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241:ギャザニー地下水道

 『ギャザニー地下水道』は大昔のドワーフ達が『リンニェール鉱』という微量に光の魔力を秘めた鉱石を採掘するための場所だったのですが、手違いで『エルフェリア』の下水道と繋がってしまいやむを得ず放棄する事になったそうです。


 その際にエルフとドワーフの間で色々な話し合いがあったようなのですが、下水道と繋いでしまったのはドワーフ側のミスという事で『エルフェリア』の下水道として使えるようにするという形で話し合いは纏まったのですが、流石にそれではドワーフ側に利が無さ過ぎるという事でエルフの鉱石加工技術や採掘技術の一部を提供する事となり、その結果粗方鉱石を掘りつくした後には二種族の技術をテンコ盛りにした水路と採掘を急いだために応急的な補強しかされていない外縁部(採掘跡)という歪な構造を持つ広大な地下水道が残ったという歴史のある場所で、あまりにも突貫に突貫を重ねた採掘の結果『エルフェリア』から南の海まで続く『ギャザニー地下水道』の具体的な広さは誰もよくわからないという事でした。


 現在プレイヤーに知られている入り口はそんな地下水道の中央部の点検口みたいな場所であり、内部は最小限の柱と膨大な水路と石橋が張り巡らされた広大な空間となっており、少しルートを逸れると最小限の補強をしただけで地肌が剥き出しになっている遺構が残っているそうです。


 そんな場所に根を張った『歪黒樹(わいこくじゅ)の棘』は地下水道を覆う規模に成長しているのですが、それでも地下水道が崩落せず原形を留めているのはドワーフとエルフの技術力の高さの表れなのかもしれませんね。


 そういう訳である意味エルフとドワーフの友好?(協力?)の証になっていた場所なのですが、魔王軍の襲来と共にこの地下水道はエルフ達の手から離れ、そこにゴブリン達が入り込み簡易な砦を築いているというのが『ギャザニー地下水道』の現状だそうです。


『中は結構広いので探索に時間がかかりそうですが、時間は大丈夫ですか?』

 私は『歪黒樹の棘』が作った隙間から中を覗きながら地下水道の事前情報を思い出していたのですが、情報通りゴブリンの巣窟になっているのかモンスターの気配でザワザワしていますね。


『まふかさん?』

 ここまでのルート開拓(亀裂経由の地下水道)は終わっているのでリスポーン(魔力溜まりで自殺)してからの仕切り直しという手もありますし、魔力溜まりのあるこの辺りはゴブリン達も危険な場所だと認識しているのか見回りもないようなので、時間をかけてログアウトする事も可能だと思います。


 それでも心配ならまふかさんのリュックの中に入っているシェーズロング(寝椅子)を使って隙間(出入口)を塞ぐ事も出来ると思うので、バリケードを設置した後に比較的安全にログアウト手続きをとる事も出来ますね。


『聞こえているわよ!多少ズレるくらいは大丈夫……ってそうじゃなくて!まずはあたしに何か言う事があるでしょ!?』

 着替えた服装を褒めなかったからでしょうか?返事が無いので再度声をかけるとまふかさんが怒鳴り声をあげるのですが……声を潜める意味合いでPT会話に切り替えていたのでその声がキンキンと響きます。


『…良く似合っていると思いますが?』

 魔力溜まりを抜ける際に破損したジャケットやロンググローブを外し、白いへそ出しノースリーブに下はスポーツ用のハーフスパッツという服装は動きやすそうですし、まふかさんの鍛えられた体によく似合っていると思いました。


 その上からもう殆どやけくそと言う様にボロボロのレザーアーマーを着ているのは見た目的にはどうかと思うのですが、その軽鎧一つが生死を分ける可能性もありますからね、そういう最善を追求するところも良いと思います。


『ち・が・う・わ・よ!なんであんな酷い事しておいてそんな態度なのよ!!」


いひゃい(痛い)いひゃ()…ちょっと、ひゃに()するんですか』

 どうやら謝罪がなかったという事でおもいっきり頬っぺたを引っ張られてしまったのですが、まふかさんと仲が良くなるにつれて段々と容赦がなくなってきていますね。


 そしてまふかさんは『酷い事』と言うのですが、ポーションの影響で肌艶はツヤテカという表現が当てはまるような良好な状態になっていますし、満更でもなかったというような表情をしているので怒っているのか照れているのか分かりません。


『あんたは頬っぺたも柔らかいのね!!』


『ど()いうおこ()かたですか!』

 恥ずかしさのせいかプンプンと怒ったフリをしているところや、そういう(エッチな)事に流されやすいところも可愛くはあるのですが、ここで騒いでいるとゴブリン達に気づかれるかもしれませんからね、ワチャワチャするのを止めてもらわないといけません。


「ぷぅっい!」

 そんなふうに私とまふかさんがじゃれ合っていると、頬っぺたを引っ張られてまともに喋る事の出来ない私の代わりに牡丹がまふかさんの足にドスドスと体当たりを入れながら止めてくれたのですが、それでやっとまふかさんは摘んでいた指の力を抜いてくれました。


『ッたいわね……っーー…今度またあんな事したら本当に許さないから、わかったっ!?あーもう、このっ!!』

 顔を真っ赤にしながら怒鳴るまふかさんは怒るだけ怒って満足したのか、体当たりをする牡丹に蹴りを入れようとして避けられていました。


『はい、わかりました』

 そんな八つ当たり気味の動きが可愛くて私は微笑を浮かべながらまふかさんの言葉に頷くのですが、何故か胡散臭いものを見るような目で見られてしまいました。


『…本当にわかってんの?』


『そういう前振りですよね?』


『違うわよっ!!』

 怒鳴るまふかさんを「まあまあ」と宥めてから攻略を開始した私達なのですが、ゴブリン達が作り上げた『ギャザニー地下水道』の砦というのは大きく分けると四つの壁があり、一つ目が正面入り口(キャンプ北西出入口)の近くに作られている木製の杭を互い違いに組んだ様な障害物で、二つ目が土塁や構造物を補強した形で運用されている文字通りの壁で、三つ目が丸太と木材で組み上げられた簡易な柵でした。


 三つ目の柵の向こう側にはボロい小屋のようなゴブリン達の集落があり、その奥には地下水道に最初から備え付けられている防御機構のような魔法による障壁があるのですが、これが集落の奥を塞ぐように広がっており、その光が地下水道全体をぼんやりと照らしていました。


 因みに私達が見つけた亀裂から隙間を抜けてくるルートだと右側が上流()で左側が下流()で、位置的には二つ目と三つ目の壁の内側という事になります。


 正面から乗り込む事を考えるとかなりショートカットできているのですが、逆に言うと袋小路に閉じ込められているともいえますね。


 そしてそんな地下水道の中には何百匹ものゴブリン達が犇めいており、中にはホブゴブリンという巨大なゴブリンも発見されていますし、これだけの群れを率いている個体(ボス)がいるのではとも言われているのですが、ボス個体についてはオドロオドロしい声を聞いた程度の情報しかありません。


(この規模のダンジョンでボスがいないという事はないと思いますが…)

 天井による高さ制限はあるものの『蜘蛛糸の森』のように糸を張り巡らされて立体的に襲ってくる訳でもないようですし、翼の機動力を生かして駆け抜けるだけなら何とかなるでしょう。


 あと問題になって来るのは四つ目の魔法の障壁を突破できるかなのですが、開錠に時間をかけているとゴブリン達に追い込まれて袋叩きという可能性もありますからね、私が『ギャザニー地下水道』を避けていたのはこの四つ目の障壁を突破できるか不確かだったという事もあり、本格的な攻略をする場合はゴブリン達の物量を押し返しながら調査が出来る人数……それこそ複数の合同PTか中規模(数十人)から大規模(100人単位)クランで攻略するべき場所だと思っていたからです。


『で、どうするの?』


『そうですね…』

 まふかさんの漠然とした質問に私は考え込むのですが、街道上の亀裂を飛び越えるのはオーロラの龍のせいで難しい事がわかりましたし、色々な問題点はあるものの現在進行中のワールドクエスト(『レナギリーの暗躍』)をベストエンドでクリアするために必要だと思われる『アルディード女王への報告』をこなすためには『エルフェリア』に行かなければいけなくて、そのためには『ギャザニー地下水道』を通過する必要があるのですよね。


 亀裂を飛び越える気だったので本格的に攻略するには準備不足ですし、まふかさんの武器も無いので脱出を目指して下流に下って(正面出入り口を目指す)もいいのですが、ここまで来たら進める所まで進むべきでしょう。


『まずは魔法の壁のある所まで行きましょう、どうなっているのかわからないと手の打ちようがありませんし』

 現在プレイヤーが突入に成功したのは二つ目の壁の近くまでで、四つ目の壁を突破するのにどういうアイテムが必要なのか、そもそも突破が可能なのかが分からなければ対策や準備もなにもありませんからね、逃げ出すだけならスカート翼を使えば何とかなるでしょうし、()()()()()()()()()()()何とかなるのではという事を伝えると、その案に賛成と言う様にまふかさんも渋々というように頷きました。

※誤字報告ありがとうございます、修正しました(8/9)。

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