233:ブッシュゴブリン戦?
私達は『セントラルキャンプ』から北西方向に少し進んだ街道上でブッシュゴブリン達の待ち伏せを受けたのですが、かなり離れた位置で発見していたので普通に戦闘開始ですね。
古い街道には覆いかぶさるように木々や茂みが迫って来ているので圧迫感があるのですが、道幅としては車がすれ違えるの広さがあるので戦闘をするのに支障はなく、配置としては左の茂みの中に5体、右の茂みの中に3体のブッシュゴブリンが潜んでいます。
さらに細かく言うと短剣持ちの前衛と弓持ちの後衛に分かれており、前衛は私達から見て5~6メートル、後衛はだいたい20メートル弱くらいの距離に布陣していました。
(普通に戦う事も出来ますが…)
通り過ぎようとしたところを左右から襲撃するという段取りだったと思うのですが、この距離だとただ左右に分かれているだけですね。
そしてこの数なら私と牡丹が頑張れば問題なく殲滅できると思うのですが……問題となってくるのはまふかさんの武器の事で『ギャザニー地下水道』に行くにしても別の道を探すにしても、まずは【斧】スキルを試したいので私と牡丹がパパっと殲滅して終わりという訳にもいきません。
『では打ち合わせ通りに』
私は伸ばしていたベローズソードを引き戻しながらまふかさんに声をかけ、準備運動のように【魔翼】を動かすのですが、踏ん張りがきかなくなりそうなので浮遊はしません。
『OK、任せなさい!』
まふかさんもPT経由の通話で返事をして迎撃態勢に入り、銀製のバルディッシュという重量武器を構えると、星明りを受けてキラリと光りました。
種族補正とスキルの強化を受けているので振り回すぶんには問題なさそうなのですが、それだけ重い物を持っていればまふかさんの最大の武器である機動力は活かせませんし、そもそもの話、重心のバランスや構えを見ている限りではあまり斧の扱いは得意でないようですね。
まあ斧の使い方を習熟している人の方が珍しいですし、私もゾンビ系のゲームでタクティカルトマホークを使った事があるくらいなので大型の斧の事はよくわからないのですが、一撃必殺に向いている便利と言えば便利と言う武器という印象で、乱戦になりやすいブレイクヒーローズでは使い勝手が悪そうですし、そもそもスキルを取得していればその武器を自由自在に扱える訳でも無いというシステムとはかみ合っていないと思います。
それでもそんな武器を持ってまふかさんは自信満々な様子でジリジリと距離を詰め、攻撃射程に入る前に茂みの中のブッシュゴブリン達が動きました。
「GOxtBU!!」
ブッシュゴブリンAの合図で第二射が飛んで来たのですが、私と牡丹がもう一度矢を弾き、ある程度身構えていたまふかさんも今度は回避行動をとります。
『右は任せるわ』
そしてこのまま待ちを続けていても遠距離攻撃されるだけだと、まふかさんは第三射が来る前にバルディッシュを引っ張るようにして駆け出すのですが、私は数の多い左を受け持つつもりだったので虚をつかれてしまい少し反応が遅れました。
『ぷっ!』
『……はい!』
たぶんまふかさんも私と同じ考えで左を受け持ったのだと思いますが、飛び出したまふかさんを支援するために牡丹がその後を追ったのを見て、私も右側のブッシュゴブリンに向けて走ります。
「GOBBUU!!」
前衛の短剣持ちは2体ずつ、襲い掛かって来たまふかさんを見てブッシュゴブリン達も迎撃するような動きを見せ、まふかさんが襲い掛かったリーダーらしきブッシュゴブリンAは短剣を振り回しながら……隣にいたブッシュゴブリンBのお尻を蹴ってまふかさんの前に押し出しました。
「GOBUXU!?」
「え、ちょ!?」
いきなり茂みから飛び出して来る形となったブッシュゴブリンBは驚愕の表情を浮かべていて、まふかさんも驚きの声を上げながら飛び出してきたブッシュゴブリンを迎撃する形となり、無視する訳にもいかないとバックスイング気味の大振りな一撃で両断していたのですが、そのひと振りで武器の重さに引かれるように体が泳ぎ、完全に足が止まります。
追撃を受けるかと一瞬援護に向かうべきかと思ったのですが、どうやらその必要なさそうですね。
何故かこの時点でブッシュゴブリン達は襲撃を諦め撤退に移っているようで、おもいっきり背中を見せて逃げていました。
そちらの様子はそんな感じで、私は【魔翼】を使い茂みを飛び越えるようにして木々を蹴り、右側の茂みに潜んでいた短剣持ちのブッシュゴブリンCに対してベローズソードを振り下ろします。
「GOBU!?」
ブッシュゴブリンCは頭上からの斬撃に近い縦斬りを短剣を掲げるようにして防ぐのですが、無数の刃で削るように引くと【剣舞】が入り短剣が軋み、弾き飛ばしてバランスを崩したところを引き戻しかけていたベローズソードをうねらせ左足を斬り払いました。
「GOBxtAAAA!!?」
それから私は茂みの奥に逃げ出しかけていたブッシュゴブリンDを追いかけ蹴り倒しておくのですが【オーラ】で強化し結晶化させた足で踏み抜いたので背中からお腹にかけて大穴が開き、これで最初の1体も合わせると4体撃破ですね。
それから不自然な撤退が気になり辺りを見回したのですが、今まで弓を撃ってきていなかった左側後列のブッシュゴブリンに魔力が集まって行っているのが見えました。
(魔法!?)
スキル的な魔法やブレスを吐かれた事はありましたが、ここまで魔法らしい魔法を使われるのは初めてですね。
最後尾で茂みの中に潜んでいたので武器の詳細まではわかっていなかったのですが、どうやら蔵面を付けたゴブリンは小さな木の枝のような杖を持っており、その先端に魔力が集まり炎が宿り始めていました。
そしてチラチラとこちらを窺うような視線は感じるのですが、向いている方向的に狙いはまふかさんですね。
「なっ!?」
その視線と魔力を感じてか、体勢を立て直して再度踏み込もうとしていたまふかさんが驚きの声をあげながら急ブレーキをかけ、バルディッシュを引っ張るようにして横に跳び木の陰に隠れます。
ゴブリンシャーマン、レベルは26。
何か小声で「GOBUGOBU」と言っているのですが、呪文にしては正確性がないですし抑揚がおかしい気がするのですが、この辺りはプレイヤーの使う魔法と違う種類のものなのかもしれません。
とにかくその魔法はゴブリンでも使えるように調整されているのか、ゴブリンシャーマンが木の枝に魔力を込めると禍々しい炎が燈ります。
「GOBBU!!xt!?」
威力としては【ファイアーボール】程度でしょうか?ゴブリンシャーマンは何か奇妙なポーズをとり、今まさに【ファイアーボール】擬きの魔法を放とうとしていたのですが……流石に詠唱が長すぎますね。
(棒立ちですよ!)
私は木々を利用して死角に入るように回り込み、詠唱に集中しすぎていているゴブリンシャーマンの喉元に投げナイフを投げつけ呪文詠唱を妨害すると首元を押さえるように崩れ落ち、そのままドカーン!と自爆していました。
せめて他のブッシュゴブリン達が牽制に動いていれば結果は変わっていたのかもしれませんが、棒立ちで魔法を唱えている魔法使いはそれほど脅威ではありません。
『容赦ないわね』
『そうですか?』
そんな私を見てまふかさんはどこか呆れたような顔をしていたのですが、とにかく今は逃げ出したブッシュゴブリン達をどうするかですね。
「GOBUGO!」
最初は爆発系の魔法を使うので同士討ちを恐れて一時的に下がったのかと思ったのですが、どうやら本気で逃げているようで反転してくる様子はありません。
「GOBU!」
その割に何故か不必要に自分達の存在をアピールするようにガサガサと茂みを揺らしたり叫んだりしながらながらチラチラとこちらを確認しながら逃げているのですが……流石に逃げる動きが不自然すぎますね。
どう考えても罠がある動きなのですが、改めて思い出してみるとブッシュゴブリン達の攻撃は最初から及び腰の遠距離攻撃しかしてきませんでした。
ゴブリン達が女性を前にして擬装撤退を装おうとしているというのも不自然ですし、裏で誰かがそういうふうに動けと指示を出しているのだと思いますが……そんなブッシュゴブリン達が逃げていく方向は『ギャザニー地下水道』があるとされている方向ですね。
(踏み込んでもいいのかもしれませんが)
私は汗を拭いながら戦闘で弾んだ息と身体を整え、怪しい動きをするブッシュゴブリン達を眺めながら一度周囲を見渡してみるのですが……今の爆発音を聞きつけて他のモンスターが近づいてきているようですね。
『で、どうするの?追いかける?』
まふかさん的には逃がすのは勿体ないと思っているようなのですが、流石にこの潔い逃げっぷりに罠の可能性を考えて判断に悩んでいるようです。
『そうですね…』
どこか判断がつかないと言った顔をしているまふかさんと逃げるブッシュゴブリン達を見比べてから、私は自分の意見を述べる事にしました。




