面から突っ込んできました。

※少し修正しました(8/7)。


※誤字報告ありがとうございます(8/9)。

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