232:エルフェリアへの道
セントラルキャンプの北側には鬱蒼とした森林が広がっているのですが、南側と違って荒れた石畳の街道が通っていたりと人の手が加えられている個所が幾つかあり、道沿いに移動する限りでは比較的平坦な森が広がっていました。
それは『エルフェリア』や『毀棄都市ペルギィ』という二つの都市を繋ぐ街道の名残なのですが、騎士達の話やプレイヤーの集めた情報によるとエルフと魔王軍との戦いによって地形が大きく変わっており、流石にこの道を真っ直ぐ歩いて行けば町につくといった単純な話ではないようですね。
しかも多少知恵のあるモンスターならこの街道を人が通る事を知っていますし、知恵の無いモンスターですらこの“石の道”を獲物が通る道だと学習しており、待ち伏せをしかけてきます。
つまり敵が少ないけど困難な森の中を進むか、移動はしやすいけどモンスターに待ち伏せされている道を行くかの二択なのですが、土地勘のない私達がいきなり森の中に入っても迷子になるだけですからね、色々と用事を終えた後に合流したまふかさんと相談した結果、まずは大まかな地形を把握しつつ敵と戦おうという事で街道を普通に歩いていく事になりました。
「それでそんなクソダサイ名前にしたの?」
「はい、分かりやすいかと」
とりあえず目的地が『エルフェリア』という事で北西に向かって薄暗い街道を歩いているのですが、その道中に話しているのはクランの話ですね。
まふかさんが「あんたらしい名前」と言っていたのをヒントに『ユリエルユニオン』という私の名前を付けたクランを立ち上げてみたのですが、あまりお気に召さなかったのかまふかさんはどこか馬鹿にしたような顔をしていました。
だからと言って気にいらないから入らないという訳ではないようで、クラン脱退後の時間制限が終わったら加入申請を送りなさいとの事です。
「まあ名前に関しては今更どうでもいいけど、それよりあの雑なテントだけのホームはどうにかならない?」
「そうですね、最低でも防音にしておかないと色々と不味いですよね」
まふかさんがホームにしていた豪邸と比べるとどうしても見劣りしてしまいますし、それになによりちょっと激しくしたら音漏れしてしまうので、最低でも防音や振動関連の対策はしておいた方が良いかもしれません。
とはいえ意外と皆さんその辺りの事は気にしてないようで、セントラルキャンプのホームエリアにはユサユサと揺れているテントがあったり、押し殺した喘ぎ声が聞こえてきたりと結構凄い状態になっています。
これはたぶん第二エリアのモンスターに散々弄られ、アーマーブレイクを受けた後に半裸のクランメンバーやPTメンバーと一緒にリスポーンしてきたという状況で色々と我慢する事ができなかった人達が多いからでしょう。
所謂半裸の男女、密室、何も起きない筈がなくという奴で、今のブレイクヒーローズに残っている人は結構お盛んな人が多いようでした。
「そういう事じゃないわよ!?映えないから問題だって言ってるの!!」
「そう…」
「ぷ!!」
「そういう意図はない!」と顔を真っ赤にして怒鳴るまふかさんなのですが、その声に反応したのは私より牡丹で「五月蠅い!」というようにまふかさんに跳びかかります。
「ちょっと、あんたは離れなさいよ!?」
「ぷぅーう」
流石にまふかさんが本気で攻撃すれば牡丹が致命傷をおう可能性がありますからね、テイミングの仕様上死んだらロストする事伝えるとまふかさんは手加減をしてくれるようになりました。
そしてイチャイチャするだけなら私も止めないという事を学習した牡丹も積極的にまふかさんを弄り回すようになったのですが……そのじゃれ合う2人の“仲良し”な姿に微かな疎外感を感じてしまいますね。
「ああ、もう、離れ…っ」
股間に張り付く牡丹を引き剥がそうと奮闘するまふかさんなのですが、流石に片手に大型武器を持ちながらだと苦労しているようです。
そう、武器です。今まで自身の爪を武器に格闘戦をしていたまふかさんがとうとう武器を持つようになったのですが、実はキャラクリエイトの時にアンケートを取っており、最初から【斧】スキルは持っていたようですね。
何故斧?と思わなくもないのですが、どうやらネタ武器として票が集まってしまったようで、採用理由は深く考えても仕方がないのかもしれません。
そしてそんなスキルを取得しておきながら斧を使っていなかったのは、マジックバッグが無いころは持ち運びが不便だった事と、殴る蹴るで事足りた事、後は単純に斧がダサイという理由で使っていなかったそうです。
ただ流石に第二エリアに来てからは火力不足を痛感したようで、マンイーターのように触手がウネウネしているタイプのモンスター相手に格闘戦を挑むと絡み取られる未来しかみえませんからね、今回からはやや柄の短いバルディッシュみたいなシルバーシリーズの斧を持ってきていました。
効果としては微力ながらの対魔性能との事なのですが、この辺りの敵は魔法防御があまり関係の無い敵が多いですし、材質が“銀”というだけの意味しかないのですが、見た目が奇麗なのでまふかさん的には問題ないようです。
そしてそういう意識の変化は防具にも出ており、靴は丁度良い物がなかったのかデフォルメ獣脚のままなのですが、手足にはモンスターの皮を加工したロンググローブとタイツを着け、ボアの皮を鞣したハードレザーの軽鎧を着て背中にはリュックタイプのマジックバッグを背負っているというかなり露出を減らした装備となり、まるで物語の中の冒険者と言う感じの見た目でなかなか格好いいですね。
「まふかさん」
と、結構のんびりと歩いていた私達なのですが、セントラルキャンプから少し進んだ所で注意喚起のために声をかけました。
不自然な静けさと、魔力の流れと、獣臭さ……待ち伏せですね。
『敵?』
『ええ、前方50メートル、左右の茂みの中ですね…立ち止まるのは不自然なので速度は変えずに近づきましょう』
『…どこよ?』
じゃれ合っていた2人もスッと真顔に戻り、声を潜めるようにPT通話に切り替えた私達なのですが、気配を探ろうという様にまふかさんは目を細めて耳をピクピクと動かします。
この辺りが人外種の強みなのですが、私は魔力による探索と【暗視】能力によってある程度夜間帯でも動けますし、まふかさんも獣人らしい感知能力で問題なく動けるようで、目を細めて周囲を見渡しています。
それでも森のあちこちには闇が蠢いていますし、安全だけを考える場合は戦わないという選択肢もあるのですが……わざわざ敵とエンカウントしやすい街道を移動しているのはまふかさんの【斧】スキルを試したかったからですし、今更逃げるという選択肢はありません。
(そこ、です!)
私は茂みの中のモンスターが射程範囲に入ったところで、とりあえず数が多そうな左側の敵に向けてベローズソードを伸ばして先制攻撃をしかけます。
おさらいするとこの辺りの敵はフラワーラビットとマンイーター、毒持ちとしてフォレストスネークとキラービー、少し強い敵としてフォレストウルフがいて、ストライプベアのような強敵が徘徊しているのですが、どうやら今回の襲撃は別のモンスターのようですね。
「GOBUtx!?」
それは薄汚れた緑色のマントを被ったゴブリン達で、自分達が待ち伏せしていると無邪気に信じ込んで無防備にニタニタと笑っていたところを胸元から左肩、首を半分切断するように撫で斬りにしてまずは一匹目を無力化しました。
そしてそのままベローズソードを引き戻さずに、払った勢いを利用してたわませ隣にいた2匹目を狙うのですが……そちらは近くの木を利用して防がれてしまいます。
(流石に第二エリアの敵、少し強くなっていますが…牡丹!)
(ぷっ!)
ゴブリンの火力なら問題ないと判断して攪乱の為に牡丹を突っ込ませるのですが、その間に【看破】で相手の情報を探ると……名前はブッシュゴブリン、レベルは24~27で、無力化した一体を除けば左前方の茂みの中に5体、右前方の茂みに3体と、計8体のゴブリンによる待ち伏せですね。
装備に関しては茂みに隠れていますし、マントや粗末な布切れで体を覆っているので何を持っているのかはわからないのですが、手に持っているのは刃こぼれの無い鉄製の短剣や自作したらしい木製のショートボウで、射程ぎりぎりのベローズソードを回避した事から考えて、武器を使うための最低限の練度はあるのでしょう。
「GOBUGO!!」
左に居た1体がやられて2体目に攻撃を受けて、それでやっと私達が待ち伏せを受ける愚かな獲物ではなく身構えていた手練れだと判断したようで、一番レベルの高いゴブリンが苛立たし気に仲間達に合図を出しました。
すると少し後方に配置されていたブッシュゴブリンからてんでバラバラのタイミングで左から2本、右から1本の矢が飛んで来たのですが、流石に第一エリアのゴブリンと違って届かないとか最初から狙いが外れているという事はないですね。
ヒュンとそこそこの速さで飛んできた矢に対して、何となく嫌な予感がしたから引き返してきたという感じの牡丹がまふかさんに向けられていた矢を迎撃し、私も【魔水晶】を温存しながら一本目の矢は首を傾けて避け、二本目は左手に持っていた投げナイフで弾き、その振り上げた状態から弓ブッシュゴブリンAに向けてナイフを投げるのですが……流石に距離もあったので回避されてしまいました。
『あんた達って当たり前のように矢を弾くのね』
『こういうのは慣れですよ』
まふかさんの補正値なら同じ事が出来ると思うのですが、集団戦で皆に守ってもらいながら戦っていたせいか、回避系や防御系のスキルの伸びが悪いようですね。
(それにしても)
たぶんこのゴブリン達は『エルフェリア』に続くと言われている『ギャザニー地下水道』から出て来たのだと思いますが、こんな所まで出てきているというのが少し気になりました。
まあ気になったからといって会話ができる訳でもありませんし、まふかさんとの連携や【斧】スキルの練習には丁度いい相手かもしれませんので、このゴブリン達で色々と試させてもらう事にしましょう。
※描写をすると蛇足になりそうなので書いていませんが、まふかさんは配信用の動画を撮るためにカメラを出したり引っ込めたりしています。
※少し修正しました(7/10)。




