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23:剣客兄妹

 教えていただいた専門店というのは、ギルドから道を一つ隔てた場所にありました。そこは多種多様なお店が軒を連ねる商店街といった場所で、お店の大きさも並ぶ商品もバラバラなのですが、あちこちに精霊樹をモチーフにした旗が飾られており、どの店も花や植物が沢山植えられているので、雑多な中に統一感がある場所でした。人通りも多く、町の住人達だけではなく、様々なプレイヤー達がいて賑わっています。


 そんな人混みにまみれながら、私はこれから買わないといけない物を考えます。


 第1に必要なのは食料ですね。時々食べていた野苺は食べきってしまったので、何かしらの食料を確保しなければなりません。

 第2に装備の新調です。流石に破れた初期装備というのはそろそろ卒業しておきましょう。

 第3に回復手段の確保ですね。種族的に回復魔法などを覚える事が出来ないので、何かしらの回復アイテムを入手しておく必要がありました。

 となると、探すのは食料品店か雑貨屋、武器屋と防具屋、薬屋の順番ですね。


 お店を探すために改めて周囲を見回してみると、何人かの人が慌てたように身を隠しました。その動きがあまりにも露骨すぎて、私は少し目を細めます。


 金角兎(レア素材)を持ち歩いていたのである程度は覚悟していましたが、後をつけられていますね。ギルドを出たあたりからでしょうか?ギルド内であれば職員の方が止めてくれるかもしれませんが、ここだと望み薄ですね。


 通りを見回した時の男女比は大体7:3で男性の方が多く、ただでさえ女性というだけで目立ってしまいます。しかも装備しているのが破れた初期装備となれば、これで目立つなと言う方が無理ですね。

 私が持っていた金角兎の情報か、それともただ女性だからという理由でのナンパなのか、まあその辺りは有名になっていけば大なり小なりついて回る問題ではあるので今更気にしはしませんが、いちいち「あ、ヤバ」みたいな顔をしないでくださいとは言いたくなりますね。気になってしょうがありません。


 中でも一番目立っているのが、かなり小柄(160cm前後)な金髪碧眼の猫目の男性で、「僕は何も見てませんよ~」みたいに口笛を吹いて誤魔化しているのですが、カメラAIを私の方に向けているのが丸わかりです。何故それでバレていないと考えているのかがわかりません。


 流石に注意すべきかどうか、そう悩み始めたころ、同じような悩み(付きまとわれている)を抱える女性が他にもいたようですね。


「邪魔ですので、消えてくれませんか?」

 通りに響いた静かな声に、皆の視線が集まりました。


「は?いや、人を待っているんだろ?俺はただ困ってそうだから声をかけただけで…」


「それが迷惑だと言っているんです。結構です、それじゃ」

 取り付く島もない様子で言い切る女の子は、中学生くらいでしょうか?所謂姫カットという切り揃えられた黒髪のポニーテールに茶色の瞳、服装は帯どめされた法被を羽織り、その下はさらしにスパッツという、ファンタジー寄りの和装のような恰好をした女の子ですね。

 一瞬喧嘩かと思ってしまったのですが、どうやら違ったようですね。男性の方は周囲の視線にオロオロしたかと思うと「そ、そうか、それじゃあ」と小声で言いながら、立ち去りました。ちょっとした出来事だったというように流していく人、女の子に興味を持ったような視線を送っている人、そんな周囲のプレイヤー達を睨みつける女の子。


 和装の女の子は「何か文句ありますか?」とでもいうような視線で周囲の大人達を根目回す様に睨みつけていたのですが……何故か私と視線が合いました。


「……?」

 特に私が何かしたという訳ではないのですが、目がばっちりと合っていますね。その女の子は私の体を上から下へと眺めたかと思うと、何故か近づいてきました。


「あの、すみません」


「はい?」

 何でしょう?本気で心当たりがないので少し身構えてしまいました。


「出来れば一手、お願いしていいですか?」

 女の子は自分の帯に挟んだ片手剣の柄に手をかけて言っているので、多分普通に勝負を挑まれたのだと思いますが、理由がわかりません。女の子の方は女の子の方で、言ってみたはいいものの「受けてくれる筈ないか」というような心配そうな目をしていますね。先ほどの威勢のよさが鳴りを潜め、何か小動物らしい可愛らしさがありますね。


「戦闘の、ということですよね?良いですよ」

 この子が卑怯な罠をしかけようとしている訳でもなさそうですし、断る理由もないので受けて立ちましょう。

 100人サドンデスやら目が合ったらそれが勝負の合図だとか、ゲームだと色々な対戦方法がありますからね、ブレイクヒーローズでの対人戦はどれくらいの確率で起きるのかはわかりませんが、申し込まれて断るほどの理由が今は特にありません。


「本当ですか!?」


「ここだと他の人の迷惑になってしまいますが、場所はどうしましょう?」


「あ、それじゃあギルドの訓練場借りましょう。貸し出ししていた筈です」

 パァァっと表情を輝かせた女の子は私の手を引いて歩き出そうとしたのですが……。


「オイオイオイ、あんたも普通止めるだろぉ!お前もお前だ、なんで待ち合わせ無視していきなり勝負ふっかけてるんだよ!」

 横合いから割り込んできた男性に思いっきりツッコミを入れられてしまいました。


「は?お兄には関係ないでしょ?」


「関係しかないだろ!?お前が戦っている間俺達にどうしてろって言うんだよ、待ちぼうけか!?…あー……くそっ、とにかく…妹がすまない。その、なんだ…こいつはちょっと子供っぽいところがあるというか、強い奴を見かけると勝負を挑みたがる質っていうか、戦闘民族っぽいというか、まああんたもあんたな気がするが…」

 複雑そうな顔をする男性は、どうやらこの子のお兄さんのようですね。


 190センチはあるのではないかと言う身長に、ボディービルダーのような筋肉質の体。黒い長めのスポーツ刈りに茶色の瞳に和装という、どこか似たような色合いをした兄妹ですね。これが擦り合わせた結果という事でなければ、趣味嗜好が似通った仲の良い兄妹なのかもしれません。


「すみません、他のゲームだと対戦を挑まれたら受けるのが普通でしたので」

 お兄さん目線でいうと、可愛い妹を連れ去る不審者というように映っているのかもしれませんので、謝罪と説明をしておきます。


「そ、そうか……」

 謝罪はしたのですが、お兄さんはどこか理解できないというような顔で「似たもの同士か」と呟いて、天を仰ぎます。


「んで、邪魔なんだけど?どうせきょー……兄もまだ町に戻って来てないんでしょ?」

 あ、この子、今リアルネーム(本名)の方を言いかけましたね。途中で「しまった」と言うような顔をして誤魔化しました。そんな様子を見てお兄さんの方が思いっきりため息を吐き出しています。


「…いや、そろそろ東門の方に来るって連絡があったから呼びに来たんだ」


「え、うそ!?マジっ!?」


「俺が嘘をついてどうする…で、どうするんだ?」

 妹さんは慌てたようにワタワタとした仕草で私とお兄さんを交互に見た後、「うー」と唸っています。よほどきょー兄という人が好きなのでしょう、妹さんは今にも駆け出さんばかりの様子です。


「待ち合わせをしているのでしょう?また後日、という事でよろしいのではないですか?」

 私の助け船に、妹さんの顔がパァァと輝きます。


「うん、うん!そうだね、そうしよう!!」

 お兄さんの方は思いっきりため息を吐いていますが、これが無難な落としどころでしょう。と、そうこうしているうちに妹さんの方からフレンド登録が来ましたね。勿論了承しておきます。

 名前は……桜花(おうか)ちゃん、ですね。


「あ、申し遅れました。私の名前はユリエルといいます」

 フレンド欄を見て初めて名前を知ったという状況なのですが、改めて名乗っておきましょう。


「アタシは桜花、で、こっちが十兄(じゅうにぃ)!」


「いきなり略すな!!その、十兵衛(じゅうべえ)だ…妹がやかましくてすまない。本気で鬱陶しかったら手を出してくれても構わない」


「は?それ本気で言ってるの?」

 凄む桜花ちゃんなのですが、きっとそれは殴っていいと言った事よりも、そうやすやすと殴られないけど?という意味ですよね、きっと。自分が負ける筈がないという強気の姿勢が好ましいのですね。


「その時は本気で行かせてもらいます」


「いや、うん、もういい……それじゃあ、またっつっても、後々桜花が勝負を挑むのか…」

 十兵衛さんはどこか疲れた顔をしながら、天を仰ぎます。


「それじゃあユリエルもまた後でね!ほら十兄、はやくはやく!」

「って、おい、待てよ!?」

 元気よく挨拶してから駆け出す桜花ちゃんと、それを慌てて追いかける十兵衛さん。何か嵐のような兄妹が去っていくと、周囲の人達も自分の用事を思い出したかのように歩き始めました。

※ユリエルは“自称”穏健派で争いごとを好みません。


※9/3桜花の一人称を「私」から「アタシ」に変更しました。

※誤字報告ありがとうございます(10/16)訂正しました。

※10/13キャラの統廃合で猫目の男性がかなり小柄になり、男の子っぽい感じになりました。男性というより男の子と表記した方がいいかもしれませんが、変更箇所が多くなるので男性で通させてもらいます。まあユリエルよりかは身長が高いので、多少はネ!

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